利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
406 / 840
3 魔法学校の聖人候補

595 領地へ

しおりを挟む
595

シルベスター会長には、兄であるシルベスター公爵が、何を考えどう動くのか、手に取るようにわかっていた。

先ほどの壇上での公爵への静止やかけた言葉も、それにより兄がどう動くのか、はっきりとわかった上での誘導だったそうだ。

「こういう僕を、兄は恐れていてね。僕にはまったく爵位への執着がないのだと、何度言ってもわかってはもらえない。僕としては、魔法ができないフリをしたり、愚鈍な弟を演じるという道もあったんだろうが、生憎僕の目指す将来の仕事のためにはそうもいかなかったので、ますます兄を追い詰めてしまっていてね……」

高い魔法力に天賦の才能そしてストイックに努力もできる、非の打ち所のない弟を持ってしまった、それが公爵の焦りを強くしてしまったことは間違いない。当のアーシアンには兄と張り合う気持ちも敵対する野心も微塵もないというのに……

シルベスター会長が将来就こうとしている仕事は〝教師〟そして〝研究者〟なのだと話してくれた。

魔法学校を好成績で卒業した後は〝国家魔術師〟として第一線で修行を積み、その後に、魔法を軸とした戦略を研究する道へ進みたいのだそうだ。いずれはここ国立魔法学校で教鞭を取りながら、その研究を後進に伝えたいと考えているという。

「魔法ありきの軍略ですか。面白そうですね」

私の言葉に、シルベスター会長は、眉を寄せてため息をついている。

「兄が君のように思ってくれる人なら良かったんだがな。兄には、私の望みは単なるその場しのぎの言い訳にしか聞こえないらしい。大貴族にとってほとんど日の目を見ることもない地味な研究職など、大した価値を感じないだろうことはわかっているが、自分の志を家族にわかってもらえないのは苦しいな……」

価値観の違いすぎる兄と弟の溝は、かなり深いようだ。

「ともあれ、君が無事マリス伯爵家を興せて良かった。従姉妹殿、ぜひこれからはアーシアンと呼んでくれ。私と兄のせいで、迷う間もなくこんな大きな人生の選択をさせてしまったことは、申し訳なく思っている。なにか困ったことがあれば、いつでも言って欲しい。できる限りの助力はするつもりだ」

たしかに、いきなり貴族になったこの展開には戸惑うことも多いが、シルベスター会長のおかげで、最善の手を打つことができたと思う。

私としても公爵家のスキャンダルの素になったり、その渦中で翻弄されながら過ごさなければならないなどということは苦痛でしかないし、時間の無駄でしかない。これで良かった……と思う。

とはいえ、負ってしまった責任はズッシリと重い。

「シルベ……、アーシアン様、私は二学期の終了とともに、しばらく魔法学校を離れます。任期半ばですが、生徒会のお仕事にもしばらく参加はできなくなりますね」

「ああ、あの領地をどうするか。方針をすぐに決めないとならないだろう。祖父はあの土地を叔父への遺産として保持していただけで、なにひとつ手をかけてはいなかった。おそらく、いまのままでは領主の仕事をしようにも身動きが取れないかもしれないな。必要なら金はある程度用立てられるが……」

「ありがとうございます。とにかく、現状について税金の徴収をお任せしている方たちにお話を聞いてから、今後の対策を立てようかと思っています。それに、私もそれなりの商人ですので、当座の資金ぐらいはなんとかなりますよ……おそらくですけど」

当面の目標とやることがはっきりした私は、私の今後を思ってか憂い顔の会長をすっきりした笑顔で見つめた。

「そうだったな。だが、あの寒冷地での領地運営は決して楽ではないはずだ。君の手腕が見られるのが楽しみだよ、従姉妹殿」

ーーーーーー

次の日、私の元に一番にやってきたのは〝社交部〟の使者。

「このたびは、マリス伯爵となられた由。誠におめでたきことでございます。
新伯爵メイロード・マリスさまには〝社交部〟へ、すぐにお入り頂きませんと……」

(そうか、そんな部活もあったなぁ……)

私は、これから領地に行くためしばらく学校を留守にするので、社交部に入るかどうかの判断はそのあとですると伝えて、その場を逃れた。その後も、貴族が中心となっている部活動から次々と使者がやってきて勧誘を受けたが、すべて同様の返事で断った。新聞部の優勝者インタビューも多忙を理由に丁重にお断りした。

学校の公式行事でセンセーショナルに貴族デビューしてしまったのだから、当然といえば当然だが、私は完全に時の人、噂のマトだ。

だがありがたいことに、クローナやトルル、オーライリといった旧知のメンバーは、変わることなく接してくれたので、彼らといれば日常と変わらない日々を過ごすことができた。それどころか、常にあちこちから視線を向けられ、話しかけてこようとする者も多い中、みんなで私をガードするように動いてくれているのが感じられた。ありがたい友情だ。

(魔法学校内の通常生活では、いわゆる貴族の習慣は緩く、爵位の上下関係による会話の制限はないので、話しかけてこようとする人が急激に増えて困ってるんだよね)

「まったく、次から次へと……仕方のない人たちね。ああいう人たちに煩わされているような時間はないというのに! マリスさん、本当にしばらくお会いできないの?」

いまは領主となった責任を果たし、足場を固めるため領地へ行ってくるという私の言葉に、クローナは残念そうにそう言った。

「悲しいなぁ、マリスさんのお菓子もしばらく食べられないんだね。それにしてもいきなり領主になれなんて、大変だねぇ……私には想像つかないや」

トルルはどう大変なのかはわかっていないだろうが、やはり私が学校に来られなくなることを惜しんでくれた。

「マリスさんのいらしたシラン村が発展していることは知っていますが、基本的にあの地方は目立った産業もありませんし、作物の実りも悪い場所ですよね。それをいきなり領地と言われても……大丈夫なのですか?」

イスっ子のオーライリは、私の〝領地〟について、見聞きしているので、私の前途が多難であることを心配してくれる。

「どうなるかわからないけど、とにかくやってみる。みんなの卒業までに帰ってこられるといいけど……」

こうして私は二学期の終わりに、みんなに見送られて魔法学校を後にした。もちろん、また戻ってきたいと思っているけれど、いまは領地の建て直しに集中しようと思う。

(さて、どこから手をつけたらいいのかなぁ……)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。