利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

591 授賞式

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591

「アーシアン……お前は何か事情を知っているんじゃないのか?」

シド帝国国立魔法学校から〝招待〟という名の〝召喚〟をされた現在のシルベスター公爵である、エンドア・シルベスターは、不機嫌そうに来賓席に座っている。

その横に座る彼の弟であり、現在の国立魔法学校最強の魔術師でもある生徒会長アーシアン・シルベスターは、何ひとつ表情に出さないまま、冷静な声で返した。

「さぁ、その辺りの事情は、僕の預かり知るところではありませんね。ありとあらゆる招待状が届く公爵家です。別段来賓として招待されることは珍しくもないことでしょう」

彼は今回の〝魔法競技会〟への出場を多忙を理由にやめている。アーシアンはすでに一、二年時に優勝した段階で、同級生との戦いに興味を失っていたし、公爵家の血筋である彼には、特に自らの力をそれ以上見せつける必要もなかった。
むしろ魔法の才能について弟に引け目を感じている兄が、アーシアンの活躍を心からは喜ばないこともわかっており、そのために一、二年の時は彼自ら公爵家へ招待状を送らないように学校側へ依頼していたほどだ。

だが、今回はシルベスター公爵には魔法学校まで出向いてもらう必要があったし、アーシアンは来賓シルベスター公爵の案内役を務めなければならない、という表面上の理由で彼に張り付きながら、これから起こることに対する公爵の動向を監視するという裏の仕事がある。

「いままで魔法学校から招待状がきたことなどない! しかも皇帝陛下の紋章入りの招待状だぞ。断れるか!」

公爵家の人間を引っ張り出すには、最も効果的と思われたため、今回は魔法学校が使うことを許されている最も格の高い招待状を使って呼び出したのだ。もちろん、この招待状はアーシアン・シルベスター会長が学校当局に依頼して送らせたものだが、そんなことを彼の兄に教えるつもりはない。

最初は一番見応えのありそうな三年生の競技会を見に行ったシルベスター公爵だが、メイロードが上手く一回戦で面白い試合をしたおかげで、その噂に興味を持った彼を、生徒会長は上手く二年生の競技会場へと連れてくることができた。

そして圧巻の決勝戦。

(ここまでとは……メイロード・マリス、さすがは叔父上の血筋だ)

決勝戦を観戦したアーシアン・シルベスターは、従姉妹の実力に驚きを隠せなかったが、同時に安堵もしていた。この実力を示したいま、メイロードが貴族であることに誰も疑問を抱くことはないだろう、と確信できたからだ。

その正確無比で強力な攻撃力は、見る者すべてを魅了した。観客席は総立ち、シルベスター公爵も興奮を抑え切れない様子だ。

「すごい子がいるものだな。あれはどこの貴族の御息女か? 随分と小さい子だな。まだ社交界には出ていないのか?」

「あれはグッケンス博士の内弟子ですね……」

「おお、そうか! さもありなん。いやいや、面白いものを見せてもらった。招待に応じた甲斐があったよ」

「では、そろそろ……」

シルベスター公爵には、優勝トロフィーの授与をお願いしたいとの要請が学校側からされていた。メイロードの試合が終わると、生徒会長は職務中の顔になり、公爵を授賞式の行われる会場へと案内していった。

多くの貴族たちで溢れかえった受賞式典では、やはりメイロードの話で持ちきりだった。

「さすがはグッケンス博士のお弟子さまです! 本当に一瞬でしたのよ、一瞬!」
「攻撃をひとつ残らず迎撃できる、あの正確な魔法には身震いがいたしました」
「あの球体は《増幅》ですわよね。上手く使うものですわ!」

音楽と共に、授賞式の開始が宣言されると、壇上にはそれぞれの学年の3位までに入った学生たちが並んだ。

生徒会長は介添え役として渡すべきトロフィーや賞品を正確にシルベスター公爵に手渡しながら受賞者の名前を伝え、公爵はその名前を呼んでおめでとうと一声かけるという形で、授与式は何事もなく進んでいった。

「二年の部優勝メイロード・マリス」

小柄な少女は、プレゼンターであるシルベスター公爵の前に進み出て優雅にお辞儀をした。その姿に、会場からはため気が漏れている。

「なんて美しい緑の髪なのでしょう! まさに〝魔術宿る髪〟ですわね」
「立ち居振る舞いも美しいこと……どちらの御息女なのかしら?」

そんな言葉が飛び交う中、恭しくトロフィーを受け取ったメイロードは受賞者スピーチを行った。

「このような名誉ある大会で優勝できましたことをとてもうれしく思います。亡くなった私の父ヴァイス=アーサー・シルベスター伯爵も、きっと喜んでくれていることでしょう」

「な! なんだって!!」

メイロードの言葉に反応して大声を出そうとしたシルベスター公爵を、生徒会長が諫める。

「兄上、お静かに! 皆が注目する壇上でうろたえるなど、公爵家の当主のすることではありません」

「だが、あれは、あの娘は……」

「事情は後ほど確認致しましょう。いまは顔色を変えず落ち着いていて下さい」

「……ああ、ここで醜態など晒せんな。わかった」

まだ何か言いたげにしているが、この衆人環視の中で公爵家の当主ともあろう者が、感情を表に出したり慌てたそぶりを見せるなど、あってはならないことだと、体面を特に気にする兄ならば考えるだろうとアーシアンにはわかっていた。

「私事ではございますが……」

メイロードは壇上で、これからの運命を決める出生に関するスピーチを始めた。
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