利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
392 / 840
3 魔法学校の聖人候補

581 三色のソース

しおりを挟む
581

「まずはコロッケのバリエーションからね」

私はイスで手に入れてもらった食材を確認すると、調理を開始した。

まずは、人気の料理の改良からだ。コロッケのバリエーションを増やし、さらにソースを工夫することで、栄養価をアップし更に美しい〝魅せる〟一皿を作ることにした。もちろん味の種類も増えるので、より楽しい食事になるだろう。高い値段をとるからには演出が必要だ。

「野菜の色を鮮やかに生かした少し粘りのあるソースを作っていきましょう」

私は緑が鮮やかな野菜、赤が際立つ野菜、黄色が美しく出る野菜を選び、それらをピュレ状にしたソースを作っていった。ブレンダーやフードプロセッサーがあればお手軽なのだが、そうもいかないのでなかなか手間がかかる工程になってしまうが、だからこそ価値があるとも言える。職人たちの腕の見せ所だ。

この世界は肉偏重で、野菜嫌いも多いが、だからこそ私としては美味しく食べてもらいたい。野菜の臭みを消す工夫として、柑橘系の素材を使ったり、他の素材の香りでマスキングしたりという方法も伝授した。

(弟たちに野菜を食べさせるための工夫が、異世界でも役に立つとはね)

本当は胡椒を始めとした香辛料を使う方法も積極的に用いていきたいところだが、まだまだこちらの世界ではそのあたりのものは気軽に手に入らない。ここは高級店なので、おじさまを通じて胡椒も使えるようには取り寄せているが、それだけに頼りすぎてもいけない。私が《鑑定》の旅で発見したハーブにも臭みを消す効果のあるものがいくつかあるので、今回はそれも用いようと思う。

「せっかくの新鮮野菜だから色鮮やかに野菜を茹でたいので、かなり塩は多めよ。海の水と同じぐらいの濃度だから、びっくりするだろうけど、これを使って短時間で茹でると、本当に鮮やかな色に仕上がるの。もちろん、ソース以外の素材でもこの方法は使えるから、しっかり覚えてね」

ゆで上げた野菜は濾したり潰したりしてペースト状にし、味を調えていく。

「できるだけ、野菜の味を生かした味付けをしてください。お客様には濃い味がお好きな方が多いので、あまり控えすぎてもいけませんが、できるだけ素材の旨味を使って塩分は抑えましょう」

うちの料理で美食三昧をして体調を壊されてはたまらない。私としては、むしろ健康になったと言ってもらえるような料理が理想なのだ。

調理場のみんなに囲まれながら、具材を変えた丸いコロッケを三種類作り、用意した皿に、まず色鮮やかな三種類のソースを丸い座布団のように敷いた。

その上に、ひとつづつ丸いコロッケを並べ、さらに、三色のソースを使って皿の上に曲線を引き飾りつけた。

「これは鮮やかですね。しかも割ると、それぞれ違う素材が出てくるとは、なんと楽しい一皿でしょう。お見事です。メイロードさま」

料理長のチェダルさんは、興奮気味にそれぞれのソースの味を確かめている。

「私はあまり食べられないものを飾りつけるのは好きじゃないの。なので、こういうものを考えてみました。でも、これもひとつの方法に過ぎないのよ。いくらでも変更してもらって構わないし、いい方法が他に見つかったら、どんどん取り入れていってね。もちろん、旬の野菜は積極的に使ってほしいわ」

私の言葉を調理場のみんなは一言も漏らすまいという真剣な眼差しで聞き、忘れないようメモを取る子も多くいる。ここの調理場の子たちは、あまり勉強の経験がない子たちが多かったので、全員に私の作った子供用の教科書“メイロードのことばあそび”と“メイロードのすうじあそび”を支給し、週に一度は自主参加の勉強会も行ってもらっている。みんな料理のためならば、と一生懸命やってくれているそうだ。おかげで、いまは読み書きに苦労する子はあまりいなくなり、こうしてメモを取ったりすることも、簡単にできるようになってきている。

(結局、こうしてみんなの学習が進んだほうが、お店としても助かるんだよね。やっぱり基礎教育は大事だと思うな)

コロッケのバリエーションについては、いろいろみんなのアイディアを取り入れていけば、この店の名物になるだろう。一階のデリとの差別化も図れるし、高級感も出るしで、簡単な変更だが、これからが期待できる。

じゃ、つぎに“イス風トマト煮込み”を作りましょう。

これはセルツの居酒屋“オロンコロ”亭のおかみさんのトマト煮込みを参考に、さらにチーズを加えてコクを出したものだ。ドライトマトを加えることで、凝縮されたトマトの旨味がさらに濃くなり、パンやパスタとも相性抜群の一品となる。

「これはまた濃厚なおいしさですね。肉の種類は鳥がよろしいのでしょうか?」

味見をしたチェダルさんは分量を書いて渡しておいた紙に何か書き込みながら、質問をしてきた。

「そうね、私はこの濃厚なトマトソースにはさっぱりした味の鳥の肉が合う気がするけど、他の肉を試してみるのもいいと思うわ。それに、魚介もかなりイケる味になるんじゃないかしら……」

「なるほど、魚介……。それはイスでは珍しい料理になりますね」

イスは少し漁港とは離れているが、この店には贅沢なことにマジックバッグが常備されているため、鮮度の高い魚介類をストックしておくことが可能だ。この状況ならば、きっとおいしい魚料理ができるだろう。

この店は乳製品普及のための旗艦フラッグシップレストランなので、いままでその方面の料理を中心にしてきているが、お客様に飽きられないためにも、これからはもう少し幅広いメニューを増やしていくほうがいいだろう。

「そうね。新しい美味しい料理がこの店の売りだもの。じゃ、つぎはもっと面白い調理法を教えるわね」

そう言いながら私が魔道具を取り出すと、みんなの頭には大きな“?”という記号が浮かんでいた。

(まあ、そうなるよね)

私は苦笑しながら、その新しい料理の作り方の説明を始めた。

しおりを挟む
感想 3,001

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。