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3 魔法学校の聖人候補
562 地図のない階層
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562
第七階層へと降りると、ダンジョンの雰囲気はさらに禍々しさを増してきた。
「この階層の魔物は手強そうですね。それに、ここからはトラップもありますので、慎重に進みましょう」
入り口近くで《鑑定》と《索敵》を行い状況を確認した後、私がそう言うと皆が頷いてくれた。私たちの信頼関係は、とても強くなっている。瞬時の判断が生死を分けることになるかもしれないここから先、これはとてもありがたいことだった。
(やっぱり〝同じ釜の飯〟を食べると、信頼度が増すよね!)
私も彼らに満足げに微笑んで《鑑定》を続けながら、安全な経路を探し、進む道を指示していった。
ここからは詳細な地図を書きながらの移動となる。
(私は脳内地図ができれば、迷ったりしない。もちろん後からいくらでも正確な地図を書くこともできちゃう。でもそれはやっぱり言いたくないんだよね。知られると勧誘とかめちゃくちゃされるって言うし……時間はかかるけど、スフィロさんと少しづつ地図を作っていくことにしよっと)
事前情報がないこの階層からは《鑑定》で得られた情報に従い、すべての素材のサンプル採取、そしてすべての魔物との戦闘を試みる。もちろん、私の《鑑定》で、手に余る魔物だと判断された場合はそこで撤退だ。
「これまでの魔物に加えて、ここからはエレメンタル系も出没するようですよ。とは言っても〝ファイヤーボール〟ですから、剣でも切れますけどね。数が多くなってきたら、私とトルルで水系の魔法を使いましょうか?」
地図に素材の位置を丁寧に書き込んでいたスフィロさんは、私の提案をとてもありがたがってくれた。
「そうしていただけると前衛の負担がかなり軽くなります。エレメンタルは剣で切った時の衝撃がまったくといっていいほど感じられないのに、全力で振り抜く必要があるため、剣の力がどこにも吸収されず、勢い余って下手をすると自分を切ってしまうこともあるんですよ。これを続けると体力もかなり消耗するので、〝ファイヤーボール〟だけでも対処していただけると助かります」
なるほど、確かにその攻撃は疲れそうだ。私とトルルは、ここからはエレメンタル系の対処は自分たちがすると決めて、動くことにした。
とは言っても、きっちり《索敵》を使って敵の位置は把握しているので、闇雲に進むしかない人たちとは違い、遭遇率はそう高くないしコントロールもある程度できる。仮に遭遇した場合にも、敵の数と方向を事前に告げられるためフォーメーションも作りやすい。それにまだまだ前衛の方々の能力のほうが高いので、敵を倒すのに苦労することはなかった。
とはいえ、ここでは情報の取得が最優先のため、地図を書きつつ《鑑定》で情報を集め、魔物との戦闘をしながらその情報も集積するという手間のかかる行軍とならざるを得ない。
さすがにそう早くは進めず、狭くなってきているはずの第七階層に二度ほど小休憩を挟みつつだが、五時間ほどとられてしまった。その代わり、地図の精度はかなり高いものができたので、まぁ良しとしよう。
第八階層に入る前の休憩で、地図の最終チェックをしながら、スフィロさんと少し話したところ、これでもかなり速く私たちは第七階層を攻略できているそうだ。初めて入る階層では、対処方法がわからない素材や魔物ばかりとなるため、とても慎重に動く必要があるからだ。
「的確な《鑑定》と前衛を支援してくれる魔法があることで、思った以上の速度が出せているんですよ。本当におふたりには感謝しております」
スフィロさんはそう言って、今後も《鑑定》の結果を分析しながら、後退の時期を判断したいのでよろしく願いすると話してくれた。スフィロさんたちの方針は納得できるものだし、冒険者とは少し異なる〝採取屋〟らしい彼の判断はとても冷静で信用できるものだ。
「ではスフィロさん、次の階層へ参りましょうか。私もできるだけ早く、階層内の状況が把握できるよう頑張ります」
そうして私たちは、階層を下っていった。そして2日目の終わりに、ついに第十階層までやってくることができた。そこは、森のダンジョンで、川も流れる場所。《索敵》でも魔物は見当たらない安全な場所だった。ここには多くの果実があるが、小さな虫や魔獣ではないウサギやリスといった小動物が少しいるだけのようだった。
「ここなら《土壁》を使う必要もなさそうですね。とりあえず、収穫できそうなものを調べていきましょうか」
私とスフィロさんで、この階層で手に入るものを調べている間に、前衛の皆さんとトルルには最後の大きな休憩のための準備をしてもらうことにした。
この下はいよいよ〝ヒールロック〟のいるといううわさの第十一階層。
倒せても倒せなくても、そこでタイムアップだ。
ここまで来られただけでも大収穫だと〝剣士の荷馬車〟の皆さんは言ってくれるが、ここまで来たからにはせめて〝ヒールロック〟の姿を捉えて《鑑定》をしてから帰りたい。私たちの願いを聞き入れオルダンたちの救助に協力してくれた彼らのためにも、ここは頑張りどころだと思う。
《鑑定》作業に出る前にあらかじめ布類を出していったので、戻ったときには草を使った寝床が人数分できていた。火もしっかり起こされていて、調理できる状態だったので、私は早速料理に取り掛かる。とはいっても、ほとんどは仕込んであるものを取り出すだけだが。
今日のメインはオーク肉のシャリアピンステーキ風。
実は日本以外ではあまり知られていない調理法だというが、すり下ろした玉ねぎに漬け込むことで、酵素が働き肉が格段に柔らかくなるこの調理法は、質の良くない肉に良いだけでなく、子供やお年寄りも食べやすくなり、しかも風味も増す素晴らしい調理法だ。丁寧に筋切りをしてやれば、その柔らかさは信じられないほど心地いいものになる。
今日はそれを網焼きし、上に炒めた飴色の玉ねぎを乗せ、さらに風味を際立たせる予定。付け合わせの緑の野菜もたっぷりと香ばしく焼いていく。スープもこれまた玉ねぎ尽くしのオニオングラタンスープ。パンとチーズの入ったこのコクのあるスープは、とても肉料理と相性がいい。
「マリスさん、このお肉なんでこんなにやわらかいの? これ、オークの肉だよね。焼いただけにしか見えないのに、最高においしいし。すごいねぇ」
トルルが感心したように笑顔でほめてくれる……が、冒険者のみなさんからは言葉が出てこない、と思ったら無言でガツガツ食べていて話す暇がないようだった。
私とトルルが苦笑しているうちに、もう肉のおかわりのリクエストが来てしまった。もちろん、こちらもそのつもりでどんどん焼いていたので、問題はない。肉のおかわりは各自でどうぞと言ったら、もうあとは熾烈な奪い合いだ。
(いや、たくさんあるし、なくなったらもっと焼くからって言ったのに……)
「お前たち! おふたりがあきれているぞ!」
スフィロさんが一喝しても、首をすくめて、またすぐに皆さん肉へと没入していった。
(一喝しつつもスフィロさんも、この奪い合いにしっかり参戦していて、速い段階で数枚のステーキを確保していたのを、私は見逃さなかったけどね)
大いに食べて英気を養ったあとは、しばしの仮眠をとる。
(さあ、目が覚めたらいよいよ十一階層だ!)
第七階層へと降りると、ダンジョンの雰囲気はさらに禍々しさを増してきた。
「この階層の魔物は手強そうですね。それに、ここからはトラップもありますので、慎重に進みましょう」
入り口近くで《鑑定》と《索敵》を行い状況を確認した後、私がそう言うと皆が頷いてくれた。私たちの信頼関係は、とても強くなっている。瞬時の判断が生死を分けることになるかもしれないここから先、これはとてもありがたいことだった。
(やっぱり〝同じ釜の飯〟を食べると、信頼度が増すよね!)
私も彼らに満足げに微笑んで《鑑定》を続けながら、安全な経路を探し、進む道を指示していった。
ここからは詳細な地図を書きながらの移動となる。
(私は脳内地図ができれば、迷ったりしない。もちろん後からいくらでも正確な地図を書くこともできちゃう。でもそれはやっぱり言いたくないんだよね。知られると勧誘とかめちゃくちゃされるって言うし……時間はかかるけど、スフィロさんと少しづつ地図を作っていくことにしよっと)
事前情報がないこの階層からは《鑑定》で得られた情報に従い、すべての素材のサンプル採取、そしてすべての魔物との戦闘を試みる。もちろん、私の《鑑定》で、手に余る魔物だと判断された場合はそこで撤退だ。
「これまでの魔物に加えて、ここからはエレメンタル系も出没するようですよ。とは言っても〝ファイヤーボール〟ですから、剣でも切れますけどね。数が多くなってきたら、私とトルルで水系の魔法を使いましょうか?」
地図に素材の位置を丁寧に書き込んでいたスフィロさんは、私の提案をとてもありがたがってくれた。
「そうしていただけると前衛の負担がかなり軽くなります。エレメンタルは剣で切った時の衝撃がまったくといっていいほど感じられないのに、全力で振り抜く必要があるため、剣の力がどこにも吸収されず、勢い余って下手をすると自分を切ってしまうこともあるんですよ。これを続けると体力もかなり消耗するので、〝ファイヤーボール〟だけでも対処していただけると助かります」
なるほど、確かにその攻撃は疲れそうだ。私とトルルは、ここからはエレメンタル系の対処は自分たちがすると決めて、動くことにした。
とは言っても、きっちり《索敵》を使って敵の位置は把握しているので、闇雲に進むしかない人たちとは違い、遭遇率はそう高くないしコントロールもある程度できる。仮に遭遇した場合にも、敵の数と方向を事前に告げられるためフォーメーションも作りやすい。それにまだまだ前衛の方々の能力のほうが高いので、敵を倒すのに苦労することはなかった。
とはいえ、ここでは情報の取得が最優先のため、地図を書きつつ《鑑定》で情報を集め、魔物との戦闘をしながらその情報も集積するという手間のかかる行軍とならざるを得ない。
さすがにそう早くは進めず、狭くなってきているはずの第七階層に二度ほど小休憩を挟みつつだが、五時間ほどとられてしまった。その代わり、地図の精度はかなり高いものができたので、まぁ良しとしよう。
第八階層に入る前の休憩で、地図の最終チェックをしながら、スフィロさんと少し話したところ、これでもかなり速く私たちは第七階層を攻略できているそうだ。初めて入る階層では、対処方法がわからない素材や魔物ばかりとなるため、とても慎重に動く必要があるからだ。
「的確な《鑑定》と前衛を支援してくれる魔法があることで、思った以上の速度が出せているんですよ。本当におふたりには感謝しております」
スフィロさんはそう言って、今後も《鑑定》の結果を分析しながら、後退の時期を判断したいのでよろしく願いすると話してくれた。スフィロさんたちの方針は納得できるものだし、冒険者とは少し異なる〝採取屋〟らしい彼の判断はとても冷静で信用できるものだ。
「ではスフィロさん、次の階層へ参りましょうか。私もできるだけ早く、階層内の状況が把握できるよう頑張ります」
そうして私たちは、階層を下っていった。そして2日目の終わりに、ついに第十階層までやってくることができた。そこは、森のダンジョンで、川も流れる場所。《索敵》でも魔物は見当たらない安全な場所だった。ここには多くの果実があるが、小さな虫や魔獣ではないウサギやリスといった小動物が少しいるだけのようだった。
「ここなら《土壁》を使う必要もなさそうですね。とりあえず、収穫できそうなものを調べていきましょうか」
私とスフィロさんで、この階層で手に入るものを調べている間に、前衛の皆さんとトルルには最後の大きな休憩のための準備をしてもらうことにした。
この下はいよいよ〝ヒールロック〟のいるといううわさの第十一階層。
倒せても倒せなくても、そこでタイムアップだ。
ここまで来られただけでも大収穫だと〝剣士の荷馬車〟の皆さんは言ってくれるが、ここまで来たからにはせめて〝ヒールロック〟の姿を捉えて《鑑定》をしてから帰りたい。私たちの願いを聞き入れオルダンたちの救助に協力してくれた彼らのためにも、ここは頑張りどころだと思う。
《鑑定》作業に出る前にあらかじめ布類を出していったので、戻ったときには草を使った寝床が人数分できていた。火もしっかり起こされていて、調理できる状態だったので、私は早速料理に取り掛かる。とはいっても、ほとんどは仕込んであるものを取り出すだけだが。
今日のメインはオーク肉のシャリアピンステーキ風。
実は日本以外ではあまり知られていない調理法だというが、すり下ろした玉ねぎに漬け込むことで、酵素が働き肉が格段に柔らかくなるこの調理法は、質の良くない肉に良いだけでなく、子供やお年寄りも食べやすくなり、しかも風味も増す素晴らしい調理法だ。丁寧に筋切りをしてやれば、その柔らかさは信じられないほど心地いいものになる。
今日はそれを網焼きし、上に炒めた飴色の玉ねぎを乗せ、さらに風味を際立たせる予定。付け合わせの緑の野菜もたっぷりと香ばしく焼いていく。スープもこれまた玉ねぎ尽くしのオニオングラタンスープ。パンとチーズの入ったこのコクのあるスープは、とても肉料理と相性がいい。
「マリスさん、このお肉なんでこんなにやわらかいの? これ、オークの肉だよね。焼いただけにしか見えないのに、最高においしいし。すごいねぇ」
トルルが感心したように笑顔でほめてくれる……が、冒険者のみなさんからは言葉が出てこない、と思ったら無言でガツガツ食べていて話す暇がないようだった。
私とトルルが苦笑しているうちに、もう肉のおかわりのリクエストが来てしまった。もちろん、こちらもそのつもりでどんどん焼いていたので、問題はない。肉のおかわりは各自でどうぞと言ったら、もうあとは熾烈な奪い合いだ。
(いや、たくさんあるし、なくなったらもっと焼くからって言ったのに……)
「お前たち! おふたりがあきれているぞ!」
スフィロさんが一喝しても、首をすくめて、またすぐに皆さん肉へと没入していった。
(一喝しつつもスフィロさんも、この奪い合いにしっかり参戦していて、速い段階で数枚のステーキを確保していたのを、私は見逃さなかったけどね)
大いに食べて英気を養ったあとは、しばしの仮眠をとる。
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