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3 魔法学校の聖人候補
561 次の階層に備えて
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561
ダンジョンで爆睡していた私が目を覚ますと、私の顔を覗き込んでいたこのパーティーの前衛で戦ってくれている屈強で大きな躰の男性と目が合った。
「わっ!」
私の顔を見つめる男性の姿を寝起きに見て思わず声を出すと、私以上に驚いた顔をした彼は、慌てて躰を私から離した。
「おっ、起きたかい? そろそろ起こしたほうがいいかと思ってさ……でもあんまりよく寝てるから、起こせなくてさ……」
なかなか声をかけられずいたと照れる男性に、お礼を言って私は慌てて飛び起き、身支度を整えた。
「いや、あんまりかわいいんで、起こせなくなっちゃって……」
他の前衛の方も彼の言葉にウンウンとうなづいている。
「ほんと、天使みたいだもんね。マリスさんの寝顔」
「もう、トルルまで茶化さないでよ!」
「本格的に魔法使いとして活動を始められたら、美少女鑑定家としてすぐ話題になると思いますよ。いや、真面目に」
今度はスフィロさんまでそんなことを言い始める。
「私もいつまでもお子様じゃないです。背丈だって伸びますって!」
「まぁ、そう言わないで。目立つ特徴があるのは魔術師にとっては悪いことじゃないですよ。指名もされやすくなりますからね」
今度はその言葉にトルルが食いつく。
「あ、なるほど確かにそうですよね。私も独り立ちするときには何か特徴を出したほうがいいかなぁ」
そんなやりとりをしながら片付けを終え、私たちを守ってくれていた《土壁》を解除する。
「では参りましょうか」
そこからは私とセフィロさんで階層の状況を確認し、その後は《鑑定》を使って、くまなくその階層で採れる素材をチェックしていく。この第三階層でもいくつか未発見の素材があり、植物に擬態した毒を吐く魔物も発見した。
徐々に魔物の強さは増していくが、まだこのパーティーの前衛の方たちの脅威となるような危険さは感じられず、そのままこの階層を降り、第四階層、第五階層を踏破。ついに地図が作られている最後の層、第六階層へと至った。
このダンジョンの特徴として階下に進むにつれてダンジョン内部は徐々に狭くなってきている。そのため、踏破までにかかる時間も早くなってきた。さらに、移動中はパーティーのメンバーが順番に私を運び、その代わりに全員に私が早く進める魔法をかける、ということになったので、進行速度も各段にアップした。
(皆さん力持ちで、本当にまったく私を運ぶことに辛さを感じていない様子だ。むしろ誰が運ぶかで順番を争ってるし……まぁいいか)
「ここからは地図もない、情報も噂しか集められていない階層になるが、マリスさんたちはまだ行けそうかい?」
スフィロさんはそう聞いてきた。
「私は《鑑定》しているだけですから、大丈夫ですよ。戦いに参加しているトルルの魔法力の回復を少し待ちたいので、ここでちょっと長い休憩をとっていただけますか?」
「わかった。前衛の体力はまだ十分だし怪我もない。まだまだ行けるだろう。しっかり休んでから第七階層へ入ってみることにしよう。ここからはマリスさんの鑑定眼だけが頼りだ、よろしく頼む」
「できるだけお力になれるよう頑張ります。では、壁を作りますね」
私は再び土壁を作り、居住スペースを確保した。とはいえ居住スペースとしてはあまりに殺風景なので、ちょっと遊んでみることにした。土でソファーとテーブルとベッドも人数分作ってみた。あとはマジックバッグに大量に保管してある布で覆えば、なんちゃってリビングとベッドルームの完成だ。
「ふわぁ、すごいや。ベッドだ、ベッドがあるぞ!」
前衛の皆さんは大はしゃぎだ。ダンジョンの中で快適な生活が送れることなどまずないのだろうから、はしゃぐのも無理はない。ベッドの土は直接躰の当たる部分に多く空気を含ませてあるので、ゴツゴツとはしないはずだ。宿屋のクッションのない木のベッドより、むしろ快適かもしれない。
「マリスさん、こんなことに魔法を使って大丈夫なのかい?」
スフィロさんは心配してくれたが、この程度のお遊びでは私の魔法力はコンマ1%も減りはしない……と言うわけにもいかないので、寝れば回復するので大丈夫だというに留めておいた。
テーブルの上には夜食として、鶏ハムをチャーシュー代わりにし、青菜を散らした鶏白湯スープのラーメンを用意した。コクはあるがあっさり味なので夜食にはいいだろう。ソーヤがいなくても、これぐらいの人数分ならなんとか作れる。でも、湯切りは前衛の方にお願いした。さすが力持ち、完璧な湯切りをしてくれてとても助かった。
前衛の方たちは替え玉三回、スフィロさんも一回お代わりして夜食は終了。まったく皆さんよく食べてくれる。スフィロさんは、食費は後で経費として支払うと言ってくれたが、十分な報酬をいただいているので大丈夫だと断った。
(《生産の陣》でいくらでも作れちゃうものの経費を請求するのって、なんだか気がひける。それに大喰らい妖精と暮らしていると、このぐらい大した量っていう気もしないんだよね)
「美味しい夜食を食べでベッドで寝られるなんて、あー幸せだー!」
警戒のため起きていることになったおひとりが、それを羨ましそうに見ている。
「俺も早く、そのベッドで寝たいよ! ちゃんと代われよ!」
彼の言葉も虚しく、皆さんベッドに入ったと思ったら、ひらひらと手を振って、すぐに眠ってしまったようだ。なんだか気の毒だったので、起きている彼に甘いものは好きかと聞いてみたところ大好きだというので、カップの底に練乳をたっぷり入れたベトナム風コーヒーを差し入れした。
「カップの下にあまーい牛乳を煮詰めたものが入っていますので、混ぜながら召し上がってください」
かなりの甘党らしい彼は〝ふぉ!〟とか〝あふっ〟とか短い言葉で驚きながら、おいしそうにちびちびコーヒーをすすっている。
(少しは癒しになったかな?)
起きればいよいよ地図のない階層の探検だ。私たちに協力してくれた〝騎士の荷馬車〟の皆さんの役に立てるよう頑張ろう! そう思いながら、やっぱりまたも爆睡してしまったのだった。
(思ったより図太いな、私……)
ダンジョンで爆睡していた私が目を覚ますと、私の顔を覗き込んでいたこのパーティーの前衛で戦ってくれている屈強で大きな躰の男性と目が合った。
「わっ!」
私の顔を見つめる男性の姿を寝起きに見て思わず声を出すと、私以上に驚いた顔をした彼は、慌てて躰を私から離した。
「おっ、起きたかい? そろそろ起こしたほうがいいかと思ってさ……でもあんまりよく寝てるから、起こせなくてさ……」
なかなか声をかけられずいたと照れる男性に、お礼を言って私は慌てて飛び起き、身支度を整えた。
「いや、あんまりかわいいんで、起こせなくなっちゃって……」
他の前衛の方も彼の言葉にウンウンとうなづいている。
「ほんと、天使みたいだもんね。マリスさんの寝顔」
「もう、トルルまで茶化さないでよ!」
「本格的に魔法使いとして活動を始められたら、美少女鑑定家としてすぐ話題になると思いますよ。いや、真面目に」
今度はスフィロさんまでそんなことを言い始める。
「私もいつまでもお子様じゃないです。背丈だって伸びますって!」
「まぁ、そう言わないで。目立つ特徴があるのは魔術師にとっては悪いことじゃないですよ。指名もされやすくなりますからね」
今度はその言葉にトルルが食いつく。
「あ、なるほど確かにそうですよね。私も独り立ちするときには何か特徴を出したほうがいいかなぁ」
そんなやりとりをしながら片付けを終え、私たちを守ってくれていた《土壁》を解除する。
「では参りましょうか」
そこからは私とセフィロさんで階層の状況を確認し、その後は《鑑定》を使って、くまなくその階層で採れる素材をチェックしていく。この第三階層でもいくつか未発見の素材があり、植物に擬態した毒を吐く魔物も発見した。
徐々に魔物の強さは増していくが、まだこのパーティーの前衛の方たちの脅威となるような危険さは感じられず、そのままこの階層を降り、第四階層、第五階層を踏破。ついに地図が作られている最後の層、第六階層へと至った。
このダンジョンの特徴として階下に進むにつれてダンジョン内部は徐々に狭くなってきている。そのため、踏破までにかかる時間も早くなってきた。さらに、移動中はパーティーのメンバーが順番に私を運び、その代わりに全員に私が早く進める魔法をかける、ということになったので、進行速度も各段にアップした。
(皆さん力持ちで、本当にまったく私を運ぶことに辛さを感じていない様子だ。むしろ誰が運ぶかで順番を争ってるし……まぁいいか)
「ここからは地図もない、情報も噂しか集められていない階層になるが、マリスさんたちはまだ行けそうかい?」
スフィロさんはそう聞いてきた。
「私は《鑑定》しているだけですから、大丈夫ですよ。戦いに参加しているトルルの魔法力の回復を少し待ちたいので、ここでちょっと長い休憩をとっていただけますか?」
「わかった。前衛の体力はまだ十分だし怪我もない。まだまだ行けるだろう。しっかり休んでから第七階層へ入ってみることにしよう。ここからはマリスさんの鑑定眼だけが頼りだ、よろしく頼む」
「できるだけお力になれるよう頑張ります。では、壁を作りますね」
私は再び土壁を作り、居住スペースを確保した。とはいえ居住スペースとしてはあまりに殺風景なので、ちょっと遊んでみることにした。土でソファーとテーブルとベッドも人数分作ってみた。あとはマジックバッグに大量に保管してある布で覆えば、なんちゃってリビングとベッドルームの完成だ。
「ふわぁ、すごいや。ベッドだ、ベッドがあるぞ!」
前衛の皆さんは大はしゃぎだ。ダンジョンの中で快適な生活が送れることなどまずないのだろうから、はしゃぐのも無理はない。ベッドの土は直接躰の当たる部分に多く空気を含ませてあるので、ゴツゴツとはしないはずだ。宿屋のクッションのない木のベッドより、むしろ快適かもしれない。
「マリスさん、こんなことに魔法を使って大丈夫なのかい?」
スフィロさんは心配してくれたが、この程度のお遊びでは私の魔法力はコンマ1%も減りはしない……と言うわけにもいかないので、寝れば回復するので大丈夫だというに留めておいた。
テーブルの上には夜食として、鶏ハムをチャーシュー代わりにし、青菜を散らした鶏白湯スープのラーメンを用意した。コクはあるがあっさり味なので夜食にはいいだろう。ソーヤがいなくても、これぐらいの人数分ならなんとか作れる。でも、湯切りは前衛の方にお願いした。さすが力持ち、完璧な湯切りをしてくれてとても助かった。
前衛の方たちは替え玉三回、スフィロさんも一回お代わりして夜食は終了。まったく皆さんよく食べてくれる。スフィロさんは、食費は後で経費として支払うと言ってくれたが、十分な報酬をいただいているので大丈夫だと断った。
(《生産の陣》でいくらでも作れちゃうものの経費を請求するのって、なんだか気がひける。それに大喰らい妖精と暮らしていると、このぐらい大した量っていう気もしないんだよね)
「美味しい夜食を食べでベッドで寝られるなんて、あー幸せだー!」
警戒のため起きていることになったおひとりが、それを羨ましそうに見ている。
「俺も早く、そのベッドで寝たいよ! ちゃんと代われよ!」
彼の言葉も虚しく、皆さんベッドに入ったと思ったら、ひらひらと手を振って、すぐに眠ってしまったようだ。なんだか気の毒だったので、起きている彼に甘いものは好きかと聞いてみたところ大好きだというので、カップの底に練乳をたっぷり入れたベトナム風コーヒーを差し入れした。
「カップの下にあまーい牛乳を煮詰めたものが入っていますので、混ぜながら召し上がってください」
かなりの甘党らしい彼は〝ふぉ!〟とか〝あふっ〟とか短い言葉で驚きながら、おいしそうにちびちびコーヒーをすすっている。
(少しは癒しになったかな?)
起きればいよいよ地図のない階層の探検だ。私たちに協力してくれた〝騎士の荷馬車〟の皆さんの役に立てるよう頑張ろう! そう思いながら、やっぱりまたも爆睡してしまったのだった。
(思ったより図太いな、私……)
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