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3 魔法学校の聖人候補

560 ダンジョンでの休憩

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560

とはいえ、そろそろ疲れも溜まってきた。

スフィロさんの判断で暫く休息をとることに決まったので、敵影の少ない場所に私とトルルで土壁を築き、敵が入って来れない簡易的な砦を築いて、そこで休むことを提案してみた。

「魔法使いがいると、こういうことができるのが助かるよなぁ」
「ああ、歩哨がいらず、全員でゆっくりと休めるのは、ダンジョンではまれだからな」

確かに魔法使いがいない状況で、ダンジョン内の魔物のいるエリアで休むとなると、かなり落ち着かないはずだ。休んだ心地もしないのではないだろうか。
この階層には空を飛ぶ魔物はいないので、跳んで襲ってくる魔物が入れない高さにしておけば、厚めの土壁はいい居住空間になる。きっと、いつもより気を張ることなく休めるだろう。

(まぁ、私も《索敵》で周辺の監視はしておくけどね)

「まずは食事、それから仮眠だな。この落ち着いた場所なら、ゆっくり寝られそうだ」

スフィロさんたちはマジックバッグから、用意してきたパンや焼いてある肉を取り出した。セジャムの街で事前に準備したものだそうだ。マジックバッグに入れられていたので肉はまだほんのりと暖かく、パンも瑞々しさを保っていた。

「はい、これ君たちの分だよ。食事は雇用主が用意するのが決まりなんだ」

スフィロさんはそう言って、ちゃんと私たちの分のパンとお肉を皿に用意してくれた。

「ありがとうございます。それじゃ、私たちが持ってきたお料理も出しますね。どうぞこちらも召し上がってください」

私は《無限回廊の扉》につながったマジックバッグの中から、魔石コンロと寸胴を取り出す。

「ああ、君もマジックバッグを持っていたんだね。それに、それは携帯用の魔石コンロかい? 面白いものを持ってるね」

興味津々のスフィロさんとおいしそうな香りに引き寄せられた皆さんに見守られながら、温めた鍋を開ける。

「こちらはたっぷりの野菜を煮込んでチーズと牛乳を加えたシチューです。これは肉じゃなく魚介を具にしているんですよ。大きな漁港の近くに行ったとき、たくさん買って保存しているんです」

貝やエビがたっぷり入った具だくさんのシチューを取り分けると、皆さんものすごい勢いで食べ始めた。

「うめえ、うめえな! これ、たまんねぇ!」
「魚なんて、って思ったが、イケるもんだな。パンと一緒に食うと、さらにたまらんぞ!」
「これがクリームシチューってやつか。肉の入ったやつは食ったことあるが、これは全然別の味がするよ。へえ、こんなのもあるんだなぁ。ああ、温かくてうまい!」

沿海州の新鮮なお魚は本当に美味しいので、魚市場に行くたび山ほど買ってしまう。その上、私のマホロにある別荘には、定期的にタイチが食べきれないほどの海産物を送ってくるので、私のストックはいつでも潤沢だ。

ちなみに、いつもなら真っ先に飛びつくソーヤがいないのは、命の危機を脱したばかりのオルダンさんの奥さんに、まさかの事態が起こったときに対応するため、オルダンさんのお店に看病要員として置いてきたからだ。何かあれば《念話》で連絡が取れるソーヤ以上に素早く対応できる者はいないため、今回はお願いした。

〔奥さんの状態はどう?〕

〔うつらうつらされていますが意識は徐々にしっかりしてきています。短い会話もできるようになってきていますし、問題ないですね。メイロードさまこそ、ご無事なのですか?〕

〔うん。さっきオルダンさんたちのパーティーを見つけて、奥さんが治ったことを伝えて返したから、しばらくしたら着くと思うわ〕

〔それはよかったですね。お早いお帰りをお待ちしております〕

〔ありがと。あと少し見守ってあげてね、よろしく〕

シチューを配りながらそんな《念話》をしていた。

配り終えて食事をしていると、スフィロさんに声をかけられた。

「この料理、サイデム商会のやっているデリカテッセンの味に似ているな。もしかして、君たちイスの出身かい?」

この質問は想定済みだったので、私はスラスラと答える。

「トルルはこのセジャムの近くの出身で、私はイスから馬車で十日ほど離れた小さな村の出身なんですよ。イスには何度か行っているので、そのときに覚えたんです」

「なるほどねえ。いや、本当にうまいよ。イスのデリカテッセンよりうまいかもしれない。マリスさんは料理上手なんだね」

「ありがとうございます」

かなりの量あった寸胴のシーフード入りのチーズクリームシチューは、結局すべて冒険者のみなさんの胃袋に収まった。本当に冒険者の人たちはよく食べる。

そこからは、ひとりが起きて見張り役をしながら、順次仮眠をとることになった。私とトルルは慣れていないのと、見張り役の訓練をしていないという理由で免除された。

「お役に立てずにすみません」

私の言葉に皆さん気にすることはない。でも、もしよかったら、またご飯を分けてくれると嬉しいと、ちょっと遠慮気味に提案してくれたので、もちろんとうなずいた。

歩哨を変わるぐらい、美味しいごはんが食べられることに比べればなんでもないことのようだ。

(まぁ、こんな場所ではほかに楽しみもないからね)

オルダンさん発見ミッションを完了し安心したからか、意外と図太いらしい私は、マジックバッグもどきから取り出した薄い敷物の上で、ぐっすりと眠ってしまった。
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