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3 魔法学校の聖人候補
559 遭遇
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559
早速オルダンさんと話をしようとしたのだが、周りは戦闘状態の修羅場中。
私は2匹の〝ビッグマモット〟と戦闘中のスフィロさんに大声で叫んだ。
「この怪我をした方たちを隔離したいんですが、私がいなくても大丈夫ですかーー?」
私の言葉に、スフィロさんも大声で返してくる。
「大丈夫だ。これぐらいなら私たちだけで充分さ。君たちの目的はその人なんだろう。なら彼の安全を確保してやってくれ!」
「ありがとうございまーす!」
と話しているところへ、私とオルダンさんに向かって“鉄爪ビッテ”が飛びかかってきた。
危ないと思った私は、ほぼ無意識で瞬時に《土壁》に圧力を加えて強化した《岩壁》を作り、“鉄爪ビッテ”はそれに全速力で体当たりをして気絶した。
(痛ったそー)
そのまま、倒れた冒険者のみなさんとオルダンさんの周囲も《岩壁》でガードしたので、これでもう襲われる心配はないはずだ。
他の冒険者の皆さんは、さすがにそこまでひどい傷はなく、体力の消耗が一番大きい感じだったので、〝ポーション〟を各々に配って飲んでもらい、回復を促した。オルダンさんには、もちろん〝ハイパーポーション〟だとは言わず、ひどい足の傷に少しかけてようすをみる。
「どうです。歩けそうですか?」
私はオルダンさんにもポーションを渡しながらそう聞いた。
「あ、ありがとうございます。痛みは引きました。すごいお薬をお持ちですね。私は……私はもう、ここで死んで天国で妻と会うのだと、思っていました……」
涙目のオルダンさんに私は少しいたずらっぽく返した。
「え、天国に奥様はいませんよ。もしオルダンさんが行ってたら、まちぼうけでしたね」
「マリスさんは、妻の容態をご存じなんですか? まだ、妻は生きていてくれるんですか? ああ、でもヒールロックがなかったら、もう長くは……」
「奥様は全快なさいました。もちろんお腹の赤ちゃんも無事です」
「へっ?」
号泣の準備に入っていたオルダンさんが、なんだかものすごく間抜けな顔でこちらを見ている。
「ですから、奥様の病気は治ったんです。私たちが見たときはまだお休みになっていましたが、意識はしっかり戻っていますし、病気は去りました」
それから、私たちがオルダンさんのお店に行ったこと。そして奥さんのことを聞き診察したこと。たまたま私が持っていた薬が奥さんに効いたこと、そんなちょっと嘘交じりの顛末を手短に話した。
「だから、こんなところで足を怪我して動けなくなっている場合じゃないんです。早く帰ってあげなきゃダメじゃないですか!」
一瞬涙が止まったかに見えたオルダンさんは、
「帰ります。帰ります。いますぐ帰りますう~」
っと言って、嬉しさと安堵で、再び大号泣。
大人の男性の大号泣を止める術もなく見ていると《石壁》を剣でたたく音がして、このあたりの魔物の駆除が終わったと知らせがあった。私の《索敵》でも、周囲に敵はいないことが確認できたので、《石壁》も撤去した。
「どうだ? 彼らは大丈夫そうか?」
「ありがとうございます。自力で帰れる程度だと思います。できればこの階層の入り口まで送っていきたいのですが、お願いできますか」
スフィロさんは仕方ないという顔をしつつも、了承してくれた。
「基本的に冒険者はほかの冒険者を助けない。それが冒険者の矜持だし、そんなことをしていたら共倒れになる可能性の方がずっと高いからだ。
だが、今回は事情が事情で、商人交じりのパーティーだったし、しかも君たちを雇用する条件が彼らの発見と救助だったからね。ちゃんと面倒見させてもらうよ」
「ありがとうございます。私たちは引き続きしっかりお仕事をいたしますので、任せてください」
最後までしっかり彼らを守ろうとしてくれる〝剣士の荷馬車〟の皆さんに、私はとても感謝していた。彼らの紳士的で誠実な対応には、私も誠実に応えたい。
「ああ、君らには期待している。ここから下の層はより《鑑定》が必要な素材も魔物も増えていくはずだ。君らとなら、かなり調査が進みそうで助かるよ」
ちょっと意味ありげな頬笑みを浮かべたスフィロさんだが、それ以上は何も言わず“ポーション”でなんとか回復したパーティーの皆さんを第三階層入り口まで護衛して送っていった。
「“剣士の荷馬車”の皆様、そしてマリスさん、トルルさん、本当にありがとうございました。生きてこのダンジョンを出られて、本当にうれしいです」
オルダンさんが頭を下げる。
「いまは一刻も早く奥様のところへ向かってください。お気をつけて」
「こんな無茶、もうしちゃだめだよ! ダンジョンは危険なんだからね!」
私たちのお説教に頭をかきながら、何度もお礼を言って彼らは上の階層へと上がっていった。
「ありがとうございました。皆さんのおかげでオルダンさんたちを助け、大事な伝言を伝えることができました。
さて、これで私たちの目的は達成されました。あとはスフィロさんたちのサポートに徹します。行ける階層までいきましょう」
私の言葉にスフィロさんは優しく微笑んで頷いた。
「ああ、頼むぞ」
そして私たちはまだ地図のない階層のダンジョンへ向かって、進み始めた。
早速オルダンさんと話をしようとしたのだが、周りは戦闘状態の修羅場中。
私は2匹の〝ビッグマモット〟と戦闘中のスフィロさんに大声で叫んだ。
「この怪我をした方たちを隔離したいんですが、私がいなくても大丈夫ですかーー?」
私の言葉に、スフィロさんも大声で返してくる。
「大丈夫だ。これぐらいなら私たちだけで充分さ。君たちの目的はその人なんだろう。なら彼の安全を確保してやってくれ!」
「ありがとうございまーす!」
と話しているところへ、私とオルダンさんに向かって“鉄爪ビッテ”が飛びかかってきた。
危ないと思った私は、ほぼ無意識で瞬時に《土壁》に圧力を加えて強化した《岩壁》を作り、“鉄爪ビッテ”はそれに全速力で体当たりをして気絶した。
(痛ったそー)
そのまま、倒れた冒険者のみなさんとオルダンさんの周囲も《岩壁》でガードしたので、これでもう襲われる心配はないはずだ。
他の冒険者の皆さんは、さすがにそこまでひどい傷はなく、体力の消耗が一番大きい感じだったので、〝ポーション〟を各々に配って飲んでもらい、回復を促した。オルダンさんには、もちろん〝ハイパーポーション〟だとは言わず、ひどい足の傷に少しかけてようすをみる。
「どうです。歩けそうですか?」
私はオルダンさんにもポーションを渡しながらそう聞いた。
「あ、ありがとうございます。痛みは引きました。すごいお薬をお持ちですね。私は……私はもう、ここで死んで天国で妻と会うのだと、思っていました……」
涙目のオルダンさんに私は少しいたずらっぽく返した。
「え、天国に奥様はいませんよ。もしオルダンさんが行ってたら、まちぼうけでしたね」
「マリスさんは、妻の容態をご存じなんですか? まだ、妻は生きていてくれるんですか? ああ、でもヒールロックがなかったら、もう長くは……」
「奥様は全快なさいました。もちろんお腹の赤ちゃんも無事です」
「へっ?」
号泣の準備に入っていたオルダンさんが、なんだかものすごく間抜けな顔でこちらを見ている。
「ですから、奥様の病気は治ったんです。私たちが見たときはまだお休みになっていましたが、意識はしっかり戻っていますし、病気は去りました」
それから、私たちがオルダンさんのお店に行ったこと。そして奥さんのことを聞き診察したこと。たまたま私が持っていた薬が奥さんに効いたこと、そんなちょっと嘘交じりの顛末を手短に話した。
「だから、こんなところで足を怪我して動けなくなっている場合じゃないんです。早く帰ってあげなきゃダメじゃないですか!」
一瞬涙が止まったかに見えたオルダンさんは、
「帰ります。帰ります。いますぐ帰りますう~」
っと言って、嬉しさと安堵で、再び大号泣。
大人の男性の大号泣を止める術もなく見ていると《石壁》を剣でたたく音がして、このあたりの魔物の駆除が終わったと知らせがあった。私の《索敵》でも、周囲に敵はいないことが確認できたので、《石壁》も撤去した。
「どうだ? 彼らは大丈夫そうか?」
「ありがとうございます。自力で帰れる程度だと思います。できればこの階層の入り口まで送っていきたいのですが、お願いできますか」
スフィロさんは仕方ないという顔をしつつも、了承してくれた。
「基本的に冒険者はほかの冒険者を助けない。それが冒険者の矜持だし、そんなことをしていたら共倒れになる可能性の方がずっと高いからだ。
だが、今回は事情が事情で、商人交じりのパーティーだったし、しかも君たちを雇用する条件が彼らの発見と救助だったからね。ちゃんと面倒見させてもらうよ」
「ありがとうございます。私たちは引き続きしっかりお仕事をいたしますので、任せてください」
最後までしっかり彼らを守ろうとしてくれる〝剣士の荷馬車〟の皆さんに、私はとても感謝していた。彼らの紳士的で誠実な対応には、私も誠実に応えたい。
「ああ、君らには期待している。ここから下の層はより《鑑定》が必要な素材も魔物も増えていくはずだ。君らとなら、かなり調査が進みそうで助かるよ」
ちょっと意味ありげな頬笑みを浮かべたスフィロさんだが、それ以上は何も言わず“ポーション”でなんとか回復したパーティーの皆さんを第三階層入り口まで護衛して送っていった。
「“剣士の荷馬車”の皆様、そしてマリスさん、トルルさん、本当にありがとうございました。生きてこのダンジョンを出られて、本当にうれしいです」
オルダンさんが頭を下げる。
「いまは一刻も早く奥様のところへ向かってください。お気をつけて」
「こんな無茶、もうしちゃだめだよ! ダンジョンは危険なんだからね!」
私たちのお説教に頭をかきながら、何度もお礼を言って彼らは上の階層へと上がっていった。
「ありがとうございました。皆さんのおかげでオルダンさんたちを助け、大事な伝言を伝えることができました。
さて、これで私たちの目的は達成されました。あとはスフィロさんたちのサポートに徹します。行ける階層までいきましょう」
私の言葉にスフィロさんは優しく微笑んで頷いた。
「ああ、頼むぞ」
そして私たちはまだ地図のない階層のダンジョンへ向かって、進み始めた。
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