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3 魔法学校の聖人候補
558 そして第三階層へ
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558
二階層は、一階層と非常によく似た階層だが先ほどのネズミの魔物〝マモット〟が巨大化した〝ビッグマモット〟が新たに《鑑定》に現れた。この〝ビッグマモット〟は本当に大きくて、私も最初に見たときはそのサイズにかなり驚いた。特殊な攻撃をしてくるわけではないが、上層階の〝マモット〟が大きなネズミレベルだったのに対し、これは牛かとみまごう大きさがあるため、遭遇してしまうとかなり手こずる。
だが、このパーティーの前衛たちは、そんな巨大な〝ビッグマモット〟も、数分でしかも綺麗に仕留めてしまう。なるべく傷をつけずに狩るのは、もちろん売るときその方が高値になるからだ。
(この〝マモット〟系の肉は食用で、さっぱりとして美味しいらしい。皮にも需要があるそうだ)
この階層で採取できるものを調べつつ《索敵マーカー》を使うが、この階層でもやはりヒットなし。オルダンさんはここにもいないようだ。トルルと私は少し気落ちしつつも、《鑑定》のお仕事をこなしながら、ダンジョンを進んでいった。
ここでもあくまで《鑑定》を優先するよう言われたので、相変わらずスフィロさんたちに守ってもらう状態で、申し訳ない感じだ。だが、第二階層も終盤になってきたあたりから、徐々に人が少なくなってきた。
もうこのあたりだと、にわか冒険者の手に余るようで、近隣の村人が作ったようなパーティーはいなくなり、他の冒険者のパーティーが視界に入ることも少なくなってくる。
それとともに魔物たちに襲われる確率も高くなってきたので、トルルは後方から《着火》を風魔法《流風》で強化した中級魔法《火炎》を使って、一斉に襲われないよう魔物たちをひるませる役を買って出た。
「私も少しは役に立たないとね。これ、やっとできるようになったから使ってみたかったし」
人懐っこくてコミュニケーション能力の高いトルルは、うまく前衛の方たちとバランスをとって攻撃に参加できている。
(これは得難い才能だよね。やりますね、トルルさん)
とはいえ戦闘の数はかなり増えてしまい、第二階層は第一階層よりやや狭いにもかかわらず、少々てこずって2時間15分での踏破となった。
「どうするかね、まだ行くかい? そろそろ休憩を挟んだほうがいいかもしれないよ」
スフィロさんは、私たちに気を使ってくれ第三階層に入ったところでの休憩を提案してくれた。スフィロさんたちは涼しい顔だが、確かに4時間動きっぱなしだ。魔法で強化して支えているとはいえ、私たちはそろそろ休んだほうがいいだろう。
そう思いながらも、新しい階層へやってきたので《索敵マーカー》を使ってみると、脳内の地図に赤い点を確認することができた。ついにマジックバッグの反応があったのだ。確実にオルダンさんだとは言い切れないが、確率はかなり高い。
「いた! いました! この階層の中央あたり……しかも魔物に囲まれているようです」
私の見たところ、彼らのパーティーは六名。その彼らが、六匹の“ビッグマモット”に囲まれている。つまり、誰もオルダンさんにかまっている余裕がないという状況なのだ。
(オルダンさんが一対一で、あの大きさの魔物に対峙して無事で済むとは思えない。急がないと!)
駆け出そうとする私をスフィロさんが、いきなり抱き上げた。
「君は彼らの居場所まで、案内することに専念してくれ。このほうがずっと早く行けるよ」
他の皆さんも頷いているところをみると、彼らは足に自信がありそうだ。私は全員に《強筋》と《裂風》を瞬時にかけると、ナビ役に徹した。
「あそこに見える青い石まで前方右方向へ進んでください。その後、左側に見えてくる大きな岩の後ろへ回り込んで、そのまま直進します!」
「了解!」
どうやら彼らは私たちに気を使って、かなり速度を落として歩いてくれていたらしい。魔法で強化した彼らの足は速かった。山育ちのトルルもよくその彼らに食らいついている。確かにいくら強化しても、私がこのスピードで移動することはできない。
(いい判断ですね。スフィロさん)
もちろん、猛スピードで進んでいる間にも魔物は襲ってくる。しかもこの階層には新たな魔物が出る。鋭く大きな爪と牙を持つ“鉄爪ビッテ”だ。大きさは、それほど大きくはないが俊敏なため、襲われると厄介だ。この爪は高く売れるそうで、採取屋としてはオイシイ魔物だそうだ。
だが、いまは先へ進むことを最優先にしてくれている前衛の方々は、うまく魔物をいなして長期戦に持ち込むことなく進んでくれている。
このダンジョンは階層が進むにつれて徐々に面積が減っていく。このダンジョンも上の階より狭くなっているため、私たちはなんとか、20分ほどで《索敵マーカー》の反応があった場所まで着くことができた。
そこには息も絶え絶えで、それでもなんとか気力で応戦している状況の六人の姿があった。
「こいつはひどいな……我々も応戦する、行くぞ!」
私を地面に下したスフィロさんは、すぐに“ビッグマモット”の狩りを皆に指示し、彼らは血の匂いに惹きつけられてさらに増えてきた魔物の掃討を始めた。トルルも彼らとともに戦いに参加している。
私はスフィロさんたちが戦い始めたことで、気が抜けたのかゼイゼイと息を吐きながら膝をついている血だらけの冒険者たちのほうへ進んでいった。
「いた! オルダンさーん‼!」
血まみれの剣を持ったまま、顔や腕、特に足に大きな傷を負ったオルダンさんが、岩にもたれて疲れ切ったぼんやりした表情で私の方を見た。
「あ……、えっ? 魔法使いの、メイロード・マリスさ……ん?」
なぜ私がこんな修羅場に登場するのか、まったく理解できていないようで、混乱している様子だ。
(間一髪だったね。ともかく無事でよかったよ)
二階層は、一階層と非常によく似た階層だが先ほどのネズミの魔物〝マモット〟が巨大化した〝ビッグマモット〟が新たに《鑑定》に現れた。この〝ビッグマモット〟は本当に大きくて、私も最初に見たときはそのサイズにかなり驚いた。特殊な攻撃をしてくるわけではないが、上層階の〝マモット〟が大きなネズミレベルだったのに対し、これは牛かとみまごう大きさがあるため、遭遇してしまうとかなり手こずる。
だが、このパーティーの前衛たちは、そんな巨大な〝ビッグマモット〟も、数分でしかも綺麗に仕留めてしまう。なるべく傷をつけずに狩るのは、もちろん売るときその方が高値になるからだ。
(この〝マモット〟系の肉は食用で、さっぱりとして美味しいらしい。皮にも需要があるそうだ)
この階層で採取できるものを調べつつ《索敵マーカー》を使うが、この階層でもやはりヒットなし。オルダンさんはここにもいないようだ。トルルと私は少し気落ちしつつも、《鑑定》のお仕事をこなしながら、ダンジョンを進んでいった。
ここでもあくまで《鑑定》を優先するよう言われたので、相変わらずスフィロさんたちに守ってもらう状態で、申し訳ない感じだ。だが、第二階層も終盤になってきたあたりから、徐々に人が少なくなってきた。
もうこのあたりだと、にわか冒険者の手に余るようで、近隣の村人が作ったようなパーティーはいなくなり、他の冒険者のパーティーが視界に入ることも少なくなってくる。
それとともに魔物たちに襲われる確率も高くなってきたので、トルルは後方から《着火》を風魔法《流風》で強化した中級魔法《火炎》を使って、一斉に襲われないよう魔物たちをひるませる役を買って出た。
「私も少しは役に立たないとね。これ、やっとできるようになったから使ってみたかったし」
人懐っこくてコミュニケーション能力の高いトルルは、うまく前衛の方たちとバランスをとって攻撃に参加できている。
(これは得難い才能だよね。やりますね、トルルさん)
とはいえ戦闘の数はかなり増えてしまい、第二階層は第一階層よりやや狭いにもかかわらず、少々てこずって2時間15分での踏破となった。
「どうするかね、まだ行くかい? そろそろ休憩を挟んだほうがいいかもしれないよ」
スフィロさんは、私たちに気を使ってくれ第三階層に入ったところでの休憩を提案してくれた。スフィロさんたちは涼しい顔だが、確かに4時間動きっぱなしだ。魔法で強化して支えているとはいえ、私たちはそろそろ休んだほうがいいだろう。
そう思いながらも、新しい階層へやってきたので《索敵マーカー》を使ってみると、脳内の地図に赤い点を確認することができた。ついにマジックバッグの反応があったのだ。確実にオルダンさんだとは言い切れないが、確率はかなり高い。
「いた! いました! この階層の中央あたり……しかも魔物に囲まれているようです」
私の見たところ、彼らのパーティーは六名。その彼らが、六匹の“ビッグマモット”に囲まれている。つまり、誰もオルダンさんにかまっている余裕がないという状況なのだ。
(オルダンさんが一対一で、あの大きさの魔物に対峙して無事で済むとは思えない。急がないと!)
駆け出そうとする私をスフィロさんが、いきなり抱き上げた。
「君は彼らの居場所まで、案内することに専念してくれ。このほうがずっと早く行けるよ」
他の皆さんも頷いているところをみると、彼らは足に自信がありそうだ。私は全員に《強筋》と《裂風》を瞬時にかけると、ナビ役に徹した。
「あそこに見える青い石まで前方右方向へ進んでください。その後、左側に見えてくる大きな岩の後ろへ回り込んで、そのまま直進します!」
「了解!」
どうやら彼らは私たちに気を使って、かなり速度を落として歩いてくれていたらしい。魔法で強化した彼らの足は速かった。山育ちのトルルもよくその彼らに食らいついている。確かにいくら強化しても、私がこのスピードで移動することはできない。
(いい判断ですね。スフィロさん)
もちろん、猛スピードで進んでいる間にも魔物は襲ってくる。しかもこの階層には新たな魔物が出る。鋭く大きな爪と牙を持つ“鉄爪ビッテ”だ。大きさは、それほど大きくはないが俊敏なため、襲われると厄介だ。この爪は高く売れるそうで、採取屋としてはオイシイ魔物だそうだ。
だが、いまは先へ進むことを最優先にしてくれている前衛の方々は、うまく魔物をいなして長期戦に持ち込むことなく進んでくれている。
このダンジョンは階層が進むにつれて徐々に面積が減っていく。このダンジョンも上の階より狭くなっているため、私たちはなんとか、20分ほどで《索敵マーカー》の反応があった場所まで着くことができた。
そこには息も絶え絶えで、それでもなんとか気力で応戦している状況の六人の姿があった。
「こいつはひどいな……我々も応戦する、行くぞ!」
私を地面に下したスフィロさんは、すぐに“ビッグマモット”の狩りを皆に指示し、彼らは血の匂いに惹きつけられてさらに増えてきた魔物の掃討を始めた。トルルも彼らとともに戦いに参加している。
私はスフィロさんたちが戦い始めたことで、気が抜けたのかゼイゼイと息を吐きながら膝をついている血だらけの冒険者たちのほうへ進んでいった。
「いた! オルダンさーん‼!」
血まみれの剣を持ったまま、顔や腕、特に足に大きな傷を負ったオルダンさんが、岩にもたれて疲れ切ったぼんやりした表情で私の方を見た。
「あ……、えっ? 魔法使いの、メイロード・マリスさ……ん?」
なぜ私がこんな修羅場に登場するのか、まったく理解できていないようで、混乱している様子だ。
(間一髪だったね。ともかく無事でよかったよ)
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