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3 魔法学校の聖人候補
552 なんでも屋の大事
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オルダンさんに聞いていたお店の場所を探して、私とトルルはセジャムの街を歩いていった。この街はそう広くないし、商店のある場所は大通りから大きく外れたところは少ないので、すぐ探せるだろうと考えていたが、思った通りだった。
「あ! あそこじゃない?」
トルルが指さした、大通りから一本入った場所にある、こじんまりとした店の前には“セジャムのなんでも屋”という、木彫りの素朴な看板がかかっていた。こじんまりとは言ったが、私の営んでいる雑貨店より大きいし、家族で住んでいるのだろう、奥行きもかなりありそうな住居も兼ねたタイプの二階建ての建物だ。
(道具屋でも雑貨店でもなく、なんでも屋ね。ちょっと面白い商品がありそうでいいね)
「あれぇ? 今日はおやすみなのかな……」
店のドアに近づいたトルルが、店の入り口の引き戸を動かそうとして、戸惑っている。セジャムさんは、自分がいないときでも奥さんが店を開いていると言っていたし、定休日があるなら、あのときに、教えていてくれたはずだ。
「臨時休業なのかな? おかしいね」
私も引き戸の隙間を覗き込むが、確かに営業しているような雰囲気はない。それでも、あきらめきれないトルルは、扉をコツコツと叩いて声をかける。
「こんににちは。表門であったトルルでーす。おやすみですかー?」
するとドアの隙間に見慣れた顔が現れた。オルダンさんの息子さん、ライルだ。そのあと、ガタッという音がして、扉が開いた。
「おねえちゃん!」
引き戸から飛び出してきて、そのままトルルにしがみつき号泣するライルに私もトルルも面食らって、何とか落ち着かせようとしたのだが、まったく泣き止む気配がないので、しかたなく開いた引き戸から店の中に入った。やはり店は営業していなかったようで、ほこりをよける布がどの棚にもかけられている。
弟妹が多く、子供の扱いには慣れているトルルは、ゆっくりとライルの頭をなでながら話を聞き出そうとしているが、泣きすぎているライルはうまく話すことができないようだった。
私とトルルが、どうしたものかと顔を見合わせていると、年季の入っただが清潔そうな大きなエプロンをした初老の女性が、店の奥からライルの名前を呼びながらこちらに近づいてきた。挨拶をしようとしたその女性の顔色はとても悪く、疲労の影が色濃く出ている。
(いったいなにが……)
私は嫌な空気を感じつつ、女性に声をかけた。
「先日、オルダンさんとお話をする機会がありまして、ぜひ店にもとお誘いいただいたので伺ったのですが、お店はお休みのようですね。ご自慢の奥様にもお会いできるかと楽しみにしていたのですけれど、また次の機会に……」
私の言葉の途中で、この女性も涙をこぼし始め、こちらもエプロンをハンカチ代わりに顔をうずめるようにして泣き始めてしまった。泣き続けるふたりに、事情の分からない私たちはかける言葉もなく、とはいえその場を離れることもできずにいた。
すると今度はふたりを探しに来たのだろう、初老の男性が奥から店へやってきた。私がもう一度状況を説明すると、男性はライルに離れるように言ったのだがまったく効果なし。暗い表情の男性は仕方なくトルルから離れないライルのことをあきらめ、奥様らしい女性の肩を抱くと
「あの子のそばにいてやりなさい」
と言いながら、女性に奥へと行くようにうながした。
そして、私たちに向き直ると、店がこんな状態で申し訳ないという詫びをし始めたのだ。
「いえ、そんなことはいいんですが……いったいなにがあったのでしょうか? もし差し支えなければ教えていただけませんか?」
ふたりの異常な泣き方に、ただごとでない感じを受けた私が聞いてみると、私たちが出会った日から今日までの短い間に彼らに起きた悲しい事件を話してくれた。
オルダンさんとライルが帰宅して、まず奥さんの顔を見たいと店の扉を開けたとき、店内には誰もいなかった。お客がいないのはともかく、店番の奥さんの姿がないのはおかしい。そして、もう一度店の中をよく見ると、棚の影で奥さんが倒れていたそうだ。
慌てて奥へと運んで寝かしつけ、近所に住む両親に知らせ、薬師を連れてきた。だが“ポーション”もほとんど効果がなく、それ以外の薬も、まったく奥さんには効果がなかったのだ。病状はどんどん悪化し、いまは危篤状態だという。
「それ以上高い薬は、とても私たちが手を出せるようなものではありません。いまはただ、少しでも安らかに、苦しまずにと……」
男性もまた目を真っ赤にしている。
「どこですか?」
私は男性の言葉も聞かず、先ほど女性が進んでいったほうへ向かって走り出した。止めようとする男性に、トルルがこう言ってくれていた。
「行かせてあげてください。マリスさんは魔法学校でも薬の研究会に所属している、それは優秀な薬師なんです。なにか、きっと助ける方法を見つけてくれるはずです!」
トルルの援護のおかげで、それ以上止められることもなく、私は奥の部屋へと駆け込んだ。だが、そこで見たのは絶望的な光景だった。
(これは、まずい! もう時間がない!)
「あ! あそこじゃない?」
トルルが指さした、大通りから一本入った場所にある、こじんまりとした店の前には“セジャムのなんでも屋”という、木彫りの素朴な看板がかかっていた。こじんまりとは言ったが、私の営んでいる雑貨店より大きいし、家族で住んでいるのだろう、奥行きもかなりありそうな住居も兼ねたタイプの二階建ての建物だ。
(道具屋でも雑貨店でもなく、なんでも屋ね。ちょっと面白い商品がありそうでいいね)
「あれぇ? 今日はおやすみなのかな……」
店のドアに近づいたトルルが、店の入り口の引き戸を動かそうとして、戸惑っている。セジャムさんは、自分がいないときでも奥さんが店を開いていると言っていたし、定休日があるなら、あのときに、教えていてくれたはずだ。
「臨時休業なのかな? おかしいね」
私も引き戸の隙間を覗き込むが、確かに営業しているような雰囲気はない。それでも、あきらめきれないトルルは、扉をコツコツと叩いて声をかける。
「こんににちは。表門であったトルルでーす。おやすみですかー?」
するとドアの隙間に見慣れた顔が現れた。オルダンさんの息子さん、ライルだ。そのあと、ガタッという音がして、扉が開いた。
「おねえちゃん!」
引き戸から飛び出してきて、そのままトルルにしがみつき号泣するライルに私もトルルも面食らって、何とか落ち着かせようとしたのだが、まったく泣き止む気配がないので、しかたなく開いた引き戸から店の中に入った。やはり店は営業していなかったようで、ほこりをよける布がどの棚にもかけられている。
弟妹が多く、子供の扱いには慣れているトルルは、ゆっくりとライルの頭をなでながら話を聞き出そうとしているが、泣きすぎているライルはうまく話すことができないようだった。
私とトルルが、どうしたものかと顔を見合わせていると、年季の入っただが清潔そうな大きなエプロンをした初老の女性が、店の奥からライルの名前を呼びながらこちらに近づいてきた。挨拶をしようとしたその女性の顔色はとても悪く、疲労の影が色濃く出ている。
(いったいなにが……)
私は嫌な空気を感じつつ、女性に声をかけた。
「先日、オルダンさんとお話をする機会がありまして、ぜひ店にもとお誘いいただいたので伺ったのですが、お店はお休みのようですね。ご自慢の奥様にもお会いできるかと楽しみにしていたのですけれど、また次の機会に……」
私の言葉の途中で、この女性も涙をこぼし始め、こちらもエプロンをハンカチ代わりに顔をうずめるようにして泣き始めてしまった。泣き続けるふたりに、事情の分からない私たちはかける言葉もなく、とはいえその場を離れることもできずにいた。
すると今度はふたりを探しに来たのだろう、初老の男性が奥から店へやってきた。私がもう一度状況を説明すると、男性はライルに離れるように言ったのだがまったく効果なし。暗い表情の男性は仕方なくトルルから離れないライルのことをあきらめ、奥様らしい女性の肩を抱くと
「あの子のそばにいてやりなさい」
と言いながら、女性に奥へと行くようにうながした。
そして、私たちに向き直ると、店がこんな状態で申し訳ないという詫びをし始めたのだ。
「いえ、そんなことはいいんですが……いったいなにがあったのでしょうか? もし差し支えなければ教えていただけませんか?」
ふたりの異常な泣き方に、ただごとでない感じを受けた私が聞いてみると、私たちが出会った日から今日までの短い間に彼らに起きた悲しい事件を話してくれた。
オルダンさんとライルが帰宅して、まず奥さんの顔を見たいと店の扉を開けたとき、店内には誰もいなかった。お客がいないのはともかく、店番の奥さんの姿がないのはおかしい。そして、もう一度店の中をよく見ると、棚の影で奥さんが倒れていたそうだ。
慌てて奥へと運んで寝かしつけ、近所に住む両親に知らせ、薬師を連れてきた。だが“ポーション”もほとんど効果がなく、それ以外の薬も、まったく奥さんには効果がなかったのだ。病状はどんどん悪化し、いまは危篤状態だという。
「それ以上高い薬は、とても私たちが手を出せるようなものではありません。いまはただ、少しでも安らかに、苦しまずにと……」
男性もまた目を真っ赤にしている。
「どこですか?」
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「行かせてあげてください。マリスさんは魔法学校でも薬の研究会に所属している、それは優秀な薬師なんです。なにか、きっと助ける方法を見つけてくれるはずです!」
トルルの援護のおかげで、それ以上止められることもなく、私は奥の部屋へと駆け込んだ。だが、そこで見たのは絶望的な光景だった。
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