357 / 837
3 魔法学校の聖人候補
546 私のギルドカードは
しおりを挟む
546
「それじゃ、最後にあなたのお得意の魔法を見せていただきましょうか」
なんだかものすごくワクワクした目を試験官から向けられた私は、研究棟を出るとき博士から向けられた何とも言えない顔を思い出していた。
(いや、抑えましたよ。きっちり抑えた感じでやってますよ。でも、お得意……どうしようかなぁ)
もうこれ以上試験官の期待には応えたくない。とすれば、はやりここはいつものやつでいくことにしよう。そう決めた私は、何枚かの布をマジックバッグから取り出し、空中に投げた。それを《エア・バブル》で囲み、中に《水出》で水を作り出し、それを振動させて洗濯を開始。その後、《圧縮》を使って水を抜き、洗濯を終了した。
「これは……」
「洗濯魔法です」
「洗濯……魔法?」
きまずい沈黙が流れたが、魔法には何ら問題はないはずだ。最後に火魔法と風魔法を組み合わせた魔法乾燥法を使って、プレスしてぎっちり水分を抜いた布を風の中でくるくると回転させて、ふんわりと仕上げた。
個人的には洗濯物はお日様に干すのが好きなのだが、これはこれでとても便利な魔法だ。洗濯物が多いときには、とても時短になるし、この方法だと出るふっくら感がたまらない。
洗濯が終わった布をたたみながら悦に入っている私に試験官は、ため息をつきながら近づいてきた。
「素晴らしい魔法でした。合格です……合格ですが、ひとこと言わせていただいてもよろしいでしょうか?」
若干厳しい表情の試験管の様子に腰が引けつつもこっくりとうなづいた私に、彼は子供に諭す感じでゆっくりと話し始めた。
「では……よろしいですか。魔法を使えるということはとても素晴らしいことです。しかもあなたには天賦の才能がある。魔法の発動の速さ、正確性、技術の習熟度……、その年でこれだけのことができるのです。これからの研鑽次第では、もしかしたらかの天才ハンス・グッケンス様のような歴史に名を残される魔法使いになれるかもしれない。
その才能を、こんなことに使ってはいけません。魔法力は有限なのです。あなたの魔法力がたとえ潤沢だとしても、やはり有限なのです。こんな誰でもできることのために、あなたの大事な魔法力を使ったりしていてはだめですよ。わかりますね」
至極まっとうなお説教をくらってしまった。ものすごく今更だけど、私の家事魔法があまり評価を受けない理由を、至極真っ当に教えてもらってしまった。
(みんな大事な魔法力をこんなことに使うなんて……、ってあきれていたのね)
残念ながら彼の心配はまったくの杞憂で、私の持つ膨大な魔法力はこの程度の家事魔法を一日中使い続けたところで1パーセントも減ったりはしないのだが、だから安心してくださいとこの試験官に伝えることはできない。それこそ私の最大の秘密なのだから。
(ここは素直にお説教されておくのが吉とみた。しおらしくしておくことにしよっと)
「これからの魔法修行に大切な諫言をありがとうございます。これから一生懸命修行して、偉大な魔法使いとなれるよう精進致します」
私のしおらしい言葉に満足したらしい試験官は、私の評価を記した紙を手渡してくれ、盛大に私とトルルを励ましてくれた。どうやら、とても気のいい方らしい。彼自身も魔法使いにあこがれて、あこがれて、でも魔法力が足りなくてあきらめたという方だった。
「君のように才能のある子は、この国の宝だからね。平民だって関係ない、魔法使いは実力がすべての世界だ。君の名前は覚えておくよ、メイロード・マリス君! きっと君なら大成するさ!」
(この方の魔法使いの能力を見抜く力は本物ね)
たくさんの魔法使いの試験を担当することで得た能力なのだろう。面白い人だった。彼に見送られて、申請窓口まで戻ると、私たちは試験結果の書かれた紙を提出。無事に魔法使いのライセンスカードであるギルドカードを手に入れた。
(?)
「どうしたのマリスさん?」
「あ、いや……」
トルルのカードは予定通り10級なのだが、私のカードは一人前の魔法使いを現すとされる5級と表示されていた。
私は慌ててカードの発行を担当してくれたお姉さんのところへ行き、何かの間違いではないかと聞いてみた。
「確かにお嬢ちゃんのような小さな子が5級ってことはないわよね、もう一度チェックしますね。ええと、試験結果の用紙はどこだったかしら……」
お姉さんが再度調べてくれた結果は、やはり5級相当の判断だった。
(どーしてよぉ! めっちゃ魔法力は絞ったよ。やりすぎないようがんばったよ!)
だが、教えてもらった理由を聞いて、本当に私は脱力した。原因は私の家事魔法だったのだ。特に私が最後に使った魔法を使ったドライヤーは魔法名の登録のない技術で、オリジナル魔法と認定されていた。魔法創造はとても高い評価を受けるため、私は一人前と認められてしまったらしい。多分にあの試験官の個人的身びいきもありそうな気はするが、そう言われてしまったら、違いますとも言えない。
(たしかに、あれは私のオリジナルなんだよね。普段使いし過ぎていてそんな意識全然なかったんだけど、というかオリジナルの家事魔法を作る魔法使いがそもそもいないもんね)
というわけで、私はなんと子供魔法使いとして認定されてしまった。窓口のおねえさん曰く“おそらく最年少記録”で……
トルルはすごいすごいと言って喜んでくれているが、私は普通に修業がしたい。
(このレベルじゃもうインターン制度も使えないじゃん!)
がっくりと肩を落とした私を無視して、トルルが早速依頼を見に行こうと私の手を引っ張る。
(試験官さん! あなたは悪くない、悪くないけど、うらむからね!)
「それじゃ、最後にあなたのお得意の魔法を見せていただきましょうか」
なんだかものすごくワクワクした目を試験官から向けられた私は、研究棟を出るとき博士から向けられた何とも言えない顔を思い出していた。
(いや、抑えましたよ。きっちり抑えた感じでやってますよ。でも、お得意……どうしようかなぁ)
もうこれ以上試験官の期待には応えたくない。とすれば、はやりここはいつものやつでいくことにしよう。そう決めた私は、何枚かの布をマジックバッグから取り出し、空中に投げた。それを《エア・バブル》で囲み、中に《水出》で水を作り出し、それを振動させて洗濯を開始。その後、《圧縮》を使って水を抜き、洗濯を終了した。
「これは……」
「洗濯魔法です」
「洗濯……魔法?」
きまずい沈黙が流れたが、魔法には何ら問題はないはずだ。最後に火魔法と風魔法を組み合わせた魔法乾燥法を使って、プレスしてぎっちり水分を抜いた布を風の中でくるくると回転させて、ふんわりと仕上げた。
個人的には洗濯物はお日様に干すのが好きなのだが、これはこれでとても便利な魔法だ。洗濯物が多いときには、とても時短になるし、この方法だと出るふっくら感がたまらない。
洗濯が終わった布をたたみながら悦に入っている私に試験官は、ため息をつきながら近づいてきた。
「素晴らしい魔法でした。合格です……合格ですが、ひとこと言わせていただいてもよろしいでしょうか?」
若干厳しい表情の試験管の様子に腰が引けつつもこっくりとうなづいた私に、彼は子供に諭す感じでゆっくりと話し始めた。
「では……よろしいですか。魔法を使えるということはとても素晴らしいことです。しかもあなたには天賦の才能がある。魔法の発動の速さ、正確性、技術の習熟度……、その年でこれだけのことができるのです。これからの研鑽次第では、もしかしたらかの天才ハンス・グッケンス様のような歴史に名を残される魔法使いになれるかもしれない。
その才能を、こんなことに使ってはいけません。魔法力は有限なのです。あなたの魔法力がたとえ潤沢だとしても、やはり有限なのです。こんな誰でもできることのために、あなたの大事な魔法力を使ったりしていてはだめですよ。わかりますね」
至極まっとうなお説教をくらってしまった。ものすごく今更だけど、私の家事魔法があまり評価を受けない理由を、至極真っ当に教えてもらってしまった。
(みんな大事な魔法力をこんなことに使うなんて……、ってあきれていたのね)
残念ながら彼の心配はまったくの杞憂で、私の持つ膨大な魔法力はこの程度の家事魔法を一日中使い続けたところで1パーセントも減ったりはしないのだが、だから安心してくださいとこの試験官に伝えることはできない。それこそ私の最大の秘密なのだから。
(ここは素直にお説教されておくのが吉とみた。しおらしくしておくことにしよっと)
「これからの魔法修行に大切な諫言をありがとうございます。これから一生懸命修行して、偉大な魔法使いとなれるよう精進致します」
私のしおらしい言葉に満足したらしい試験官は、私の評価を記した紙を手渡してくれ、盛大に私とトルルを励ましてくれた。どうやら、とても気のいい方らしい。彼自身も魔法使いにあこがれて、あこがれて、でも魔法力が足りなくてあきらめたという方だった。
「君のように才能のある子は、この国の宝だからね。平民だって関係ない、魔法使いは実力がすべての世界だ。君の名前は覚えておくよ、メイロード・マリス君! きっと君なら大成するさ!」
(この方の魔法使いの能力を見抜く力は本物ね)
たくさんの魔法使いの試験を担当することで得た能力なのだろう。面白い人だった。彼に見送られて、申請窓口まで戻ると、私たちは試験結果の書かれた紙を提出。無事に魔法使いのライセンスカードであるギルドカードを手に入れた。
(?)
「どうしたのマリスさん?」
「あ、いや……」
トルルのカードは予定通り10級なのだが、私のカードは一人前の魔法使いを現すとされる5級と表示されていた。
私は慌ててカードの発行を担当してくれたお姉さんのところへ行き、何かの間違いではないかと聞いてみた。
「確かにお嬢ちゃんのような小さな子が5級ってことはないわよね、もう一度チェックしますね。ええと、試験結果の用紙はどこだったかしら……」
お姉さんが再度調べてくれた結果は、やはり5級相当の判断だった。
(どーしてよぉ! めっちゃ魔法力は絞ったよ。やりすぎないようがんばったよ!)
だが、教えてもらった理由を聞いて、本当に私は脱力した。原因は私の家事魔法だったのだ。特に私が最後に使った魔法を使ったドライヤーは魔法名の登録のない技術で、オリジナル魔法と認定されていた。魔法創造はとても高い評価を受けるため、私は一人前と認められてしまったらしい。多分にあの試験官の個人的身びいきもありそうな気はするが、そう言われてしまったら、違いますとも言えない。
(たしかに、あれは私のオリジナルなんだよね。普段使いし過ぎていてそんな意識全然なかったんだけど、というかオリジナルの家事魔法を作る魔法使いがそもそもいないもんね)
というわけで、私はなんと子供魔法使いとして認定されてしまった。窓口のおねえさん曰く“おそらく最年少記録”で……
トルルはすごいすごいと言って喜んでくれているが、私は普通に修業がしたい。
(このレベルじゃもうインターン制度も使えないじゃん!)
がっくりと肩を落とした私を無視して、トルルが早速依頼を見に行こうと私の手を引っ張る。
(試験官さん! あなたは悪くない、悪くないけど、うらむからね!)
237
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。