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3 魔法学校の聖人候補
545 試験開始
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545
「はい、次の方~。おや、随分小さい子がきたね。学生さんかい?」
試験会場にいたのは、どう見ても魔法使いではなさそうな男性だった。なぜわかるかというと、この世界では〝髪〟に魔法力が宿ると信じられており、私の翠の髪が〝魔力宿る髪〟と言われている以外でも、魔法使いは男性でも肩ぐらいまでは伸ばしている人が多く、彼のような短髪の人はまずいないからだ。でも考えてみれば、これは基本的な技能をチェックする類の試験で、試験官が手本を見せる必要もないし、貴重な人材である魔術師がわざわざしなくていい仕事だ。
チェックシートらしきものをはさんだバインダーを持った男性は、慣れた雰囲気で軽くこれからすることを説明した。
「では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法をやってみてもらうよ。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつお願いできるかな?」
まずはトルルの実技試験。
風魔法系が得意なトルルは風で対象を切り裂く《風切り》と、これも得意の土魔法系の《土障壁》で土を防御壁に変えた。
「はい。問題ないですね。つぎは基礎魔法です。これから私の言う魔法を連続で発動してください。はい、《水出》《着火》《流風》《氷結》《土転》」
トルルは、急に早口で告げられた魔法に慌てつつも魔法を展開していったが、残念ながらちょっと難しい《氷結》はやや失敗ぎみ、だが他はきれいにできていた。
「はいはい、《氷結》はちょっといじわるだったかな。学生さんには難しかったね。大丈夫だよ。向き不向きもあるから全部完璧って人は少ないからね。では最後は、お得意の魔法を使ってみてください」
「はい! やります!」
真剣な表情のトルルは、失敗を挽回しようと得意の風魔法《旋風》で、かなりの大きさの竜巻を作り出した。
「はい。わかりました。よくできていますよ。これなら10級で十分やっていけますね。お疲れさまでした」
担当の男性は、持っていた紙にサラサラの何かを書き込んだものをトルルに手渡した。
「では、これを持ってもう一度、申請受付に戻ってください。お疲れさまでした」
「は、はい。ありがとうございました」
なんだか卒業証書をもらったような姿勢で、トルルはその書類を押し頂いて受け取り、やっとほっとしたようないつもの表情に戻った。やはりかなり緊張していたらしい。
「よかったぁ。これで10級魔法使いに認められたよ。10級ならそれなりにいい金額の出る仕事できるよね。一学期の狩りで稼いだお金はほとんど家族に置いてきちゃったから、いまあんまり持ち合わせがなくて、稼げないと宿代が出ないんだ。ああ、ほっとした」
(なるほど、真剣さはそういう理由だったのね)
ともあれ、トルルの試験は合格。次は私なのだが、私の姿を見た担当の方はどうにも心配そうな表情だ。
「こんな小さな子に魔法実技は厳しいんじゃないかな。12級から始めたほうが危なくなくていいと思うよ」
そう、なんだか諭すように言われてしまった。相変わらず、年齢よりも小さくて細っこい私が山育ちで体格の良いトルルと並ぶとお子様感が確かに強い。とても魔法学校に行っている年齢にも見えないし(まぁ、実際まだその年齢ではないんだけどね)、危険な仕事も多い職種だ。心配して言ってくれているのだろう。
「マリスさんは私よりずっと優秀な魔法使いなんですよ。大丈夫です。見てあげてください!」
どう言ったものかと考えていると、後ろからトルルが援護してくれた。持つべきものは友だちだ。
「そうかい……じゃ、試験を始めるよ」
トルルの言葉に納得してくれた試験官は、すぐに試験を始めてくれた。
「要領は先ほどと同じです。では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法を発動してください。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつね」
私は試射用に置かれた的に向かい《流風弾》をかなり抑えた威力で発射した。ヒュンという空気を切る音とともに、素早く発射された三発の《流風弾》は、15メートルほど離れたところにある的を連続で正確に中央を射抜いた。このコントロールについては私のスキル《的指定》が自動で働いているので、絶対に外れることはなく正確無比なのだ。
「を?! これはすごいですね。風魔法ですか。確かに素晴らしい威力と命中率です。すばらしいですね」
試験官はまじまじと、的に空いた正確に貫通した弾道を確認して、ずーっとうなっている。
「次に進んでいいですか?」
なかなか試験官が的から離れてくれないので、私の方から声をかけて防御系魔法の実技に進む。トルルと同じ風魔法というのも芸がないし、土魔法もトルルのお得意だからお株を奪いたくない。そこで、《氷障壁》を展開した。
これもやりすぎないようにと考え、一気に作らず前後左右に時間差をつけて氷の層を作り、自分の周りを囲んだ。
「氷系の魔法はなかなか難しいのに、よく勉強されていますね。厚みも十分ですし、素晴らしい魔法です!」
試験官の男性は、感心しきりという感じで紙に何か書き込んだり、私の作った氷の壁を叩いたりしている。どうやら、ちびっこの魔法使いが想定外にちゃんと魔法が使えているのに感心しきりのようだ。
「あのぉ……、つぎに……」
「ああ、はいはい。じゃ、前の方と同じでいきましょうか。《水出》《着火》《流風》《氷結》《土転》、ハイどうぞ!」
妙に明るくなっている試験官の様子にちょっと引き気味になりつつも、とにかく心の中で
(抑えて、抑えて、やりすぎない、やりすぎない……)
と呪文のように唱えつつ、先ほどと同じ魔法をちゃっちゃと展開した。
「すごーい。早いね、マリスさん」
トルルが後ろから声をかけてきた。
「え? は、早かった?」)
私は後ろを向いて、トルルに確認しようとしたが、その前に試験官の方に感心されてしまった。
「いや、すごいですね。基礎魔法とはいえ、系統の違う魔法をこうも瞬時に切り替えて打ち出せるとは……。ここで、試験官を始めてしばらくたちますが、お嬢さんが最速ですよ。いや、すばらしい!」
「あ、いや、ははは……」
(しまった! さっきと同じってことで、頭でそれを思い出しながらパワーコントロールに集中して無意識で発動したから、スピードまではコントロールしてなかったよ。そうか、早すぎっていうのもあったんだ)
私は心の中で自分に盛大にダメ出しをしながら、興奮気味にほめたたえてくれる試験官に愛想笑いをしつつ、早く試験を終えてくれ!、と念じていた。
「はい、次の方~。おや、随分小さい子がきたね。学生さんかい?」
試験会場にいたのは、どう見ても魔法使いではなさそうな男性だった。なぜわかるかというと、この世界では〝髪〟に魔法力が宿ると信じられており、私の翠の髪が〝魔力宿る髪〟と言われている以外でも、魔法使いは男性でも肩ぐらいまでは伸ばしている人が多く、彼のような短髪の人はまずいないからだ。でも考えてみれば、これは基本的な技能をチェックする類の試験で、試験官が手本を見せる必要もないし、貴重な人材である魔術師がわざわざしなくていい仕事だ。
チェックシートらしきものをはさんだバインダーを持った男性は、慣れた雰囲気で軽くこれからすることを説明した。
「では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法をやってみてもらうよ。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつお願いできるかな?」
まずはトルルの実技試験。
風魔法系が得意なトルルは風で対象を切り裂く《風切り》と、これも得意の土魔法系の《土障壁》で土を防御壁に変えた。
「はい。問題ないですね。つぎは基礎魔法です。これから私の言う魔法を連続で発動してください。はい、《水出》《着火》《流風》《氷結》《土転》」
トルルは、急に早口で告げられた魔法に慌てつつも魔法を展開していったが、残念ながらちょっと難しい《氷結》はやや失敗ぎみ、だが他はきれいにできていた。
「はいはい、《氷結》はちょっといじわるだったかな。学生さんには難しかったね。大丈夫だよ。向き不向きもあるから全部完璧って人は少ないからね。では最後は、お得意の魔法を使ってみてください」
「はい! やります!」
真剣な表情のトルルは、失敗を挽回しようと得意の風魔法《旋風》で、かなりの大きさの竜巻を作り出した。
「はい。わかりました。よくできていますよ。これなら10級で十分やっていけますね。お疲れさまでした」
担当の男性は、持っていた紙にサラサラの何かを書き込んだものをトルルに手渡した。
「では、これを持ってもう一度、申請受付に戻ってください。お疲れさまでした」
「は、はい。ありがとうございました」
なんだか卒業証書をもらったような姿勢で、トルルはその書類を押し頂いて受け取り、やっとほっとしたようないつもの表情に戻った。やはりかなり緊張していたらしい。
「よかったぁ。これで10級魔法使いに認められたよ。10級ならそれなりにいい金額の出る仕事できるよね。一学期の狩りで稼いだお金はほとんど家族に置いてきちゃったから、いまあんまり持ち合わせがなくて、稼げないと宿代が出ないんだ。ああ、ほっとした」
(なるほど、真剣さはそういう理由だったのね)
ともあれ、トルルの試験は合格。次は私なのだが、私の姿を見た担当の方はどうにも心配そうな表情だ。
「こんな小さな子に魔法実技は厳しいんじゃないかな。12級から始めたほうが危なくなくていいと思うよ」
そう、なんだか諭すように言われてしまった。相変わらず、年齢よりも小さくて細っこい私が山育ちで体格の良いトルルと並ぶとお子様感が確かに強い。とても魔法学校に行っている年齢にも見えないし(まぁ、実際まだその年齢ではないんだけどね)、危険な仕事も多い職種だ。心配して言ってくれているのだろう。
「マリスさんは私よりずっと優秀な魔法使いなんですよ。大丈夫です。見てあげてください!」
どう言ったものかと考えていると、後ろからトルルが援護してくれた。持つべきものは友だちだ。
「そうかい……じゃ、試験を始めるよ」
トルルの言葉に納得してくれた試験官は、すぐに試験を始めてくれた。
「要領は先ほどと同じです。では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法を発動してください。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつね」
私は試射用に置かれた的に向かい《流風弾》をかなり抑えた威力で発射した。ヒュンという空気を切る音とともに、素早く発射された三発の《流風弾》は、15メートルほど離れたところにある的を連続で正確に中央を射抜いた。このコントロールについては私のスキル《的指定》が自動で働いているので、絶対に外れることはなく正確無比なのだ。
「を?! これはすごいですね。風魔法ですか。確かに素晴らしい威力と命中率です。すばらしいですね」
試験官はまじまじと、的に空いた正確に貫通した弾道を確認して、ずーっとうなっている。
「次に進んでいいですか?」
なかなか試験官が的から離れてくれないので、私の方から声をかけて防御系魔法の実技に進む。トルルと同じ風魔法というのも芸がないし、土魔法もトルルのお得意だからお株を奪いたくない。そこで、《氷障壁》を展開した。
これもやりすぎないようにと考え、一気に作らず前後左右に時間差をつけて氷の層を作り、自分の周りを囲んだ。
「氷系の魔法はなかなか難しいのに、よく勉強されていますね。厚みも十分ですし、素晴らしい魔法です!」
試験官の男性は、感心しきりという感じで紙に何か書き込んだり、私の作った氷の壁を叩いたりしている。どうやら、ちびっこの魔法使いが想定外にちゃんと魔法が使えているのに感心しきりのようだ。
「あのぉ……、つぎに……」
「ああ、はいはい。じゃ、前の方と同じでいきましょうか。《水出》《着火》《流風》《氷結》《土転》、ハイどうぞ!」
妙に明るくなっている試験官の様子にちょっと引き気味になりつつも、とにかく心の中で
(抑えて、抑えて、やりすぎない、やりすぎない……)
と呪文のように唱えつつ、先ほどと同じ魔法をちゃっちゃと展開した。
「すごーい。早いね、マリスさん」
トルルが後ろから声をかけてきた。
「え? は、早かった?」)
私は後ろを向いて、トルルに確認しようとしたが、その前に試験官の方に感心されてしまった。
「いや、すごいですね。基礎魔法とはいえ、系統の違う魔法をこうも瞬時に切り替えて打ち出せるとは……。ここで、試験官を始めてしばらくたちますが、お嬢さんが最速ですよ。いや、すばらしい!」
「あ、いや、ははは……」
(しまった! さっきと同じってことで、頭でそれを思い出しながらパワーコントロールに集中して無意識で発動したから、スピードまではコントロールしてなかったよ。そうか、早すぎっていうのもあったんだ)
私は心の中で自分に盛大にダメ出しをしながら、興奮気味にほめたたえてくれる試験官に愛想笑いをしつつ、早く試験を終えてくれ!、と念じていた。
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