利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
356 / 837
3 魔法学校の聖人候補

545 試験開始

しおりを挟む
545

「はい、次の方~。おや、随分小さい子がきたね。学生さんかい?」

試験会場にいたのは、どう見ても魔法使いではなさそうな男性だった。なぜわかるかというと、この世界では〝髪〟に魔法力が宿ると信じられており、私のミドリの髪が〝魔力宿る髪〟と言われている以外でも、魔法使いは男性でも肩ぐらいまでは伸ばしている人が多く、彼のような短髪の人はまずいないからだ。でも考えてみれば、これは基本的な技能をチェックする類の試験で、試験官が手本を見せる必要もないし、貴重な人材である魔術師がわざわざしなくていい仕事だ。

チェックシートらしきものをはさんだバインダーを持った男性は、慣れた雰囲気で軽くこれからすることを説明した。

「では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法をやってみてもらうよ。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつお願いできるかな?」

まずはトルルの実技試験。

風魔法系が得意なトルルは風で対象を切り裂く《風切り ウインド・カッター》と、これも得意の土魔法系の《土障壁アース・ウオール》で土を防御壁に変えた。

「はい。問題ないですね。つぎは基礎魔法です。これから私の言う魔法を連続で発動してください。はい、《水出アクア》《着火ファイア》《流風ブロウ》《氷結フリーズ》《土転ムーブ・ソイル》」

トルルは、急に早口で告げられた魔法に慌てつつも魔法を展開していったが、残念ながらちょっと難しい《氷結フリーズ》はやや失敗ぎみ、だが他はきれいにできていた。

「はいはい、《氷結フリーズ》はちょっといじわるだったかな。学生さんには難しかったね。大丈夫だよ。向き不向きもあるから全部完璧って人は少ないからね。では最後は、お得意の魔法を使ってみてください」

「はい! やります!」

真剣な表情のトルルは、失敗を挽回しようと得意の風魔法《旋風トルネード》で、かなりの大きさの竜巻を作り出した。

「はい。わかりました。よくできていますよ。これなら10級で十分やっていけますね。お疲れさまでした」

担当の男性は、持っていた紙にサラサラの何かを書き込んだものをトルルに手渡した。

「では、これを持ってもう一度、申請受付に戻ってください。お疲れさまでした」

「は、はい。ありがとうございました」

なんだか卒業証書をもらったような姿勢で、トルルはその書類を押し頂いて受け取り、やっとほっとしたようないつもの表情に戻った。やはりかなり緊張していたらしい。

「よかったぁ。これで10級魔法使いに認められたよ。10級ならそれなりにいい金額の出る仕事できるよね。一学期の狩りで稼いだお金はほとんど家族に置いてきちゃったから、いまあんまり持ち合わせがなくて、稼げないと宿代が出ないんだ。ああ、ほっとした」

(なるほど、真剣さはそういう理由だったのね)

ともあれ、トルルの試験は合格。次は私なのだが、私の姿を見た担当の方はどうにも心配そうな表情だ。

「こんな小さな子に魔法実技は厳しいんじゃないかな。12級から始めたほうが危なくなくていいと思うよ」

そう、なんだか諭すように言われてしまった。相変わらず、年齢よりも小さくて細っこい私が山育ちで体格の良いトルルと並ぶとお子様感が確かに強い。とても魔法学校に行っている年齢にも見えないし(まぁ、実際まだその年齢ではないんだけどね)、危険な仕事も多い職種だ。心配して言ってくれているのだろう。

「マリスさんは私よりずっと優秀な魔法使いなんですよ。大丈夫です。見てあげてください!」

どう言ったものかと考えていると、後ろからトルルが援護してくれた。持つべきものは友だちだ。

「そうかい……じゃ、試験を始めるよ」

トルルの言葉に納得してくれた試験官は、すぐに試験を始めてくれた。

「要領は先ほどと同じです。では、攻撃系と防御系の魔法をひとつずつ。そのあとランダムにこちらが言った基礎魔法を発動してください。そのほかに得意なものがあれば、最後にひとつね」

私は試射用に置かれた的に向かい《流風弾エア・バレット》をかなり抑えた威力で発射した。ヒュンという空気を切る音とともに、素早く発射された三発の《流風弾エア・バレット》は、15メートルほど離れたところにある的を連続で正確に中央を射抜いた。このコントロールについては私のスキル《的指定ターゲット》が自動で働いているので、絶対に外れることはなく正確無比なのだ。

「を?! これはすごいですね。風魔法ですか。確かに素晴らしい威力と命中率です。すばらしいですね」

試験官はまじまじと、的に空いた正確に貫通した弾道を確認して、ずーっとうなっている。

「次に進んでいいですか?」

なかなか試験官が的から離れてくれないので、私の方から声をかけて防御系魔法の実技に進む。トルルと同じ風魔法というのも芸がないし、土魔法もトルルのお得意だからお株を奪いたくない。そこで、《氷障壁アイス・ウオール》を展開した。

これもやりすぎないようにと考え、一気に作らず前後左右に時間差をつけて氷の層を作り、自分の周りを囲んだ。

「氷系の魔法はなかなか難しいのに、よく勉強されていますね。厚みも十分ですし、素晴らしい魔法です!」

試験官の男性は、感心しきりという感じで紙に何か書き込んだり、私の作った氷の壁を叩いたりしている。どうやら、ちびっこの魔法使いが想定外にちゃんと魔法が使えているのに感心しきりのようだ。

「あのぉ……、つぎに……」

「ああ、はいはい。じゃ、前の方と同じでいきましょうか。《水出アクア》《着火ファイア》《流風ブロウ》《氷結フリーズ》《土転ムーブ・ソイル》、ハイどうぞ!」

妙に明るくなっている試験官の様子にちょっと引き気味になりつつも、とにかく心の中で

(抑えて、抑えて、やりすぎない、やりすぎない……)

と呪文のように唱えつつ、先ほどと同じ魔法をちゃっちゃと展開した。

「すごーい。早いね、マリスさん」

トルルが後ろから声をかけてきた。

「え? は、早かった?」)

私は後ろを向いて、トルルに確認しようとしたが、その前に試験官の方に感心されてしまった。

「いや、すごいですね。基礎魔法とはいえ、系統の違う魔法をこうも瞬時に切り替えて打ち出せるとは……。ここで、試験官を始めてしばらくたちますが、お嬢さんが最速ですよ。いや、すばらしい!」

「あ、いや、ははは……」

(しまった! さっきと同じってことで、頭でそれを思い出しながらパワーコントロールに集中して無意識で発動したから、スピードまではコントロールしてなかったよ。そうか、早すぎっていうのもあったんだ)

私は心の中で自分に盛大にダメ出しをしながら、興奮気味にほめたたえてくれる試験官に愛想笑いをしつつ、早く試験を終えてくれ!、と念じていた。
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。