352 / 840
3 魔法学校の聖人候補
541 最初の実験
しおりを挟む
541
今回、〝フリーズドライ製法による食品保存実験〟を開始するに当たり、私はいくつか予備実験を行った。
まず《エア・バブル》の強度と継続可能時間についてしっかり把握しておく必要があったので、様々なパターンでその強度と魔法を継続できる条件を検討した。そして、この実験によって明確になったことは以下の通り。
まず《エア・バブル》が保持できるのは最大でおよそ24時間。その時間内ならばいつでも解除はできるが、それを過ぎると解除せずとも魔法は自然に解け《エア・バブル》は消滅する。この辺りは授業でも教わった通りで、残念ながら《エア・バブル》の魔法は重ね掛けをして持続時間を伸ばせるという性質のものではないようだ。
授業でももし長時間の保持が必要となった場合は、解ける前に新たな《エア・バブル》を作るという方法が一般的で、最低でも一日一回の魔法の更新が必要だと教わった。
(これ、ひとつふたつならいいけど、大量に作った《エア・バブル》の更新作業となると魔法力もたくさんいるし、かなり大変だよね……)
《エア・バブル》はその大きさにより必要とされる魔法力が違う。人の全身を覆える程度の大きさならば10程度の魔法力で作れるので手軽なのだが、ここから大きさに比例してより多くの魔法力が必要となるため、普通は小さな部屋ひとつ分ぐらいが限界だと授業でも聞いた。
(あれ? 私ダンジョンの1階層全体を覆ったことがあったような……ま、いいか)
改めて検証したところ真空状態でもきっちり形は保てそうだし、強度については問題なく使えそうだ。だが私の目指す最終目的を考えると、このままでは使い勝手がどうも悪い。やはり《エア・バブル》の改良も視野に入れなければならないようだ。
では一番作りたいトマトのフリーズドライにまずは挑戦してみよう。
冷凍した食材は一度型から外し、素早く等間隔に12個並べて再び《エア・バブル》で覆う。その後二重にぴったりと展開していた《エア・バブル》の内側を外に抜いていく。内側のバブルは置かれた食品をすり抜け内側の空気とともに外へと出され、食品の入った内側は〝昇華〟した水分で満たされる。そこで素早くトマトが並べられた周辺にぴっちり食品だけを覆うように《エア・バブル》を作り、外側の《エア・バブル》を消した。
エアバブル内の水分は解放され、後には《エア・バブル》に包まれたフリーズドライ処理済みのトマトが残っている。
「ふーっ、まずは第一段階成功かな?」
私は出来上がった綺麗なトマトの色のままの四角い塊を《エア・バブル》を割って取り出した。ソーヤも興味深そうに見ているので、食べてもいいというと早速そのまま食べてしまった。
「これはまた面白い食感でございますね。確かに香りも味もトマトなのにサクサクしていてものすごく軽いです。ああ、でも噛むほどにトマトの旨味が戻ってくるようです。こんなものは初めていただきました!」
「まぁ……そうでしょうね」
大興奮の悪食妖精の様子にやや引きつつ、私は水を含ませてひとつ分のトマトピューレを戻し、味見をする。
「ん、味には問題なさそうね」
その後は、トマト料理の定番をいくつかこの〝フリーズドライ〟したトマトで作ってみることにした。トマトスープにトマトの煮込み、トマトソースなどなど……。どれもしっかりとした美味しい味で、全く問題なし。
「よし。これで、まずできることはわかったわけだけど、この方法では大量に作るのは少し難しいかもしれないなぁ。〝昇華〟した水分の回収方法をもうすこし考えないといけないかもね……」
私の料理をいつものように片っ端から食べ尽くしていたソーヤが私にこう聞いてきた。
「この〝フリーズドライ〟という調理法は、メイロードさまのいらっしゃった世界では、ごく普通の調理法なのでしょうか?」
どうやら、カラカラに乾いた食品が不思議だったようで、逆に魔法なしでこれが作れる世界があるのか不思議のようだ。
「そうね……普通といえば普通ね。気軽に買えるものだったわ。でも、気軽に家で作れるようなものではないの。私も作ったのは今回が初めて」
「やはり、家庭で作れるようなものではないのですね。メイロードさまは、どうしてそんな特殊な調理法のことをご存知なのですか?」
「ああ、それはね……」
私の父が食料を十分に得ることが難しい地域で医療行為をしていたこともあり、父は毎回持てるだけの食料を自前でも用意していた。だが、それはものすごく重かったのだ。もちろん軽量のものを中心にしていたが、それでも毎回かなりの重量。その頃、私は〝フリーズドライ〟の技術がもっと発達したら、きっともっとたくさんの支援をもっと楽にできるんじゃないかと思っていた。
「それで、製法について調べたことがあったの。この方法を使えば味も栄養も保った状態のまま軽量で輸送できるでしょう。しっかりした料理が作れないような厳しいような場所でも、美味しく食事が取れたらいいな‥‥って思っていたの。まさか魔法でそれができるとは思ってなかったけどね」
ソーヤは私の言葉に大きくうなずき納得してくれたようだ。
「実にメイロードさまらしいお考えでございます。何よりこの〝フリーズドライ〟なる技術で作った料理は本当に美味しいです。これならばきっと冬のセルツの料理は一段と美味しくなるに違いありません!」
「うん。そのためにも量産化のための技術を研究しなくちゃね!」
私とソーヤはお茶でも乾杯をし、さらに熱を入れて研究に取り組むことを誓い合った。
今回、〝フリーズドライ製法による食品保存実験〟を開始するに当たり、私はいくつか予備実験を行った。
まず《エア・バブル》の強度と継続可能時間についてしっかり把握しておく必要があったので、様々なパターンでその強度と魔法を継続できる条件を検討した。そして、この実験によって明確になったことは以下の通り。
まず《エア・バブル》が保持できるのは最大でおよそ24時間。その時間内ならばいつでも解除はできるが、それを過ぎると解除せずとも魔法は自然に解け《エア・バブル》は消滅する。この辺りは授業でも教わった通りで、残念ながら《エア・バブル》の魔法は重ね掛けをして持続時間を伸ばせるという性質のものではないようだ。
授業でももし長時間の保持が必要となった場合は、解ける前に新たな《エア・バブル》を作るという方法が一般的で、最低でも一日一回の魔法の更新が必要だと教わった。
(これ、ひとつふたつならいいけど、大量に作った《エア・バブル》の更新作業となると魔法力もたくさんいるし、かなり大変だよね……)
《エア・バブル》はその大きさにより必要とされる魔法力が違う。人の全身を覆える程度の大きさならば10程度の魔法力で作れるので手軽なのだが、ここから大きさに比例してより多くの魔法力が必要となるため、普通は小さな部屋ひとつ分ぐらいが限界だと授業でも聞いた。
(あれ? 私ダンジョンの1階層全体を覆ったことがあったような……ま、いいか)
改めて検証したところ真空状態でもきっちり形は保てそうだし、強度については問題なく使えそうだ。だが私の目指す最終目的を考えると、このままでは使い勝手がどうも悪い。やはり《エア・バブル》の改良も視野に入れなければならないようだ。
では一番作りたいトマトのフリーズドライにまずは挑戦してみよう。
冷凍した食材は一度型から外し、素早く等間隔に12個並べて再び《エア・バブル》で覆う。その後二重にぴったりと展開していた《エア・バブル》の内側を外に抜いていく。内側のバブルは置かれた食品をすり抜け内側の空気とともに外へと出され、食品の入った内側は〝昇華〟した水分で満たされる。そこで素早くトマトが並べられた周辺にぴっちり食品だけを覆うように《エア・バブル》を作り、外側の《エア・バブル》を消した。
エアバブル内の水分は解放され、後には《エア・バブル》に包まれたフリーズドライ処理済みのトマトが残っている。
「ふーっ、まずは第一段階成功かな?」
私は出来上がった綺麗なトマトの色のままの四角い塊を《エア・バブル》を割って取り出した。ソーヤも興味深そうに見ているので、食べてもいいというと早速そのまま食べてしまった。
「これはまた面白い食感でございますね。確かに香りも味もトマトなのにサクサクしていてものすごく軽いです。ああ、でも噛むほどにトマトの旨味が戻ってくるようです。こんなものは初めていただきました!」
「まぁ……そうでしょうね」
大興奮の悪食妖精の様子にやや引きつつ、私は水を含ませてひとつ分のトマトピューレを戻し、味見をする。
「ん、味には問題なさそうね」
その後は、トマト料理の定番をいくつかこの〝フリーズドライ〟したトマトで作ってみることにした。トマトスープにトマトの煮込み、トマトソースなどなど……。どれもしっかりとした美味しい味で、全く問題なし。
「よし。これで、まずできることはわかったわけだけど、この方法では大量に作るのは少し難しいかもしれないなぁ。〝昇華〟した水分の回収方法をもうすこし考えないといけないかもね……」
私の料理をいつものように片っ端から食べ尽くしていたソーヤが私にこう聞いてきた。
「この〝フリーズドライ〟という調理法は、メイロードさまのいらっしゃった世界では、ごく普通の調理法なのでしょうか?」
どうやら、カラカラに乾いた食品が不思議だったようで、逆に魔法なしでこれが作れる世界があるのか不思議のようだ。
「そうね……普通といえば普通ね。気軽に買えるものだったわ。でも、気軽に家で作れるようなものではないの。私も作ったのは今回が初めて」
「やはり、家庭で作れるようなものではないのですね。メイロードさまは、どうしてそんな特殊な調理法のことをご存知なのですか?」
「ああ、それはね……」
私の父が食料を十分に得ることが難しい地域で医療行為をしていたこともあり、父は毎回持てるだけの食料を自前でも用意していた。だが、それはものすごく重かったのだ。もちろん軽量のものを中心にしていたが、それでも毎回かなりの重量。その頃、私は〝フリーズドライ〟の技術がもっと発達したら、きっともっとたくさんの支援をもっと楽にできるんじゃないかと思っていた。
「それで、製法について調べたことがあったの。この方法を使えば味も栄養も保った状態のまま軽量で輸送できるでしょう。しっかりした料理が作れないような厳しいような場所でも、美味しく食事が取れたらいいな‥‥って思っていたの。まさか魔法でそれができるとは思ってなかったけどね」
ソーヤは私の言葉に大きくうなずき納得してくれたようだ。
「実にメイロードさまらしいお考えでございます。何よりこの〝フリーズドライ〟なる技術で作った料理は本当に美味しいです。これならばきっと冬のセルツの料理は一段と美味しくなるに違いありません!」
「うん。そのためにも量産化のための技術を研究しなくちゃね!」
私とソーヤはお茶でも乾杯をし、さらに熱を入れて研究に取り組むことを誓い合った。
349
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。