利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

539 夏休みの自由研究?

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539

セジャムの街へ向かうのは、魔法学校へ戻るための〝天舟アマフネ〟がやってくる10日前と決まった。

「セジャムまでは私の知り合いの妖精さんにお願いできるから、その日になったら迎えに来るね」

「わかった、何から何までありがとう!」

進路をはっきり決めて、すっかり明るさを取り戻したトルルと家族そしてたくさんの村の人たちに見送られて、私はひとまずトルルの里を去ることにした。

「じゃあ、またねトルル!」

あの後、トルルも実際に和菓子作りを何度か挑戦して、ちゃんと作れるようになった。その過程でお菓子がたくさんできたので、里の方々にも〝芋ようかん〟〝芋きんつば〟それに〝カリントウ〟を振舞い、とても喜ばれた。芋系は女性の支持が高く、この様子だとすぐに里の中で広がりそうだ。子供たちにはカリカリした食感の〝かりんとう〟がとてもウケたが、ウケ過ぎて最後は争奪戦になっていた。

女の子たちは残った分も少しずつでもいいから平等に分けようとし、男の子たちはくじ引きを主張。確かに全員で平等に分けるには少な過ぎたので、今回はくじ引きを採用。結局当たったのが女の子でトルルの妹メルルだったのには笑ったが、メルルは小さい子たちにその〝カリントウ〟をわけてあげていた。里山の女の子はやさしいね。

いろいろな方からお菓子のレシピのお礼だとたくさんの木の実や木の実油それからいろいろな果物もお土産だと渡された。店が開けそうな大量の食べ物をもらっていいものかと暫し悩んだが、それだけ今年は豊作なのだろう。すでにソーヤがうれしそうに抱えているのでありがたく頂くことにした。

(みなさんソーヤの力持ちを知っているから持てるだろうと、この無茶な量の食べ物をくれた気もするなぁ。ソーヤも食べ物に関しては絶対遠慮しないし……)

里の皆さんの盛大な見送りももう見えなくなったところで、ソーヤと私はコソコソとまた旅情もへったくれもなく一瞬で隠してある《無限回廊の扉》から帰宅し、見慣れたグッケンス博士の研究棟へと一旦戻った。便利であるということは、ときに趣というものがないが、楽しい小旅行ではあった。

「さて、ここからは少し研究の方を進めなきゃね」

トルルとの約束の日は、夏休みの終わる10日前。それまでの期間はまず二学期に行われる〝研究発表会〟対策のための実験に費やすことにした。〝銀の骨〟に関する研究が発表不可の超危険なものに終わってしまったので、今度は平和的な研究をしていこうと思う。

この研究は、この間セルツの〝オロンコロ〟亭のおかみさんと話したことで思いついたものだ。セルツでは夏野菜の収穫が多く、逆に冬は食糧の生産量が著しく減少してしまう。もちろんそれに備えて様々な保存食を彼らは持っているけれど、それでも夏場の野菜を冬まで保存することは難しく、消費しきれず腐らせることもままある。ではこういった生モノを保存するにはどうすればいいか。もちろん缶詰や瓶詰も思いついたが、それは魔法じゃないし、この世界にそれができる技術と材料があるかどうかはとても怪しい。

そこで、魔法を使って食品から水分を抜き、腐りにくい状態を作ればいいのではないかと思いついた。だが、どうやって……と思ったとき、過去に自分が使ったある魔法を思い出した。

「そうだ! 真空を作れたら……いけるんじゃない?」

というわけで、私の研究テーマは〝フリーズドライ製法〟の魔法での再現と応用だ。

この研究と実験のためには大量の野菜を使っての実験になるので、人目につかず広い場所が必要だ。そこで実験室にはマホロの別荘を使うことにした。

セーヤが美しく編み込みまとめてくれた髪を三角巾で覆い、セーヤが綺麗に洗ってくれた真っ白な割烹着を身につけた私は、研究者というよりやっぱりいつものご飯作りスタイル。食べ物扱うわけだから、まぁこれで良し。

まず実験前にある程度野菜を加工する必要があるため、私とソーヤは大量の野菜のヘタを取ったり皮を剥いたり種をとったりといった作業を始めた。《無限回廊の扉》の中に保存しておけば、傷む心配はないため最初にありったけの野菜をとにかく下処理することにしたのだ。私はこういった地味作業が嫌いじゃないので、まる2日ほどご機嫌で野菜を切り刻んだ。ソーヤも私が楽しそうならご機嫌のようで、一緒に大量の野菜を洗ったり刻んだりと助けてくれた。

ただ、私がご機嫌になり過ぎて鼻歌が出てしまうと、別荘の周辺にいる鳥や動物たちが寄ってきたりして大事になるので、そのたびにソーヤに注意されてしまった。

「メイロードさま、とても美しいお声で本当にこのまま聞かせていただきたいのでございますが、そろそろ鳥たちがやってきてしまいますので……」
「あ、歌ってた? ごめんごめん」

そんなやりとりを何度もしつつ、下処理の作業は終了。

次は型を用意して、ある程度の大きさにまとめて、それを《氷結フリーズ》という凍らせる魔法を使って一気に固めてしまうことにした。この型も、大小いくつか用意。実験しながら状態を見るためにはたくさんの型が必要となるのだが、ひとつ作れば後は《生産の陣》を使って量産できるのが私の強みだ。最初のひとつを丁寧に正確に作ることができれば完全に同じ形のものがいくらでも使用できるのだからありがたい。こういった実験の道具としても《生産の陣》で作る道具は完璧だ。

周囲には《清浄》をかけ衛生面には気を配ったが、さらに実験の精度を上げるためと、衛生管理のため、なるべく食材は外気に触れさせたくないので《無限回廊の扉》から出した後は、《エア・バブル》で食材の周囲を覆い、ドラフト・チャンバーのように使ってみることにした。

(食品実験は慎重にしないとね)
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