利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
341 / 840
3 魔法学校の聖人候補

530 そして研究は……

しおりを挟む
530

今日で六回目の実験となる。

この実験は日を追うごとに、実験の性質上大掛かりなものへとなっていった。やっていることは、同様の実験の繰り返しなのだが、使う魔法力量は日々増えていき、三日を経過した辺りからは、久しぶりに私も自分の魔法力量を気にしながらの作業になっていった。

当然だが、そうやって増やされていった〝銀の骨〟への魔法力量により、引き起こされる爆発の威力もわかりやすく強く大きくなっていった。轟音と共に大量の砕けた石が頭上の《障壁バリア》に降り注ぐ度に、ここが魔法学校の中でなくて本当に良かった、と思う毎日だった。

三日目の実験が終わった段階で、粉々に砕けた石と穴だらけになった地面の様子がひどくなり過ぎて、さながら荒野の戦場跡のようになってしまったのには困った。仕方がないので、そのあとは二度ほど場所を変え、セーヤとソーヤに穴だらけになった場所の修復を頼んでしまった。

ふたりはいつもの怪力で苦もなく仕事を終えてくれたし、荒野が少しだけ整地され、程よく石も減ったので、これからはもう少し植物も増え動物たちも住める土地になるかもしれない、とセイリュウが言ってくれたことだけが救いだ。

この数日の実験を経て、私の魔石の操り方も徐々に洗練されてきた。そしてこの過程で、ニ種類の魔石と〝銀の骨〟これを《索敵》や《地形把握》と上手く組み合わせることができれば、精度の高い遠距離攻撃が可能であることがわかってきた。
だが、他の可能性を考えて何度か試みた三種に魔石を繋いでの実験はことごとく失敗した。とはいえこの実験のおかげで〝銀の骨〟はきっちりと分割して二方向へと魔法力を流すことに特化していて、左右に置かれた魔石以外へは〝魔法力〟は供給されず、三つにバランスよく流すという機能はない、と確定した。

しかもいまの段階でも〝魔法力〟の注入量と比較した攻撃の衝撃はニから三倍になっている。つまり、魔法使いはいままでの倍以上効率よく魔法攻撃ができるのだ。

(実験を始めておいてなんだけど、〝銀の骨〟かなりまずい研究な気がしてきた……)

これはどう考えても強力な知られざる魔石の発見とその検証実験だ。こんなものを私が発表してしまったら、それこそ〝国家魔術師〟になるしかなくなる気がする。

「だめだぁ……、これは発表できないかも~」

ここまで一生懸命やってきた実験だが、これまでの検証実験だけでもごまかしようがないほどの成果が出てしまっている。これはだ。今日を最後に、ここでひとまず打ち止めにすると私は決めた。もう少し平和的利用が可能な使い方を考えられない限り、これはどう考えても表には出せない。

せっかくの研究をお蔵入りにするのは悔しいが、悪目立ちリスクを避けるほうが重要だ、と自分に言い聞かせた私は、今日も毎日立ち続けてきた実験用の机の前へと立った。そしてため息を隠すこともせず、ここまでやったのだからと、区切りをつけるためデータだけは揃えようと、やや気落ちしつつ最後の実験を始めた。

そんなどんよりした気分の私の頭の中に、ここ数日毎日来ている《念話》がさらに強力になって飛んできた。

〔メイロードさま! メイロードさま! 毎日こちらへお越しですのに、ワタクシのレッスンをお受けになる気配が微塵もないとはどういうことですの? 今日こそはレッスンいたしますからね! たとえ天賦の才があろうとも、努力を怠ってはなりませんよ!〕

この《念話》の声はミゼル。私の守り弓でもある竪琴の姿をした天才音楽家だ。ミゼルはこの地で創作活動に明け暮れながら天へ音楽を捧げて暮らしている。私は女神ソフィーラさまからミゼルを助けたお礼として頂いてしまった強靭な喉と美しい声を保ち鍛えるため、定期的にミゼルの授業を受けている。ここへ来たときには、短時間でも必ずこの音楽教師のスパルタ授業を受けるようにしていたのだが、今回は実験に集中したかったので、こそこそと逃げ続けていたのだ。

〔ごめんミゼル、いま実験中なの。あとで必ず行くから!〕
〔本当でございますね。絶対でございますよ!〕

私のやっていることを邪魔してはいけないと思ってくれたのか、必ず行くと約束したからなのか、ミゼルはすぐに引いてくれた。

(ふう、助かった。あれ? 私、いま〝銀の骨〟に魔法力入れてたよね)

ミゼルの《念話》で途中となった魔法力の注入を再開し、これまでの最高値五百を入れ終わり、発射の準備をするとなんだかいままでと違い〝銀の骨〟が高い音の唸りを上げ鈍く光り始めた。

(な、なに? 何が起こってるの?!)

それでも危険な暴発をさせてはいけないと、しっかり《索敵》と《地形把握》で目標位置を設定し、前方方向への《誘導》魔法も設定、発射に備えた。

そしてふたつの魔石から放たれた赤い炎と黄色味を帯びた白い光の混じり合った塊は、轟音と共にものすごい速度で飛び出したあと、前方ニキロほど先にあった丘というより山という大きさの場所へとすさまじい勢いで着弾し、そのすべて吹き飛ばした。その威力は〝王の審判〟と言ってもいいまさに大爆発だった。私のいる場所まで上空から石と埃の混じったものがまだ降り注いでいる。

「大丈夫でございますか? メイロードさま!」
「お怪我はございませんか? メイロードさま!」

作業中だったセーヤとソーヤが、慌てて私のところへ駆け寄ってきてくれた。

「私は大丈夫よ。ふたりとも怪我はなかった?」

頷くふたりに私もほっと胸を撫で下ろした。そして、ここが誰もいない荒野であったことにさらにほっとした。

(ああ、誰もいない場所で良かった。人に見られなくて本当に良かった)

《誘導》で力をすべて前方へと流したものの、それでも衝撃が吸収しきれず、発射後に机は倒れ、〝銀の骨〟も魔石もゴロリと石の荒野に投げ出されている。机を戻し、セーヤとソーヤが探してきてくれたそれらを机に戻すと、〝銀の骨〟は白化していた。見た目は普通の骨のようだ。

「これが〝銀の骨〟?」

どうやら〝銀の骨〟の本当の力は魔法力を左右均等に流すだけではないようだ。

吹っ飛ばされて丘がなくなり、見晴らしの良くなった霊山で、私は大きな声でこう言うしかなかった。

「これ、絶対、ぜーーーったい! 人に言えないヤツじゃん! 発表できるわけなーいじゃーーーん!!」
しおりを挟む
感想 2,998

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。