339 / 840
3 魔法学校の聖人候補
528 〝銀の骨〟研究の始まり
しおりを挟む
528
私は机の上の〝火の魔石〟〝雷の魔石〟そして銀に輝く小さな骨を眺めていた。
《火魔法》《雷魔法》は共に攻撃力の高い魔法であり《基礎魔法》の段階から使うことができる汎用性の高いものだ。だが、より強力で威力の高い魔法に行使しようと思えば、いくつかの魔法を組み合わせた、より高度な魔法を習得しなければならない。
《基礎魔法》を習得できていないと系統の上位の魔法は使えない。かといって自分の得意としない上位系統の魔法が欲しいとなれば、適性のない新たな《基礎魔法》を習得せざるを得なくなり、それはそれで茨の道となる。地道な《基礎魔法》の訓練を行うためには、集中できる環境や優秀な教師、不測の事態に備えてくれる設備など様々な条件が必要となるからだ。何より悩ましいのは、その間は〝魔法力〟をそちらにすべて使ってしまうため、他のことに〝魔法力〟を使う余力はなくなってしまうこと。当然、その間は勉強を一時停滞させざるをえなくなってしまうため、それに踏み切れる人は少ない。
(適性のない魔法に踏み込むのはかなりめんどくさいってことだよね。だからどうしても《基礎魔法》の勉強は、自分に適性のあるもの中心になっちゃうってわけか……)
魔法学校卒業後となれば、さらに新たな《基礎魔法》の獲得は厳しくなる。数少ない魔法使いには、たとえ新米であっても多くの依頼があるため、それを蹴ってまで長期間無給となる覚悟で新たな《基礎魔法》習得をする必要はあまりないからだ。
キングリザードの《王の審判》ほどではないにせよ、強力な魔法攻撃は存在する。だが、複数系統の魔法を極めた攻撃に至るその道は、険しく遠いということだ。
(ええと……このキングリザードのような攻撃って、結局魔法使いにできるのかな?)
魔法使いがきちんと体系的に魔法を習得し使えるようになる過程では、まず一定水準までの数の《基礎魔法》を習得しなければならない。それは、威力や効果の高い魔法を学ぶために絶対必要なものだ。魔法使いはこうして学んだ《基礎魔法》をベースにその組み合わせによる複雑な魔法を習得していく。これが魔法学校での二年生以上の勉強となるわけだが、当然〝魔法力〟の消費は増えるし、複雑になればなるほど習得は難しくなり、成功率も下がっていく。
さらに悩ましい現実もある。多くの魔法使いは得意の強力な魔法をいくつか持っているが、ほとんどの魔法使いは中級以上の複雑な魔法を同時に使うことはできない。例えば最も基本的な《火魔法》と《雷魔法》でも同時に発動するとなるとかなりの修練が必要だし、これに大きな攻撃力を与えるために《増幅》の重ねがけをしようとしたとする。だが強力になるにつれ魔法は不安定になっていき、それを補うための《的指定》を追加して……となってくると、多くの場合キャパオーバーとなってしまうのだ。
つまりキングリザードがやったように、完全に同期させたふたつの強力な攻撃力を持つ魔法を正確に一点に向かって放出するというのは、とても大変なことなのだ。もちろん魔石を使って同様のことをさせようとする場合でも、ふたつの力を完全に同期させることは難しい。
もちろん魔石をコンロに使ったり、水を出すために起動する場合、特に大きな魔法力は必要とされない。だが、それを攻撃に使うとなると話は別だ。強い攻撃力を引き出すためにはたくさんの魔法力を注ぎ込まねばいけないし、その場合は魔石の力の制御や着弾ポイントについても魔法でのコントロールが必要となる。それが難しいため、魔石が攻撃の道具に使われることはない。魔術師自らが魔法を発動するほうがずっと簡単だからだ。
「だからキングリザードの《王の審判》のようなとてつもない威力の多重攻撃は、人には不可能とされているんだよね。もちろん魔法を使って再現するのはさらに無理」
だが、ここに面白いものがある。ふたつの石の間を繋ぐように配置されていたというこの小さな骨だ。
私の立てた仮説はこうだ。キングリザードが実際にやってみせたあの強力極まりない攻撃のことを考えると、これには魔法力を均一化し、ふたつの方向へ流すという作用があるのではないか、そう私には思える。
キングリザードは非常に珍しい大型魔獣だし、《王の審判》はほとんど目撃例がないほど珍しい攻撃だ。それに、死体の解体作業は専門の狩人たちやギルドの職人が行うことが多く、高値で売れる魔石にしか注目は集まらないため、この銀の小さなかけらのような骨に意味があるとは、誰も考えなかったのだろう。
(これを持ってきてくれたニパに感謝だね)
まだ仮説……だが、幸運なことにこの銀の小さな骨は、あまり価値が認められていないため思ったより手に入りやすい。いくつか手に入れて実験することはできそうだし、魔石については、まぁ、タネ石がふんだんにあるので、これも実験に使う程度の数を用意することに問題はない。
ただ、この実験はかなり危ない気がするので、学校内ではやらない方がいいだろう。私にもそのぐらいの分別はある。
もちろん学校内には危険な魔法を練習するための施設などもあるが、そこでなにかやって仕舞えばすぐに学校中の噂のなるだろうし、研究発表会まではできるだけ秘密にしておきたい、という気持ちもある。
(しょうがない。またセイリュウの聖域のそばの岩場を借りようかなぁ。ミゼルにうるさいって怒られないようにしないと……)
私は机の上の〝火の魔石〟〝雷の魔石〟そして銀に輝く小さな骨を眺めていた。
《火魔法》《雷魔法》は共に攻撃力の高い魔法であり《基礎魔法》の段階から使うことができる汎用性の高いものだ。だが、より強力で威力の高い魔法に行使しようと思えば、いくつかの魔法を組み合わせた、より高度な魔法を習得しなければならない。
《基礎魔法》を習得できていないと系統の上位の魔法は使えない。かといって自分の得意としない上位系統の魔法が欲しいとなれば、適性のない新たな《基礎魔法》を習得せざるを得なくなり、それはそれで茨の道となる。地道な《基礎魔法》の訓練を行うためには、集中できる環境や優秀な教師、不測の事態に備えてくれる設備など様々な条件が必要となるからだ。何より悩ましいのは、その間は〝魔法力〟をそちらにすべて使ってしまうため、他のことに〝魔法力〟を使う余力はなくなってしまうこと。当然、その間は勉強を一時停滞させざるをえなくなってしまうため、それに踏み切れる人は少ない。
(適性のない魔法に踏み込むのはかなりめんどくさいってことだよね。だからどうしても《基礎魔法》の勉強は、自分に適性のあるもの中心になっちゃうってわけか……)
魔法学校卒業後となれば、さらに新たな《基礎魔法》の獲得は厳しくなる。数少ない魔法使いには、たとえ新米であっても多くの依頼があるため、それを蹴ってまで長期間無給となる覚悟で新たな《基礎魔法》習得をする必要はあまりないからだ。
キングリザードの《王の審判》ほどではないにせよ、強力な魔法攻撃は存在する。だが、複数系統の魔法を極めた攻撃に至るその道は、険しく遠いということだ。
(ええと……このキングリザードのような攻撃って、結局魔法使いにできるのかな?)
魔法使いがきちんと体系的に魔法を習得し使えるようになる過程では、まず一定水準までの数の《基礎魔法》を習得しなければならない。それは、威力や効果の高い魔法を学ぶために絶対必要なものだ。魔法使いはこうして学んだ《基礎魔法》をベースにその組み合わせによる複雑な魔法を習得していく。これが魔法学校での二年生以上の勉強となるわけだが、当然〝魔法力〟の消費は増えるし、複雑になればなるほど習得は難しくなり、成功率も下がっていく。
さらに悩ましい現実もある。多くの魔法使いは得意の強力な魔法をいくつか持っているが、ほとんどの魔法使いは中級以上の複雑な魔法を同時に使うことはできない。例えば最も基本的な《火魔法》と《雷魔法》でも同時に発動するとなるとかなりの修練が必要だし、これに大きな攻撃力を与えるために《増幅》の重ねがけをしようとしたとする。だが強力になるにつれ魔法は不安定になっていき、それを補うための《的指定》を追加して……となってくると、多くの場合キャパオーバーとなってしまうのだ。
つまりキングリザードがやったように、完全に同期させたふたつの強力な攻撃力を持つ魔法を正確に一点に向かって放出するというのは、とても大変なことなのだ。もちろん魔石を使って同様のことをさせようとする場合でも、ふたつの力を完全に同期させることは難しい。
もちろん魔石をコンロに使ったり、水を出すために起動する場合、特に大きな魔法力は必要とされない。だが、それを攻撃に使うとなると話は別だ。強い攻撃力を引き出すためにはたくさんの魔法力を注ぎ込まねばいけないし、その場合は魔石の力の制御や着弾ポイントについても魔法でのコントロールが必要となる。それが難しいため、魔石が攻撃の道具に使われることはない。魔術師自らが魔法を発動するほうがずっと簡単だからだ。
「だからキングリザードの《王の審判》のようなとてつもない威力の多重攻撃は、人には不可能とされているんだよね。もちろん魔法を使って再現するのはさらに無理」
だが、ここに面白いものがある。ふたつの石の間を繋ぐように配置されていたというこの小さな骨だ。
私の立てた仮説はこうだ。キングリザードが実際にやってみせたあの強力極まりない攻撃のことを考えると、これには魔法力を均一化し、ふたつの方向へ流すという作用があるのではないか、そう私には思える。
キングリザードは非常に珍しい大型魔獣だし、《王の審判》はほとんど目撃例がないほど珍しい攻撃だ。それに、死体の解体作業は専門の狩人たちやギルドの職人が行うことが多く、高値で売れる魔石にしか注目は集まらないため、この銀の小さなかけらのような骨に意味があるとは、誰も考えなかったのだろう。
(これを持ってきてくれたニパに感謝だね)
まだ仮説……だが、幸運なことにこの銀の小さな骨は、あまり価値が認められていないため思ったより手に入りやすい。いくつか手に入れて実験することはできそうだし、魔石については、まぁ、タネ石がふんだんにあるので、これも実験に使う程度の数を用意することに問題はない。
ただ、この実験はかなり危ない気がするので、学校内ではやらない方がいいだろう。私にもそのぐらいの分別はある。
もちろん学校内には危険な魔法を練習するための施設などもあるが、そこでなにかやって仕舞えばすぐに学校中の噂のなるだろうし、研究発表会まではできるだけ秘密にしておきたい、という気持ちもある。
(しょうがない。またセイリュウの聖域のそばの岩場を借りようかなぁ。ミゼルにうるさいって怒られないようにしないと……)
259
お気に入りに追加
13,141
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。