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3 魔法学校の聖人候補
513 黒煙
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513
キングリザードは、相変わらず同じ場所にいた。巨大な洞窟の入り口近くで陽の光を浴びながら、小さくグルグルと音を発しながら眠っているように見える。
「ああやって、陽の光を浴びながら休むことで、リザードの回復力が上がるとされています。傷の治りが早くなるんだそうですよ。口の中の傷が治るまで何も食べられないですから、体力が奪われないよう動くことなくひたすらその時を待っているんでしょう」
私の案内で、偵察役として一緒にこのキングリザードの隠れ家を見下ろす場所までやってきたニパは、じっとその黒光りする巨体を睨みながら、状況を観察していた。まだ少年の面影を残した姿だが、キングリザードを見る目は、すっかり狩人のそれだった。
「だいぶ回復しているのかな?」
「ええ、ここはあいつの回復にはとてもいい場所です。あの洞窟周辺は地熱で暖かくなっていますから、奴の癒しにはもってこいなんですよ。いいところを見つけたもんです」
ニパの読みでは、今日キングリザードを撃ち逃せば、おそらく次回は再びあの〝王の審判〟に怯えながら戦うことになるだろうとのことだった。
「今日しかないってことね……」
「はい。今日しかありませんし、今日、必ず仕留めます!」
やがて準備を終えた狩人たちが配置につき、彼らの討伐行動は開始された。
まず彼らは大量の矢を持って洞窟の周囲を遠距離から取り囲んだ。次に、油を大量に染み込ませた矢を、キングリザードではなく、その奥へと向かって大量に射掛けていった。カツンカツンと、洞窟の壁に矢が当たり跳ねる音はしているが、その様子は、深く眠っているキングリザードにとっては虫が飛んでいる程度のものにしか感じられぬようだ。相変わらず目を閉じて丸くなったまま、微動だにすることなく眠り続けている。
最初の矢をうち尽くすと、次にその洞窟の奥へと次に打ち込まれたのは火のついた矢だった。
「これを打ち込んだ時から、俺たちの狩りが本当に始まります。火矢の放たれた位置から俺たちの場所もすぐに奴の知るところとなるでしょう。どうぞメイロードさまはおさがりになっていてください」
私はうなづいて少し下がった場所から、彼らの狩りの様子を見守ることにした。そして、狩りへと向かうニパにこう声をかけた。
「ニパ、もしキングリザードの体力が予想以上に回復していて必要十分な痛手を与えられないと判断したら、あれをあなたたちが襲われた、あの場所までおびき寄せて頂戴。そこに仕掛けをしておくわ」
「ありがとうございます。メイロードさまに頼らずうち果たせるよう頑張ります!」
「気をつけてね。そして決して判断を誤らないで。今日あのキングリザードを倒さなければ多くの人に危険が及ぶ、そのことを忘れないで」
最後に大きく頷いて笑顔を見せたニパは、素晴らしい跳躍力と脚力であっという間にその場から立ち去った。
(こんな足場の悪い山の中であの脚力。セーヤ、ソーヤにも負けないかも。さすが山の民ね)
私がニパの身体能力に感心していると、ズシンと大きなものが動く音が聞こえてきた。
見ればキングリザードのいる洞窟から、黒い煙が大量に立ち上りその中心で黒い巨大な怪物が最悪の寝覚めを迎えていた。
最初に射掛けた矢には非常に燃えにくい素材でできた硬い木が使われており、それに布が巻かれた上、油につけ込まれている。それを大量に背後へ射掛けることで積み上げた後、次に炎をまとった大量の矢で一気に火をつけたのだ。燃えにくい素材でできた矢は、不完全燃焼を起こしながら大量の煙でキングリザードをその安全な巣から追い立てた。
多くの動物がこの燻されるという攻撃の弱く、キングリザードもまた、同様なのだ。それにこの方法ならば、遠距離からこちらのタイミングで仕掛けることができ、入念な準備が必要ではあるが、その分安全性も高い。
(さすが、狩猟に慣れた山の民らしい戦法ね)
煙から逃げようと、まだ喉の癒えていないキングリザードは、腹立たしげにグルグルというお腹から出ているらしい威嚇音と甲高い治りきっていない喉から出るキーキーという叫びにも似た声を発しながらのろのろと立ち上がり巣から這い出してきた。
通常はかなり高速で移動できるはずのキングリザードも、手負いの身体で深く休んでいたところを急に起こされてはさすがにその歩みは遅く、周囲の状況もわかってはいない様子だ。
そんなキングリザードへと向かい、煙を吸い込まぬよう布で顔を覆い、長い槍状の木を持った猟師たちが果敢に近づく。ニパの姿も、そこにあった。その出現を待ち構えていた猟師たちは、たまらずに黒煙の中からゆっくりとしたスピードで這い出してきたその巨体の真っ黒な鱗に覆われた背中へと、なんの躊躇もなく駆け上がり、その鱗の間へと槍を突き立てていく。
まだうまく動けないキングリザードだったが、それでも必死に抵抗しようとその巨体をゆする。だが、ニパをはじめとする猟師たちは、その程度の抵抗にはまったくひるむそぶりさえ見せず、軽やかな動きでその背中を飛び回り、次々と新たな槍を突き立てていった。
(でも、そろそろ本格的に動き出しそうね……)
私がそう思ってから1分と待たずに、キングリザードは大きく尻尾を振り、背中に突き立てられた槍を取り除こうと動き始めた。だが、もうその時には、狩人たちは攻撃から距離を取る方へと転じており、キングリザードを誘うように森へと動き始めていた。
(見事な先制攻撃ね。でも、狩りはこれから。まだまだ油断はできない)
キングリザードは、相変わらず同じ場所にいた。巨大な洞窟の入り口近くで陽の光を浴びながら、小さくグルグルと音を発しながら眠っているように見える。
「ああやって、陽の光を浴びながら休むことで、リザードの回復力が上がるとされています。傷の治りが早くなるんだそうですよ。口の中の傷が治るまで何も食べられないですから、体力が奪われないよう動くことなくひたすらその時を待っているんでしょう」
私の案内で、偵察役として一緒にこのキングリザードの隠れ家を見下ろす場所までやってきたニパは、じっとその黒光りする巨体を睨みながら、状況を観察していた。まだ少年の面影を残した姿だが、キングリザードを見る目は、すっかり狩人のそれだった。
「だいぶ回復しているのかな?」
「ええ、ここはあいつの回復にはとてもいい場所です。あの洞窟周辺は地熱で暖かくなっていますから、奴の癒しにはもってこいなんですよ。いいところを見つけたもんです」
ニパの読みでは、今日キングリザードを撃ち逃せば、おそらく次回は再びあの〝王の審判〟に怯えながら戦うことになるだろうとのことだった。
「今日しかないってことね……」
「はい。今日しかありませんし、今日、必ず仕留めます!」
やがて準備を終えた狩人たちが配置につき、彼らの討伐行動は開始された。
まず彼らは大量の矢を持って洞窟の周囲を遠距離から取り囲んだ。次に、油を大量に染み込ませた矢を、キングリザードではなく、その奥へと向かって大量に射掛けていった。カツンカツンと、洞窟の壁に矢が当たり跳ねる音はしているが、その様子は、深く眠っているキングリザードにとっては虫が飛んでいる程度のものにしか感じられぬようだ。相変わらず目を閉じて丸くなったまま、微動だにすることなく眠り続けている。
最初の矢をうち尽くすと、次にその洞窟の奥へと次に打ち込まれたのは火のついた矢だった。
「これを打ち込んだ時から、俺たちの狩りが本当に始まります。火矢の放たれた位置から俺たちの場所もすぐに奴の知るところとなるでしょう。どうぞメイロードさまはおさがりになっていてください」
私はうなづいて少し下がった場所から、彼らの狩りの様子を見守ることにした。そして、狩りへと向かうニパにこう声をかけた。
「ニパ、もしキングリザードの体力が予想以上に回復していて必要十分な痛手を与えられないと判断したら、あれをあなたたちが襲われた、あの場所までおびき寄せて頂戴。そこに仕掛けをしておくわ」
「ありがとうございます。メイロードさまに頼らずうち果たせるよう頑張ります!」
「気をつけてね。そして決して判断を誤らないで。今日あのキングリザードを倒さなければ多くの人に危険が及ぶ、そのことを忘れないで」
最後に大きく頷いて笑顔を見せたニパは、素晴らしい跳躍力と脚力であっという間にその場から立ち去った。
(こんな足場の悪い山の中であの脚力。セーヤ、ソーヤにも負けないかも。さすが山の民ね)
私がニパの身体能力に感心していると、ズシンと大きなものが動く音が聞こえてきた。
見ればキングリザードのいる洞窟から、黒い煙が大量に立ち上りその中心で黒い巨大な怪物が最悪の寝覚めを迎えていた。
最初に射掛けた矢には非常に燃えにくい素材でできた硬い木が使われており、それに布が巻かれた上、油につけ込まれている。それを大量に背後へ射掛けることで積み上げた後、次に炎をまとった大量の矢で一気に火をつけたのだ。燃えにくい素材でできた矢は、不完全燃焼を起こしながら大量の煙でキングリザードをその安全な巣から追い立てた。
多くの動物がこの燻されるという攻撃の弱く、キングリザードもまた、同様なのだ。それにこの方法ならば、遠距離からこちらのタイミングで仕掛けることができ、入念な準備が必要ではあるが、その分安全性も高い。
(さすが、狩猟に慣れた山の民らしい戦法ね)
煙から逃げようと、まだ喉の癒えていないキングリザードは、腹立たしげにグルグルというお腹から出ているらしい威嚇音と甲高い治りきっていない喉から出るキーキーという叫びにも似た声を発しながらのろのろと立ち上がり巣から這い出してきた。
通常はかなり高速で移動できるはずのキングリザードも、手負いの身体で深く休んでいたところを急に起こされてはさすがにその歩みは遅く、周囲の状況もわかってはいない様子だ。
そんなキングリザードへと向かい、煙を吸い込まぬよう布で顔を覆い、長い槍状の木を持った猟師たちが果敢に近づく。ニパの姿も、そこにあった。その出現を待ち構えていた猟師たちは、たまらずに黒煙の中からゆっくりとしたスピードで這い出してきたその巨体の真っ黒な鱗に覆われた背中へと、なんの躊躇もなく駆け上がり、その鱗の間へと槍を突き立てていく。
まだうまく動けないキングリザードだったが、それでも必死に抵抗しようとその巨体をゆする。だが、ニパをはじめとする猟師たちは、その程度の抵抗にはまったくひるむそぶりさえ見せず、軽やかな動きでその背中を飛び回り、次々と新たな槍を突き立てていった。
(でも、そろそろ本格的に動き出しそうね……)
私がそう思ってから1分と待たずに、キングリザードは大きく尻尾を振り、背中に突き立てられた槍を取り除こうと動き始めた。だが、もうその時には、狩人たちは攻撃から距離を取る方へと転じており、キングリザードを誘うように森へと動き始めていた。
(見事な先制攻撃ね。でも、狩りはこれから。まだまだ油断はできない)
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