利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

512 毒素抽出薬

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512

さて、もうひとつの保険の準備もしなければいけない。そのために、まずは薬草が大量に必要だ。

ニパの村で見せてもらった対リザード用の毒薬としびれ薬の素材は、どちらもこの山に自生する草木が原料のシンプルなレシピのものだった。その効果については、彼らのいままでの狩りが証明しているのだから、これを使わない手はないが、相手は規格外の巨大なキングリザードだ。この対リザード用武器は、できる限り強化しておくべきだろう。

そのためにも、ともかく現状手に入る薬草をできる限り集めてしまいたい。

「セーヤ、ソーヤ。あのキングリザードをやっつけるために必要な毒薬としびれ薬を作るための草木が自生している場所をマーキングした地図を用意したわ。取れるだけ取ってきて頂戴。もう、遠慮とかしないでありったけね」

この地図は、アタタガに頼んで私が周辺の山の上空を飛びながら行った《索敵》の結果を、地図の上にマーキングしたもので、今回作りたい薬のために必要な草花の群生地がもれなく書き記してある。

私はふたりにマジックバッグと大量の《土壌回復薬》を渡した。力持ちの妖精さんたちに、さらにマジックバックを持たせる……どれだけ大量に取ってこいと言っているのか、これでふたりにも伝わっただろう。

「承知致しました。もう、山がハゲる勢いで刈ってきますよ! あ、もちろんちゃんと刈った場所には頂いた《土壌回復薬》を使ってきますね」
「そうでございますか。そこまで大量に……お任せくださいませ。メイロードさまの地図がございましたら、漏らすことなく取ってまいります!」

かなり険しい山の中を駆け回らなければならないというのに、ふたりとも遠足に出かけるような気軽さで出かけていった。そしてその日の夜、妖精さんたちは私の身長よりずっと大きな山ができるほど大量の薬草を取って戻ってきたのだった。

(さすがはセーヤとソーヤ)

ふたりを褒めまくり、一緒に美味しいキノコ(ソーヤがついでに採ってきた)の炊き込みご飯とこれもソーヤが取ってきた山菜を天ぷらにして美味しく食べたあと、集めてもらった素材を使っての薬作りを開始。

私は〝対リザード用毒薬〟と〝しびれ薬〟をそれぞれ10倍濃縮したものを大量に作ってみようと考えていた。元々ニパたちが作っていたものは、乾燥させた素材をすりつぶし、油で伸ばしたものだったが、それではさすがに心許ないと思ったのだ。そこで魔法を使って〝濃縮〟し、効果を高めてみてはどうかと思いついた。
基本的には乾燥させて、その後不純物を取り除くだけでもある程度は濃度が上がる。今回はそれをさらに微細粉末になるまで粉々にし、そこからはある魔法薬を特殊な方法で用いてみることにした。

躰から毒素を抜く《解毒薬》という魔法薬があるのだが、この薬は人体の毒素に反応し、それだけを選んで消し去る。その薬の効果を反転させ毒素だけをマーキングして保護し、を消し去る薬を作ってみたのだ。いまのところ、これは毒性のあるものにしか使えないが、もしかしたらこの研究を進めることで、簡単に色々なものから必要な成分だけを抽出できるようになるかもしれない。

特に薬学や研究をする人には有益な魔法薬になりそうなので、この処方は〝仙鏡院〟のゼンモンさんにもお伝えしようと思う。

今回は毒素だけ抽出できれば良いので、この《反解毒薬=毒素抽出薬》を使用して、必要な毒の成分だけを抽出した。
この辺りの作業自体は、ハルリリさんとの実習でも散々やったきたことなので、慣れたものだ。
この製造は、簡単に誰にでもできることではなく、この特殊な魔法薬と魔法使いが必須の方法なので、ニパたちがこの濃縮薬を作ることはできないだろう。申し訳ないが今回限りの秘薬ということで納得してもらうことにしよう。

ともあれ、薬は完成したので、まずはそれをニパの村へと届けることにする。
私が村を訪れると、ニパたちは村をあげてキングリザードと戦うための槍状の武器を作っていた。

「どちらも、いままでの10倍の濃さの薬だから、取り扱いには十分気をつけてね。その代わり、この薬が塗布された槍が少しでも刺されば、効果は抜群だから、巨大なキングリザードでも十分勝機があると思うよ」

私の渡した、なかなかに毒々しい緑と紫の液体の入った薬瓶を見ながら、ニパが呆れている。

「どうやったら、こんなにたくさんのしかも十倍も濃い薬がたった1日でできるのですか?!」

彼らは、その薬のために一年をかけて草を刈り、毒性のある成分に気をつけながら少しづつ作ってるのだそうだ。今回のキングリザードのために、そうやって備蓄した今年の夏の狩り用の大事な薬を放出するつもりで準備していたのだという。

「私は魔法使いだけど薬師の修行もしているのよ。作り方さえ知っていれば、このぐらいはできるわ」

私の言葉に、ニパはさらに口をあんぐりだ。

「どうやら俺たち、とんでもない方を味方につけたみたいですね」

ニパは薬瓶を押し頂いて私に挨拶すると、作業をしている人たちのところへとその瓶を持って駆けていった。そちらからもどよめきが上がっているところを見ると、他の皆さんもかなり驚いたようだ。彼らの大事な狩猟用の薬に手をつけずに今回の討伐に臨めそうで何よりだ。

(さて、私はもうひとつ保険をかけてきましょうかね)

明日はいよいよキングリザードとの対決だ。ニパたちが勝てるよう、全力で準備をしよう!
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