利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
316 / 840
3 魔法学校の聖人候補

505 みんなでひと狩り!

しおりを挟む
505

さて、〝狩猟同好会〟主催の初の狩り当日の早朝、私たちは春の獲物の多い場所として、まず新芽や草花など草食動物の餌が豊富な山の斜面に狙いを定めた。

ここには、かなりの数の小型の動物や魔物がいる。これらは食用とされているし毛皮も売れるので、とても経済的な動物だ。繁殖力がとても強く増えすぎると困るため、この時期には特に狩ることを求められる動物たちでもある。

(ウオーミングアップにはちょうどいいよね)

私たちはそうでもないが、同好会には入ったものの冬の狩り合宿でもあまり成果が上がらなかったという10名は、とても緊張した面持ちだ。自分たちの魔法でお金が稼げるほどの狩りができるのか、不安なのだろう。

「この辺りの動物は、魔法を使わずとも十分倒せる大きさのものばかりですから、気楽にいきましょう。
ただ、普通の動物ばかりではないことは心得ておいてください。山ウサギは問題ないですが、この山には1割ほど、トゲウサギとドクツメウサギがいますから、気をつけて。このふたつの種類は倒せない敵ではありませんが、迂闊に近づけばかなり辛い思いをすることになります。私の《索敵》で、危険な獣かどうかは判別できますので、指示をよく聞いてから動いてくださいね」

私はナビゲーター役として後方に位置する。

今回は人数が多いため、危険を回避するためにも私が集中管理したほうが良いと考え《索敵》と《地形探査》でみんなをバックアップに徹することにした。チームをふたつに分け、私の指示のレシーバー役としてセーヤとソーヤに各チームについてもらうことにした。これでふたりを通して、私の指示を瞬時に伝えることが可能だ。

各チームのリーダーには魔法力が強く攻撃力も高いクローナとオーライリ、あとのチーム分けはくじ引きで決めた。

「炎を使う魔法を放つ際には、延焼に気をつけて下さい。煙が上がれば、動物たちにこちらの位置を気取られることにもなりますから、できるだけ静かに素早く、と考え行動していきましょう」

冬の合宿で、クローナ組の狩りの成功を見ている彼らは、とても素直に私たちの注意に耳を傾けその通りに行動してくれた。彼らにしても、ナビゲーターの私が子供だからと侮り反発するような態度をして〝狩りでガッチリ稼ぎたい〟という目的が遠のくほうがよほど困るのだろう。それに、クローナやオーライリの私に対する態度で、私がお飾りではなく参謀であることが、すぐに伝わったこともありがたかった。急ごしらえのチームながらなかなか統率も取れていてやりやすそうだ。

〔じゃ、セーヤとソーヤ、誘導お願いね〕
〔了解です〕
〔お任せ下さいませ〕

〔クローナ組、現在地から左上方に進むと山ウサギ5匹と2分で接触です。さらにその上方11時の方向にトゲウサギ3匹、次、オーライリ組、現在地から直進すると3分で山ウサギ4匹とヨロイネズミ1匹と接触〕

私は指示を出しながら《的指定ターゲット》で狙いを定め《流風弾エア・バレット》でしびれ薬入りのペイント弾を打ち込んでいく。これで、位置の特定もしやすく捕まえやすくなるだろう。

事前にこのあたりにいる魔物の攻略法に関する情報を全員で共有しておいたことも、行動を正確にしてくれた。すぐに山ウサギは《水弾》や《風切》で仕留められ、外皮の硬いヨロイネズミには苦戦しているようだが、トゲウサギは氷で周囲を固めて捕獲できた様子だ。

(うん、さすがオーライリたちは経験がものをいっているね。臨機応変に対応できてるし、判断も早い)

私は次々と獲物の位置を正確に伝え、みんなは夢中になって狩りを続けた。

2時間も狩りをすると、ウサギは百近く、大きな山ネズミが50近く獲れた。防具系素材として希少価値の高いヨロイネズミも9匹を仕留め、美味しい食材として高値で売れるクリイノシシまで2匹取ることができた。

みんなこの成果に興奮状態で、休憩の間もそわそわと落ち着かなかった。私は少しでも落ち着いてもらおうと、そんなみんなにお茶を出し、その間にトルルが一生懸命休憩の重要性と冷静な判断が下せるよう、興奮してはいけないことを伝えてくれた。

「ほら、ご覧なさい。一番小さなマリスさんは落ち着いているでしょう? こういう風にしていなくちゃダメなのよ!」

私はいきなり振られて、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

「た、確かにトルルの言う通り、集中力を保つためにも気持ちを落ち着けて休憩することはとても大事です。ここは比較的安全な場所ですが、それでも魔物のいる山の中なのですから、いざという時に動ける躰と考えられる頭で常にいられるようにしないと……ですよね」

私の言葉に頷くオーライリ、クローナ、トルルに、他の子たちも顔を見合わせて頷き合った。どうやら、少しは落ち着いてくれたようだ。

「では、次はもう少し大物を狙います。チームは分けますが、ここからは全員で当たっていきましょう!」

私は常に後方から指示を出し、今度は大物に絞った《索敵》で、大鹿やこの辺りの固有種セルツベアなどを見つけて仕留めた。その後もこれまた美味と評判のホワイトボアの集団を、位置情報を利用してうまく分断してから、クローナとオーライリの魔法攻撃を中心に全員一丸となって仕留めていき、8頭を仕留めた。

「ひゃー! これものすごく高級なんだぜ。いったいいくらになるんだよ!」
「すごく美味しいんだよね。ちょっとだけ食べてみたいなぁ」

泥だらけ汗だくの躰に《清浄》の魔法をかけながら、みんな疲れているはずなのにものすごくテンションが高い。

(……だから、落ち着いてって……)

トルル、オーライリ、クローナの三人が、私の方を見て首を振っている。

「冬の合宿でぜーんぜん成果がなかった子たちに、いきなりこれだけの狩りをさせちゃったんだもの。興奮するなって言っても、無理だと思う。マリスさん、飛ばしすぎだよ」

「へ? ワタシ?」

トルルの言葉にウンウンとうなづくクローナとオーライリ。

「マリスさんの《索敵》は、超一級品なんですよ。広範囲の視野に正確無比な針穴を通すような指示、しかも獲物の種類まで近づくかなり手前で知ることができます。その上、獲物にはしっかりしびれ薬まで効いてる。私たちはマリスさんが指示した場所に移動しさえすればいい。敵がそう手強くないということもありますが、この成果はほぼマリスさんの誘導とペイント弾の正確性によるものだと思いますよ」

「……ええ、ええと……」

どうやら私の《索敵》は普通の《索敵》とは違うらしい。《鑑定》《地形把握》そして《完全脳内地図把握パーフェクト・ナビゲーション》が融合しているようだ。

「あの子たちにも、こんなに簡単じゃないことを教えないといけないですねぇ」

大量の獲物を前に浮かれて騒ぐメンバーの方を見ながらそう言うオーライリに、私は首をすくめ

「……やり過ぎました。これからは、自重します」

と、小さな声で言った。
しおりを挟む
感想 2,995

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。