306 / 832
3 魔法学校の聖人候補
495 詐欺師のための餌
しおりを挟む
495
おじさまを狙ったキャサリナの目的は〝天舟〟だった。
(保有には厳しい制限がある上、建造に何億……いやもっとかな……とにかくめちゃくちゃ貴重なあの空飛ぶ船をおじさまに贈らせようとは、どれだけ自分の魔法に自信があるのやら……)
だがこれではっきりしたことがある。彼女は高飛びを考えているのだ。さすがに、政治の中枢にいる貴族を騙して大金をせしめたこの国では、暫く大きな仕事はできないと考えたのだろう。
こちらにとって最悪な展開は、キャサリナがサイデムおじさまの籠絡に成功し、《傀儡薬》を持って〝天舟〟で高飛び。その後、他国が《傀儡薬》に関する魔法や技術を手に入れてしまう……というものだったが、おじさまがキャサリナの魔法にかからないことはっきりさせたので、彼女のターゲットからは外れたはずだ。かといって、他にホイホイ〝天舟〟をくれそうな相手は簡単に見つからないだろうし、これで、急な国外逃亡はひとまず回避できた。
「とりあえず、〝天舟〟でいきなり姿をくらますワケにはいかないでしょうから、その点は安心ですけどね」
グッケンス博士にパーティーでの顛末を伝えながら、私はルミナーレ様からお借りした宝石を確認していた。これは今後の作戦において重要なアイテムとなる予定のものだ。
「で、この後は、キャサリナに大金を使わせ《傀儡薬》についての情報を得るわけだな」
私たちの計画はこうだ。いまのキャサリナは大きく稼ぐこともできず、だが《魅了》を使い続けるための宝石は買わなければいけないという状況にある。
おそらくまだ彼女の資金は潤沢だと思われるので、彼女を追い詰めるため、それを上回る高額な宝石を売りつける(フリをする)つもりだ。そのためにセイリュウを宝石商としてキャサリナに接触させ、その代金として法外な金額を請求してみようと思う。現状《魅了》を増幅できるだけの力のある宝石が手元に少なくなっているキャサリナは、是が非でもそれを欲しがるだろう。それに、彼女は増幅用の石以外にも大量に宝石を身につけている筋金入りの宝石コレクターだ。
「それにしても、さすがルミナーレ様というべきか、素晴らしい品物をお借りできました。もう大きすぎてゴツいとさえ言えるような宝石のついた首飾りまであります。これは、国宝級ってやつですよ。これ、絶対キャサリナは食いつきますね」
私が、預かった宝石の入った箱を開けて見せると、グッケンス博士もその宝石の巨大さに驚いていた。
「これを貸し出してくれるとは……メイロードはよっぽど信用されているのだな」
確かに、これを貸し出してくれたのは、いままで培ってきた信頼関係といい仕事をしてきたという実績があってこそだ。これは我ながら自慢していいことだと思う。
(せっかくのご厚意、大事に使わなくちゃね)
「では、これも使うといい」
グッケンス博士はマジックバッグから無造作にみかん箱ほどの大きさの木箱を出した。中には、ぎっちりと宝石が詰まっている。
「わしの所有する鉱山で採れたものや、仕事の謝礼としてもらったものや、あれこれで半分以上は原石のままだ。使い道もないので、とりあえず置いてあるだけのものじゃから、好きにお使い」
ルミナーレ様の極上品の宝石のインパクトも凄かったが、これもまたものすごい衝撃的な量の宝石だった。確かに魔法使いであるグッケンス博士にとっては、宝石には魔石のような価値はない。言ってしまえばただの色石なのだろう。
(それにしても、このゾンザイな扱いは……)
私は少し宝石たちが気の毒になってしまった。博士の元に来たばっかりに、この粗末な木箱にしまわれたまま忘れ去られていたのだから。
「ありがとうございます。これ、きっとキャサリナを食いつかせるネタになると思います。お返しするときには、ちゃんと仕分けもして、できる限り綺麗な宝石にしてお返ししますね」
私はこの木箱の宝石たちを救出したい、と心から思いこの整理をすることに決めた。
「あ、ああ……まぁ、それはどうとでも……」
「いえ、きっちり仕分けいたしますよ。可哀想じゃないですか、せっかく綺麗なのに!」
旗色が悪いと思ったのか、グッケンス博士はその売れば途方もない額になるだろう木箱一杯の宝石を置きっぱなしにしたまま、コーヒーのカップを抱えて自室に入ってしまった。本当に、なんの興味もないのだろう。
私は親しくしている宝飾工房マルニール工房に、宝石用の持ち運びができる棚を作ってくれる工房を紹介してもらうことにした。そしてすぐに大量の宝石を綺麗にしまうことのできる箱をデザインをして、最高の材料で作ってくれるよう依頼した。
(これをみたら、きっとキャサリナはすぐ食いついてくるはず)
ただキャサリナを捕まえればいいというわけではない今回の話。なんとかキャサリナから《傀儡薬》に関する正確な情報を引き出さないと、問題は解決しない。相手はベテラン詐欺師だ。信用できる証言を引き出すには、それなりの仕掛けが必要だ。
「上手く追い詰めて、彼女の方から話させるように持っていき、証拠を抑えないと安心できないものね」
私は木箱の中の宝石を《鑑定》し、分類しながら、これが終わったらいよいよ始まる詐欺師を釣り上げる作戦の成功を祈っていた。
おじさまを狙ったキャサリナの目的は〝天舟〟だった。
(保有には厳しい制限がある上、建造に何億……いやもっとかな……とにかくめちゃくちゃ貴重なあの空飛ぶ船をおじさまに贈らせようとは、どれだけ自分の魔法に自信があるのやら……)
だがこれではっきりしたことがある。彼女は高飛びを考えているのだ。さすがに、政治の中枢にいる貴族を騙して大金をせしめたこの国では、暫く大きな仕事はできないと考えたのだろう。
こちらにとって最悪な展開は、キャサリナがサイデムおじさまの籠絡に成功し、《傀儡薬》を持って〝天舟〟で高飛び。その後、他国が《傀儡薬》に関する魔法や技術を手に入れてしまう……というものだったが、おじさまがキャサリナの魔法にかからないことはっきりさせたので、彼女のターゲットからは外れたはずだ。かといって、他にホイホイ〝天舟〟をくれそうな相手は簡単に見つからないだろうし、これで、急な国外逃亡はひとまず回避できた。
「とりあえず、〝天舟〟でいきなり姿をくらますワケにはいかないでしょうから、その点は安心ですけどね」
グッケンス博士にパーティーでの顛末を伝えながら、私はルミナーレ様からお借りした宝石を確認していた。これは今後の作戦において重要なアイテムとなる予定のものだ。
「で、この後は、キャサリナに大金を使わせ《傀儡薬》についての情報を得るわけだな」
私たちの計画はこうだ。いまのキャサリナは大きく稼ぐこともできず、だが《魅了》を使い続けるための宝石は買わなければいけないという状況にある。
おそらくまだ彼女の資金は潤沢だと思われるので、彼女を追い詰めるため、それを上回る高額な宝石を売りつける(フリをする)つもりだ。そのためにセイリュウを宝石商としてキャサリナに接触させ、その代金として法外な金額を請求してみようと思う。現状《魅了》を増幅できるだけの力のある宝石が手元に少なくなっているキャサリナは、是が非でもそれを欲しがるだろう。それに、彼女は増幅用の石以外にも大量に宝石を身につけている筋金入りの宝石コレクターだ。
「それにしても、さすがルミナーレ様というべきか、素晴らしい品物をお借りできました。もう大きすぎてゴツいとさえ言えるような宝石のついた首飾りまであります。これは、国宝級ってやつですよ。これ、絶対キャサリナは食いつきますね」
私が、預かった宝石の入った箱を開けて見せると、グッケンス博士もその宝石の巨大さに驚いていた。
「これを貸し出してくれるとは……メイロードはよっぽど信用されているのだな」
確かに、これを貸し出してくれたのは、いままで培ってきた信頼関係といい仕事をしてきたという実績があってこそだ。これは我ながら自慢していいことだと思う。
(せっかくのご厚意、大事に使わなくちゃね)
「では、これも使うといい」
グッケンス博士はマジックバッグから無造作にみかん箱ほどの大きさの木箱を出した。中には、ぎっちりと宝石が詰まっている。
「わしの所有する鉱山で採れたものや、仕事の謝礼としてもらったものや、あれこれで半分以上は原石のままだ。使い道もないので、とりあえず置いてあるだけのものじゃから、好きにお使い」
ルミナーレ様の極上品の宝石のインパクトも凄かったが、これもまたものすごい衝撃的な量の宝石だった。確かに魔法使いであるグッケンス博士にとっては、宝石には魔石のような価値はない。言ってしまえばただの色石なのだろう。
(それにしても、このゾンザイな扱いは……)
私は少し宝石たちが気の毒になってしまった。博士の元に来たばっかりに、この粗末な木箱にしまわれたまま忘れ去られていたのだから。
「ありがとうございます。これ、きっとキャサリナを食いつかせるネタになると思います。お返しするときには、ちゃんと仕分けもして、できる限り綺麗な宝石にしてお返ししますね」
私はこの木箱の宝石たちを救出したい、と心から思いこの整理をすることに決めた。
「あ、ああ……まぁ、それはどうとでも……」
「いえ、きっちり仕分けいたしますよ。可哀想じゃないですか、せっかく綺麗なのに!」
旗色が悪いと思ったのか、グッケンス博士はその売れば途方もない額になるだろう木箱一杯の宝石を置きっぱなしにしたまま、コーヒーのカップを抱えて自室に入ってしまった。本当に、なんの興味もないのだろう。
私は親しくしている宝飾工房マルニール工房に、宝石用の持ち運びができる棚を作ってくれる工房を紹介してもらうことにした。そしてすぐに大量の宝石を綺麗にしまうことのできる箱をデザインをして、最高の材料で作ってくれるよう依頼した。
(これをみたら、きっとキャサリナはすぐ食いついてくるはず)
ただキャサリナを捕まえればいいというわけではない今回の話。なんとかキャサリナから《傀儡薬》に関する正確な情報を引き出さないと、問題は解決しない。相手はベテラン詐欺師だ。信用できる証言を引き出すには、それなりの仕掛けが必要だ。
「上手く追い詰めて、彼女の方から話させるように持っていき、証拠を抑えないと安心できないものね」
私は木箱の中の宝石を《鑑定》し、分類しながら、これが終わったらいよいよ始まる詐欺師を釣り上げる作戦の成功を祈っていた。
219
お気に入りに追加
13,089
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
最後に、お願いがあります
狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。
彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。