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3 魔法学校の聖人候補
482 限定の美味
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482
〝春祭り〟での学生たちの模擬店では〝広報クラブ〟が売り上げ一位となり、羨望とともに生徒たちからの注目を集めた。でも実はダントツぶっちぎりの売り上げは、私がブレーンをつとめた大食堂チームの屋台だったのだ。私たちの屋台が売り上げトップなことは、参加していた人たちにはわかっていたのだと思うが、大食堂は学生たちの模擬店と違い、売り上げ競争には参加していないし、学校公式で設置した屋台なので売り上げを公にすることもなく、驚かれたり注目を浴びることにはならなかった。
(別に大食堂が注目浴びなくてもいいしね)
この春の屋台祭り、大食堂チームは〝バーベキュー〟で参戦した。
トマトベースの甘めの味付けに香味野菜やニンニクを加えたソースは、隠し味に味噌を加えて深みを出した。
大人向けにスパイシーな味付けのソースも作り、こちらはお酒で風味づけしたスペアリブ。本当は醤油が使いたいところだが、まだ完成していないので我慢。でも、塩胡椒に唐辛子とハーブも効かせた複雑な香りと味は、これはこれでおいしい。とてもビールが欲しくなるお味だ。
なんにせよ野外でのこのバーベキュー、肉の焼ける音と香りの破壊力が抜群。ソースの甘い香りとも相まって、集まった人々を虜にした。
今回は食材にグッケンス博士が研究中の柔らかく上質な牛肉を使ったので、思い切って価格を高めの1.5ポルとしたにも関わらず、販売開始直後から行列は果てしなく伸び、食べた人がその美味しさに、また並ぶというエンドレス行列になったのだ。
余ったらマジックバッグなどへ保管すればいいからと、前日から絶対完売しない量を食堂のメンバーで仕込んだつもりだったのだが、それでも完売寸前まで追い込まれ、後半はいつなくなるかとヒヤヒヤしながらの営業だった。お持ち帰りをする人の数も予想以上で、その対応も大変だったのだが、接客慣れしたセーヤ・ソーヤの獅子奮迅の大活躍で、なんとか乗り切れた。
(前日に、動けなくなるまで食べさせたはずのソーヤがガッツリつまみ食いをしていたのにも驚いたけどね。本人曰く〝肉を最も美味しく食べられる調理法暫定一位〟だそうで、暴食の限りを尽くして食べ尽くしたくせにまた食べたくて夢にまで見たって言ってたわ。まぁ、そこまで気に入ったのなら、仕方ないか)
新入生の子たちも、大食堂提供の屋台が作る料理のクオリティーの高さを実感したようで、すごく喜んでくれた。これから長い寮生活で自分たちが毎日食べるのだから、きっと美味しいものが食べられそうなことに安心してくれたのではないかと思う。
ただ、このメニューは今回限定だと知って、残念がってもいた。このバーベキューも、ぜひ大食堂のメニューに入れて欲しいという要望も多かったが、まぁ、これはお祭り向きのメニューだよね。それに、この美味しいお肉はまだ頭数が少ない貴重品。とても大食堂で出すほどは確保できない。野外イベント限定メニューとしておくことにしよう。
もちろん、今回稼いだお金は大食堂の予算として、色々な企画や機材の購入に使われる予定。博士のおかげで原価率が低く抑えられたので、だいぶ儲けさせてもらった。ありがたいことだ。
それに、実は仕込みの半分ぐらいは、足りなくなった時の保険にと私が〝生産の陣〟を使って準備したものなので、原価ゼロなのだ。
(結局全部売れちゃった。いやぁ、儲かった)
もちろん、今回の影の功労者であるグッケンス博士には前日の夜、試食をしてもらった時に、極上のクラフトビールとスペアリブでしっかりご接待させていただいた。セイリュウ、セーヤ、ソーヤも交えての大宴会では、ありえないほど大量のビールが消費されたけど、まぁ、それは言わないでおこう。
(でも、その費用が一番高くついたよ! 飲めない私の前でみんな本当に美味しそうに飲んでくれました!)
というわけで大食堂にも予定外の予算が追加されたので、今年の新入生歓迎のために行われる最初の公式食事会は、いつもよりちょっと豪華にできることになった。大変素晴らしい。
セルツの街の人たちとの交流の機会も生まれ、寮には運営費を、学生たちは安く入学時に必要な品を揃えられ、各部活は活動費を上乗せできた。なかなか有意義な〝春祭り〟だったかな、と思う。
そんな慌ただしくも楽しい春休みが過ぎ、気がつけばもう新学期が迫ってきていた。
結局今日まで、新生徒会長にも会えぬまま、今日はもう初顔合わせの日。
これまでにわかったことは、
アーシアン・シルベスター生徒会会長は、シルベスター公爵家の次男で、3年生の席次一位。
神童の誉れ高く、在校生最強と言われる魔法の使い手。人望も厚く、強い魔法力を持つ優等生。文武両道の美青年。
シルベスター公爵家は、古くから軍部だけでなく財務、外交分野など、あらゆるこの国の機関で要職を務める優秀な人材を輩出してきた名門貴族だという。
ただ、最近は一族の数が減少しているそうで、文武に秀でたアーシアン・シルベスターにかかる期待はかなり大きいそうだ。
「なんでもお兄様が財務部で、大きな失敗をなさったらしく、事実上失脚なさったそうです。まぁ、公爵家に恥をかかせるわけにはまいりませんから、それは内々に収めたそうですが……かなりの金額を私財から補填されたそうですよ」
「それで、お家の財政もかなり厳しいみたいなんですが、まぁ体面もあるので節約ってわけにもいかないようですね。この春休みの間も、アーシアン・シルベスター会長は、兄の名誉の回復を図るための社交と家の立て直しのために奔走していたそうですよ。なかなか苦労してますね、あの人」
しかもこの兄と会長は、異母兄弟で、ご家庭の事情もなのやら複雑なのだという。優秀すぎる次男と、長男の間には、色々な確執があるそうだ。
セーヤとソーヤによる諜報活動によって、おそらくほとんど外に出てなそうな内部情報まで知ることができた。どうやら、会長はかなり大変な立場にある人らしい。
「で、どうしてその人が私にちょっかいをかけてくるの?」
そこまでは掴めなかったセーヤとソーヤも首を傾げている。
「今後も、もう少し広い範囲の情報を随時収集してまいります」
「ええ、もっと時間をかければわかってくることがあると思います」
ふたりは、これからも諜報活動を随時継続してくれるそうだ。
「ありがとう。また何かわかったら教えてね。ま、会えば何かわかるかもしれないよね。あー、なんだか楽しみになってきた!」
私は無理やりテンションを上げつつ、生徒会室へ向かうため立ち上がった。
〝春祭り〟での学生たちの模擬店では〝広報クラブ〟が売り上げ一位となり、羨望とともに生徒たちからの注目を集めた。でも実はダントツぶっちぎりの売り上げは、私がブレーンをつとめた大食堂チームの屋台だったのだ。私たちの屋台が売り上げトップなことは、参加していた人たちにはわかっていたのだと思うが、大食堂は学生たちの模擬店と違い、売り上げ競争には参加していないし、学校公式で設置した屋台なので売り上げを公にすることもなく、驚かれたり注目を浴びることにはならなかった。
(別に大食堂が注目浴びなくてもいいしね)
この春の屋台祭り、大食堂チームは〝バーベキュー〟で参戦した。
トマトベースの甘めの味付けに香味野菜やニンニクを加えたソースは、隠し味に味噌を加えて深みを出した。
大人向けにスパイシーな味付けのソースも作り、こちらはお酒で風味づけしたスペアリブ。本当は醤油が使いたいところだが、まだ完成していないので我慢。でも、塩胡椒に唐辛子とハーブも効かせた複雑な香りと味は、これはこれでおいしい。とてもビールが欲しくなるお味だ。
なんにせよ野外でのこのバーベキュー、肉の焼ける音と香りの破壊力が抜群。ソースの甘い香りとも相まって、集まった人々を虜にした。
今回は食材にグッケンス博士が研究中の柔らかく上質な牛肉を使ったので、思い切って価格を高めの1.5ポルとしたにも関わらず、販売開始直後から行列は果てしなく伸び、食べた人がその美味しさに、また並ぶというエンドレス行列になったのだ。
余ったらマジックバッグなどへ保管すればいいからと、前日から絶対完売しない量を食堂のメンバーで仕込んだつもりだったのだが、それでも完売寸前まで追い込まれ、後半はいつなくなるかとヒヤヒヤしながらの営業だった。お持ち帰りをする人の数も予想以上で、その対応も大変だったのだが、接客慣れしたセーヤ・ソーヤの獅子奮迅の大活躍で、なんとか乗り切れた。
(前日に、動けなくなるまで食べさせたはずのソーヤがガッツリつまみ食いをしていたのにも驚いたけどね。本人曰く〝肉を最も美味しく食べられる調理法暫定一位〟だそうで、暴食の限りを尽くして食べ尽くしたくせにまた食べたくて夢にまで見たって言ってたわ。まぁ、そこまで気に入ったのなら、仕方ないか)
新入生の子たちも、大食堂提供の屋台が作る料理のクオリティーの高さを実感したようで、すごく喜んでくれた。これから長い寮生活で自分たちが毎日食べるのだから、きっと美味しいものが食べられそうなことに安心してくれたのではないかと思う。
ただ、このメニューは今回限定だと知って、残念がってもいた。このバーベキューも、ぜひ大食堂のメニューに入れて欲しいという要望も多かったが、まぁ、これはお祭り向きのメニューだよね。それに、この美味しいお肉はまだ頭数が少ない貴重品。とても大食堂で出すほどは確保できない。野外イベント限定メニューとしておくことにしよう。
もちろん、今回稼いだお金は大食堂の予算として、色々な企画や機材の購入に使われる予定。博士のおかげで原価率が低く抑えられたので、だいぶ儲けさせてもらった。ありがたいことだ。
それに、実は仕込みの半分ぐらいは、足りなくなった時の保険にと私が〝生産の陣〟を使って準備したものなので、原価ゼロなのだ。
(結局全部売れちゃった。いやぁ、儲かった)
もちろん、今回の影の功労者であるグッケンス博士には前日の夜、試食をしてもらった時に、極上のクラフトビールとスペアリブでしっかりご接待させていただいた。セイリュウ、セーヤ、ソーヤも交えての大宴会では、ありえないほど大量のビールが消費されたけど、まぁ、それは言わないでおこう。
(でも、その費用が一番高くついたよ! 飲めない私の前でみんな本当に美味しそうに飲んでくれました!)
というわけで大食堂にも予定外の予算が追加されたので、今年の新入生歓迎のために行われる最初の公式食事会は、いつもよりちょっと豪華にできることになった。大変素晴らしい。
セルツの街の人たちとの交流の機会も生まれ、寮には運営費を、学生たちは安く入学時に必要な品を揃えられ、各部活は活動費を上乗せできた。なかなか有意義な〝春祭り〟だったかな、と思う。
そんな慌ただしくも楽しい春休みが過ぎ、気がつけばもう新学期が迫ってきていた。
結局今日まで、新生徒会長にも会えぬまま、今日はもう初顔合わせの日。
これまでにわかったことは、
アーシアン・シルベスター生徒会会長は、シルベスター公爵家の次男で、3年生の席次一位。
神童の誉れ高く、在校生最強と言われる魔法の使い手。人望も厚く、強い魔法力を持つ優等生。文武両道の美青年。
シルベスター公爵家は、古くから軍部だけでなく財務、外交分野など、あらゆるこの国の機関で要職を務める優秀な人材を輩出してきた名門貴族だという。
ただ、最近は一族の数が減少しているそうで、文武に秀でたアーシアン・シルベスターにかかる期待はかなり大きいそうだ。
「なんでもお兄様が財務部で、大きな失敗をなさったらしく、事実上失脚なさったそうです。まぁ、公爵家に恥をかかせるわけにはまいりませんから、それは内々に収めたそうですが……かなりの金額を私財から補填されたそうですよ」
「それで、お家の財政もかなり厳しいみたいなんですが、まぁ体面もあるので節約ってわけにもいかないようですね。この春休みの間も、アーシアン・シルベスター会長は、兄の名誉の回復を図るための社交と家の立て直しのために奔走していたそうですよ。なかなか苦労してますね、あの人」
しかもこの兄と会長は、異母兄弟で、ご家庭の事情もなのやら複雑なのだという。優秀すぎる次男と、長男の間には、色々な確執があるそうだ。
セーヤとソーヤによる諜報活動によって、おそらくほとんど外に出てなそうな内部情報まで知ることができた。どうやら、会長はかなり大変な立場にある人らしい。
「で、どうしてその人が私にちょっかいをかけてくるの?」
そこまでは掴めなかったセーヤとソーヤも首を傾げている。
「今後も、もう少し広い範囲の情報を随時収集してまいります」
「ええ、もっと時間をかければわかってくることがあると思います」
ふたりは、これからも諜報活動を随時継続してくれるそうだ。
「ありがとう。また何かわかったら教えてね。ま、会えば何かわかるかもしれないよね。あー、なんだか楽しみになってきた!」
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