287 / 837
3 魔法学校の聖人候補
476 勝者
しおりを挟む
476
「どうなのだ。お前のしたことなのだろう。即答せぬか!」
チェンチェン工房を糾弾するためには、自らの行った妨害工作について答えなければならない状況に追い込まれたマバロンガは、急にしおらしい態度でこんなことを言い始めた。
「まったくもってお恥ずかしいことですが、私どもの三男は長くチェンチェン工房に勤めておりまして、一番弟子のはずでございました。それが親方に認めてもらえず、苦悩の末、自分の工房を構えることになりました。悲しいことですが、工房から追い出されたザイザロンガは、チェンチェン親方の息子、そこにいるプーアと対立することになってしまったのでございます。
私は息子可愛さに、確かに懇意の皮革問屋にチェンチェン工房との取引を控えてくれないか、とお願いもいたしました。反省しております。
ですが、それはそれ!! だからと言って、この街の問屋を一切通さないような怪しい商人から手に入れた出自もわからない皮革を使った鞍を〝鞍揃え〟に出すなど、言語道断ではございませんか! どう考えてもこの短期間でこれだけのものを真っ当な手段で手に入れられるはずがないのですよ!」
「自らの不正を〝親心〟と申すか。物は言いようだな、マバロンガ」
「まったくもってお恥ずかしいことで……ですが、圧力をかけたとか、そんな大げさなことではございませんで……」
相変わらずもみ手をしながら、薄ら笑いのマバロンガはちょっとした意地悪をしたに過ぎないと言い募った。
「それより、どこぞの闇商人と怪しい取引をした、このチェンチェン工房の若造が用意した高級皮革、きっと偽物や品質の悪いものに違いございません。もしかしたら盗品かも…… この格式高い〝鞍揃え〟からは絶対排除されるべきです!」
「そうなのか? プーア」
サラエ隊長の問いに、プーアは首を振り、こう答えた。
「私の工房が、急に取引を止められたせいで窮地にあったことは事実です。迅速に私どもの求める高品質の皮革を揃えられるあてもありませんでした。ですが、私の父と長年親交のあった方がこの窮地に手を差し伸べてくださいました。私どもに今回、この見事な革素材をご用意下さった方は、エルリベット・バレリオ様のご友人でイスや帝都でも手広く商売をされている方でございます。とてもお忙しい方ですので、こちらに来られてはおりませんが、もしもの時のために、とあるものをお預かりしております」
プーアさんはそう言って、布の包まれた一枚のカードをサラエ隊長へと差し出した。
それは私こと、メイロード・マリスの商人ギルドが発行した身分証明書でもあるギルドカードだった。
カードを開いて一瞥したサラエ隊長は、一瞬目を見開き
「チェンチェン工房の素材の仕入れに、一切の詮議の余地なし! 商人の身元は保障された!」
そうマバロンガたちに向かって言い放った。
「そんなバカな!!」
まだグズグズと何か言おうとするマバロンガに、サラエ隊長は私の商人ギルドカードの裏書きを目の前に近づけて見せた。
「これを見ても、まだ言うか、マバロンガ!」
そこには帝国で最も力のあると言われている大都市イスの名だたるギルドマスターの名と、現〝帝国の代理人〟サガン・サイデムの名が記されていた。そして、最後に金文字で記されていたのはシド帝国正妃であるリアーナの名前だった。
「ひぃ!! せ、正妃様の御用商人!!」
マバロンガとザイザロンガは、その場で崩れるように腰砕けになり、その場でへたり込んだまま言葉もなくうなだれた。これ以上、一言でも素材について文句を挟むことは即、皇室への侮辱とみなされ〝不敬罪〟に問われるとさすがにわかったのだろう。
「チェンチェン工房の皮革取引はすべて正当に行われた。このことに疑問の余地はないと、このサラエ・マッツアが確認した。まだ、意義がある者は、いますぐ名乗り出よ!」
そして静まり返る会場で、サラエ・マッツア騎馬隊長は高らかに宣言した。
「今回の〝鞍揃え〟第一席は、工房長プーア率いる〝チェンチェン工房〟とする!」
その言葉に、観衆からは大きな拍手と歓声が上がり、プーアさんは目に涙を浮かべてエルさんと握手をしていた。プーアさんの周りには次々と人が集まり、口々に賞賛の言葉とお祝いの言葉をかけている。
その後ろで、呆然としていたザイザロンガたちは、肩を落としてコソコソと立ち去ろうとしたが、彼らの前にはセルツ騎馬隊が現れ、行く手を塞いだ。
そして、彼らの間から現れたサラエ隊長は、スッキリとした笑顔でこう言った。
「そう急ぐな。まだ、貴様たちには聞かねばならんことがあるのだからな」
優勝者を囲んでの大騒ぎを後ろに聴きながら、ザイザロンガとマバロンガ親子は、騎馬隊に囲まれて連行されていく。
(一応、最後まで見届けておくべきだよね)
あまり気は進まなかったが、連行されるふたりの様子を見た私は《迷彩魔法》で隠れながら、ソーヤとともに彼らの後を追っていった。
「どうなのだ。お前のしたことなのだろう。即答せぬか!」
チェンチェン工房を糾弾するためには、自らの行った妨害工作について答えなければならない状況に追い込まれたマバロンガは、急にしおらしい態度でこんなことを言い始めた。
「まったくもってお恥ずかしいことですが、私どもの三男は長くチェンチェン工房に勤めておりまして、一番弟子のはずでございました。それが親方に認めてもらえず、苦悩の末、自分の工房を構えることになりました。悲しいことですが、工房から追い出されたザイザロンガは、チェンチェン親方の息子、そこにいるプーアと対立することになってしまったのでございます。
私は息子可愛さに、確かに懇意の皮革問屋にチェンチェン工房との取引を控えてくれないか、とお願いもいたしました。反省しております。
ですが、それはそれ!! だからと言って、この街の問屋を一切通さないような怪しい商人から手に入れた出自もわからない皮革を使った鞍を〝鞍揃え〟に出すなど、言語道断ではございませんか! どう考えてもこの短期間でこれだけのものを真っ当な手段で手に入れられるはずがないのですよ!」
「自らの不正を〝親心〟と申すか。物は言いようだな、マバロンガ」
「まったくもってお恥ずかしいことで……ですが、圧力をかけたとか、そんな大げさなことではございませんで……」
相変わらずもみ手をしながら、薄ら笑いのマバロンガはちょっとした意地悪をしたに過ぎないと言い募った。
「それより、どこぞの闇商人と怪しい取引をした、このチェンチェン工房の若造が用意した高級皮革、きっと偽物や品質の悪いものに違いございません。もしかしたら盗品かも…… この格式高い〝鞍揃え〟からは絶対排除されるべきです!」
「そうなのか? プーア」
サラエ隊長の問いに、プーアは首を振り、こう答えた。
「私の工房が、急に取引を止められたせいで窮地にあったことは事実です。迅速に私どもの求める高品質の皮革を揃えられるあてもありませんでした。ですが、私の父と長年親交のあった方がこの窮地に手を差し伸べてくださいました。私どもに今回、この見事な革素材をご用意下さった方は、エルリベット・バレリオ様のご友人でイスや帝都でも手広く商売をされている方でございます。とてもお忙しい方ですので、こちらに来られてはおりませんが、もしもの時のために、とあるものをお預かりしております」
プーアさんはそう言って、布の包まれた一枚のカードをサラエ隊長へと差し出した。
それは私こと、メイロード・マリスの商人ギルドが発行した身分証明書でもあるギルドカードだった。
カードを開いて一瞥したサラエ隊長は、一瞬目を見開き
「チェンチェン工房の素材の仕入れに、一切の詮議の余地なし! 商人の身元は保障された!」
そうマバロンガたちに向かって言い放った。
「そんなバカな!!」
まだグズグズと何か言おうとするマバロンガに、サラエ隊長は私の商人ギルドカードの裏書きを目の前に近づけて見せた。
「これを見ても、まだ言うか、マバロンガ!」
そこには帝国で最も力のあると言われている大都市イスの名だたるギルドマスターの名と、現〝帝国の代理人〟サガン・サイデムの名が記されていた。そして、最後に金文字で記されていたのはシド帝国正妃であるリアーナの名前だった。
「ひぃ!! せ、正妃様の御用商人!!」
マバロンガとザイザロンガは、その場で崩れるように腰砕けになり、その場でへたり込んだまま言葉もなくうなだれた。これ以上、一言でも素材について文句を挟むことは即、皇室への侮辱とみなされ〝不敬罪〟に問われるとさすがにわかったのだろう。
「チェンチェン工房の皮革取引はすべて正当に行われた。このことに疑問の余地はないと、このサラエ・マッツアが確認した。まだ、意義がある者は、いますぐ名乗り出よ!」
そして静まり返る会場で、サラエ・マッツア騎馬隊長は高らかに宣言した。
「今回の〝鞍揃え〟第一席は、工房長プーア率いる〝チェンチェン工房〟とする!」
その言葉に、観衆からは大きな拍手と歓声が上がり、プーアさんは目に涙を浮かべてエルさんと握手をしていた。プーアさんの周りには次々と人が集まり、口々に賞賛の言葉とお祝いの言葉をかけている。
その後ろで、呆然としていたザイザロンガたちは、肩を落としてコソコソと立ち去ろうとしたが、彼らの前にはセルツ騎馬隊が現れ、行く手を塞いだ。
そして、彼らの間から現れたサラエ隊長は、スッキリとした笑顔でこう言った。
「そう急ぐな。まだ、貴様たちには聞かねばならんことがあるのだからな」
優勝者を囲んでの大騒ぎを後ろに聴きながら、ザイザロンガとマバロンガ親子は、騎馬隊に囲まれて連行されていく。
(一応、最後まで見届けておくべきだよね)
あまり気は進まなかったが、連行されるふたりの様子を見た私は《迷彩魔法》で隠れながら、ソーヤとともに彼らの後を追っていった。
297
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。