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3 魔法学校の聖人候補
475 糾弾
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475
〝仙鏡院〟開発の《駆け馬薬》である3種類の魔法薬《裂風薬》《強筋薬》少量の《ポーション》搭載の〝疾風の鞍〟
「この3種類の薬が仕込まれたこちらの皮袋を少し強く叩くことで、密閉容器から魔法薬だけが流れ出します。この魔法薬は馬の皮膚から吸収されることで即時発動し、最大で通常時の3倍のスピードを数時間継続できるものでございます。
私ども〝チェンチェン工房〟の開発いたしました新技術のより、通常時には魔法薬を守り壊れることなく容器を保護し、必要な時には瞬時に魔法薬を放出できる細工を施してございます。もちろん馬を傷つけないよう細心の配慮を施しております」
薬を入れる厚い筒状の皮の内側には固い動物の骨から作られた極小の先が鋭利でない針が何本も仕込まれている。通常時は厚い皮の中に入り込んでいて薬に触ることはないが、強く叩いたり押し込んだりすることで針が現れ、魔法薬の入った入れ物を破壊する。入れ物は皮袋の中に収まったまま、魔法薬だけが馬の皮膚の上に放出され効果が現れる仕組みだ。
「サラエ様、ひと言い添えてもよろしいでしょうか」
今回、チェンチェン工房の後見人として後ろに控えていた、エルさんが発言を乞うと、サラエ隊長は鷹揚にうなづいた。
「恐れながら申し上げます。
この〝疾風の鞍〟は、もちろん《駆け馬薬》というこの画期的な魔法薬の開発があっての鞍でございますが、私どもも、そしてこれからこの魔法薬を取り扱うことになる〝仙鏡院〟もチェンチェン工房のこの技術なくしては、この画期的な魔法薬の効果を最大には得られない、と考えております。
〝疾風の鞍〟と《駆け馬薬》による馬の高速化は一体化したひとつの技術とお考えくださいませ」
サラエ隊長は何度もうなづきながら感心したようにエルさんの話に耳を傾けた。
「馬たちへの配慮まで、実に行き届いた構成の鞍であるな。画期的な魔法薬を最大限に活用できるよう考えついたというこの構造も、それを実現した技術も実に素晴らしい!
これは先代も及ばないほどの、実に実に画期的な技術だ。ぜひ軍部にも紹介したいと考える。審査員の方々、いかがか?」
列席者には、ザイザロンガたちから散々貢物をもらってきた審査員たちも多くいたが、さすがにこれほどの圧倒的な〝差〟を見せつけられてしまっては、ケチのつけようも反論のしようもなかった。
衆人が認める中、第一席の名をサラエ・マッツア騎馬隊長が高らかに宣言しようとした時、それを遮る声が上がった。
「お、おお、お待ちください。その前に、どうしても正しておかねばならぬことがございます!!」
転びそうな勢いで前に出てきたのはザイザロンガを引きづるように連れて進み出た、マバロンガだった。
「なんだ、マバロンガ。何か私の裁定に不服でもあるのか」
不快そうにマバロンガ親子を見るサラエ隊長に、それでもマバロンガは食らいつくように話し始めた。
「お、恐れながら申し上げたきことがございます。
この〝鞍揃え〟は、このセルツの街の誇りでございますれば、そのすべては正当な手順で行われなければならないのではございませんでしょうか!」
もう、ここを逃しては後がないマバロンガは、必死の形相だ。いまはなんとか難癖をつけてでも、この場を切る抜けなければならない。この街の問屋やギルドを通さないものを〝鞍揃え〟で使用するなど、この街の恥だと無理やりにでも主張して、抱き込んだ連中を味方につけ、チェンチェン工房を追い落とすのだ。
「当然だ。この〝鞍揃え〟で優勝した鞍は、恐れ多くも帝都の皇宮へと献上される。決して後ろ暗いことがあってはならないのは当然であろう」
サラエ隊長の言葉に〝我が意を得たり〟とばかりに大げさにうなづいたマバロンガは、チェンチェン工房の素材の入手経路についての疑惑があると語り始めた。
「私どもが営んでおります革製品の卸問屋〝ロンガロンガ商店〟は、この街随一の品揃えを自負しております。仮に私どものに取り扱いがないような高級な皮革がこの街で流通すれば、必ず私どもも知ることができるはずなのです。にも関わらず、この街の皮革問屋から素材を何ひとつを買った形跡のないチェンチェン工房が、このような滅多に出てくることのないような超一級品ばかりを大量に仕入れているのは、どう考えても怪しい。おかしいとは思われませんか。これは不当な〝闇取引〟で仕入れたものに違いござません!」
「では聞こう! なぜ、チェンチェン工房は、この街の問屋から買わなかったのだ」
「そ、それは……」
ふっと、不敵に笑ったサラエ隊長は、マバロンガたちの横に控えていたプーアさんに向き直った。
「では、本人に聞こう! チェンチェン工房の工房長プーアよ、なぜこの街の皮革商人たちから今回の調達を行わなかった?」
「恐れながら申し上げます」
姿勢を正し、堂々とした態度で声を張ったプーアさんが答える。
「私どもは買わなかったのではございません。買えなかったのでございます。
この街の皮革問屋の元締めであるロンガロンガ商店が、私どもへの皮革の供給を止めてしまったのですから、私どもは他の手段で調達するほかございませんでした」
「だから、得体のしれないどこぞの闇商人から買ったというのだろう。ギルドから直接買い付けた記録もないのだから、どこぞの流れの闇商人からでもなければ、こんな短期間にこれほど希少な皮革が手に入れられるはずがない! それに本来、セルツの行事にセルツの問屋を通さない皮を持ち込むなどあってはならないのではございませんか! やっぱりだ! やっぱりこいつらの鞍は〝鞍揃え〟にふさわしくない!!」
ザイザロンガは鬼の首でも取ったかのように、プーアを糾弾し始めた。
「その前に、チェンチェン工房へ売らないよう、皮革商人たちに圧力をかけたのは事実なのか、マバロンガ」
「そ……それは……」
「事実なのか、と聞いている」
サラエ隊長の怒気のこもった静かな問いかけと、般若化一歩手前の美しい顔。
(さあ、全部吐かせちゃいましょう、隊長!!)
私は心からのエールを送りながら、この糾弾劇を見守っていた。
〝仙鏡院〟開発の《駆け馬薬》である3種類の魔法薬《裂風薬》《強筋薬》少量の《ポーション》搭載の〝疾風の鞍〟
「この3種類の薬が仕込まれたこちらの皮袋を少し強く叩くことで、密閉容器から魔法薬だけが流れ出します。この魔法薬は馬の皮膚から吸収されることで即時発動し、最大で通常時の3倍のスピードを数時間継続できるものでございます。
私ども〝チェンチェン工房〟の開発いたしました新技術のより、通常時には魔法薬を守り壊れることなく容器を保護し、必要な時には瞬時に魔法薬を放出できる細工を施してございます。もちろん馬を傷つけないよう細心の配慮を施しております」
薬を入れる厚い筒状の皮の内側には固い動物の骨から作られた極小の先が鋭利でない針が何本も仕込まれている。通常時は厚い皮の中に入り込んでいて薬に触ることはないが、強く叩いたり押し込んだりすることで針が現れ、魔法薬の入った入れ物を破壊する。入れ物は皮袋の中に収まったまま、魔法薬だけが馬の皮膚の上に放出され効果が現れる仕組みだ。
「サラエ様、ひと言い添えてもよろしいでしょうか」
今回、チェンチェン工房の後見人として後ろに控えていた、エルさんが発言を乞うと、サラエ隊長は鷹揚にうなづいた。
「恐れながら申し上げます。
この〝疾風の鞍〟は、もちろん《駆け馬薬》というこの画期的な魔法薬の開発があっての鞍でございますが、私どもも、そしてこれからこの魔法薬を取り扱うことになる〝仙鏡院〟もチェンチェン工房のこの技術なくしては、この画期的な魔法薬の効果を最大には得られない、と考えております。
〝疾風の鞍〟と《駆け馬薬》による馬の高速化は一体化したひとつの技術とお考えくださいませ」
サラエ隊長は何度もうなづきながら感心したようにエルさんの話に耳を傾けた。
「馬たちへの配慮まで、実に行き届いた構成の鞍であるな。画期的な魔法薬を最大限に活用できるよう考えついたというこの構造も、それを実現した技術も実に素晴らしい!
これは先代も及ばないほどの、実に実に画期的な技術だ。ぜひ軍部にも紹介したいと考える。審査員の方々、いかがか?」
列席者には、ザイザロンガたちから散々貢物をもらってきた審査員たちも多くいたが、さすがにこれほどの圧倒的な〝差〟を見せつけられてしまっては、ケチのつけようも反論のしようもなかった。
衆人が認める中、第一席の名をサラエ・マッツア騎馬隊長が高らかに宣言しようとした時、それを遮る声が上がった。
「お、おお、お待ちください。その前に、どうしても正しておかねばならぬことがございます!!」
転びそうな勢いで前に出てきたのはザイザロンガを引きづるように連れて進み出た、マバロンガだった。
「なんだ、マバロンガ。何か私の裁定に不服でもあるのか」
不快そうにマバロンガ親子を見るサラエ隊長に、それでもマバロンガは食らいつくように話し始めた。
「お、恐れながら申し上げたきことがございます。
この〝鞍揃え〟は、このセルツの街の誇りでございますれば、そのすべては正当な手順で行われなければならないのではございませんでしょうか!」
もう、ここを逃しては後がないマバロンガは、必死の形相だ。いまはなんとか難癖をつけてでも、この場を切る抜けなければならない。この街の問屋やギルドを通さないものを〝鞍揃え〟で使用するなど、この街の恥だと無理やりにでも主張して、抱き込んだ連中を味方につけ、チェンチェン工房を追い落とすのだ。
「当然だ。この〝鞍揃え〟で優勝した鞍は、恐れ多くも帝都の皇宮へと献上される。決して後ろ暗いことがあってはならないのは当然であろう」
サラエ隊長の言葉に〝我が意を得たり〟とばかりに大げさにうなづいたマバロンガは、チェンチェン工房の素材の入手経路についての疑惑があると語り始めた。
「私どもが営んでおります革製品の卸問屋〝ロンガロンガ商店〟は、この街随一の品揃えを自負しております。仮に私どものに取り扱いがないような高級な皮革がこの街で流通すれば、必ず私どもも知ることができるはずなのです。にも関わらず、この街の皮革問屋から素材を何ひとつを買った形跡のないチェンチェン工房が、このような滅多に出てくることのないような超一級品ばかりを大量に仕入れているのは、どう考えても怪しい。おかしいとは思われませんか。これは不当な〝闇取引〟で仕入れたものに違いござません!」
「では聞こう! なぜ、チェンチェン工房は、この街の問屋から買わなかったのだ」
「そ、それは……」
ふっと、不敵に笑ったサラエ隊長は、マバロンガたちの横に控えていたプーアさんに向き直った。
「では、本人に聞こう! チェンチェン工房の工房長プーアよ、なぜこの街の皮革商人たちから今回の調達を行わなかった?」
「恐れながら申し上げます」
姿勢を正し、堂々とした態度で声を張ったプーアさんが答える。
「私どもは買わなかったのではございません。買えなかったのでございます。
この街の皮革問屋の元締めであるロンガロンガ商店が、私どもへの皮革の供給を止めてしまったのですから、私どもは他の手段で調達するほかございませんでした」
「だから、得体のしれないどこぞの闇商人から買ったというのだろう。ギルドから直接買い付けた記録もないのだから、どこぞの流れの闇商人からでもなければ、こんな短期間にこれほど希少な皮革が手に入れられるはずがない! それに本来、セルツの行事にセルツの問屋を通さない皮を持ち込むなどあってはならないのではございませんか! やっぱりだ! やっぱりこいつらの鞍は〝鞍揃え〟にふさわしくない!!」
ザイザロンガは鬼の首でも取ったかのように、プーアを糾弾し始めた。
「その前に、チェンチェン工房へ売らないよう、皮革商人たちに圧力をかけたのは事実なのか、マバロンガ」
「そ……それは……」
「事実なのか、と聞いている」
サラエ隊長の怒気のこもった静かな問いかけと、般若化一歩手前の美しい顔。
(さあ、全部吐かせちゃいましょう、隊長!!)
私は心からのエールを送りながら、この糾弾劇を見守っていた。
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