利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
284 / 840
3 魔法学校の聖人候補

473 プーアのプレゼン

しおりを挟む
473

〔よしよし、想定通りの展開になってきたわね〕

〔ええ、すべてはメイロードさまの思惑通りでございます。ザイザロンガの工房はずっと監視していましたから、奴らの考えていることは筒抜けでございましたし。偉そうにしているだけのあの男はデザインすら人任せで、細かい作業はすべて指示も出さずに丸投げ、目立つ場所のさして技術もいらない作業しかしていなかったことも、しっかり確認いたしております。まったくもって救い難い御仁です〕

私とセーヤは、審査を遠巻きに見ている観客に紛れながら、この審査の様子をこっそりと見ていた。

もちろん、ザイザロンガが工房で面倒がってしていなかった、地味で手間のかかる作業についての情報をサラエ隊長にリークしたのも私だ。この男の誠実さの欠片もない仕事ぶりは、まったく呆れたもので、先ほど自慢げに語っていた今回持ち込んだ鞍のアイディアもすべて、工房の職人たちによるもの。真面目な職人たちの手柄を横取りして恥じる気配もないとは、〝厚顔〟とはこの男のためにある言葉だろう。

この会場中が凍りつくような状況の中

「恐れながら申し上げます」

ザイザロンガの後ろに控えていたマバロンガが、薄笑いを浮かべ、ギラギラの指輪だらけの手でもみ手をしながら、厳しい表情のサラエ隊長に話しかけてきた。

「確かに工房の人間に任せた部分はございましょうが、工房主は職人を指導して仕事を任せてやることも、必要なのでございますよ。これらの見事な鞍はザイザロンガが親方として指揮をとり仕上げた、まごうかたなき〝ザイザロンガ工房〟の品物でございます。それでよろしいのではございませんか?」

「私にはとてもとは思えない説明であったがな。工程にしっかり関わっていたならば絶対に答えられるはずの、しかも出来不出来に大きく関わる問いに返答できず、はたして〝ザイザロンガ〟の名を冠してよいものなのか? 私はザイザロンガ工房の仕事に。だが、これを重要なことだと思わないと言うのならば、まぁ良い。審査を続けよう」

〝お前ら、馬具造りで適当な仕事してんじゃないぞ!〟

と、氷のような微笑みを浮かべるサラエ隊長に衆人環視の中で叱責されたも同然のザイザロンガは、先ほどまでの勢いもどこへやら、すっかり萎縮し、マバロンガに引きづられるようにして席へ戻り、小さく震えていた。

(以外に小心者、と言うべきかサラエ隊長が怖すぎる、と言うべきか……)

私とセーヤが顔を見合わせて苦笑していると、いよいよ最後の審査、前回の〝鞍揃え〟において最高評価第1席を得た〝チェンチェン工房〟の番となった。

さすがに、熟練の職人たちの多くを失ったままのチェンチェン工房では、5つもの新しいアイディアを取り入れた鞍を作ることはできず、今回は3つの新作を披露することになった。

(この3つの鞍を仕上げるために、プーアさんは寝食を忘れて頑張ったんだよね)

名前を呼ばれた新工房長プーアさんは、しっかりと背筋を伸ばし、堂々と新作の馬具をつけた3頭の馬を引き連れて会場の人々に一礼した。

「なんとも、堂々としたものじゃないか」
「若いが、チェンチェン親方の面影もあるな。いい面構えだ」
「閉じこもってばかりの弱っちいダメ男だってのは、噂だけだったんだな」

遠くで見守る見物人も、噂とは異なるプーアの堂々とした態度に少し驚いていた。

プーアさん、今回の鞍造りの過程で職人としての自信を取り戻し、工房の職人たちとの関係も深まった。父の死と度重なる兄弟子の妨害という今回の逆境を乗り越えようとすることで、人間的もとても強くなり成長したのだ。

そんなプーアさんに、さらに私とエルさんとで、追い込みをかけた。1週間ほどかけてプレゼンテーションの時の態度について、徹底的なスパルタ熱血指導を行ったのだ。

「いいですか、絶対に目線を揺らしたり下を向いたりしてはいけませんよ。特に、最初の印象はとっても大事です。
工房主に自信がなさそうに見えたら台無しですよ。そんな人の言うことは、誰も信用してくれません」

「 プーア! 背筋を伸ばして!! あんたは親方譲りの筋肉質のいい躰をしてるんだ。ちゃんと立っているだけでいい男に見えるんだからね! ほら!」

エルさんに背中を叩かれ、一生懸命プーアさんは背筋を伸ばす。

「説明は、相手に伝わるようゆっくりと。今回はサラエ隊長ひとりにしっかり伝わることを考えてください。彼女を説得できれば、すべての人が納得してくれます」

私は馬具フェチ……もとい、馬具に造詣の深いサラエ隊長なら、最小の説明でこちらの言わんとしていることは伝わるはずだから、長い説明をするよりポイントを押さえて簡潔に説明するようお願いした。

プーアさんは鬼教官エルさんの特訓が実り、鋭い目つきの審査員たちと観衆が見つめる中でも、自信に満ちたゆったりとした態度で説明をしている。確かにプーアさん、こうして綺麗に立っていれば風格のあるいい面構えだ。

「まずひとつ目の馬具では〝チェンチェン工房〟の伝統的な技術を継承し、乗り手を支え馬に負担をかけない構造、さらに最高の革素材として通気性と撥水性に優れた希少なスノウ・トロールを使用しております」

プーアの言葉に観衆がどよめく。

「スノウ・トロールと言ったら、滅多に下界へ降りることはないが凶暴さでは指折りの大型魔獣だぞ! よく手に入れたな、さすがは〝チェンチェン工房〟だ」

プーアの言葉にうなづいたサラエ隊長は、馬具に近づきその仕事を確かめる。

「うむ。素晴らしい出来栄えだな。スノウ・トロールといえば、決して扱いやすい素材ではないはずだが、亡き親方を彷彿とさせるこの乱れのない縫い目は実にいい仕事だ。素材の良さを超える高い技術がうかがわれるな。いい腕だ、プーア」

「恐れ入ります」

先ほどまでの厳しい顔とは打って変わって、実に楽しそうに鞍を吟味しているサラエ隊長。プーアさんはどんな細かい技術的質問でも即座に答え、どこを工房の職人が作り、自分がどう関わり相談したかまで、簡潔に答えていった。

「先代の親方をなくしたことで、より結束が深まり、職人たちは皆いい仕事をしてくれました」

そう言うプーアさんはすっかり〝親方〟に顔だ。

そして、これまた激レア素材を使った、超軽量仕上げの鞍の説明も無難にこなしたプーアさんは、いよいよ今回の目玉とも言える最後の鞍について説明を始める。

(頑張れ、プーアさん!)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。