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3 魔法学校の聖人候補
463 魔法薬研究会有志による実験です(公式)
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463
私は最大限の演技力を振り絞り、か弱い美少女ぶりっ子で、先輩たちへの説得を始めた。
「私は魔法学校へ入学すらしていない内弟子……まだまだ修業中の身でございます。それに、私は薬師ではなく魔法使いを目指しているのです。
もし、ここで〝エリクサー〟生成者として私の名が公式に残れば、確実に魔法使いとしての修業のそして将来への妨げになるでしょう。それは、本当に困るのです、先輩方」
私の〝儚げな〟演技は、かなり効いたようで、3人のテンションが少し落ちた。
この世界で、今の時代〝エリクサー〟生成に至ることは非常に難しい……ということは、それができる者が現れれば、国も貴族たちも喉から手が出るほど欲しいと思うだろう。
もし私が薬師を目指しているのならば、これは輝かしい業績として就職にも最高に有利に働く素晴らしいものとなるだろうが、逆に言えば薬師以外になることへの道は、非常に面倒なものになる。
「確かに、国中からマリスさんを引き入れようとする貴族、薬屋、大金持ちがやってくるでしょうね」
ラビ部長は、眉間にしわを寄せてさらに言葉を続けた。
「最も警戒すべきは、軍部直轄の薬物研究所でしょうね。あそこからの出頭要請が来てしまった場合、この帝国に住む以上それを拒むことはできませんから……」
この世界では、王様の力は絶対だ。皇帝陛下直轄の組織からの命令も同様。
王様から
〝お前は薬師になれ〟
と命令を下されたら、それに抗う術はない。抗うということは、この国にいられなくなるということだ。今の平和主義に移行しつつあるシド帝国でそういった強権が発動されることは稀だが、その稀な命令を辞さないだろうほどに〝エリクサー〟生成は重要な技術なのだと、ここにいる人なら分かっている。
「ラビ部長……私は魔法使いになりたいのです。
どうか、私の道を閉ざさないでください」
私の言葉に、先輩方は言葉に詰まった。彼らとてこの魔法学校で学んでいるのだ。先輩たちも魔法使いとして大成したいという気持ちは誰よりも理解している。
「偉業にすぎる……か。わかった。君の名は伏せよう。副部長、いいな」
ラビ部長の言葉に副部長と記録係の先輩も頷いてくれた。
「私の在任中に〝エリクサー〟の生成が叶い、貴重な資料が得られたことは、本当に嬉しくありがたいことだ。多分マリス君の考えている何百倍も私もこの研究会も君に恩義を感じ感謝している。
絶対に君の名が出ないことを約束しよう……いやそれでは不十分だ。私たちは魔法契約でこのエリクサー生成実験についての君の関与に関し守秘義務を負おう。君が薬師にならないことは本当に残念に思うが、その技術はきっと君の役にたつだろう。君ならば素晴らしい魔法使いになれる。これからも、修業を続けてください」
記録には〝三年生有志〟による共同研究と記され、私の存在は公式資料から消えることになった。
ひとまずホッとして帰り支度をしていると、記録係の方が慌てて声をかけてきた。
「マリス君、まずはこれをしまっておくれよ。もう、そこにあるだけで怖いよ。とてつもなく高価なものなんだから!」
そう言って机の上の〝エリクサー〟を指差した。
「あ、それは置いていきます。〝魔法薬研究会〟の備品に加えてください」
私の言葉に、先輩方絶句したあと絶叫した。
「え、えええ!! 本気、本気なんですか!!」
「これ一本売ったら、昔とは比較にならないとんでもない金額……一生暮らせますよ!」
「国宝級の貴重薬、この世界に十数本しか現存していないんですよ。いくら払っても簡単には買えない薬なんです」
3人の圧力のこもった話に再び当てられて、ややたじろいだ私だったが、それでも彼らのためにこれはここに残しておきたいと思う。やはり、目標とすべきものの現物があるとないとでは、これからの〝魔法薬研究会〟の価値も変わってくるだろう。
実際ラビ部長は、以前見せてもらった出来損ないの〝エリクサー〟を眺めては、七年前の先輩方の失敗に想いを馳せ未だに気に病んでいるぐらいなのだ。
「この国最高の〝魔法薬研究会〟に〝エリクサー〟がなくてどうしますか!」
私は机の上の美しいガラス瓶を手に持ち、それをラビ部長に手渡した。
「値段が……とか、言わないでくださいね。私の研究のために、この研究会の資料は不可欠でした。これはそのお礼です。そして、どうかつぎは〝魔法薬研究会〟で、〝エリクサー〟を再び作ってください」
「ありがとう。君は素晴らしい学究の徒だ。感謝する。本当に……感謝……する」
先輩方は〝エリクサー〟を囲んで滂沱の涙だ。
せめてものお礼にと、ラビ部長は私の〝魔法薬研究会〟に関するノルマをすべて解除してくれた。
これにより、私がこの学校にいる間のポーション作りも非常時の招集も免除された。きっと、薬師として人前で薬を作ったりする姿を見せたくないだろう、という配慮のようだ。時々やらかしてしまうことがある私には大変ありがたい特典だったので、これは謹んで頂いた。
(そうか……十数本しかないのか)
実は、さすがにこの実験を本番ぶっつけでやるのはダメだろうと思った私は、まず《生産の陣》を使い〝聖龍の鱗〟と〝妖精王の涙〟を使った1液、そして〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟と〝再生の林檎〟で作った2液を複製した。
そしてそれを使って今日のためのテストをしてみたのだ。
テストは問題なく終わり、私は〝エリクサー〟を手に入れた。
そして、何かあったときのためにと思い、
(〝エリクサー〟12本、《生産の陣》で複製しちゃってるんだよね……は、ははは)
エリクサーを取り囲んで、先ほどの実験を振り返りながら侃侃諤諤の議論を交わし始めた先輩たちを見ながら、私は背中に冷や汗を感じていた。
私は最大限の演技力を振り絞り、か弱い美少女ぶりっ子で、先輩たちへの説得を始めた。
「私は魔法学校へ入学すらしていない内弟子……まだまだ修業中の身でございます。それに、私は薬師ではなく魔法使いを目指しているのです。
もし、ここで〝エリクサー〟生成者として私の名が公式に残れば、確実に魔法使いとしての修業のそして将来への妨げになるでしょう。それは、本当に困るのです、先輩方」
私の〝儚げな〟演技は、かなり効いたようで、3人のテンションが少し落ちた。
この世界で、今の時代〝エリクサー〟生成に至ることは非常に難しい……ということは、それができる者が現れれば、国も貴族たちも喉から手が出るほど欲しいと思うだろう。
もし私が薬師を目指しているのならば、これは輝かしい業績として就職にも最高に有利に働く素晴らしいものとなるだろうが、逆に言えば薬師以外になることへの道は、非常に面倒なものになる。
「確かに、国中からマリスさんを引き入れようとする貴族、薬屋、大金持ちがやってくるでしょうね」
ラビ部長は、眉間にしわを寄せてさらに言葉を続けた。
「最も警戒すべきは、軍部直轄の薬物研究所でしょうね。あそこからの出頭要請が来てしまった場合、この帝国に住む以上それを拒むことはできませんから……」
この世界では、王様の力は絶対だ。皇帝陛下直轄の組織からの命令も同様。
王様から
〝お前は薬師になれ〟
と命令を下されたら、それに抗う術はない。抗うということは、この国にいられなくなるということだ。今の平和主義に移行しつつあるシド帝国でそういった強権が発動されることは稀だが、その稀な命令を辞さないだろうほどに〝エリクサー〟生成は重要な技術なのだと、ここにいる人なら分かっている。
「ラビ部長……私は魔法使いになりたいのです。
どうか、私の道を閉ざさないでください」
私の言葉に、先輩方は言葉に詰まった。彼らとてこの魔法学校で学んでいるのだ。先輩たちも魔法使いとして大成したいという気持ちは誰よりも理解している。
「偉業にすぎる……か。わかった。君の名は伏せよう。副部長、いいな」
ラビ部長の言葉に副部長と記録係の先輩も頷いてくれた。
「私の在任中に〝エリクサー〟の生成が叶い、貴重な資料が得られたことは、本当に嬉しくありがたいことだ。多分マリス君の考えている何百倍も私もこの研究会も君に恩義を感じ感謝している。
絶対に君の名が出ないことを約束しよう……いやそれでは不十分だ。私たちは魔法契約でこのエリクサー生成実験についての君の関与に関し守秘義務を負おう。君が薬師にならないことは本当に残念に思うが、その技術はきっと君の役にたつだろう。君ならば素晴らしい魔法使いになれる。これからも、修業を続けてください」
記録には〝三年生有志〟による共同研究と記され、私の存在は公式資料から消えることになった。
ひとまずホッとして帰り支度をしていると、記録係の方が慌てて声をかけてきた。
「マリス君、まずはこれをしまっておくれよ。もう、そこにあるだけで怖いよ。とてつもなく高価なものなんだから!」
そう言って机の上の〝エリクサー〟を指差した。
「あ、それは置いていきます。〝魔法薬研究会〟の備品に加えてください」
私の言葉に、先輩方絶句したあと絶叫した。
「え、えええ!! 本気、本気なんですか!!」
「これ一本売ったら、昔とは比較にならないとんでもない金額……一生暮らせますよ!」
「国宝級の貴重薬、この世界に十数本しか現存していないんですよ。いくら払っても簡単には買えない薬なんです」
3人の圧力のこもった話に再び当てられて、ややたじろいだ私だったが、それでも彼らのためにこれはここに残しておきたいと思う。やはり、目標とすべきものの現物があるとないとでは、これからの〝魔法薬研究会〟の価値も変わってくるだろう。
実際ラビ部長は、以前見せてもらった出来損ないの〝エリクサー〟を眺めては、七年前の先輩方の失敗に想いを馳せ未だに気に病んでいるぐらいなのだ。
「この国最高の〝魔法薬研究会〟に〝エリクサー〟がなくてどうしますか!」
私は机の上の美しいガラス瓶を手に持ち、それをラビ部長に手渡した。
「値段が……とか、言わないでくださいね。私の研究のために、この研究会の資料は不可欠でした。これはそのお礼です。そして、どうかつぎは〝魔法薬研究会〟で、〝エリクサー〟を再び作ってください」
「ありがとう。君は素晴らしい学究の徒だ。感謝する。本当に……感謝……する」
先輩方は〝エリクサー〟を囲んで滂沱の涙だ。
せめてものお礼にと、ラビ部長は私の〝魔法薬研究会〟に関するノルマをすべて解除してくれた。
これにより、私がこの学校にいる間のポーション作りも非常時の招集も免除された。きっと、薬師として人前で薬を作ったりする姿を見せたくないだろう、という配慮のようだ。時々やらかしてしまうことがある私には大変ありがたい特典だったので、これは謹んで頂いた。
(そうか……十数本しかないのか)
実は、さすがにこの実験を本番ぶっつけでやるのはダメだろうと思った私は、まず《生産の陣》を使い〝聖龍の鱗〟と〝妖精王の涙〟を使った1液、そして〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟と〝再生の林檎〟で作った2液を複製した。
そしてそれを使って今日のためのテストをしてみたのだ。
テストは問題なく終わり、私は〝エリクサー〟を手に入れた。
そして、何かあったときのためにと思い、
(〝エリクサー〟12本、《生産の陣》で複製しちゃってるんだよね……は、ははは)
エリクサーを取り囲んで、先ほどの実験を振り返りながら侃侃諤諤の議論を交わし始めた先輩たちを見ながら、私は背中に冷や汗を感じていた。
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