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3 魔法学校の聖人候補
462 〝エリクサー〟完成
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462
〝聖龍の鱗〟そして〝妖精王の涙〟を完璧に混ぜ合わせた濃紺の液体の入った器と〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟と〝再生の林檎〟を完璧に混ぜ合わせた銀色の液体の入った器。
それを机に置いただけで、ラビ部長を始め私を囲んだみなさんから声が上がった。
「よくぞここまでたどり着かれたものだ。申し訳ない。僕はこの期に及んでもまだ信じることができていなかったんだ。だがこれは……」
副部長は器の中の液体を見つめて目を外せないまま、そう言った。
この世界最高峰の魔法学校で、あらゆる魔法薬を学ぼうとしているラビ部長以下〝魔法薬研究会〟の面々も、誰一人として〝エリクサー〟完成までの詳細について実際に研究はできていない。彼らが試みようとすることすら叶わずにいることも知っている。
彼らにしてみれば、この魔法薬の究極処方である〝エリクサー〟が、彼らの目の前で完全な形で再現されることが信じがたいのは当然だろう。
私のような子供が彼らを差し置いて、この実験を完遂しようとしていることに複雑な思いもあるのだろうが、今は全員の目がふたつの液体に注がれている。
「それでは、始めさせていただきます」
私は濃紺と銀のふたつの液体に魔法をかけていった。
まずは風と水の魔法を操って、器の中からふたつの液体を細く細くし液体の紐のようにして宙に浮かせながら伸ばしていく。そこにさらに《水出》 により生成した純度の高い水へ百程度の魔法力を注ぎ込んだものも同じように細く伸ばしていく。
私は空中に並んだ三本の糸のようなこの液体を、ラビ部長が是非この入れ物を使って欲しいと用意してくれた、いかにも高級な《魔法薬》が入っていそうな複雑なカッティングが施されたガラスの小瓶の上に導き、小瓶の口の部分に近い場所から均等に縒りあわせるようにして慎重に混ぜ合わせていった。
空中に浮かぶ3つの液体は混ぜ合わせられた部分から、一瞬眩い光を発しその後美しく透き通った青の中に銀色の揺らめく液体へと変化しつつ、一滴また一滴とガラス瓶の中へ落ちていった。
徐々にその完成した姿が瓶の中に現れ始めると、《魔法薬研究会》の面々は、恍惚としたような表情で皆呻き始めた。
「ああ、本当に〝エリクサー〟が……」
「この特殊な混ぜ方を目の当たりにできるとは……」
「何という美しい技術、これが〝エリクサー〟か」
すべてを混ぜ終わった後、ガラスの器に蓋をし、さらに滅菌して、作業を終了した。
「完璧だ。この色、間違いない。完璧なエリクサーだ」
普段から冷静沈着なラビ部長も、今は顔を高揚させ、目の前の〝エリクサー〟が入った小瓶を嬉しそうに見つめている。
私も《鑑定》を行ってみたが、間違いなく〝エリクサー〟だった。品質にも問題ない。
周りの興奮が収まらないので、話が進めづらかったが、私はひとつ咳払いをしてからこう告げた。
「これで〝エリクサー〟生成実験は終了です。
この最後の混ぜ合わせ方は、魔法薬研究会に保存されて資料を参考にさせて頂きました。ありがとうございます」
私の言葉にハッとしたラビ部部長は、少しだけはにかんだような照れた表情を浮かべた後、あわててこう言った。
「あ、いや、素晴らしい手際でした。それに〝魔法薬研究会〟の資料での混ぜ合わせ方は、3つの器に入れた状態でごく少量ずつ器を傾けて混ぜ合わせるというものだった。マリスさんがいま行った完全な魔法制御による《魔法薬》生成法は見たことがない、とても画期的な方法だ。〝魔法薬研究会〟の技術録にもぜひ残しておかなくては……」
副部長と記録係の方もウンウンと大きく頷いている。
「えっと、私としましてはこれら一連の〝エリクサー〟に関連した情報は、部員として行ったことですから、もちろん情報は(私の知られたら面倒な魔法部分を除き)すべて提供させて頂きますが、私の名前は記録に残さないでください」
「そんな!! この最高の栄誉を記録に残したくないとおっしゃるのですか!!」
3人は、まったく信じられないという表情で、私に詰め寄ってきた。男性3人に詰め寄られるのって、背の低い私には結構な圧迫感なのだが、興奮している3人は、口々に〝エリクサー〟生成を完全に成し遂げたことの重大性を語る、語る。
「だからこそ、この技術を私が持っていることは知られたくないのです」
(公式資料に名前が残ったら、絶対今後面倒に巻き込まれるに決まってる。阻止!断固阻止!!)
〝聖龍の鱗〟そして〝妖精王の涙〟を完璧に混ぜ合わせた濃紺の液体の入った器と〝ヴァージン・ヒーリングドロップ〟と〝再生の林檎〟を完璧に混ぜ合わせた銀色の液体の入った器。
それを机に置いただけで、ラビ部長を始め私を囲んだみなさんから声が上がった。
「よくぞここまでたどり着かれたものだ。申し訳ない。僕はこの期に及んでもまだ信じることができていなかったんだ。だがこれは……」
副部長は器の中の液体を見つめて目を外せないまま、そう言った。
この世界最高峰の魔法学校で、あらゆる魔法薬を学ぼうとしているラビ部長以下〝魔法薬研究会〟の面々も、誰一人として〝エリクサー〟完成までの詳細について実際に研究はできていない。彼らが試みようとすることすら叶わずにいることも知っている。
彼らにしてみれば、この魔法薬の究極処方である〝エリクサー〟が、彼らの目の前で完全な形で再現されることが信じがたいのは当然だろう。
私のような子供が彼らを差し置いて、この実験を完遂しようとしていることに複雑な思いもあるのだろうが、今は全員の目がふたつの液体に注がれている。
「それでは、始めさせていただきます」
私は濃紺と銀のふたつの液体に魔法をかけていった。
まずは風と水の魔法を操って、器の中からふたつの液体を細く細くし液体の紐のようにして宙に浮かせながら伸ばしていく。そこにさらに《水出》 により生成した純度の高い水へ百程度の魔法力を注ぎ込んだものも同じように細く伸ばしていく。
私は空中に並んだ三本の糸のようなこの液体を、ラビ部長が是非この入れ物を使って欲しいと用意してくれた、いかにも高級な《魔法薬》が入っていそうな複雑なカッティングが施されたガラスの小瓶の上に導き、小瓶の口の部分に近い場所から均等に縒りあわせるようにして慎重に混ぜ合わせていった。
空中に浮かぶ3つの液体は混ぜ合わせられた部分から、一瞬眩い光を発しその後美しく透き通った青の中に銀色の揺らめく液体へと変化しつつ、一滴また一滴とガラス瓶の中へ落ちていった。
徐々にその完成した姿が瓶の中に現れ始めると、《魔法薬研究会》の面々は、恍惚としたような表情で皆呻き始めた。
「ああ、本当に〝エリクサー〟が……」
「この特殊な混ぜ方を目の当たりにできるとは……」
「何という美しい技術、これが〝エリクサー〟か」
すべてを混ぜ終わった後、ガラスの器に蓋をし、さらに滅菌して、作業を終了した。
「完璧だ。この色、間違いない。完璧なエリクサーだ」
普段から冷静沈着なラビ部長も、今は顔を高揚させ、目の前の〝エリクサー〟が入った小瓶を嬉しそうに見つめている。
私も《鑑定》を行ってみたが、間違いなく〝エリクサー〟だった。品質にも問題ない。
周りの興奮が収まらないので、話が進めづらかったが、私はひとつ咳払いをしてからこう告げた。
「これで〝エリクサー〟生成実験は終了です。
この最後の混ぜ合わせ方は、魔法薬研究会に保存されて資料を参考にさせて頂きました。ありがとうございます」
私の言葉にハッとしたラビ部部長は、少しだけはにかんだような照れた表情を浮かべた後、あわててこう言った。
「あ、いや、素晴らしい手際でした。それに〝魔法薬研究会〟の資料での混ぜ合わせ方は、3つの器に入れた状態でごく少量ずつ器を傾けて混ぜ合わせるというものだった。マリスさんがいま行った完全な魔法制御による《魔法薬》生成法は見たことがない、とても画期的な方法だ。〝魔法薬研究会〟の技術録にもぜひ残しておかなくては……」
副部長と記録係の方もウンウンと大きく頷いている。
「えっと、私としましてはこれら一連の〝エリクサー〟に関連した情報は、部員として行ったことですから、もちろん情報は(私の知られたら面倒な魔法部分を除き)すべて提供させて頂きますが、私の名前は記録に残さないでください」
「そんな!! この最高の栄誉を記録に残したくないとおっしゃるのですか!!」
3人は、まったく信じられないという表情で、私に詰め寄ってきた。男性3人に詰め寄られるのって、背の低い私には結構な圧迫感なのだが、興奮している3人は、口々に〝エリクサー〟生成を完全に成し遂げたことの重大性を語る、語る。
「だからこそ、この技術を私が持っていることは知られたくないのです」
(公式資料に名前が残ったら、絶対今後面倒に巻き込まれるに決まってる。阻止!断固阻止!!)
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