利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

460 メルルとトルル

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460

「メルルゥーーー!!」

元のサイズに戻った子供たちが家族と対面すると、トルルも妹メルルに抱きついて大泣きしていた。

「お姉ちゃん、泣かないで。メルルは大丈夫だよ、なんともないよ」

歓喜に沸くトルルの里には、誘拐された子供の家族たちが周囲の村や集落から集まってきており、お祭り騒ぎだ。
誘拐されながら、全員が命を取られず戻ってくるなど、奇跡に近いことだと誰もが思っていたそうだ。それだけに感激もひとしおらしく、あちこちで大泣きしている家族が、さらにその係累に囲まれながら喜びを分かち合っていた。

グッケンス博士は村長と、これからのことについてなにやら話し合っていて、たったひとり生き残り捕まった誘拐犯の一味の男は自殺できないように魔法で拘束されたまま、パレスへと移送される手はずになっている。

現状、子供たちは大きな怪我もなく解放されはしたものの、今回の犯罪の背景はまったくわからないままだ。彼らが博士の言うように大きな組織的誘拐犯だとすれば、被害はここだけに留まってはいないだろう。
捕まるよりも死を選ぶような者から、どれだけの情報が得られるかわからないが、できるなら全貌を解明し、他の捕まっただろう子供たちも救ってあげられるといいな、と思う。

「そう心配せんでも良い。それにここからは大人の仕事じゃ。このままにはせんよ」

博士はそう言ったが、どうにも気持ちの悪い幕引きだったので、次々と博士にお礼を言いに来たり贈り物を捧げにくる人たちを笑顔でさばきながらも、気分は今ひとつ晴れなかった。

そうして私とセーヤ・ソーヤが忙しく対応しているところへ、トルルとその兄妹、それにご両親がやってきた。ご両親の手には、たくさんの木の実や干し肉が積まれていて、お礼に受け取って欲しいと渡された。

「マリスさん! ありがとう! 妹のメルルを助けてくれて!」

トルルは満面の笑みで私の手を両手で掴んでブンブン振り回す。

「イヤイヤ、私はグッケンス博士のお手伝いをしただけで、お側にいただけだよ。でも、みんな無事でよかったね」

私の言葉に大きく首を振りながらトルルはこう言った。

「そんなことない。これ、このキャラメル、マリスさんのお手製のやつだよね。メルル、こんな甘くて美味しいお菓子を食べたの初めてだって。子供たちはみんなすごく幸せで安心した気持ちで箱に隠れていたって言ってるよ。
ありがとうございました、メイロード・マリスさん! 本当に、ありがとうございました!!」

真似をして、横にいたメルルも私の袖を掴んで

「ありがとうございました。美味しかったです」

と言って、笑顔を見せた。

釣られて、近くにいた誘拐された子供たちまで、私の袖を掴んで口々に

「ありがとうございました。美味しかったです」

と言い始め、私は動きが取れなくなりながら、笑って

「どういたしまして。よかったね」

と言い続けた。

周囲はその様子を微笑ましそうに見て、服をあちこち子供たちに掴まれて結構きつい体勢なのに誰も助けてくれる気配がない。仕方なく、自力でなんとかすることにし、子供たちに声をかけた。〝お菓子〟の声に一瞬子供たちの手が緩んだ隙に

「がんばったみんなに、お菓子をあげますね。じゃ、並んでちょっと待っててね」

そう言って、少し離れてから、アイテムボックスに作っておいたクッキーや一口サイズのケーキを紙に包んで、渡していった。だいぶ増えていた子供たちみんなになんとかお菓子を配り終わると、これで子供たちの興味はお菓子に移ってくれ、私はやっと解放された。

「マリスさんのお菓子は最高だからね。みんなもう誘拐されたことなんて忘れて、お菓子に夢中だよ」

私と一緒にお菓子配りを手伝ってくれたトルルはいつもの明るい笑顔を取り戻して、そっと私を抱きしめた。

「本当に感謝しているよ、マリスさん。私はメルルの無事を信じていたけれど、それでもダメかもしれないと何度も思ってしまった。家族の生死もわからない時間があんなに辛いなんて知らなかった。お父さんもお母さんも毎日泣いていた。
私にも〝覚悟をしておきなさい〟って言われたよ。
今回のことで私もこの里の人たちも、グッケンス博士とあなたには、一生かかっても返せないぐらいの恩を受けたと思ってる。魔法使いに誘拐された子供たちを救うなんて、村の人たちでは絶対に無理だったし、戦っていればきっともっとひどいことのなっていたと思う。

だから……いつでも、どんな味方にでもなるから、あなたが必要な時は私たちの村を頼ってね。お願いよ、マリスさん」

髪も乱れたままで、山歩き用の埃だらけの服のトルルのその言葉に、彼女たちの日も夜もない山狩りの辛い日々が思われ、私は彼女の背中を軽く叩いた。

「大丈夫。すべては元に戻ったわ。子供たちは無事だった。そうでしょう? 
さあ、三学期が始まるわ。私たちと一緒に魔法学校へ帰りましょう。グッケンス博士に特別に魔法をかけてもらってね」

私はトルルの髪の毛を一本抜いて、笑って見せた。

「さあ、家族にご挨拶をしたら支度をして戻ってきてね。そうしたらすぐに出発よ」

そう言って私はトルルを送り出した。


トルルは目をつぶったままグッケンス博士の魔法だと信じて《無限回廊の扉》を通り、私と学校へと戻ったので、1日の遅れだけで三学期をスタートできた。もちろんペナルティーもなしだ。

学校では、グッケンス博士が謎の魔術師誘拐団を殲滅し、すべての誘拐された子供たちを無事に奪還した武勇伝が、学校新聞を通して大々的に取り上げられた。取材元は学校の事務局と現地で妹を誘拐されたトルル。

トルルには〝私の名前を出すの絶対禁止!〟と、30回ぐらい言ってから、取材に送り出した。案の定、新聞部のレカ先輩に私のことをかなり突っ込まれたらしいが〝なんとか逃げ切った〟と取材後自慢げに話してくれた。
レカ先輩、きっと私のところにも取材をかけたかっただろうけど〝不可侵条約〟があるので、そこは自重してくれたようだ。

(ホント、恩は売っておくものだわ)

こうして波乱に満ちた三学期がやっと通常の形に戻り、いよいよ《基礎魔法》講座も終わりが見えてきた。

「よし、一年生最後のお勉強を始めましょう!」

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