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3 魔法学校の聖人候補
455 実験実験また実験
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455
残念ながら《白魔法》を伝えることは難しいとわかってしまい、モチベーションがだいぶ下がってしまったことは否めないが、それでもここまできて再現をやめる気にもなれない。
(ともかく使えるようになろう!)
私は〝ハイパーポーション〟に使われている素材の効果について《鑑定》を使い、それぞれの素材の細部まで調べるところから始めることにした。基本材料である〝いやし草〟と〝慈雨石〟の効果を持つ魔法は、成長に関わる《土魔法》が中心だ。だが百種類はゆうに超えている土系基礎魔法のどれをどう配分するかとなると、なかなかの難易度。それに再生速度を高めるための無属性の《時魔法》など、他の系統の魔法も加味されていることを考えると、気が遠くなるような数の組み合わせだ。
つい、これがちゃんと出来上がる確率について考えてしまい、手が止まる。
(道は遠いなぁ……)
だが、《魔法薬》を作った最初の《白魔法》使いは、この逆の研究をひとりで完成させたのだ。それに比べて、私にはハルリリさんやゼンモンさん、グッケンス博士といった頼りになるアドバイザーがいる。
残念ながらセイリュウは神族なのでこの件については介入できないが、それでも応援はしてくれている。
日々助けてくれるセーヤとソーヤ、大量の関連書籍のある魔法学校、材料だって《無限回廊の扉》の中にたっぷり用意されている。
(私の方が、最初の《白魔法》使いより、ずっと恵まれてるよね。それにヒントはあるんだし……
気長に頑張ろっと!)
方針が決まってからは、ひたすら条件を変えたものを作り続ける日々が始まった。最初はざっくりと、そこから見当をつけては、細かく条件を変えて生成を続ける。なかなか根気のいる研究だ。
何度も蒸留を重ね濃度を高くした素材を使っているせいで、いろいろな効果が発現しやすいのか、研究の過程でいくつか思ってもみない薬ができたりもしつつも、なかなか目的である〝ハイパーポーション〟にはたどり着くことができず、地味な作っては条件を変えまた作る実験は続く。
「メイロードさま、この《変幻薬》とはなんでしょう」
「ああ、それね。癒しの効果がある薬の持つ修復力を使って、顔や躰を一時的に変化させられる薬なの。どう変化させるかは、使用時に魔法力をさらに注ぎ込まないと固定できないから、最低ひとりは使うときに魔法が使える人がいないとダメだし、効果も1日ぐらいが限界かな。一応、何にでも擬態可能なんだけど、《鑑定》のスキルが高い人には見破られる程度だから、使える場面はあんまりないかもしれないなぁ」
「それは面白い《魔法薬》ですね。確かになにに使うのかはわからないですけど。こちらは《縮小薬》ですか?」
「ああ、それも傷を小さくする効果がおかしな方向に出ちゃったやつね。アタタガ・フライの能力に近いんだけど、飲むと躰が十分の一ぐらいに縮んじゃうの。でも、これは時間がかなり短いのよ。半日もたないぐらいかなぁ」
この薬も、いろいろな大きさになれたり、といった可能性はあるけれど、私の研究対象ではないのでこれ以上は深入りせず今は副産物のひとつとして置いてあるだけだ。
こういった、おかしな薬をぽこぽこ作ってしまいつつも、私は毎日毎日冬休み中研究を続けていった。
半分ほど研究が進んだ段階になると、もう素材を使う段階を終え、純粋に魔力量の調整だけの段階に入った。
私はちょっとかわいそうだが、植木を対象に実験する。少しだけ葉っぱを取ったり、剪定したりした後、癒しの魔法をかけて、効果を確認するのだ。基本的に癒し系の魔法は、動植物の区別なく発動するので、効果を確認するだけならばこれでチェックすることができる。もちろん植物に特化した私の《緑の手》のような劇的な効果とは違うが、魔法が効いているかを確認する程度ならば十分に効果が視認できるのだ。
研究室にたくさん並べた植木を使い、一日中条件を変えた魔法をかけ続ける。冬休みの間は、博士たちのお世話はソーヤたちに丸投げし、ひたすら実験を繰り返した。大量の魔法を投入しても全然効果がないときもあれば、幹だけがニョッキっと伸びてみたり、逆に葉っぱが落ちてしまうという異常事態もあった。魔法の取捨選択とその配合は本当に無限に思えて、これは気が長く忍耐強いと自負している私でも心が折れそうな作業の連続だった。
そんな時は、ハルリリさんにヒーラーのスキルについて教えてもらいに行ったり、イスの天才薬師トルッカ・ゼンモンさんに素材の持つ効能についてお話を聞きに行ったり、〝魔法薬師の宝箱〟のエルリベット・バレリオさんのところでお茶を飲みながら進まない研究について愚痴ったり、冬休み中も忙しくしているグッケンス博士を捕まえて質問責めにしたりして、気持ちを立て直し、地道な作業を続けていった。
そして、その時は突然やってきた。
私がいつものように、小さな植木に向かって魔法をかけた瞬間、その植木はグンと大きくなりながら根を張り、選定して落としてあった枝も葉もすべてが一瞬で元に戻り、生き生きとした若葉を茂らせたのだ。
あまりの成長の勢いに植木鉢は割れてしまうし、床に根が張ってしまうしで、あとの掃除と修復が大変だったが、私はどうやら癒しの《白魔法》の復元に成功したようだ。
(人体実験はまだだけどね)
ともかく、癒しの《白魔法》《ハイパーヒール》を私は手に入れることができたのだ。
残念ながら《白魔法》を伝えることは難しいとわかってしまい、モチベーションがだいぶ下がってしまったことは否めないが、それでもここまできて再現をやめる気にもなれない。
(ともかく使えるようになろう!)
私は〝ハイパーポーション〟に使われている素材の効果について《鑑定》を使い、それぞれの素材の細部まで調べるところから始めることにした。基本材料である〝いやし草〟と〝慈雨石〟の効果を持つ魔法は、成長に関わる《土魔法》が中心だ。だが百種類はゆうに超えている土系基礎魔法のどれをどう配分するかとなると、なかなかの難易度。それに再生速度を高めるための無属性の《時魔法》など、他の系統の魔法も加味されていることを考えると、気が遠くなるような数の組み合わせだ。
つい、これがちゃんと出来上がる確率について考えてしまい、手が止まる。
(道は遠いなぁ……)
だが、《魔法薬》を作った最初の《白魔法》使いは、この逆の研究をひとりで完成させたのだ。それに比べて、私にはハルリリさんやゼンモンさん、グッケンス博士といった頼りになるアドバイザーがいる。
残念ながらセイリュウは神族なのでこの件については介入できないが、それでも応援はしてくれている。
日々助けてくれるセーヤとソーヤ、大量の関連書籍のある魔法学校、材料だって《無限回廊の扉》の中にたっぷり用意されている。
(私の方が、最初の《白魔法》使いより、ずっと恵まれてるよね。それにヒントはあるんだし……
気長に頑張ろっと!)
方針が決まってからは、ひたすら条件を変えたものを作り続ける日々が始まった。最初はざっくりと、そこから見当をつけては、細かく条件を変えて生成を続ける。なかなか根気のいる研究だ。
何度も蒸留を重ね濃度を高くした素材を使っているせいで、いろいろな効果が発現しやすいのか、研究の過程でいくつか思ってもみない薬ができたりもしつつも、なかなか目的である〝ハイパーポーション〟にはたどり着くことができず、地味な作っては条件を変えまた作る実験は続く。
「メイロードさま、この《変幻薬》とはなんでしょう」
「ああ、それね。癒しの効果がある薬の持つ修復力を使って、顔や躰を一時的に変化させられる薬なの。どう変化させるかは、使用時に魔法力をさらに注ぎ込まないと固定できないから、最低ひとりは使うときに魔法が使える人がいないとダメだし、効果も1日ぐらいが限界かな。一応、何にでも擬態可能なんだけど、《鑑定》のスキルが高い人には見破られる程度だから、使える場面はあんまりないかもしれないなぁ」
「それは面白い《魔法薬》ですね。確かになにに使うのかはわからないですけど。こちらは《縮小薬》ですか?」
「ああ、それも傷を小さくする効果がおかしな方向に出ちゃったやつね。アタタガ・フライの能力に近いんだけど、飲むと躰が十分の一ぐらいに縮んじゃうの。でも、これは時間がかなり短いのよ。半日もたないぐらいかなぁ」
この薬も、いろいろな大きさになれたり、といった可能性はあるけれど、私の研究対象ではないのでこれ以上は深入りせず今は副産物のひとつとして置いてあるだけだ。
こういった、おかしな薬をぽこぽこ作ってしまいつつも、私は毎日毎日冬休み中研究を続けていった。
半分ほど研究が進んだ段階になると、もう素材を使う段階を終え、純粋に魔力量の調整だけの段階に入った。
私はちょっとかわいそうだが、植木を対象に実験する。少しだけ葉っぱを取ったり、剪定したりした後、癒しの魔法をかけて、効果を確認するのだ。基本的に癒し系の魔法は、動植物の区別なく発動するので、効果を確認するだけならばこれでチェックすることができる。もちろん植物に特化した私の《緑の手》のような劇的な効果とは違うが、魔法が効いているかを確認する程度ならば十分に効果が視認できるのだ。
研究室にたくさん並べた植木を使い、一日中条件を変えた魔法をかけ続ける。冬休みの間は、博士たちのお世話はソーヤたちに丸投げし、ひたすら実験を繰り返した。大量の魔法を投入しても全然効果がないときもあれば、幹だけがニョッキっと伸びてみたり、逆に葉っぱが落ちてしまうという異常事態もあった。魔法の取捨選択とその配合は本当に無限に思えて、これは気が長く忍耐強いと自負している私でも心が折れそうな作業の連続だった。
そんな時は、ハルリリさんにヒーラーのスキルについて教えてもらいに行ったり、イスの天才薬師トルッカ・ゼンモンさんに素材の持つ効能についてお話を聞きに行ったり、〝魔法薬師の宝箱〟のエルリベット・バレリオさんのところでお茶を飲みながら進まない研究について愚痴ったり、冬休み中も忙しくしているグッケンス博士を捕まえて質問責めにしたりして、気持ちを立て直し、地道な作業を続けていった。
そして、その時は突然やってきた。
私がいつものように、小さな植木に向かって魔法をかけた瞬間、その植木はグンと大きくなりながら根を張り、選定して落としてあった枝も葉もすべてが一瞬で元に戻り、生き生きとした若葉を茂らせたのだ。
あまりの成長の勢いに植木鉢は割れてしまうし、床に根が張ってしまうしで、あとの掃除と修復が大変だったが、私はどうやら癒しの《白魔法》の復元に成功したようだ。
(人体実験はまだだけどね)
ともかく、癒しの《白魔法》《ハイパーヒール》を私は手に入れることができたのだ。
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