261 / 840
3 魔法学校の聖人候補
450 合宿が終わって
しおりを挟む
450
ほとんどのグループは二日目の狩りから帰ってくるまで、上位陣が無謀極まりない狩りに挑戦をして大怪我し、全員がリタイアとなったことを知らなかった。
そのため狩りから戻ってきたグループはみんな蜂の巣を突いたような大騒ぎで、最終組の私たちが帰った時にも、合宿所の中は騒然とした雰囲気に包まれていた。
学校側は、今回の三組のグループの危険行動を非常に重く見ており、厳しい処罰を下すつもりのようだとの噂も駆け巡っている。確かに、これが悪しき先例となれば、これからの学校運営のためにも非常によろしくないことは明らかだし、学生たちのためにもならない。学校側が厳罰で臨むことは間違いがないだろう。
それはグッケンス博士の怒りようからも想像できる。
博士は普段、生徒の失敗や準備不足には寛容だ。学生たちには能力の差だけでなく性格の違い、向き不向き色々な要素があることをよく理解されているので、ほとんど怒ることすらない。人格者であるし、素晴らしい教育者だと思う。
だが、今回のような命に関わる無謀さは許すことができないようだ。もちろん私も許されるべきではないと思う。その無謀さは本人だけでなく多くの人たちの命まで危険にさらすことを、彼らは理解しなければならない。
今回の狩りでは魔道具の持ち込み制限はなかったが、これも是正すべきだという声も上がった。なぜなら、彼らが使った高速移動できる特殊な魔道具のようなものは、大変高価で一般の生徒は絶対に手に入れることができないアイテムだからだ。力量の差ではなく財力の差で優劣が決まるというのはこの学校の理念に反する。
「最初の規定では〝自作の魔道具〟は持ち込んでよろしい、ということだったはずなのだが、いつの間にか〝自作の〟という規定が曖昧になってな。これももう一度厳格化せねばなるまい」
リビングの机でコーヒーを飲みながら、博士は早々に決めなければならない彼らへの罰をどうすべきか悩んでいるようだ。今回のことでは、彼ら全員をひとりの死者も出さず救出した英雄的行動から、グッケンス博士にはかなり大きな発言権が与えられている。博士の一言で、彼らの処罰は決定すると言っても過言ではなく、まだベッドで過ごしている成績上位者たちは退学になるのではないかと眠れぬ夜を過ごしているだろう。
「ところで博士、今朝からひっきりなしに贈り物が届いてうるさくてかなわないんですけど、これ止められないんですか?」
リビングには金銀財宝、目の眩むようなお宝が山積みになっていて、今も片付ける間もなく次から次へ届き続けている。送り主は、今回助けた上級貴族の学生たちの家やその関係者で、その数は膨大。私とソーヤは、合宿からの帰宅直後から、ずっとその対応に追われ続けだ。
「拒否するのは容易いのだが、受け取らぬと罪もない使者が罰せられるからの。貴族というやつは、こういう形でしか感謝を表せぬ者たちなのだと思うしかなかろう。それに、今回の功労者は本当はお前なのだ。できれば全部持っていかんか、メイロード」
「いりませんよ、こんなの」
私はものすごく重い純金製の飾り刀と、これまた純金製でゴテゴテの装飾の入ったご大層な杖を運びながら断った。こんな実用性ゼロの漬物石にもならないもの、もらっても意味がない。
(いっそ全部溶かせば、漬物石ぐらいにはなるかもしれないけど……)
そして、このことで博士の持っていた雑多な品物がどうやって溜まったのかもわかった。博士が大きな事件を解決するたびに、高貴な方々からこういった品物が大量に送られてくるせいだ。
「そういえば、結局、お前たちの組は優勝したのだったな。そのお祝いに、やっぱり少し持っていかんか?」
「いりませーん!」
そう、上位陣総崩れ、というだけでなく、私たちの狩りの成績は例年の実績に比べても遜色のない素晴らしいものだ、と表彰式で讃えられた。クローナは最優秀狩人賞も獲得し(本人はとてもバツが悪そうだったが、みんなで絶対に受け取るべきだと説得した)、彼女は赤い宝石のついた金の羽のバッジを、私たちも宝石のない金の羽のバッジを頂いた。
クローナには〝アイスベア・ハンター〟とか〝氷熊殺しのクローナ〟とか、やたらと勇ましい字名が囁かれるようになり、今や時の人だ。表彰式直後から貴族たちからの招待状が凄まじい数届いているそうで、冬休み中社交に追われることになりそうだとため息をついていた。
クローナ以外の私たちグループ全員の評価ももちろん上がり、成績にもかなり加点されることになった。
これだけ平民の多いグループが優勝したことは今までになかったそうで、貴族たちの私たちを見る目も少し変わってきたように思えた。クローナも〝仲間の力がなければ決してこの成績は残せなかった〟と、授賞式の壇上で強く語り、協調性、協力することの大切さをみんなに訴えてくれた。クローナは本当に貴族には珍しい素直で傲りのないいい子だ。
「あっ!」
片付けをしていた私はひとつ思いついたことがあり、博士に提案した。
「上位の子たちへのお仕置き、こんなのどうですか?」
ほとんどのグループは二日目の狩りから帰ってくるまで、上位陣が無謀極まりない狩りに挑戦をして大怪我し、全員がリタイアとなったことを知らなかった。
そのため狩りから戻ってきたグループはみんな蜂の巣を突いたような大騒ぎで、最終組の私たちが帰った時にも、合宿所の中は騒然とした雰囲気に包まれていた。
学校側は、今回の三組のグループの危険行動を非常に重く見ており、厳しい処罰を下すつもりのようだとの噂も駆け巡っている。確かに、これが悪しき先例となれば、これからの学校運営のためにも非常によろしくないことは明らかだし、学生たちのためにもならない。学校側が厳罰で臨むことは間違いがないだろう。
それはグッケンス博士の怒りようからも想像できる。
博士は普段、生徒の失敗や準備不足には寛容だ。学生たちには能力の差だけでなく性格の違い、向き不向き色々な要素があることをよく理解されているので、ほとんど怒ることすらない。人格者であるし、素晴らしい教育者だと思う。
だが、今回のような命に関わる無謀さは許すことができないようだ。もちろん私も許されるべきではないと思う。その無謀さは本人だけでなく多くの人たちの命まで危険にさらすことを、彼らは理解しなければならない。
今回の狩りでは魔道具の持ち込み制限はなかったが、これも是正すべきだという声も上がった。なぜなら、彼らが使った高速移動できる特殊な魔道具のようなものは、大変高価で一般の生徒は絶対に手に入れることができないアイテムだからだ。力量の差ではなく財力の差で優劣が決まるというのはこの学校の理念に反する。
「最初の規定では〝自作の魔道具〟は持ち込んでよろしい、ということだったはずなのだが、いつの間にか〝自作の〟という規定が曖昧になってな。これももう一度厳格化せねばなるまい」
リビングの机でコーヒーを飲みながら、博士は早々に決めなければならない彼らへの罰をどうすべきか悩んでいるようだ。今回のことでは、彼ら全員をひとりの死者も出さず救出した英雄的行動から、グッケンス博士にはかなり大きな発言権が与えられている。博士の一言で、彼らの処罰は決定すると言っても過言ではなく、まだベッドで過ごしている成績上位者たちは退学になるのではないかと眠れぬ夜を過ごしているだろう。
「ところで博士、今朝からひっきりなしに贈り物が届いてうるさくてかなわないんですけど、これ止められないんですか?」
リビングには金銀財宝、目の眩むようなお宝が山積みになっていて、今も片付ける間もなく次から次へ届き続けている。送り主は、今回助けた上級貴族の学生たちの家やその関係者で、その数は膨大。私とソーヤは、合宿からの帰宅直後から、ずっとその対応に追われ続けだ。
「拒否するのは容易いのだが、受け取らぬと罪もない使者が罰せられるからの。貴族というやつは、こういう形でしか感謝を表せぬ者たちなのだと思うしかなかろう。それに、今回の功労者は本当はお前なのだ。できれば全部持っていかんか、メイロード」
「いりませんよ、こんなの」
私はものすごく重い純金製の飾り刀と、これまた純金製でゴテゴテの装飾の入ったご大層な杖を運びながら断った。こんな実用性ゼロの漬物石にもならないもの、もらっても意味がない。
(いっそ全部溶かせば、漬物石ぐらいにはなるかもしれないけど……)
そして、このことで博士の持っていた雑多な品物がどうやって溜まったのかもわかった。博士が大きな事件を解決するたびに、高貴な方々からこういった品物が大量に送られてくるせいだ。
「そういえば、結局、お前たちの組は優勝したのだったな。そのお祝いに、やっぱり少し持っていかんか?」
「いりませーん!」
そう、上位陣総崩れ、というだけでなく、私たちの狩りの成績は例年の実績に比べても遜色のない素晴らしいものだ、と表彰式で讃えられた。クローナは最優秀狩人賞も獲得し(本人はとてもバツが悪そうだったが、みんなで絶対に受け取るべきだと説得した)、彼女は赤い宝石のついた金の羽のバッジを、私たちも宝石のない金の羽のバッジを頂いた。
クローナには〝アイスベア・ハンター〟とか〝氷熊殺しのクローナ〟とか、やたらと勇ましい字名が囁かれるようになり、今や時の人だ。表彰式直後から貴族たちからの招待状が凄まじい数届いているそうで、冬休み中社交に追われることになりそうだとため息をついていた。
クローナ以外の私たちグループ全員の評価ももちろん上がり、成績にもかなり加点されることになった。
これだけ平民の多いグループが優勝したことは今までになかったそうで、貴族たちの私たちを見る目も少し変わってきたように思えた。クローナも〝仲間の力がなければ決してこの成績は残せなかった〟と、授賞式の壇上で強く語り、協調性、協力することの大切さをみんなに訴えてくれた。クローナは本当に貴族には珍しい素直で傲りのないいい子だ。
「あっ!」
片付けをしていた私はひとつ思いついたことがあり、博士に提案した。
「上位の子たちへのお仕置き、こんなのどうですか?」
311
お気に入りに追加
13,163
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。