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3 魔法学校の聖人候補

449 最後の狩りに行こう!

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449

「みんな、おまたせー! 調子はどう?」

《索敵》でクローナ組の場所を見つけてから、少しだけ離れた場所へアタタガ・フライに降ろしてもらい、そこからは《烈風》や《強筋》を使っての早歩きで移動した。山は障害物が多いため平地ほどこういった魔法の効果はないのだが、それでも15分ほど歩いてやっと合流できた。みんなはまだ昼食を食べているところで、私が姿を見せると一斉に立ち上がった。

「マリスさん! ど、どうだった! みんな無事?」

トルルが食べていたサンドイッチを落としそうになりながら、駆け寄ってきた。

「うん、怪我はしているけど、みんな無事だよ。グッケンス博士が学校へみんなを届けてくれたので、私は戻ってきたの」

「お疲れさまでした。マリスさんは大丈夫なんですか」

オーライリは、私のことが心配でたまらなかったようだ。

「私は……博士の助手としてついていっただけだから……だ、大丈夫、大丈夫」

オーライリの目が〝絶対、何かやってきたでしょ?〟というような、じとっとした訴えを投げかけてくるが、そこはあえての全スルーをし、愛想笑いでごまかした。

「皆が無事とお伺いできて安心致しました。ありがとうございます、マリスさん。ご助力に感謝申し上げます」

どうやら食事も喉に通らず心配していたらしいクローナも心からホッとしたようで、そこからは話せる範囲で事の顛末を伝えたり、今日の狩りの様子を聞いたりしながら、みんなでしっかり食事をして午後に備えた。
火の近くに鍋が置いてあったので、聞いてみたところ私がいなくても暖かい汁物が欲しいと、トルルが森から取ってきたキノコを使って汁物を作ってくれたそうだ。ところが味見をしてみると、ほんのりしたキノコの風味以外には塩味しかしない。私のせいで舌が肥えてきているみんなには不評だったようで、ほとんどが残ったままになっていた。時間もないので香味野菜を少々足し、焦がした味噌で風味づけをして味を修正した。

「マリスさんが戻ってくれてよかった~。うん、美味しい!」

トルルはイマイチみんなの手が伸びないままになっていたキノコ汁に責任を感じていたらしく、空っぽになった鍋を見て嬉しそうだった。機会があれば、トルルたちにも料理を美味しくするコツを少し教えてあげたほうがいいかもしれない。

みんなの話によると、午前中は朝の話の通り昨日の手順で小物の狩りを行ったそうで、野狐1匹に野ネズミ3匹野うさぎ2羽という、なかなかの好成績だった。

「でも、これほど司令塔がいないことが狩りを難しくするとは思いませんでした。みんなの位置を把握しながら、的確に指示を出すのは大変なことですわね。道は遠いですけれど、私もこれから《索敵》が獲得できるよう、精進しなければ、と思いましたわ」

クローナは、今日の午前中一生懸命リーダーとして頑張ってくれたが、その経験はなかなか苦いものだったらしい。あまりに思ったようにいかないので、呆然としてしまう瞬間もあったそうだ。

「やはり、司令塔はマリスさんにお願い致しますわ。今の私では到底この役はつとめられないと思い知りました」

スッキリした顔でそう言うクローナは、最もこの合宿の意味を理解した学生かもしれない。できること、できないこと、すべきこと、すべきでないこと……それを実践で理解し、心に留めておく。それが、この合宿の大事な学びなのだ。

「さて、マリスさんも戻りましたし、最後の狩りはいい獲物を仕留めたいですね」

(午前中に10頭ほど100ポイント超えの大物〝銀狼〟を狩ってきたんだけどね。言えないけど……)

そんなことを思いつつ《索敵》をしていると、5キロほど先だが、驚いたことにこんな低地の沢沿いに山の高所にしか生息しないはずのアイスベアの姿を発見した。

「え! なんで、こんなところにアイスベアがいるのよ!」

思わず叫んだ私に、みんながびっくりしている。

「本当に、本当にアイスベアがいるの? こんな場所に?」

トルルが信じられないと言う顔で驚いている。

「もしかしたら、どこかでアイスベアより強い魔物が出たのかもしれないね。動物は危険を察知する能力が高いって言うじゃない。きっと、怖い魔物を避けて逃げてきたんじゃないかな」

確かにそれなら納得がいく。昨晩は私たちの狩りエリアの外では、銀狼たちによる大物狩りが盛大に行われていたはずだ。アイスベアもその標的だったに違いない。そのせいで、普段は来ないこのエリアにまで逃げてきた、ということなら納得がいく。

「じゃ、最後はそれだよな。やろうぜ!」

遊軍のライアンとザイクがやる気いっぱいの笑顔で、アイスベア狩りを勧めてくる。

他のメンバーも、最後に一花咲かせたいようで、じっと私の方を見る。

「どう……かな。無理かな?」

モーラとトルルが、作戦参謀の私の決断を求めてくる。

実際のところ、アイスベアは想定外だが普通の熊までは私の中で標的に入っていた。だから、10倍のしびれ薬入りペイント弾まで用意していたのだ。

(でも、あれもう全部さっき使っちゃったんだよねぇ……うーん)

クローナとオーライリの攻撃力があれば、おそらく仕留められないことないが、遊軍の危険を避けるためにちょっと作戦を立てる必要があるだろう。

「わかった。じゃ、午後いっぱい、この熊狩りのために使うことにしましょう。

一気に行くんじゃなくて、弱らせる方法を使うよ。遊軍は十分に距離をとって行動するように。アイスベアの爪は本当に危険だから。わかった?」

「了解です!」

そこからはみんなキビキビと動き始めた。

致命傷を一気に叩き込むためには、ある程度弱らせて動きを遅くしなくてはならない。本来なら私のペイント弾がその役割を担うところだが、不測の事態によりそれはできなくなってしまった。そのため、時間はかかるがアイスベアに体力を使わせ疲れさせることにした。血を流させるのが弱らせるためには最も有効だが、それをすると他の危険な魔物を呼び込みかねないので、これは最後の手段にしたい。

そこからは魔法で落とし穴を掘ったり、チクチクと痛いツタを熊の行く手に大量に生やしてみたり、熊の好きな蜂蜜を使って森中駆け回らせてみたり……。

みんなで考えた疲れそうなこと、体力を削れそうな作戦を次々に仕掛けていった。

2時間も経つと、さすがのアイスベアも動きが鈍り息が上がり始めた。明らかに歩く速度が鈍り休息をとろうとする動きが見られたので、ここからは攻撃体制に移行。

「獲物は危険なアイスベアです。一撃で仕留めなければなりません。クローナとオーライリは首を狩る気でいてください。私もペイント弾を首に集中的に叩き込みます」

「わかったわ。オーライリの《風の刃》のすぐ後に私が《炎の槍》を打ち込みましょう。その方が、より強力な魔法になるわよね」

「正確に狙えば、それで致命傷になると思います。そうですよね、マリスさん」

攻撃役のふたりは、この狩りを通じてお互いの技量や長所についてもよくわかってきているようだった。

「その通りだね。それで、決まりだよ。じゃ、行こうか」

たった1日半で、すっかり連携のとれた私たちは、恐ろしい巨大な熊にもまったく怯まず、だが侮ることなく最後のとどめを刺しに向かっていった。
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