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3 魔法学校の聖人候補
445 暴走
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445
オオネズミ18匹に野ウサギ39羽、セルツ山羊4頭、そして〝アイス・バード〟5羽。
私たちの〝クローナ組〟は、ぶっちぎりの1位だった。
2位のチームとはダブルスコア以上の得点差があり、これを残りの1日で取り返すのは無理かもしれないと、張り出された得点表の前でいくつかのチームから絶望的なため息が出ている。
はしゃぐクローナ組の面々とは対照的に、内心私は絶望に打ちひしがれている他のチーム以上に慌てていた。上位のグループが率いるチームはもう少し頑張ると予想していたので、あまりの大差にかなり焦っていたのだ。
(参ったな、やりすぎちゃった。明日はもう少し……いや、かなりペースを落とさないとまずいかもね)
コミュニケーション能力の高いトルルやオーライリが集めてきてくれた情報のおかげでわかった、他のチームの今日の様子はというと、やはりほとんど連携が取れないまま好き勝手に狩りを続けたチームばかりだったようだ。しかも、同じような場所に複数のチームが入ったせいで、獲物の奪い合いも頻発し、怯えた動物たちはその周囲から逃げてしまうしで、どこも思ったような収穫は得られなかったと悔しさをにじませていたそうだ。
チームによっては状況を打破しようと強行軍に打って出る作戦を取り、昼もろくに休まず、かなり遠くまで森に分け入ったそうだが、午後からの急激な冷え込みで体力を奪われ、結局攻撃をする余裕もなく帰ることになったそうだ。グループ内の諍いが始まったチームもかなりあったようで、監視していた先生方が仲裁に入ったところもいくつか出たという。確かに戻ってきてからチーム全体が暗い感じになっているグループがいくつかあるのは、私にもわかった。
「この合宿では単独行動は厳禁なんですけど、明日はひとりで行くと言ってきかない子も多いそうで、先生に怒られまくってましたよ。落第したいなら勝手にしろって言われたらしいです。申請したグループ以外での再編成も認められていませんから、明日はギスギスした感じのまま狩りに出るグループも多そうですよ。この調子だとどうやら、もう私たちの勝ちは決まりですね」
オーライリは、すでに自分のチームの優勝を確信しているようだ。確かに他の学生たちの現状を聞く限り、私たちに今日と同じ行動ができれば、優勝は間違いないだろう。
(ただ、そうなると心配もあるんだよね。私としては上位入賞ぐらいにしておきたかったんだけどなぁ……)
私は、私たちのグループをギラギラした目で睨みつけている成績上位陣率いるグループの様子に一抹の不安を感じつつ、1日目の収穫を賞賛し、その秘密を聞き出そうとする子たちに囲まれながら、合宿1日目の夜を過ごした。
そして2日目、狩りは今日で終わり。この日1日に合宿の成績がかかっている。
今日、私たちのグループは最後に出発する。前日の成績の悪い順の出発なのは、少しでも彼らに有利にしてあげたいという運営側の親心というものだろう。こちらも焦る気持ちはないので、30ー40分後になる出発を、合宿所でお茶を飲みながら、今日の作戦を話し合いつつ待つことにした。
そこに駆け込んできたのは、チェット・モートさん。彼も監視役として来ていたのだが、どうやら何かトラブルがあったらしい。
「アルジン組、カーン組、エバーサイス組、見失いました!」
この3組はいづれも成績上位者をリーダーに据えた貴族組だ。
「何か魔道具を持ち込んでいたらしく、それで高速移動したようです。彼らの位置がわかりません」
運営本部の人たちは、焦った様子であちこちに指示を出し、探索を開始している。《伝令》が一気に飛び交い、合宿所の食堂は騒然とし始めた。
「どうやら、この3つのグループは共闘したようです。その上で、高い得点が狙える危険な魔獣のいる場所を目指しているという話です。昨日の狩りの時に、エリアの外周ギリギリまで進んだグループが見たアイスゴブリンとアイスベアを狙う、と聞いた学生がいました」
「馬鹿なことを!! どちらか一方でも1年生には危険すぎる!!」
どうやら、私たちのグループが昨日と同じぐらいの成績を出せば、絶対に勝機はないと考えた成績上位グループは、起死回生の手段として、1匹で高得点を狙える魔獣に狙いを絞ったようだ。さすがに、1グループだけでは厳しいと思ったようで、3つのチームが合同で向かったようだが、昨日ちょっと見た程度の不確かな情報で、危険な魔獣に挑もうとは、無謀にもほどがある。
「あの人たちのプライドを甘く見ていましたね。どうあっても私たちのチームには負けたくないんでしょう」
オーライリがため息混じりにそう言った。
「お恥ずかしい話ですが、私たち貴族の子弟は狩りを甘く見ています。子供の頃から、訓練の一環として行っているせいで簡単だと思っているのです。本当は、危なくない場所を選んで、しかも自領で皆に守られながらしているにもかかわらず、全て自分でできると思ってしまっているのです……」
クローナは、成績上位者たちの暴挙に眉をしかめていた。彼女も私たちと狩りの訓練を始め、実際に行ってみた昨日まで、狩りのために必要な知識や心構えについて何も知らないことに気づかなかったそうだ。
「彼らは何の疑いもなく、自分たちはできると思っているはずです。本当に危険なのに、全然気づいていない。彼らが無事に戻って来られるかどうか、本当に心配です」
大騒ぎになっている本部の様子を見ながら、私たちは言葉少なに彼らの無事を祈るしかなかった。
オオネズミ18匹に野ウサギ39羽、セルツ山羊4頭、そして〝アイス・バード〟5羽。
私たちの〝クローナ組〟は、ぶっちぎりの1位だった。
2位のチームとはダブルスコア以上の得点差があり、これを残りの1日で取り返すのは無理かもしれないと、張り出された得点表の前でいくつかのチームから絶望的なため息が出ている。
はしゃぐクローナ組の面々とは対照的に、内心私は絶望に打ちひしがれている他のチーム以上に慌てていた。上位のグループが率いるチームはもう少し頑張ると予想していたので、あまりの大差にかなり焦っていたのだ。
(参ったな、やりすぎちゃった。明日はもう少し……いや、かなりペースを落とさないとまずいかもね)
コミュニケーション能力の高いトルルやオーライリが集めてきてくれた情報のおかげでわかった、他のチームの今日の様子はというと、やはりほとんど連携が取れないまま好き勝手に狩りを続けたチームばかりだったようだ。しかも、同じような場所に複数のチームが入ったせいで、獲物の奪い合いも頻発し、怯えた動物たちはその周囲から逃げてしまうしで、どこも思ったような収穫は得られなかったと悔しさをにじませていたそうだ。
チームによっては状況を打破しようと強行軍に打って出る作戦を取り、昼もろくに休まず、かなり遠くまで森に分け入ったそうだが、午後からの急激な冷え込みで体力を奪われ、結局攻撃をする余裕もなく帰ることになったそうだ。グループ内の諍いが始まったチームもかなりあったようで、監視していた先生方が仲裁に入ったところもいくつか出たという。確かに戻ってきてからチーム全体が暗い感じになっているグループがいくつかあるのは、私にもわかった。
「この合宿では単独行動は厳禁なんですけど、明日はひとりで行くと言ってきかない子も多いそうで、先生に怒られまくってましたよ。落第したいなら勝手にしろって言われたらしいです。申請したグループ以外での再編成も認められていませんから、明日はギスギスした感じのまま狩りに出るグループも多そうですよ。この調子だとどうやら、もう私たちの勝ちは決まりですね」
オーライリは、すでに自分のチームの優勝を確信しているようだ。確かに他の学生たちの現状を聞く限り、私たちに今日と同じ行動ができれば、優勝は間違いないだろう。
(ただ、そうなると心配もあるんだよね。私としては上位入賞ぐらいにしておきたかったんだけどなぁ……)
私は、私たちのグループをギラギラした目で睨みつけている成績上位陣率いるグループの様子に一抹の不安を感じつつ、1日目の収穫を賞賛し、その秘密を聞き出そうとする子たちに囲まれながら、合宿1日目の夜を過ごした。
そして2日目、狩りは今日で終わり。この日1日に合宿の成績がかかっている。
今日、私たちのグループは最後に出発する。前日の成績の悪い順の出発なのは、少しでも彼らに有利にしてあげたいという運営側の親心というものだろう。こちらも焦る気持ちはないので、30ー40分後になる出発を、合宿所でお茶を飲みながら、今日の作戦を話し合いつつ待つことにした。
そこに駆け込んできたのは、チェット・モートさん。彼も監視役として来ていたのだが、どうやら何かトラブルがあったらしい。
「アルジン組、カーン組、エバーサイス組、見失いました!」
この3組はいづれも成績上位者をリーダーに据えた貴族組だ。
「何か魔道具を持ち込んでいたらしく、それで高速移動したようです。彼らの位置がわかりません」
運営本部の人たちは、焦った様子であちこちに指示を出し、探索を開始している。《伝令》が一気に飛び交い、合宿所の食堂は騒然とし始めた。
「どうやら、この3つのグループは共闘したようです。その上で、高い得点が狙える危険な魔獣のいる場所を目指しているという話です。昨日の狩りの時に、エリアの外周ギリギリまで進んだグループが見たアイスゴブリンとアイスベアを狙う、と聞いた学生がいました」
「馬鹿なことを!! どちらか一方でも1年生には危険すぎる!!」
どうやら、私たちのグループが昨日と同じぐらいの成績を出せば、絶対に勝機はないと考えた成績上位グループは、起死回生の手段として、1匹で高得点を狙える魔獣に狙いを絞ったようだ。さすがに、1グループだけでは厳しいと思ったようで、3つのチームが合同で向かったようだが、昨日ちょっと見た程度の不確かな情報で、危険な魔獣に挑もうとは、無謀にもほどがある。
「あの人たちのプライドを甘く見ていましたね。どうあっても私たちのチームには負けたくないんでしょう」
オーライリがため息混じりにそう言った。
「お恥ずかしい話ですが、私たち貴族の子弟は狩りを甘く見ています。子供の頃から、訓練の一環として行っているせいで簡単だと思っているのです。本当は、危なくない場所を選んで、しかも自領で皆に守られながらしているにもかかわらず、全て自分でできると思ってしまっているのです……」
クローナは、成績上位者たちの暴挙に眉をしかめていた。彼女も私たちと狩りの訓練を始め、実際に行ってみた昨日まで、狩りのために必要な知識や心構えについて何も知らないことに気づかなかったそうだ。
「彼らは何の疑いもなく、自分たちはできると思っているはずです。本当に危険なのに、全然気づいていない。彼らが無事に戻って来られるかどうか、本当に心配です」
大騒ぎになっている本部の様子を見ながら、私たちは言葉少なに彼らの無事を祈るしかなかった。
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