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3 魔法学校の聖人候補
442 参謀はお子さま魔法使い
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442
冬合宿の競技は、狩ってきたものに対してのポイント制になっている。
調べによると、狩りが行われる合宿所周辺では、確かに鳥やら小動物やら小型の危険度の低い魔物が生息数の大多数を占めていた。特に冬には〝アイス・バード〟と呼ばれる寒冷地にしかいない鳥の魔物が多くいるそうだ。これは大型で羽の一部を凍らせ針のようにして攻撃してくるので要注意だ。捕らえた後は上質の肉と美しい飾り羽が取れ、なかなかいい値段で売れ、この飾り羽を織り込んだ帽子やマントは先住民族たちの作る民芸品にもなる。
ウサギやオオネズミ、食用になる大きさの鳥は1ポイント、〝アイス・バード〟のような特殊な攻撃力を持つ魔物は5ポイント、鹿、イノシシなどは3ポイント、魔石を内に持つ魔獣は50ポイント以上だそうだ。この辺りだと鉄のような爪を持つ巨大な氷熊という魔獣がこれに当たるそうだが、これを狩るにはかなり山の奥へ入ることになる。過去にはゴブリンとの遭遇例もあったというが、現在の区域が指定されてからは、それもなくなったそうだ。
(氷熊にトライできるのは、貴族組ぐらいだろうね)
となれば、こちらは数を稼ぐ作戦に徹してみようかと思う。
まずは事前準備だ。
私はアタタガ・フライに頼んで、狩りが行われるエリアの地形を詳細に見て回った。この周辺は魔法に関わる重要なものがたくさんあるため、軍の機密に関わるとして冒険者ギルドでは詳細な地図が手に入らない特殊な地域だ。
だが、私には《完全脳内地図把握》がある。これがあれば一度頭に入った地図情報は決して忘れないし、正確な地図情報に基づいた作戦が立てられる。半日ほどかけて飛び回わると、狩りの準備に必要となる充分な情報を手に入れることができた。当然、他のグループも似たようなことをしているかと思ったが、どうもその気配はない。
考えてみればこの能力も、相当《鑑定》を鍛え上げたあとでないと手の入らないものなので、若い学生たちには持っている者が少ないのかもしれない。増してまだ他に覚えるべき魔法が山積みの魔法学校の一年生には《鑑定》を磨くような魔法力の余裕はなく、こういった地図関連の技能を持つ者はいないのかもしれない。
そう考えると、これはかなりのアドバンテージになるはずなので、しっかりと準備はさせてもらう。
私はメンバー全員に重要なポイントを書き記した簡易地図を渡し、みんなとの打ち合わせでも、この地図をできる限り頭に入れてくれるよう頼んだ。迅速な連携のためには必須のことなので、かなり時間をかけて説明し、地図の見方も教えながら、作戦会議を進めた。
今回はクローナとオーライリに攻撃役になってもらい、そのほかのメンバーは攻撃しつつも動物の回収も行う遊軍のようなポジションにいてもらうことにした。
「今回は、捕まえる獲物の数を稼ぎたいので、効率を意識した作戦でいきたいと思います」
トルル、ライアン、ザイク、モーラは、近接攻撃ならば獲物を仕留められるが、近づき過ぎれば逃げられるリスクが高くなるし、何より慎重に近づくために必要な時間が惜しい。
そこで私はマーカー担当になることにした。
私は《索敵》で発見した獲物にペイント弾を《風魔法》を使って発射。同時にその方向を私の近くで見ているクローナとオーライリに告げる。ふたりはその方向とペイントを頼りに遠距離からの攻撃魔法を放つ。
これで、ほぼ仕留められるので、遊軍が速攻で近づいて、もしまだ生きていた場合はとどめを刺して回収する。
この回収作業は、本当はセーヤとソーヤが物凄く上手なのだが、このチーム戦での狩りのルール上、残念ながらチーム以外からのサポートを受けることはルール違反となり使えない。その代わり、ソーヤとセーヤには事前に遊軍のメンバーの指導係を頼み、そのコツを教えてもらい、訓練も行なった。皆、どうやらこの訓練がうまくいくと、かなりいい成績が出せそうな気配に、最初のやる気のなさが信じられないぐらい真剣に、ふたりの妖精さんによる結構キツ目の訓練を受けてくれた。
魔法学校側からこの実習中各グループにひとつづつマジックバッグが支給される。遊軍はこのマジックバッグを持つ役を中心にフォーメーションを組むので、私は彼らが動きやすい位置の獲物をマーキングしていくことが重要になるだろう。
「なんだか、面白い合宿になりそうね、マリスさん」
あまり、こういった団体行動をしたことがないクローナは、最初こそギクシャクしていたものの、何度も訓練とミーティングを重ねるうち、非常にいいスナイパーに成長していった。おそらく、実力のある上位グループはクローナのような団体行動が苦手なタイプが多く、力押しでくるだろう。それが狙い目だ。
彼らにない連携が、この団体戦の勝負を決める。
訓練の後は、みんなで鍋を囲んで親睦会もした。わいわい話しながら、問題点や反省点を話し合うのは、ゲームをしているような爽快感がある。授業の合間を縫っての訓練は大変だが、なんだかみんな楽しそうだ。全員が必要な役割だということをしっかり伝えているので、どの子も自信に満ちた様子で役割を全うしてくれているし、いいチームだと思う。
博士の研究塔に帰ると、ソーヤに
「メイロードさまが、マーキング用のペイント弾の代わりに石でも投げれば、それで何十匹でもイチコロなんじゃないですか?」
と身もふたもないことを言ってくる。
「私は〝正確性は高いけど攻撃力はない〟設定なんだから、そんな大量殺戮しちゃまずいでしょうが!」
そう、私はあくまでか弱いお子様魔法使い、攻撃はお姉さま方にお任せなのです。
冬合宿の競技は、狩ってきたものに対してのポイント制になっている。
調べによると、狩りが行われる合宿所周辺では、確かに鳥やら小動物やら小型の危険度の低い魔物が生息数の大多数を占めていた。特に冬には〝アイス・バード〟と呼ばれる寒冷地にしかいない鳥の魔物が多くいるそうだ。これは大型で羽の一部を凍らせ針のようにして攻撃してくるので要注意だ。捕らえた後は上質の肉と美しい飾り羽が取れ、なかなかいい値段で売れ、この飾り羽を織り込んだ帽子やマントは先住民族たちの作る民芸品にもなる。
ウサギやオオネズミ、食用になる大きさの鳥は1ポイント、〝アイス・バード〟のような特殊な攻撃力を持つ魔物は5ポイント、鹿、イノシシなどは3ポイント、魔石を内に持つ魔獣は50ポイント以上だそうだ。この辺りだと鉄のような爪を持つ巨大な氷熊という魔獣がこれに当たるそうだが、これを狩るにはかなり山の奥へ入ることになる。過去にはゴブリンとの遭遇例もあったというが、現在の区域が指定されてからは、それもなくなったそうだ。
(氷熊にトライできるのは、貴族組ぐらいだろうね)
となれば、こちらは数を稼ぐ作戦に徹してみようかと思う。
まずは事前準備だ。
私はアタタガ・フライに頼んで、狩りが行われるエリアの地形を詳細に見て回った。この周辺は魔法に関わる重要なものがたくさんあるため、軍の機密に関わるとして冒険者ギルドでは詳細な地図が手に入らない特殊な地域だ。
だが、私には《完全脳内地図把握》がある。これがあれば一度頭に入った地図情報は決して忘れないし、正確な地図情報に基づいた作戦が立てられる。半日ほどかけて飛び回わると、狩りの準備に必要となる充分な情報を手に入れることができた。当然、他のグループも似たようなことをしているかと思ったが、どうもその気配はない。
考えてみればこの能力も、相当《鑑定》を鍛え上げたあとでないと手の入らないものなので、若い学生たちには持っている者が少ないのかもしれない。増してまだ他に覚えるべき魔法が山積みの魔法学校の一年生には《鑑定》を磨くような魔法力の余裕はなく、こういった地図関連の技能を持つ者はいないのかもしれない。
そう考えると、これはかなりのアドバンテージになるはずなので、しっかりと準備はさせてもらう。
私はメンバー全員に重要なポイントを書き記した簡易地図を渡し、みんなとの打ち合わせでも、この地図をできる限り頭に入れてくれるよう頼んだ。迅速な連携のためには必須のことなので、かなり時間をかけて説明し、地図の見方も教えながら、作戦会議を進めた。
今回はクローナとオーライリに攻撃役になってもらい、そのほかのメンバーは攻撃しつつも動物の回収も行う遊軍のようなポジションにいてもらうことにした。
「今回は、捕まえる獲物の数を稼ぎたいので、効率を意識した作戦でいきたいと思います」
トルル、ライアン、ザイク、モーラは、近接攻撃ならば獲物を仕留められるが、近づき過ぎれば逃げられるリスクが高くなるし、何より慎重に近づくために必要な時間が惜しい。
そこで私はマーカー担当になることにした。
私は《索敵》で発見した獲物にペイント弾を《風魔法》を使って発射。同時にその方向を私の近くで見ているクローナとオーライリに告げる。ふたりはその方向とペイントを頼りに遠距離からの攻撃魔法を放つ。
これで、ほぼ仕留められるので、遊軍が速攻で近づいて、もしまだ生きていた場合はとどめを刺して回収する。
この回収作業は、本当はセーヤとソーヤが物凄く上手なのだが、このチーム戦での狩りのルール上、残念ながらチーム以外からのサポートを受けることはルール違反となり使えない。その代わり、ソーヤとセーヤには事前に遊軍のメンバーの指導係を頼み、そのコツを教えてもらい、訓練も行なった。皆、どうやらこの訓練がうまくいくと、かなりいい成績が出せそうな気配に、最初のやる気のなさが信じられないぐらい真剣に、ふたりの妖精さんによる結構キツ目の訓練を受けてくれた。
魔法学校側からこの実習中各グループにひとつづつマジックバッグが支給される。遊軍はこのマジックバッグを持つ役を中心にフォーメーションを組むので、私は彼らが動きやすい位置の獲物をマーキングしていくことが重要になるだろう。
「なんだか、面白い合宿になりそうね、マリスさん」
あまり、こういった団体行動をしたことがないクローナは、最初こそギクシャクしていたものの、何度も訓練とミーティングを重ねるうち、非常にいいスナイパーに成長していった。おそらく、実力のある上位グループはクローナのような団体行動が苦手なタイプが多く、力押しでくるだろう。それが狙い目だ。
彼らにない連携が、この団体戦の勝負を決める。
訓練の後は、みんなで鍋を囲んで親睦会もした。わいわい話しながら、問題点や反省点を話し合うのは、ゲームをしているような爽快感がある。授業の合間を縫っての訓練は大変だが、なんだかみんな楽しそうだ。全員が必要な役割だということをしっかり伝えているので、どの子も自信に満ちた様子で役割を全うしてくれているし、いいチームだと思う。
博士の研究塔に帰ると、ソーヤに
「メイロードさまが、マーキング用のペイント弾の代わりに石でも投げれば、それで何十匹でもイチコロなんじゃないですか?」
と身もふたもないことを言ってくる。
「私は〝正確性は高いけど攻撃力はない〟設定なんだから、そんな大量殺戮しちゃまずいでしょうが!」
そう、私はあくまでか弱いお子様魔法使い、攻撃はお姉さま方にお任せなのです。
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