252 / 837
3 魔法学校の聖人候補
441 クローナ組で参戦します
しおりを挟む
441
「私をマリスさんのグループに入れてはいただけないかしら……」
冬合宿のためのグループ決め申請直前になって、そう言い出したのはクローナ・サンス嬢。
私たちのグループは、クローナは当然順位の高い貴族たちのグループに誘われているだろうから、と思い自分たちのグループに誘うことを遠慮していた。そして予想通りそういう誘いを受けたクローナだったが、まずいことにふたつの上級貴族の子弟がリーダーをしている非常に仲の悪いグループの双方から勧誘を受けてしまい、苦境立つことになってしまっている。
「どちらも私の立場からはお断りしにくい方々なのですが、それ以上に相手方に与するという状況になることは困るのです。こうなっては、敵対する意思のないことを示すには、どちらのグループでもないところに入るしかありません」
この状況を既に知っている貴族たち中心のグループは、どこもクローナの受け入れをやんわりと断ってきているそうで、クローナは行き場所に窮していたのだ。
「このままだと、先生方の調整が入り、気まずいままどこかの貴族のグループに入れられる可能性が高いのです」
貴族にしてはストレートで裏表のない性格のクローナは、こういう面倒ごとが本当に苦手のようで、いつもの勢いはどこへやら、という萎れた様子だ。
「それぐらいなら、気心の知れていて貴族たちからは注目されない、一般生徒の私たちのグループに入った方がいいよね。みんなもいいでしょ? クローナも大変だったのね」
私は〝同情するわ〟という表情で、状況を説明してくれたクローナに答えた。
放課後、申請用のメンバーリストを書くためお茶をしながら集まっていた私たちのグループ。クローナの加入は、戦力として最高に有難い申し出なので、全員賛成で一も二もなく了承した。
「ただ、この冬合宿は完全なチーム戦だから、クローナにとっては厳しいものになっちゃうと思うよ。私、絶対足を引っ張っちゃうだろうし……」
やっぱり二学期中の《基礎魔法講座》の必須魔法クリアはならなかったトルルは、貴族のクローナが求められる成績を、この庶民オンリーのしかも《基礎魔法講座》未達成組が半数を占めるグループでは、達成できないのではないかと不安に思っているようだ。
「いえ、トルル。そんなことは考えないで下さい。こんな間際になって加入をお願いする私の方がずっとご迷惑なのですから。その分、少しでも皆さんのお役に立ちたい、そう思っています」
いつもよりトーンダウンした、だいぶ殊勝なクローナの物言いに、トルルもびっくりしていたが、それだけクローナが追い詰められているのがみんなに伝わり、この加入はお互いにとっていいことなのだと確認することができた。
「では、トルル、ライアン、ザイク、モーラ、クローナそしてマリスさん、それに私の7名で申請書を出しますね」
オーライリは申請書を書き上げるとみんなに見せた。
「代表者はクローナでいいですよね、マリスさん」
「そうね。それが妥当でしょうね」
さすがに、メンバーに成績上位者の貴族がいるのにそれを差し置いて、他の人間をリーダーにはしにくい。いらない反発を防ぐためにも、クローナに代表を任せるのがいいだろう。
「でも、作戦参謀はマリスさんにお願いしたいと思うのですが、みなさんいかがですか?」
オーライリの言葉にみんなから賛成の声が上がる。
「え、そんな役職ないよね」
「まあまあ、みんなの総意ですから、私たちの中だけのことですし、いいじゃないですか」
策士オーライリ、どうやら最初から私に勝つ方法を考えさせる気だったらしい。
(この子は、私が〝メイロード・マリス〟だって知っているから、私ならこの戦力でも勝てる方法を何か考えてくれると思っているんだろうなぁ。うーん、期待が目の出てるよ)
確かに、クローナの参加で、このグループの戦力は増強された。と同時にクローナに恥をかかせない程度の成績を達成することは必須になってしまった。
今回の肝は〝グループ戦〟であること。個人の成績は表にでないし、そういう点では私の作戦次第ではうまく全体の成績を上げられる可能性はある。
(これはちょっと本気で作戦を立てなきゃいけなくなってきちゃったな)
まずは、今回の合宿で〝狩場〟に指定されている場所の状況を事前に把握しておく必要があるだろう。それによって作戦は大きく変わる。事前に役割分担を決め、有利になる魔法の訓練を行えれば、それだけでもだいぶ違うはずだ。そういう意味ではもう勝負は始まっている。
ポイントの獲得方法など、試合に関するルールについてもキッチリ調べておくことによう。
気合い十分で、楽しそうに合宿について話し合うみんなの中で、私はお茶を飲むことも忘れて、ひとりノートにペンを走らせていた。
「私をマリスさんのグループに入れてはいただけないかしら……」
冬合宿のためのグループ決め申請直前になって、そう言い出したのはクローナ・サンス嬢。
私たちのグループは、クローナは当然順位の高い貴族たちのグループに誘われているだろうから、と思い自分たちのグループに誘うことを遠慮していた。そして予想通りそういう誘いを受けたクローナだったが、まずいことにふたつの上級貴族の子弟がリーダーをしている非常に仲の悪いグループの双方から勧誘を受けてしまい、苦境立つことになってしまっている。
「どちらも私の立場からはお断りしにくい方々なのですが、それ以上に相手方に与するという状況になることは困るのです。こうなっては、敵対する意思のないことを示すには、どちらのグループでもないところに入るしかありません」
この状況を既に知っている貴族たち中心のグループは、どこもクローナの受け入れをやんわりと断ってきているそうで、クローナは行き場所に窮していたのだ。
「このままだと、先生方の調整が入り、気まずいままどこかの貴族のグループに入れられる可能性が高いのです」
貴族にしてはストレートで裏表のない性格のクローナは、こういう面倒ごとが本当に苦手のようで、いつもの勢いはどこへやら、という萎れた様子だ。
「それぐらいなら、気心の知れていて貴族たちからは注目されない、一般生徒の私たちのグループに入った方がいいよね。みんなもいいでしょ? クローナも大変だったのね」
私は〝同情するわ〟という表情で、状況を説明してくれたクローナに答えた。
放課後、申請用のメンバーリストを書くためお茶をしながら集まっていた私たちのグループ。クローナの加入は、戦力として最高に有難い申し出なので、全員賛成で一も二もなく了承した。
「ただ、この冬合宿は完全なチーム戦だから、クローナにとっては厳しいものになっちゃうと思うよ。私、絶対足を引っ張っちゃうだろうし……」
やっぱり二学期中の《基礎魔法講座》の必須魔法クリアはならなかったトルルは、貴族のクローナが求められる成績を、この庶民オンリーのしかも《基礎魔法講座》未達成組が半数を占めるグループでは、達成できないのではないかと不安に思っているようだ。
「いえ、トルル。そんなことは考えないで下さい。こんな間際になって加入をお願いする私の方がずっとご迷惑なのですから。その分、少しでも皆さんのお役に立ちたい、そう思っています」
いつもよりトーンダウンした、だいぶ殊勝なクローナの物言いに、トルルもびっくりしていたが、それだけクローナが追い詰められているのがみんなに伝わり、この加入はお互いにとっていいことなのだと確認することができた。
「では、トルル、ライアン、ザイク、モーラ、クローナそしてマリスさん、それに私の7名で申請書を出しますね」
オーライリは申請書を書き上げるとみんなに見せた。
「代表者はクローナでいいですよね、マリスさん」
「そうね。それが妥当でしょうね」
さすがに、メンバーに成績上位者の貴族がいるのにそれを差し置いて、他の人間をリーダーにはしにくい。いらない反発を防ぐためにも、クローナに代表を任せるのがいいだろう。
「でも、作戦参謀はマリスさんにお願いしたいと思うのですが、みなさんいかがですか?」
オーライリの言葉にみんなから賛成の声が上がる。
「え、そんな役職ないよね」
「まあまあ、みんなの総意ですから、私たちの中だけのことですし、いいじゃないですか」
策士オーライリ、どうやら最初から私に勝つ方法を考えさせる気だったらしい。
(この子は、私が〝メイロード・マリス〟だって知っているから、私ならこの戦力でも勝てる方法を何か考えてくれると思っているんだろうなぁ。うーん、期待が目の出てるよ)
確かに、クローナの参加で、このグループの戦力は増強された。と同時にクローナに恥をかかせない程度の成績を達成することは必須になってしまった。
今回の肝は〝グループ戦〟であること。個人の成績は表にでないし、そういう点では私の作戦次第ではうまく全体の成績を上げられる可能性はある。
(これはちょっと本気で作戦を立てなきゃいけなくなってきちゃったな)
まずは、今回の合宿で〝狩場〟に指定されている場所の状況を事前に把握しておく必要があるだろう。それによって作戦は大きく変わる。事前に役割分担を決め、有利になる魔法の訓練を行えれば、それだけでもだいぶ違うはずだ。そういう意味ではもう勝負は始まっている。
ポイントの獲得方法など、試合に関するルールについてもキッチリ調べておくことによう。
気合い十分で、楽しそうに合宿について話し合うみんなの中で、私はお茶を飲むことも忘れて、ひとりノートにペンを走らせていた。
244
お気に入りに追加
13,119
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。