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3 魔法学校の聖人候補
440 解体はお任せします!
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440
こんな魔術一辺倒の場所にも関わらず、セルツの街にもちゃんと冒険者ギルドはあった。
冒険者ギルトという名前だけだと、切った張ったの大冒険をする者たちばかりの感じがしてしまうが、実際はそんなことはごく一部で、何でも屋に近い側面もある。
この場所はとても特殊だ。大事な魔法に関するあれこれを守るため、外敵に見つかりにくい場所に作られた、この標高の高い山中にあるセルツの冒険者ギルドには、地元出身の冒険者たちが多く、ここを拠点にしてダンジョンや危険な討伐を行うという人々は少ない。そう、決して実入りのいい仕事は多くない地域だ。とはいえ、依頼が絶えるようなことはない。依頼内容は特定の動植物の狩りや採取、その他には護衛の依頼などが多いく、四方を山に囲まれているため、移動時に危険な目にあう可能性が高いので護衛の依頼も定番だ。
もうひとつ、冒険者ギルドにこうしたよろず屋的な小さな依頼が集中する理由がある。魔術師のへの依頼料が高額だという世知辛い現実がそれだ。同じ依頼内容でも報酬が一桁違うので、他の場所よりずっと魔法使いの密度が濃いここでも一般の人たちは冒険者ギルドを選んで依頼する。
(国家資格を持った技能専門職はどうしても割高になるよね。逆に言えば魔術師への依頼は冒険者たちの手に負えないほど難しいものばかりってことになるけど……)
ここの冒険者ギルドの買取は商人ギルドの買取担当が兼任していて、どちらのギルドに持ち込んでも同じ金額で買取をしてくれるそうだ。値踏みのプロの少ない地方のギルドではこういう場所は少なくないそうで、ギルド同士の連携がうまく取れている今の体制では、どちらにもメリットのある方法になっている。
実は私がセルツの冒険者ギルドへやってきたのは、ここの解体屋はプロ中のプロだから、特に癖のある魔物や大型動物の解体は任せた方がいい、と市場の人に教えてもらったからだ。
もうすぐ行くことになってしまった狩猟実践訓練のための冬合宿について考え始めてから、なぜか熊肉に取り憑かれていた私だが、もし山で熊を仕留めたとして、どうしてもそれの解体ができるとは思えずに、密かに悩んでいた。
(いや、多分できるんだよ。魔法を使ってあれこれすればね。でも……ヘタレでごめん。熊の解体、できるならしたくない、プロがいるならお任せしたいんです)
買い物がてら行った市場で、大物を手に入れた冒険者がどうするのか聞き、この答えをもらった時には本当に肩の力が抜けた。
(よかった、熊を解体せずに済んだよ)
トルルたちに話したら、
「本当にそんな巨大な熊を狩る気なの?」
と大いに驚かれ、呆れられた。しかも、解体の心配までしてるって、と大笑いもされた。
「取らぬ狸もいいとこだよ。私たちの行く場所には、熊とかいないと思うよ。幾ら何でも最初からそこまで危険な場所には連れて行かないでしょ。狙うのは大きくても狐か鹿ぐらいの大きさの動物じゃない?」
確かにトルルに言われるまで、私は自分が参加するのが〝初心者合宿〟であることをすっかり忘れていた。
(熊はないよねぇ……は、ははは)
私は思わず熊料理について考え色々書き込んでいたお料理ノートを手で隠した。
こんな魔術一辺倒の場所にも関わらず、セルツの街にもちゃんと冒険者ギルドはあった。
冒険者ギルトという名前だけだと、切った張ったの大冒険をする者たちばかりの感じがしてしまうが、実際はそんなことはごく一部で、何でも屋に近い側面もある。
この場所はとても特殊だ。大事な魔法に関するあれこれを守るため、外敵に見つかりにくい場所に作られた、この標高の高い山中にあるセルツの冒険者ギルドには、地元出身の冒険者たちが多く、ここを拠点にしてダンジョンや危険な討伐を行うという人々は少ない。そう、決して実入りのいい仕事は多くない地域だ。とはいえ、依頼が絶えるようなことはない。依頼内容は特定の動植物の狩りや採取、その他には護衛の依頼などが多いく、四方を山に囲まれているため、移動時に危険な目にあう可能性が高いので護衛の依頼も定番だ。
もうひとつ、冒険者ギルドにこうしたよろず屋的な小さな依頼が集中する理由がある。魔術師のへの依頼料が高額だという世知辛い現実がそれだ。同じ依頼内容でも報酬が一桁違うので、他の場所よりずっと魔法使いの密度が濃いここでも一般の人たちは冒険者ギルドを選んで依頼する。
(国家資格を持った技能専門職はどうしても割高になるよね。逆に言えば魔術師への依頼は冒険者たちの手に負えないほど難しいものばかりってことになるけど……)
ここの冒険者ギルドの買取は商人ギルドの買取担当が兼任していて、どちらのギルドに持ち込んでも同じ金額で買取をしてくれるそうだ。値踏みのプロの少ない地方のギルドではこういう場所は少なくないそうで、ギルド同士の連携がうまく取れている今の体制では、どちらにもメリットのある方法になっている。
実は私がセルツの冒険者ギルドへやってきたのは、ここの解体屋はプロ中のプロだから、特に癖のある魔物や大型動物の解体は任せた方がいい、と市場の人に教えてもらったからだ。
もうすぐ行くことになってしまった狩猟実践訓練のための冬合宿について考え始めてから、なぜか熊肉に取り憑かれていた私だが、もし山で熊を仕留めたとして、どうしてもそれの解体ができるとは思えずに、密かに悩んでいた。
(いや、多分できるんだよ。魔法を使ってあれこれすればね。でも……ヘタレでごめん。熊の解体、できるならしたくない、プロがいるならお任せしたいんです)
買い物がてら行った市場で、大物を手に入れた冒険者がどうするのか聞き、この答えをもらった時には本当に肩の力が抜けた。
(よかった、熊を解体せずに済んだよ)
トルルたちに話したら、
「本当にそんな巨大な熊を狩る気なの?」
と大いに驚かれ、呆れられた。しかも、解体の心配までしてるって、と大笑いもされた。
「取らぬ狸もいいとこだよ。私たちの行く場所には、熊とかいないと思うよ。幾ら何でも最初からそこまで危険な場所には連れて行かないでしょ。狙うのは大きくても狐か鹿ぐらいの大きさの動物じゃない?」
確かにトルルに言われるまで、私は自分が参加するのが〝初心者合宿〟であることをすっかり忘れていた。
(熊はないよねぇ……は、ははは)
私は思わず熊料理について考え色々書き込んでいたお料理ノートを手で隠した。
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