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3 魔法学校の聖人候補
438 冬合宿への誘い
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二学期も終盤の入ってくると、いよいよ《基礎魔法講座》のゴールが見えてくる。
とは言っても、それはまだごく限られた学生だけだし、この時点でのゴールとは622種のうち絶対覚えなければならない120種をマスターしている、ということだ。
二学期でこの必須120種をマスターした生徒は、それ以降三学期は自分の得意分野、そして自分の目標とする高等魔法への布石となる基礎魔法を中心に、622種のうちの1/3以上の基礎魔法を覚えることで《基礎魔法講座》終了となる。
私とオーライリそれにクローナは順調に合格を重ね、二学期中の必須120種合格はほぼ確実になってきているが、多くの生徒はすでに諦めの境地に達しているようだ。
トルルそれにライアン、ザイク、モーラも、適性のない属性の基礎魔法の習得に苦しみ、なかなか結果の出ない日々が続いている。それでも、例年に比べれば参考書効果でかなり合格率は高いらしいのだが、実際に合格がなかなか出ないトルルたちにとっては、そんな数字など意味はないだろう。
「もう、どうしていいのかわかんない!」
毎日ギリギリまで魔法力を使って苦手克服に挑んでいるトルルは、完全に煮詰まっていた。トルルの鬼門は《火魔法》だ。基礎魔法の中で一番覚えなければならない魔法の比率が高く、しかも繊細な操作が必要とされる《火魔法》の適性がトルルにはない。
そのため、適性のある子の倍の魔法力を使って練習せねばならず、しかも《基礎魔法講座》が進むにつれ徐々に難しいものになってきているため、魔法力の消費量はグンと上がってしまっている。
(魔法を理解していても、操作そのものは練習あるのみだから、思いっきり練習できないのは辛いよね)
「このままじゃゲレンデ・パーティーも楽しめないよぉ~」
トルルが言うゲレンデ・パーティーというのは、一年生の冬合宿最終日のイベントだそうだ。合宿では、対魔物への攻撃魔法の使用経験がない者が多い一年生に、あまり強くない動物や魔物が住む学校周辺の山の中の合宿所へ行き、教授陣の指導の下、実際の戦闘を体験させるものだ。
〝国家魔術師〟育成を最重要課題としている魔法学校としては、絶対の外せない重要なイベントであり、軍部や大貴族たちから後援がつくので豪華な褒賞とパーティーもあるという。
「合宿は全員参加なんだし、ね。楽しめばいいじゃない、トルル」
オーライリの言葉も虚しく、トルルはへこんでいる。
「入賞してもらえる豪華な賞品は魅力的だけどさぁ、こんなところでつまづいている私なんか金バッジが取れるわけじゃないし、最悪ビリになるだけだよ。そんなんで、パーティーなんて恥ずかしくて出られない!」
トルルは自信をなくして悲観的な想像が止まらないようだ。
合宿では数人のグループを組み、成果を競い合う。講師陣による調整は入るらしいが、基本的にはグループは自分たちで好きに組んでいいらしい。優秀な成績を残したグループには褒賞以外に制服につける金色のバッジが贈られるそうで、そういえば上級生には、胸に色々なバッジをつけた人がたくさんいたのを思い出した。
目に見える形で良い結果を身につけさせることで、生徒のモチベーションを上げようという学校側の考え方を表したこのバッジやピン、判る人はその色や形ですぐ何の成績評価で得たものかわかるといい、特に貴族の間では熾烈な獲得競争が展開されているそうだ。一年生が貰える確実なバッジは《基礎魔法講座》の完了を表すシルバーの校章がデザインされたバッジ。そして、冬合宿の成績優秀者に贈られる金、銀、青の羽がデザインされたバッジだ。
「マリスさんは、合宿には参加されないんですよね」
「そうね。お世話係の仕事があるから、留守にするのはね……」
オーライリは私が仲間に加わることで、トルルの気持ちが上向きになるのではないかと考えているようだ。もし可能ならば、参加してほしいと熱心に勧めてくる。
「わかった。じゃグッケンス博士に相談してみるね。一緒に行けるといいね」
私の言葉に、トルルとそれ以上にオーライリが目を輝かせた。
「メ……マリスさんと合宿! うれしいです! ね、トルル、これはきっといい合宿になりますよ!」
「そ、そうだね。マリスさんが一緒なら、そんなのひどい結果にならずに済む気がする。
ありがとう! 一緒に頑張ろうね!」
目がキラキラのオーライリとすがるような目のトルル。これは行けませんとは言いにくい。押し切られた感じではあるが、どうやら冬休み前の3日間、私は合宿に行くらしい。
(考えてみれば、私も野外で動物や魔物を狩ったことはないよね。盗賊を捕まえたり、ダンジョンでエレメンタルから逃げたり火の魔物を窒息させたり、放火魔の魔法使いを懲らしめたぐらいかな……)
どれも普通の狩りとは言い難い経験ばかりなので、今回の冬合宿は良い経験になるかもしれない。食材の確保がどこでもできるようになることは、この世界では覚えて損のない技術だろう。
私はジビエ料理のレシピをいろいろ思い浮かべながら、すっかり料理モードで冬合宿を楽しみにし始めていた。
(クマとか捕まえちゃったら料理できるかなぁ……)
二学期も終盤の入ってくると、いよいよ《基礎魔法講座》のゴールが見えてくる。
とは言っても、それはまだごく限られた学生だけだし、この時点でのゴールとは622種のうち絶対覚えなければならない120種をマスターしている、ということだ。
二学期でこの必須120種をマスターした生徒は、それ以降三学期は自分の得意分野、そして自分の目標とする高等魔法への布石となる基礎魔法を中心に、622種のうちの1/3以上の基礎魔法を覚えることで《基礎魔法講座》終了となる。
私とオーライリそれにクローナは順調に合格を重ね、二学期中の必須120種合格はほぼ確実になってきているが、多くの生徒はすでに諦めの境地に達しているようだ。
トルルそれにライアン、ザイク、モーラも、適性のない属性の基礎魔法の習得に苦しみ、なかなか結果の出ない日々が続いている。それでも、例年に比べれば参考書効果でかなり合格率は高いらしいのだが、実際に合格がなかなか出ないトルルたちにとっては、そんな数字など意味はないだろう。
「もう、どうしていいのかわかんない!」
毎日ギリギリまで魔法力を使って苦手克服に挑んでいるトルルは、完全に煮詰まっていた。トルルの鬼門は《火魔法》だ。基礎魔法の中で一番覚えなければならない魔法の比率が高く、しかも繊細な操作が必要とされる《火魔法》の適性がトルルにはない。
そのため、適性のある子の倍の魔法力を使って練習せねばならず、しかも《基礎魔法講座》が進むにつれ徐々に難しいものになってきているため、魔法力の消費量はグンと上がってしまっている。
(魔法を理解していても、操作そのものは練習あるのみだから、思いっきり練習できないのは辛いよね)
「このままじゃゲレンデ・パーティーも楽しめないよぉ~」
トルルが言うゲレンデ・パーティーというのは、一年生の冬合宿最終日のイベントだそうだ。合宿では、対魔物への攻撃魔法の使用経験がない者が多い一年生に、あまり強くない動物や魔物が住む学校周辺の山の中の合宿所へ行き、教授陣の指導の下、実際の戦闘を体験させるものだ。
〝国家魔術師〟育成を最重要課題としている魔法学校としては、絶対の外せない重要なイベントであり、軍部や大貴族たちから後援がつくので豪華な褒賞とパーティーもあるという。
「合宿は全員参加なんだし、ね。楽しめばいいじゃない、トルル」
オーライリの言葉も虚しく、トルルはへこんでいる。
「入賞してもらえる豪華な賞品は魅力的だけどさぁ、こんなところでつまづいている私なんか金バッジが取れるわけじゃないし、最悪ビリになるだけだよ。そんなんで、パーティーなんて恥ずかしくて出られない!」
トルルは自信をなくして悲観的な想像が止まらないようだ。
合宿では数人のグループを組み、成果を競い合う。講師陣による調整は入るらしいが、基本的にはグループは自分たちで好きに組んでいいらしい。優秀な成績を残したグループには褒賞以外に制服につける金色のバッジが贈られるそうで、そういえば上級生には、胸に色々なバッジをつけた人がたくさんいたのを思い出した。
目に見える形で良い結果を身につけさせることで、生徒のモチベーションを上げようという学校側の考え方を表したこのバッジやピン、判る人はその色や形ですぐ何の成績評価で得たものかわかるといい、特に貴族の間では熾烈な獲得競争が展開されているそうだ。一年生が貰える確実なバッジは《基礎魔法講座》の完了を表すシルバーの校章がデザインされたバッジ。そして、冬合宿の成績優秀者に贈られる金、銀、青の羽がデザインされたバッジだ。
「マリスさんは、合宿には参加されないんですよね」
「そうね。お世話係の仕事があるから、留守にするのはね……」
オーライリは私が仲間に加わることで、トルルの気持ちが上向きになるのではないかと考えているようだ。もし可能ならば、参加してほしいと熱心に勧めてくる。
「わかった。じゃグッケンス博士に相談してみるね。一緒に行けるといいね」
私の言葉に、トルルとそれ以上にオーライリが目を輝かせた。
「メ……マリスさんと合宿! うれしいです! ね、トルル、これはきっといい合宿になりますよ!」
「そ、そうだね。マリスさんが一緒なら、そんなのひどい結果にならずに済む気がする。
ありがとう! 一緒に頑張ろうね!」
目がキラキラのオーライリとすがるような目のトルル。これは行けませんとは言いにくい。押し切られた感じではあるが、どうやら冬休み前の3日間、私は合宿に行くらしい。
(考えてみれば、私も野外で動物や魔物を狩ったことはないよね。盗賊を捕まえたり、ダンジョンでエレメンタルから逃げたり火の魔物を窒息させたり、放火魔の魔法使いを懲らしめたぐらいかな……)
どれも普通の狩りとは言い難い経験ばかりなので、今回の冬合宿は良い経験になるかもしれない。食材の確保がどこでもできるようになることは、この世界では覚えて損のない技術だろう。
私はジビエ料理のレシピをいろいろ思い浮かべながら、すっかり料理モードで冬合宿を楽しみにし始めていた。
(クマとか捕まえちゃったら料理できるかなぁ……)
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