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3 魔法学校の聖人候補
434 一瞬の再会
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434
無事に一回戦敗退が決定し、私は心からホッとできた。魔法操作も上々だったし、傍目からも〝惜しい負け〟にうまく見えてくれたようだ。早々に負けたことで、一気に上位ランカーや貴族の方達の興味も私から離れてくれたし、むしろ〝残念だった〟とか〝いい試合だった〟といった、同情的なことを言う人もいたほどで、逆にびっくりした。今回は突然の推薦枠を得た私に対する反感と警戒心それに嫉妬だったようで、一回戦敗退した小間使いのような内弟子のである私個人に悪感情を持っていたわけではない、ということだ。
(よしよし、これで平穏な学校生活に戻れそう)
これで私はトーナメント終了後、演武をする時間まですることはなくなったので、一年生の試合の観戦に回ることにした。
トルルとオーライリは、やはり三年生の会場が気になるようで、私が負けてしまったこともありそちらの会場へと移動していった。もちろん、私がそうするように進めたのだが……。
「また、演武の時には見に戻ってくるからね!」
トルルたちはそう言って足早に去っていったが、演武の時間は三年生の決勝の時間に近いはずだ。
「もう私の敗退は決まっているんだし、三年生の決勝を見た方が勉強になるよ、きっと」
と、私は戻ってこなくてもいいこと強調しておいた。少しでも私を応援してくれようとする気持ちは友達甲斐があって嬉しいことだけれど、彼女たちにはそれに縛られず自由に観戦して欲しい。
観戦席は、貴賓席、貴族席、一般席に分かれているが、一年生の競技場はどこもがら空きだ。
私はそんな観戦席の一角にひとりでポツンと座り、家から持ってきたお茶を《火魔法》を使って少し温め直してカップに注いだ。蜂蜜入りの甘いミルクティーは、魔法というより気疲れの方が大きかった先ほどの競技での疲労感を癒してくれるような気がして、私はぼんやりと競技場を見ながらゆっくり紅茶を楽しんでいた。
〔ソーヤ、お掃除進んでる?〕
私は、今日一日外にいるため研究室の掃除や家事を頼んだソーヤに念話を送った。
〔はい、問題ございません。そちらの首尾はいかがですか?〕
〔無事に一回戦敗退できたわ。後は、演武だけ〕
〔さすがはメイロードさま。では、この後もご健闘を〕
〔ありがとう。家のこと、頼むね〕
そんなやりとりをしていると、観戦席はがら空きなのにも関わらず、私の横に座る人があった。
「なかなか興味深い試合だった。だがどうやら、私は君の意に染まぬことをしてしまったらしいな……」
そう言って、私の横でちょっと困ったような顔をしているのは、今回の仕掛け人ダイル・ドール参謀だった。
「お気になさらないでください。私の名前を思わぬところで見かけて興味を引かれただけだと承知しております。まぁ、ちょっと困りは致しましたが……。私の魔法使いとしての実力は、到底軍部のお役に立てるようなものではなかったでございましょう?」
私の言葉に、ドール参謀は苦笑いを浮かべている。
「少なくとも、メイロードがそうしておきたいということは、重々わかった。聡明な君がああいう戦いをした意味もね。いつか君の実力を見せてもらえたら嬉しいが、今はそういうことにしておいた方がいいようだな」
どうやら、私をよく知るドール参謀には、先ほどの戦いは不自然に映ってしまったようだ。確かにわざと相手の後手後手に回って、全く奇策も打ち出さない、やけにのんびりした私の様子は、ドール参謀の知る私と違いすぎるかもしれない。サガン・サイデム相手に丁々発止のやり取りをし、斬新なアイディアの品物を作り出し、どんな貴族にも怯まない、そんな肝の座った私を見てきているのだから、違和感を感じるのも無理のない話だ。
それでも、ここはしれっととぼけておくのが、お互いにとって最善策なのだ。現時点での私の実力は、こんなものだと思ってもらわなければいけない。
下手に私の実力を知ってしまえば、軍属であるドール参謀は、それを無視するわけにはいかないだろう。グッケンス博士をしてバケモノと言わしめた私の膨大な魔法力について知られでもしたら、私を買ってくれていて、支援すらしてくれようと考えているドール家の方々の悩み種を増やしてしまうだけだ。
私はできるだけ子どもらしい感じの無邪気な笑顔をドール参謀に向けた。
「私に得意な魔法があるとすれば、それは決して戦いに使えるようなものではありません。それに、そのことに私は誇りさえ感じているのです。お時間があれば、私の演武も見てくださいね。きっと私の申し上げた意味がお分かりになると思います」
ドール参謀は、私の言葉に頷くと、必ず演武も見に来ると言って、席を立った。
「サイデムは君をサイデム商会に入れるつもりで準備していたみたいだぞ。この間会った時に、魔法学校にメイロードがいるという話になったんだが〝あいつは自由すぎる〟とブツブツ言っていたよ。まぁ、才能があるのなら、若いうちは色々やってみるのもいいだろう、と慰めておいたがね」
そう言って笑い、最後に優しい笑顔でこう言った。
「かくいう私も君には大いに期待している。魔法使いでなくとも、メイロードは十分に逸材だ。
まぁ、それがなくとも、私も家族も君のことが大好きだからね。
君のためにならないことはしないよ。今回は私の思いつきに付き合わせてしまって本当にすまなかったね。
演武、楽しみにしているよ」
無事に一回戦敗退が決定し、私は心からホッとできた。魔法操作も上々だったし、傍目からも〝惜しい負け〟にうまく見えてくれたようだ。早々に負けたことで、一気に上位ランカーや貴族の方達の興味も私から離れてくれたし、むしろ〝残念だった〟とか〝いい試合だった〟といった、同情的なことを言う人もいたほどで、逆にびっくりした。今回は突然の推薦枠を得た私に対する反感と警戒心それに嫉妬だったようで、一回戦敗退した小間使いのような内弟子のである私個人に悪感情を持っていたわけではない、ということだ。
(よしよし、これで平穏な学校生活に戻れそう)
これで私はトーナメント終了後、演武をする時間まですることはなくなったので、一年生の試合の観戦に回ることにした。
トルルとオーライリは、やはり三年生の会場が気になるようで、私が負けてしまったこともありそちらの会場へと移動していった。もちろん、私がそうするように進めたのだが……。
「また、演武の時には見に戻ってくるからね!」
トルルたちはそう言って足早に去っていったが、演武の時間は三年生の決勝の時間に近いはずだ。
「もう私の敗退は決まっているんだし、三年生の決勝を見た方が勉強になるよ、きっと」
と、私は戻ってこなくてもいいこと強調しておいた。少しでも私を応援してくれようとする気持ちは友達甲斐があって嬉しいことだけれど、彼女たちにはそれに縛られず自由に観戦して欲しい。
観戦席は、貴賓席、貴族席、一般席に分かれているが、一年生の競技場はどこもがら空きだ。
私はそんな観戦席の一角にひとりでポツンと座り、家から持ってきたお茶を《火魔法》を使って少し温め直してカップに注いだ。蜂蜜入りの甘いミルクティーは、魔法というより気疲れの方が大きかった先ほどの競技での疲労感を癒してくれるような気がして、私はぼんやりと競技場を見ながらゆっくり紅茶を楽しんでいた。
〔ソーヤ、お掃除進んでる?〕
私は、今日一日外にいるため研究室の掃除や家事を頼んだソーヤに念話を送った。
〔はい、問題ございません。そちらの首尾はいかがですか?〕
〔無事に一回戦敗退できたわ。後は、演武だけ〕
〔さすがはメイロードさま。では、この後もご健闘を〕
〔ありがとう。家のこと、頼むね〕
そんなやりとりをしていると、観戦席はがら空きなのにも関わらず、私の横に座る人があった。
「なかなか興味深い試合だった。だがどうやら、私は君の意に染まぬことをしてしまったらしいな……」
そう言って、私の横でちょっと困ったような顔をしているのは、今回の仕掛け人ダイル・ドール参謀だった。
「お気になさらないでください。私の名前を思わぬところで見かけて興味を引かれただけだと承知しております。まぁ、ちょっと困りは致しましたが……。私の魔法使いとしての実力は、到底軍部のお役に立てるようなものではなかったでございましょう?」
私の言葉に、ドール参謀は苦笑いを浮かべている。
「少なくとも、メイロードがそうしておきたいということは、重々わかった。聡明な君がああいう戦いをした意味もね。いつか君の実力を見せてもらえたら嬉しいが、今はそういうことにしておいた方がいいようだな」
どうやら、私をよく知るドール参謀には、先ほどの戦いは不自然に映ってしまったようだ。確かにわざと相手の後手後手に回って、全く奇策も打ち出さない、やけにのんびりした私の様子は、ドール参謀の知る私と違いすぎるかもしれない。サガン・サイデム相手に丁々発止のやり取りをし、斬新なアイディアの品物を作り出し、どんな貴族にも怯まない、そんな肝の座った私を見てきているのだから、違和感を感じるのも無理のない話だ。
それでも、ここはしれっととぼけておくのが、お互いにとって最善策なのだ。現時点での私の実力は、こんなものだと思ってもらわなければいけない。
下手に私の実力を知ってしまえば、軍属であるドール参謀は、それを無視するわけにはいかないだろう。グッケンス博士をしてバケモノと言わしめた私の膨大な魔法力について知られでもしたら、私を買ってくれていて、支援すらしてくれようと考えているドール家の方々の悩み種を増やしてしまうだけだ。
私はできるだけ子どもらしい感じの無邪気な笑顔をドール参謀に向けた。
「私に得意な魔法があるとすれば、それは決して戦いに使えるようなものではありません。それに、そのことに私は誇りさえ感じているのです。お時間があれば、私の演武も見てくださいね。きっと私の申し上げた意味がお分かりになると思います」
ドール参謀は、私の言葉に頷くと、必ず演武も見に来ると言って、席を立った。
「サイデムは君をサイデム商会に入れるつもりで準備していたみたいだぞ。この間会った時に、魔法学校にメイロードがいるという話になったんだが〝あいつは自由すぎる〟とブツブツ言っていたよ。まぁ、才能があるのなら、若いうちは色々やってみるのもいいだろう、と慰めておいたがね」
そう言って笑い、最後に優しい笑顔でこう言った。
「かくいう私も君には大いに期待している。魔法使いでなくとも、メイロードは十分に逸材だ。
まぁ、それがなくとも、私も家族も君のことが大好きだからね。
君のためにならないことはしないよ。今回は私の思いつきに付き合わせてしまって本当にすまなかったね。
演武、楽しみにしているよ」
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