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3 魔法学校の聖人候補
429 マリスさんを励ます会
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429
「ああ、もう少し頑張ればマリスさんと対戦できましたのに、悔しいです」
オーライリが嘆いている。彼女は惜しくも予選12位に終わったそうだ。
「私は本戦に残りましてよ。楽しみですわね、マリスさん」
クローナ・サンス嬢は当然という雰囲気を出そうとしているが、嬉しさを隠しきれない感じだった。それに、かなり本気の目つきで私との再戦を望んでいるようだ。
今日は、二学期になってから隠れるように学校生活を送っている私を励ましてくれようと、トルルが声をかけてくれた秘密のお茶会だ。とはいっても、トルルには学校内の施設を借りるツテはなかったので、私がチェット・モートさんにお願いして、お茶会のできる部屋を貸してもらった。
でも今回は励まされる方なので、準備はみんながしてくれるそうだ。というより私のためのお茶会なのだから手伝ってはダメだとトルルには言われてしまった。いつもは準備する側がほとんどの私には、準備をなにもせず待つだけの時間はなんだか落ち着かなかったが、そう言われては仕方がないので彼女たちに任せてみた。聞いたところではクローナの従者たちが手伝ってくれているそうだから、多分大丈夫だろう。
「今日は本当にありがとう。私の周りが騒がしいせいで、なんだか迷惑をかけているね……」
席に着いた私はまず、こんな状況でも親しくしてくれているみんなに詫びた。
時間通りに、普段は会議室として使われている部屋へ行ってみると、その設えはなかなか美しいものだった。
花瓶に飾られた美しい花々に、綺麗にアイロンのかかった布のかけられたテーブル、茶器は全て揃いになっている。これはきっとクローナのところから借りたのだろう。
テーブルの上の軽食は売店で買ったものと手作りのもの、それに街からわざわざ取り寄せてくれたものもあった。
私が部屋の上品な設えを褒めると、トルル、オーライリ、クローナはものすごく嬉しそうにしてくれた。こういった小さなお茶会でも、慣れないトルルたちには大変だったはずだ。私を励ますために、忙しい中それをしてくれるのだから、いい友達を持ったと思う。
お茶が淹れられ席に着くと私はまず、先の言葉と共に身辺が騒がしい私のせいで色々言われているだろうみんなに申し訳ないと頭を下げた。
「なに言ってるの! 平気だよそんなの。むしろマリスさんの凄さにみんな今頃気づいたのって感じね」
トルルは私の作った参考書や勉強会でとても成績が上がったこともあり、むしろ誇らしいのでまったく気にしていないという。参考書について私が関わっていることは、口止めしたのでごく一部の人しか知らないし、私がそれなりに魔法を使えることも、一緒に練習をしていたトルルたち以外は知らないことだ。それでいいのだけれど……むしろ気づかれたくなんだけれど……。
オーライリもトルルの言葉に大きく頷いている。
「マリスさんは、目立つことがお嫌いだから私たちもあまり言いませんけれど、嫌味を言ってくる貴族の方々と比べても遜色ない実力なのは、私たちには判っています。いきなりの競技会本戦出場はさすがに驚かされましたけれど、私たちの他にもマリスさんの実力を認められた方がいらしたということですもの。むしろ誇っていいことだと思います」
オーライリは私がイスで名を馳せた〝メイロード・マリス〟だと知っているので、むしろ当然だと思ってるらしい。
クローナはというと、やはり私の実力についてはかなり評価してくれていた。
「対戦したり、一緒に勉強しながら観察した印象ですけれど、マリスさんは強力な魔法はお持ちでないようね。でもあなたの技の正確性については認めざるをえませんわ。あの制御力は見習うべきものだと思いますの。私たち貴族は敵を打ち負かすための力強い魔法を重視して訓練を受けてきていますから、どうしても力押しになってしまうという点は否めませんからね。
マリスさんの正確無比な魔法と対戦したらどうなるのか、私も興味深いのです。本戦で戦えるのが本当に楽しみですわ」
やる気十分のクローナも、私の技の正確性を褒めてくれた。
確かに私の技は過不足なく正確で、教科書通りきっちり仕上げたものになっていると思う。そういう風に、しっかり型にはめた練習をしておかないと、やりすぎてとんでもないことになってしまう可能性があるからなのだが、外からはパワー不足の弱い魔法使いに見えているようだ。
(まぁ、概ねそれでこちらの計算通りだから、いいんだけどね)
だがクローナの話は参考になった、正確であることよりも高い攻撃力を持っていることが重視されるのならば、私は正確性で勝負してみるというのもいいかもしれない。当日の課題次第だが、上手くいけばいい勝負ができるだろう。
「ありがとうクローナ、あなたに評価してもらえるのはとても嬉しいわ」
私の言葉に、クローナはなんだか顔を赤くしているし。
「お、お友達ですもの。それに私たちは良きライバルでもありますもの。正当な評価をするのは当然のことですわ」
こういうのはツンデレって言うのかな? クローナかわいい。
「それより、マリスさんを励まそうとみんなで色々ご用意しましたのよ。さあ皆さんも食べましょう!」
クローナの言葉に、ライアン、ザイク、モーラも、貴族のお嬢様の用意したお茶菓子に興味津々の様子だ。私は苦笑しつつ、みんなが用意してくれたお菓子や軽食の話を聞き始めた。
珍しくお客様としてもてなされる、楽しいお茶会の始まりだ。
「ああ、もう少し頑張ればマリスさんと対戦できましたのに、悔しいです」
オーライリが嘆いている。彼女は惜しくも予選12位に終わったそうだ。
「私は本戦に残りましてよ。楽しみですわね、マリスさん」
クローナ・サンス嬢は当然という雰囲気を出そうとしているが、嬉しさを隠しきれない感じだった。それに、かなり本気の目つきで私との再戦を望んでいるようだ。
今日は、二学期になってから隠れるように学校生活を送っている私を励ましてくれようと、トルルが声をかけてくれた秘密のお茶会だ。とはいっても、トルルには学校内の施設を借りるツテはなかったので、私がチェット・モートさんにお願いして、お茶会のできる部屋を貸してもらった。
でも今回は励まされる方なので、準備はみんながしてくれるそうだ。というより私のためのお茶会なのだから手伝ってはダメだとトルルには言われてしまった。いつもは準備する側がほとんどの私には、準備をなにもせず待つだけの時間はなんだか落ち着かなかったが、そう言われては仕方がないので彼女たちに任せてみた。聞いたところではクローナの従者たちが手伝ってくれているそうだから、多分大丈夫だろう。
「今日は本当にありがとう。私の周りが騒がしいせいで、なんだか迷惑をかけているね……」
席に着いた私はまず、こんな状況でも親しくしてくれているみんなに詫びた。
時間通りに、普段は会議室として使われている部屋へ行ってみると、その設えはなかなか美しいものだった。
花瓶に飾られた美しい花々に、綺麗にアイロンのかかった布のかけられたテーブル、茶器は全て揃いになっている。これはきっとクローナのところから借りたのだろう。
テーブルの上の軽食は売店で買ったものと手作りのもの、それに街からわざわざ取り寄せてくれたものもあった。
私が部屋の上品な設えを褒めると、トルル、オーライリ、クローナはものすごく嬉しそうにしてくれた。こういった小さなお茶会でも、慣れないトルルたちには大変だったはずだ。私を励ますために、忙しい中それをしてくれるのだから、いい友達を持ったと思う。
お茶が淹れられ席に着くと私はまず、先の言葉と共に身辺が騒がしい私のせいで色々言われているだろうみんなに申し訳ないと頭を下げた。
「なに言ってるの! 平気だよそんなの。むしろマリスさんの凄さにみんな今頃気づいたのって感じね」
トルルは私の作った参考書や勉強会でとても成績が上がったこともあり、むしろ誇らしいのでまったく気にしていないという。参考書について私が関わっていることは、口止めしたのでごく一部の人しか知らないし、私がそれなりに魔法を使えることも、一緒に練習をしていたトルルたち以外は知らないことだ。それでいいのだけれど……むしろ気づかれたくなんだけれど……。
オーライリもトルルの言葉に大きく頷いている。
「マリスさんは、目立つことがお嫌いだから私たちもあまり言いませんけれど、嫌味を言ってくる貴族の方々と比べても遜色ない実力なのは、私たちには判っています。いきなりの競技会本戦出場はさすがに驚かされましたけれど、私たちの他にもマリスさんの実力を認められた方がいらしたということですもの。むしろ誇っていいことだと思います」
オーライリは私がイスで名を馳せた〝メイロード・マリス〟だと知っているので、むしろ当然だと思ってるらしい。
クローナはというと、やはり私の実力についてはかなり評価してくれていた。
「対戦したり、一緒に勉強しながら観察した印象ですけれど、マリスさんは強力な魔法はお持ちでないようね。でもあなたの技の正確性については認めざるをえませんわ。あの制御力は見習うべきものだと思いますの。私たち貴族は敵を打ち負かすための力強い魔法を重視して訓練を受けてきていますから、どうしても力押しになってしまうという点は否めませんからね。
マリスさんの正確無比な魔法と対戦したらどうなるのか、私も興味深いのです。本戦で戦えるのが本当に楽しみですわ」
やる気十分のクローナも、私の技の正確性を褒めてくれた。
確かに私の技は過不足なく正確で、教科書通りきっちり仕上げたものになっていると思う。そういう風に、しっかり型にはめた練習をしておかないと、やりすぎてとんでもないことになってしまう可能性があるからなのだが、外からはパワー不足の弱い魔法使いに見えているようだ。
(まぁ、概ねそれでこちらの計算通りだから、いいんだけどね)
だがクローナの話は参考になった、正確であることよりも高い攻撃力を持っていることが重視されるのならば、私は正確性で勝負してみるというのもいいかもしれない。当日の課題次第だが、上手くいけばいい勝負ができるだろう。
「ありがとうクローナ、あなたに評価してもらえるのはとても嬉しいわ」
私の言葉に、クローナはなんだか顔を赤くしているし。
「お、お友達ですもの。それに私たちは良きライバルでもありますもの。正当な評価をするのは当然のことですわ」
こういうのはツンデレって言うのかな? クローナかわいい。
「それより、マリスさんを励まそうとみんなで色々ご用意しましたのよ。さあ皆さんも食べましょう!」
クローナの言葉に、ライアン、ザイク、モーラも、貴族のお嬢様の用意したお茶菓子に興味津々の様子だ。私は苦笑しつつ、みんなが用意してくれたお菓子や軽食の話を聞き始めた。
珍しくお客様としてもてなされる、楽しいお茶会の始まりだ。
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