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3 魔法学校の聖人候補
428 一年生の競技会
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428
〝魔法競技会〟は内外から注目される魔法学校の行事ではあるけれど、ぶっちゃけ一年生の競技会は、あまり注目されるものではない。
正直なところ三年生の競技会のおまけのようなもので、順位を確定するためのものでしかなく、まだ基礎を勉強中の子たちに観衆はなにも期待してはいないのだ。
今回、ドール参謀のゴリ押しの影響で、一年生でもない私が一年の部にエントリーし、しかもシード選手に選ばれてしまったことで悪目立ちしているが、それもあくまで学校内での話。競技会における比重が下級生にないので、その点は正直助かる。
一年生は競技が行われるのもメイン会場ではないし、競技時間も短く、競技も〝基礎魔法講座〟の延長のようなものになっている。一回戦で負ける予定の私は試技と演武の各三分、それを乗り切ればいい。グッケンス博士と対戦するのもメイン会場で行われる三年生の本戦出場者だけなので、おそらく観衆のほとんどは3年の競技が行われるメイン会場に集中するだろう。
そういう事情なので、3年生も私の特別枠での出場程度で目くじらを立てなくてもいいと思うのだが、なにせ皆さんナーバスになっている。困ったものだ。
「試技は当日発表されるため、得意不得意なにが出るかは運次第ということになる。その点では、すべて合格しているお前さんが有利かもしれないが、本戦出場の一年生は皆九割近く合格しているから、相手が苦手で自分が得意な技となる確率は低いだろうな」
グッケンス博士と私は競技会対策の話し合い中だ。とは言っても、いつものようにお茶をしながら、博士は資料を読みつつののんびりしたものだが。
演武というのは、各選手の得意技を使用してパフォーマンスを行うもので、大抵は派手な攻撃技を見せるそうだ。一年生の使える魔法にそう強力なものは少ないが、燃やしたり壊したり、といった技が多くなるのは予想できる。この演武のために必要なものは事前申請すれば木材でも石でも用意してもらえるし、貴族の中にはまだ学校では習っていない大技を繰り出す学生も多いという。演武に関しては、個人の実力を見せる場なので使える魔法ならばなにを使ってもいいそうだ。
これは経験の浅い者の多い庶民出身者の一年生にとっては、かなり高いハードルだ。なかなかの実力だというオーライリでも、きっと苦労するだろう。おそらくほとんどの本戦出場者は貴族階級出身者で占められると考えたほうがいいかもしれない。
「一回戦で負けるとしても、演武はしないといけないわけですね。ここで気をつけるとすればなんでしょう」
私の問いに対する博士の答えは明確で、できるだけ高度な攻撃魔法を自分の魔法力の高さを見せつけるように繰り出し、才能と潜在能力の高さを見せつけることだそうだ。
「つまり、私のすべきはその真逆ということですか……」
高度な魔法を使わない省エネ型の地味な魔法、それが私のすべきことになるのだが、問題はあまりやりすぎると不自然になってしまうという点だ。怪しまれてしまっては元も子もない。
この学校に通っている以上、皆4ー500程度の魔法力があって当然とされる。出場する選手は皆決勝に進むことを想定しているだろう。トーナメントで決勝まで進めば四回戦い、演武も行う必要がなる。単純計算すれば魔法力500の選手の場合、一回100程度の魔法が使える計算だ。
もちろん魔法力を使い切って倒れれば失格になるので、学校側の指導で8割程度には抑えるよう選手には伝えられている。均等にすべての対戦で魔法を使う必要はないので、トーナメントで上手く立ち回れば魔法力の余力を残して演武に進め、派手な魔法が使えることになるし、魔法力がもともと多い貴族出身者はこの点でもかなり有利だ。
演武はトーナメント後に行われるため、出場者の状況はそれまでの戦いによってかなり左右されそうだ。
「まぁ、直接対決する三年生はかなり戦略性を問われるじゃろうな。実力者同士の削りあいになると、両者とも自滅することになってしまうしの。一年生の場合は与えられた課題の成功までの時間を競う場合がほとんどじゃし、対戦での魔法力消費は上手くすれば抑えられるじゃろう。上手くすれば、じゃがな」
つまり、対戦であまり魔法力を使わなかった場合、演武では派手目に魔法力を消費しないといけないってことか。
特に一回戦で負ける予定の私は、かなり魔法力を温存して演武に向かうことになるわけで、最低でも300ぐらい使う感じの演武を見せないと不自然ということのようだ。
(うわぁ、面倒だなぁ……魔法消費量の多い派手な攻撃魔法を極力封印して300かぁ……どうしよう)
おそらく他の出場者とはまったく違う悩みを抱えた私は、教科書をにらみながら競技会のための魔法を考えてため息をつくしかなかった。
〝魔法競技会〟は内外から注目される魔法学校の行事ではあるけれど、ぶっちゃけ一年生の競技会は、あまり注目されるものではない。
正直なところ三年生の競技会のおまけのようなもので、順位を確定するためのものでしかなく、まだ基礎を勉強中の子たちに観衆はなにも期待してはいないのだ。
今回、ドール参謀のゴリ押しの影響で、一年生でもない私が一年の部にエントリーし、しかもシード選手に選ばれてしまったことで悪目立ちしているが、それもあくまで学校内での話。競技会における比重が下級生にないので、その点は正直助かる。
一年生は競技が行われるのもメイン会場ではないし、競技時間も短く、競技も〝基礎魔法講座〟の延長のようなものになっている。一回戦で負ける予定の私は試技と演武の各三分、それを乗り切ればいい。グッケンス博士と対戦するのもメイン会場で行われる三年生の本戦出場者だけなので、おそらく観衆のほとんどは3年の競技が行われるメイン会場に集中するだろう。
そういう事情なので、3年生も私の特別枠での出場程度で目くじらを立てなくてもいいと思うのだが、なにせ皆さんナーバスになっている。困ったものだ。
「試技は当日発表されるため、得意不得意なにが出るかは運次第ということになる。その点では、すべて合格しているお前さんが有利かもしれないが、本戦出場の一年生は皆九割近く合格しているから、相手が苦手で自分が得意な技となる確率は低いだろうな」
グッケンス博士と私は競技会対策の話し合い中だ。とは言っても、いつものようにお茶をしながら、博士は資料を読みつつののんびりしたものだが。
演武というのは、各選手の得意技を使用してパフォーマンスを行うもので、大抵は派手な攻撃技を見せるそうだ。一年生の使える魔法にそう強力なものは少ないが、燃やしたり壊したり、といった技が多くなるのは予想できる。この演武のために必要なものは事前申請すれば木材でも石でも用意してもらえるし、貴族の中にはまだ学校では習っていない大技を繰り出す学生も多いという。演武に関しては、個人の実力を見せる場なので使える魔法ならばなにを使ってもいいそうだ。
これは経験の浅い者の多い庶民出身者の一年生にとっては、かなり高いハードルだ。なかなかの実力だというオーライリでも、きっと苦労するだろう。おそらくほとんどの本戦出場者は貴族階級出身者で占められると考えたほうがいいかもしれない。
「一回戦で負けるとしても、演武はしないといけないわけですね。ここで気をつけるとすればなんでしょう」
私の問いに対する博士の答えは明確で、できるだけ高度な攻撃魔法を自分の魔法力の高さを見せつけるように繰り出し、才能と潜在能力の高さを見せつけることだそうだ。
「つまり、私のすべきはその真逆ということですか……」
高度な魔法を使わない省エネ型の地味な魔法、それが私のすべきことになるのだが、問題はあまりやりすぎると不自然になってしまうという点だ。怪しまれてしまっては元も子もない。
この学校に通っている以上、皆4ー500程度の魔法力があって当然とされる。出場する選手は皆決勝に進むことを想定しているだろう。トーナメントで決勝まで進めば四回戦い、演武も行う必要がなる。単純計算すれば魔法力500の選手の場合、一回100程度の魔法が使える計算だ。
もちろん魔法力を使い切って倒れれば失格になるので、学校側の指導で8割程度には抑えるよう選手には伝えられている。均等にすべての対戦で魔法を使う必要はないので、トーナメントで上手く立ち回れば魔法力の余力を残して演武に進め、派手な魔法が使えることになるし、魔法力がもともと多い貴族出身者はこの点でもかなり有利だ。
演武はトーナメント後に行われるため、出場者の状況はそれまでの戦いによってかなり左右されそうだ。
「まぁ、直接対決する三年生はかなり戦略性を問われるじゃろうな。実力者同士の削りあいになると、両者とも自滅することになってしまうしの。一年生の場合は与えられた課題の成功までの時間を競う場合がほとんどじゃし、対戦での魔法力消費は上手くすれば抑えられるじゃろう。上手くすれば、じゃがな」
つまり、対戦であまり魔法力を使わなかった場合、演武では派手目に魔法力を消費しないといけないってことか。
特に一回戦で負ける予定の私は、かなり魔法力を温存して演武に向かうことになるわけで、最低でも300ぐらい使う感じの演武を見せないと不自然ということのようだ。
(うわぁ、面倒だなぁ……魔法消費量の多い派手な攻撃魔法を極力封印して300かぁ……どうしよう)
おそらく他の出場者とはまったく違う悩みを抱えた私は、教科書をにらみながら競技会のための魔法を考えてため息をつくしかなかった。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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