利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

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「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。私聴講生ですよ! 一年生じゃないですよ?」

私はあまりの驚きに持っていたカップを落としそうになってしまった。なんということだろう。こんなところで、ドール参謀の名前が出てくるとは。

(ダイル・ドール参謀、絶対面白がってるよね、もう!)

「ドール参謀は、この魔法学校の補給に関しての責任者でもあるので、時々視察にいらっしゃるんですよ。数年後にはお嬢様が入学されるそうで、特に最近は魔法学校の様子に関心を持たれていたようです。今回も成績優秀者について、とても詳しく資料をお読みになりましてですね……」

魔法学校側は軍属に対して生徒に関する個人情報は何もかも、一切合切開示しなければいけないそうだ。もちろん成績についてもすべて要求されれば開示しなければならない。ドール参謀は数年後のアリーシア様の入学を見据えてなのか、普通は三年生を中心に見るところ、今年は一年生についてもチェックしたのだという。

「で、でも、私は特に成績上位というわけではないですよね。競技会に出るような方々と一緒にされても困ります」

私の言葉にモートさんも困り顔で、頭を抱えている。

「ええ、もちろんそのことは私たちもお伝えいたしました。とはいえ、確かにメイロードさまは総合成績では平均のやや上ぐらいに位置されているのですが〝基礎魔法講座〟を現在までのところすべて合格されています。これは稀有なことなんです。一学期の〝基礎魔法講座〟は確かに基礎中の基礎なので、貴族出身の生徒はほとんど取りこぼしはしていないのですが、それでも最高で九割五分、つまりメイロードさまが、すべて合格されているんですよ」

(しまった!そういうことか。個々の基礎魔法に難しいものはなかったけれど、適性の有無を考えればどうしても取りにくいものが出てきてしまうんだ。訓練を積んだ有能な貴族出身者たちは、一学期の基礎魔法程度なら誰でも訓練次第で全部合格できるものだと思い込んでた)

私は〝平均点〟が取れるようにすることにばかり目がいっていて、合格率についてはあまり考えていなかったのだ。

それに、もうすでに私は《基礎魔法》をすべて使えるので、下手に不合格を取ってしまうと後で使うことになる上級魔法を習う際、整合性が取れなくなってしまう可能性が高い。だから一応低空飛行ながらも使える、という状況を目指してもいたのだ。

(それが裏目に出ちゃったか……)

「とにかく一学期の〝基礎魔法講座〟全合格という稀有な生徒ならば、たとえ平均的な成績でも〝競技会〟でぜひ見てみたい、との仰せでございまして……そうなるとこちらとしても出ていただかないわけには……」

「出ません……よ!」

「えーー、だ、ダメですか?
そこをなんとか、お願い致します、メイロードさま」

私とモートさんが、出る出ないで言い合っていると、グッケンス博士が仲裁に入った。

「ドール参謀が目をつけたのは、お前がメイロード・マリスだと知ったせいだろう。どうやらあの家の者たちはお前をとても気に入っておるからな。お前が魔法学校にいると知って、どうしても実力を見てみたくなったのじゃろう。ならば、ここは〝競技会〟に出て、納得させてしまったほうがいいのではないか?」

確かに、ドール参謀、そしてドール家の方々とは、これからも商売上のお付き合いが続いていく。ルミナーレ様やアリーシア様に至っては、もう商売とかどうでもいいからいつでもウエルカム状態だ。私にとっても大きな後ろ盾だし、大事な人たちになっている。それを考えると、ここで逃げたところで、疑問を持たれたままでは後々まで引きずることになるだろう。それならば、この〝競技会〟で並みの実力を示してやった方がスッキリするということか。

「そうですね。ドール参謀に変な期待を持たれるより、ここで私がごく並みの能力だと示しておいてほうが、後々面倒がないかもしれません」

「で、では、出ていただけるので?」

モートさんの目が期待に満ちている。

「不本意ですが……予選、出ますよ」

(仕方がない、これまで訓練を重ねて鍛え上げた〝平均値〟に抑える技術、見せて差し上げましょうかね)

「あ、それでですね。ドール参謀は大変にお忙しい方でございましてですね、本戦の1日しかご観戦になれませんので、メイロード様は外部推薦特別枠ということで、本戦からの出場になりますので、よろしくお願い致します!」

しれっと、モートさん、アナタ何を言った?!

「ちょっと、ちょっとなんですか、それ! 聞いてないです。私、予選って言いましたよね。なんで、いきなり本戦なんですかぁ!」

と言ったときには、モートさん逃げ出してました。

「ははは! お前の負けだな、メイロード。まぁ、軍部のお偉方のゴリ押しでは、魔法学校は逆らえんさ。わしに恥をかかせる、なんてことは気にしなくてもいいから、気持ちよく負けてしまえばいいさ」

グッケンス博士はそういうけど、決勝の衆人環視の中でしかも対戦しなきゃいけないなんて、どうすればいいのやら。有能な魔法使いという印象だけはつけちゃいけない、それ前提でどこまでできるか。

私の悩み尽きない二学期は、どうやらかなり波乱含みになりそうだ。
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