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3 魔法学校の聖人候補
422 エルさんにお礼を
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422
今日は魔術師横丁にある魔法道具専門店〝魔法薬師の宝箱〟のエルリベット・バレリオさんのところへ、〝エリクサー〟作成予備実験のため、貴重な魔法道具の貸し出しをして頂いたお礼に伺っている。
「本当にありがとうございました。あれがなければ、研究にはかなり苦労したと思います」
感謝の気持ちを込めて今回お持ちしたのは色々なクッキーとチーズのセット。それから自家製の綺麗に割れたスコーンと、これまた自家製の濃厚なクロテッドクリームに、もちろん自家製の野いちごジャムのセット。それに〝皇女の薔薇ープリンセス・ローズティー〟もお渡しした。
「おお、こんなにもらってしまっていいのかい。ありがたいねぇ」
エルさんは相好を崩して喜んでくれた。特に珍しい紅茶には目がないそうで、かつて私がプロデュースしてから今に至るまで〝皇室御用達品〟として、一部の上級貴族と皇族の方々ぐらいしか買えない値段で取引されている、この高級すぎて一般にはほとんど出回っていない紅茶にはとても興味を持ってくれたようだ。
早速用意してきたガラスのポットで淹れてみせると、その茶葉と花弁が舞い踊る様子を楽しげに見つめ、このガラスポットとカップもプレゼントすると伝えると、驚きながらもすごく感謝してくれた。
「これはいいね。本当にいいね。毎日のお茶がもっと楽しくなるよ。ありがとう。ありがとうね」
「いえ、とんでもありません。こちらで伺った知識と道具がなければ、こんなにすんなりと研究を終えることはできませんでした。本当に助かったんですよ」
エルさんと私は薔薇の香りの紅茶を楽しみつつ、エルさんにはスコーンの食べ方を教えて楽しんでもらい、今回行った実験に関する研究の過程についてもかなり詳細に話した。
「ご協力頂いたエルさんだから、お話しさせて頂きましたが、どうかこの件についてはご内密にお願いしますね」
私の言葉に、節くれだった皺だらけの手で紅茶のカップを大事そうに持ったエルさんは心得ているという顔で頷いてくれた。
「もちろん言わないよ。私からも、あまり外で言わないほうがいいよ、と忠告しようかと思っていたぐらいさ。こんな小さな子が、こんな大それた実験をやってのけたなんて知られたら、根掘り葉掘り聞き出そうという者たちがごまんと現れるだろうからね。お前さんが薬学の世界で身を立てるというのなら、なににも代えがたい素晴らしい実績になるだろうが、そうでないなら、黙っておくことさ」
エルさんは、フェッフェという感じで魔女っぽく笑いながらも、私のことを心配してくれている様子だった。
「ええ、私もそう考えています。この実験に至るまでには、多くの出会いや偶然がありました。それも含めて、人に言うようなものではないので……」
正確には〝人に言えるような〟ものではない、だ。 エントの皆さんにセイリュウそして妖精王、軽々しく口にすれば迷惑をかけることになる相手ばかりだ。私は彼らの好意に支えられていることを決して忘れてはいけないと思っているし、できるならば彼らの力になっていきたいと考えている。
「まぁ、うまいことおやり。二学期は勉強以外に行事も多いからなにかと忙しくなる。躰には気をつけるんだよ」
魔法学校の卒業生で、大先輩でもあるエルさんは事情通のようだ。競技会についても良くご存知の様子で、国家魔術師を目指す子達は、この時期とてもピリピリしているので、特に上級生に気をつけるようにと、アドバイスをしてくれた。
「この競技会で目立ったり、いい成績を残せば国家魔術師として活躍できる可能性が高くなるからね。卒業の近い子たちはそりゃ、必死さ。まぁ、目の色を変えて競技会に臨む子たちは、実力的に当落線上にある子が多いから、少しでも自分を良く見せたいんだろうが、周りは迷惑することも多くてね」
私はまったくなりたいとは思わないのだが、国家魔術師は人気の職業のようだ。確かに、攻撃的な魔法に長けた魔法使いが活躍できる場として、軍属になることは魅力があるのかもしれない。あらゆる点で便宜を図られるとも聞いているし、高収入も保証されるから、庶民出身者にとっては特に魅力的なのだそうだ。
夏休みも帰郷せず残っている上級生の多くは、競技会対策で訓練のために残っているそうだ。どうりで夏休みだというのに訓練室の予約が取りにくいわけだ。一年生のトルルたちも練習室確保にはかなり苦戦したと聞いている。
「ハンスも大変だわなぉ。まぁ、あれは人も物も育てることが好きな男だから、どんなに面倒でも手を抜いたりできんしな。難儀なことだよ」
私はグッケンス博士のことを〝ハンス〟と呼ぶ人に初めて出会った。どうやら、エルさんはグッケンス博士とも知り合いのようだ。だが、今はそれよりも〝大変〟なことが気になる」
「どうして、グッケンス博士が大変なんでしょう?」
エルさんは、ちょっと不安げな私の顔に笑みを浮かべ、
「ほほぉ、ハンスもいい弟子をもったね。ちゃんと師匠の身を案じてくれるなんてさぁ。バカ貴族どもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいねぇ」
そう言いながら、エルさんは魔法学校の大イベント〝魔法競技会〟の裏事情を語ってくれた。
今日は魔術師横丁にある魔法道具専門店〝魔法薬師の宝箱〟のエルリベット・バレリオさんのところへ、〝エリクサー〟作成予備実験のため、貴重な魔法道具の貸し出しをして頂いたお礼に伺っている。
「本当にありがとうございました。あれがなければ、研究にはかなり苦労したと思います」
感謝の気持ちを込めて今回お持ちしたのは色々なクッキーとチーズのセット。それから自家製の綺麗に割れたスコーンと、これまた自家製の濃厚なクロテッドクリームに、もちろん自家製の野いちごジャムのセット。それに〝皇女の薔薇ープリンセス・ローズティー〟もお渡しした。
「おお、こんなにもらってしまっていいのかい。ありがたいねぇ」
エルさんは相好を崩して喜んでくれた。特に珍しい紅茶には目がないそうで、かつて私がプロデュースしてから今に至るまで〝皇室御用達品〟として、一部の上級貴族と皇族の方々ぐらいしか買えない値段で取引されている、この高級すぎて一般にはほとんど出回っていない紅茶にはとても興味を持ってくれたようだ。
早速用意してきたガラスのポットで淹れてみせると、その茶葉と花弁が舞い踊る様子を楽しげに見つめ、このガラスポットとカップもプレゼントすると伝えると、驚きながらもすごく感謝してくれた。
「これはいいね。本当にいいね。毎日のお茶がもっと楽しくなるよ。ありがとう。ありがとうね」
「いえ、とんでもありません。こちらで伺った知識と道具がなければ、こんなにすんなりと研究を終えることはできませんでした。本当に助かったんですよ」
エルさんと私は薔薇の香りの紅茶を楽しみつつ、エルさんにはスコーンの食べ方を教えて楽しんでもらい、今回行った実験に関する研究の過程についてもかなり詳細に話した。
「ご協力頂いたエルさんだから、お話しさせて頂きましたが、どうかこの件についてはご内密にお願いしますね」
私の言葉に、節くれだった皺だらけの手で紅茶のカップを大事そうに持ったエルさんは心得ているという顔で頷いてくれた。
「もちろん言わないよ。私からも、あまり外で言わないほうがいいよ、と忠告しようかと思っていたぐらいさ。こんな小さな子が、こんな大それた実験をやってのけたなんて知られたら、根掘り葉掘り聞き出そうという者たちがごまんと現れるだろうからね。お前さんが薬学の世界で身を立てるというのなら、なににも代えがたい素晴らしい実績になるだろうが、そうでないなら、黙っておくことさ」
エルさんは、フェッフェという感じで魔女っぽく笑いながらも、私のことを心配してくれている様子だった。
「ええ、私もそう考えています。この実験に至るまでには、多くの出会いや偶然がありました。それも含めて、人に言うようなものではないので……」
正確には〝人に言えるような〟ものではない、だ。 エントの皆さんにセイリュウそして妖精王、軽々しく口にすれば迷惑をかけることになる相手ばかりだ。私は彼らの好意に支えられていることを決して忘れてはいけないと思っているし、できるならば彼らの力になっていきたいと考えている。
「まぁ、うまいことおやり。二学期は勉強以外に行事も多いからなにかと忙しくなる。躰には気をつけるんだよ」
魔法学校の卒業生で、大先輩でもあるエルさんは事情通のようだ。競技会についても良くご存知の様子で、国家魔術師を目指す子達は、この時期とてもピリピリしているので、特に上級生に気をつけるようにと、アドバイスをしてくれた。
「この競技会で目立ったり、いい成績を残せば国家魔術師として活躍できる可能性が高くなるからね。卒業の近い子たちはそりゃ、必死さ。まぁ、目の色を変えて競技会に臨む子たちは、実力的に当落線上にある子が多いから、少しでも自分を良く見せたいんだろうが、周りは迷惑することも多くてね」
私はまったくなりたいとは思わないのだが、国家魔術師は人気の職業のようだ。確かに、攻撃的な魔法に長けた魔法使いが活躍できる場として、軍属になることは魅力があるのかもしれない。あらゆる点で便宜を図られるとも聞いているし、高収入も保証されるから、庶民出身者にとっては特に魅力的なのだそうだ。
夏休みも帰郷せず残っている上級生の多くは、競技会対策で訓練のために残っているそうだ。どうりで夏休みだというのに訓練室の予約が取りにくいわけだ。一年生のトルルたちも練習室確保にはかなり苦戦したと聞いている。
「ハンスも大変だわなぉ。まぁ、あれは人も物も育てることが好きな男だから、どんなに面倒でも手を抜いたりできんしな。難儀なことだよ」
私はグッケンス博士のことを〝ハンス〟と呼ぶ人に初めて出会った。どうやら、エルさんはグッケンス博士とも知り合いのようだ。だが、今はそれよりも〝大変〟なことが気になる」
「どうして、グッケンス博士が大変なんでしょう?」
エルさんは、ちょっと不安げな私の顔に笑みを浮かべ、
「ほほぉ、ハンスもいい弟子をもったね。ちゃんと師匠の身を案じてくれるなんてさぁ。バカ貴族どもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいねぇ」
そう言いながら、エルさんは魔法学校の大イベント〝魔法競技会〟の裏事情を語ってくれた。
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