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3 魔法学校の聖人候補
411 部長の期待
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411
ラビ部長に燃えるような目でそう言われた私は、正直若干引いていた。
(そんなおおごとなわけ? 知らないし、知らなかったし!!)
正直なところ、私は《エリクサー》を作るということが、ここまで困難だという現実について全く知らなかった。ハルリリさんからも、そんな話は聞いていなかったし、最高ランクの魔法薬なのだから、それなりに苦労はすると覚悟はしていたけれど、どうやらそんなレベルの話ではないようだ。
きっと私が薬作りの目標をハルリリさんに話したあの頃は、ハルリリさんも子供の夢物語だと思っていたから《エリクサー》製造の難しさを特に説いたりせず、ただ〝いつかできるといいね〟と言うに留めたのだろう。
(いや、ハルリリさん、言ってくださいよ! おかげでなんだか引くに引けない状態になっちゃいましたよぉ~)
私は遠いシラン村にいるハルリリさんに向かって、思いっきり心の中で恨み言を言いながらも、顔では平静を保って、熱い期待の眼差しで私を見るラビ部長と向かい合っていた。
「そ、それではその失敗した実験に関する資料も見せて頂けますか。きっと、失敗の中には成功への鍵が何かあるはずですから……」
「もちろん、この〝魔法薬研究会〟が保管している《エリクサー》に関する資料は全て開示する。この重要資料専用書架の鍵を貸しておくよ。なかなか危ない資料の多い場所だから扱いにはくれぐれも気をつけてね」
そう言ってラビ部長は魔法学校の校章が刻まれた重厚な鍵を私に預けてくれた。それはとても重い鍵で、正直その重さは私への期待の重さのような気がして、少し気が重くなったがこれもなりゆきだ。
「では、しばらくお借り致します。《エリクサー》製造の目処がつきましたら、またご相談させて下さい」
「了解した。期待して待っているよ」
その後もしばらくラビ部長の熱い《エリクサー》トークに付き合わされた。ラビ部長自身もかなり研究はしている様子で、お話はとても参考になったが、そのハードルの高さを見せつけられることにもなり、私は暗澹たる気分になっていた。
やっと話が一段落付いて、供出した《ポーション》の代金を素材の費用として〝魔法薬研究会〟に預ける旨の書類にサインした私は、わざわざ部室棟の外まで見送りに出てきてくれたラビ部長に見送られ、若干引きつり気味の笑顔でグッケンス博士の研究室までトボトボと戻った。
ラビ部長の熱に当てられ、肩を落としながら戻った私を、ソーヤに淹れてもらった香り高い異世界コーヒーを飲みながら書き物をしていたグッケンス博士が不思議そうな顔で迎えてくれた。
「なんだ。随分としおれているようだがどうした?」
私は〝魔法薬研究会〟での顛末と《エリクサー》挑戦へのラビ部長の熱い期待の話を、愚痴っぽく語った。
「お前も難儀な奴よのぉ」
博士は苦笑している。
「ラビは真面目で責任感の強い男だからの。できるなら自分のいる間に完全な形で《エリクサー》を再現しておきたいのだろうよ。この世界最高峰の魔法薬研究施設の部長というのは、なかなかの重責、できるなら助けてやっておくれ」
「そうなんですね。とにかくやってみます。作り方についてはこれからですけどね」
私はまたも新しい課題を背負ってしまったようだが、これは私の目標のひとつでもあったことだ。あまり気負わず、コツコツと勉強を続けていくしかないだろう。
ため息をつく私に、グッケンス博士はこんな提案をしてくれた。
「息がつまるようなら、気分転換に学校の外へ出てみてはどうじゃ? ここの街はなかなかおもしろいところだぞ。お前の好きな市場もあるし、景色が変われば、気持ちが晴れるかも知れん」
(そういえば、まだ私この学校の外に出たことがなかったな)
私は市場と聞いて、俄然街に行きたくなってきた。まんまとグッケンス博士に乗せられてしまったが、これは確かにいい気分転換になりそうだ。
「ありがとうございます。早速、次のお休みに行ってみます。どんな街なのか、楽しみです」
初めていく市場での買い物、これは本当にワクワクする体験だ。どんな食材があるのだろう、どんなお店があるのだろうと、私の頭の中はそれで一杯になり、その日の夜は《エリクサー》のことを考えることもなく、ぐっすり眠ることができたのだった。
ラビ部長に燃えるような目でそう言われた私は、正直若干引いていた。
(そんなおおごとなわけ? 知らないし、知らなかったし!!)
正直なところ、私は《エリクサー》を作るということが、ここまで困難だという現実について全く知らなかった。ハルリリさんからも、そんな話は聞いていなかったし、最高ランクの魔法薬なのだから、それなりに苦労はすると覚悟はしていたけれど、どうやらそんなレベルの話ではないようだ。
きっと私が薬作りの目標をハルリリさんに話したあの頃は、ハルリリさんも子供の夢物語だと思っていたから《エリクサー》製造の難しさを特に説いたりせず、ただ〝いつかできるといいね〟と言うに留めたのだろう。
(いや、ハルリリさん、言ってくださいよ! おかげでなんだか引くに引けない状態になっちゃいましたよぉ~)
私は遠いシラン村にいるハルリリさんに向かって、思いっきり心の中で恨み言を言いながらも、顔では平静を保って、熱い期待の眼差しで私を見るラビ部長と向かい合っていた。
「そ、それではその失敗した実験に関する資料も見せて頂けますか。きっと、失敗の中には成功への鍵が何かあるはずですから……」
「もちろん、この〝魔法薬研究会〟が保管している《エリクサー》に関する資料は全て開示する。この重要資料専用書架の鍵を貸しておくよ。なかなか危ない資料の多い場所だから扱いにはくれぐれも気をつけてね」
そう言ってラビ部長は魔法学校の校章が刻まれた重厚な鍵を私に預けてくれた。それはとても重い鍵で、正直その重さは私への期待の重さのような気がして、少し気が重くなったがこれもなりゆきだ。
「では、しばらくお借り致します。《エリクサー》製造の目処がつきましたら、またご相談させて下さい」
「了解した。期待して待っているよ」
その後もしばらくラビ部長の熱い《エリクサー》トークに付き合わされた。ラビ部長自身もかなり研究はしている様子で、お話はとても参考になったが、そのハードルの高さを見せつけられることにもなり、私は暗澹たる気分になっていた。
やっと話が一段落付いて、供出した《ポーション》の代金を素材の費用として〝魔法薬研究会〟に預ける旨の書類にサインした私は、わざわざ部室棟の外まで見送りに出てきてくれたラビ部長に見送られ、若干引きつり気味の笑顔でグッケンス博士の研究室までトボトボと戻った。
ラビ部長の熱に当てられ、肩を落としながら戻った私を、ソーヤに淹れてもらった香り高い異世界コーヒーを飲みながら書き物をしていたグッケンス博士が不思議そうな顔で迎えてくれた。
「なんだ。随分としおれているようだがどうした?」
私は〝魔法薬研究会〟での顛末と《エリクサー》挑戦へのラビ部長の熱い期待の話を、愚痴っぽく語った。
「お前も難儀な奴よのぉ」
博士は苦笑している。
「ラビは真面目で責任感の強い男だからの。できるなら自分のいる間に完全な形で《エリクサー》を再現しておきたいのだろうよ。この世界最高峰の魔法薬研究施設の部長というのは、なかなかの重責、できるなら助けてやっておくれ」
「そうなんですね。とにかくやってみます。作り方についてはこれからですけどね」
私はまたも新しい課題を背負ってしまったようだが、これは私の目標のひとつでもあったことだ。あまり気負わず、コツコツと勉強を続けていくしかないだろう。
ため息をつく私に、グッケンス博士はこんな提案をしてくれた。
「息がつまるようなら、気分転換に学校の外へ出てみてはどうじゃ? ここの街はなかなかおもしろいところだぞ。お前の好きな市場もあるし、景色が変われば、気持ちが晴れるかも知れん」
(そういえば、まだ私この学校の外に出たことがなかったな)
私は市場と聞いて、俄然街に行きたくなってきた。まんまとグッケンス博士に乗せられてしまったが、これは確かにいい気分転換になりそうだ。
「ありがとうございます。早速、次のお休みに行ってみます。どんな街なのか、楽しみです」
初めていく市場での買い物、これは本当にワクワクする体験だ。どんな食材があるのだろう、どんなお店があるのだろうと、私の頭の中はそれで一杯になり、その日の夜は《エリクサー》のことを考えることもなく、ぐっすり眠ることができたのだった。
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