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3 魔法学校の聖人候補
406 地方貴族との知己の結び方
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406
アーシアン・シルベスター生徒会副会長。
シルベスター公爵家の次男で、2年生の席次一位。
神童の誉れ高く、在校生最強と言われる魔法の使い手。人望も厚く、強い魔法力を持つ優等生。文武両道の美青年。
その優秀さで、2年生でありながら副会長に推薦されたという逸材。
「なんだか、完璧すぎるね。それにしても、どうしてこの副会長がクローナを焚きつけてまで私と争わせようとしたんだろう。分からないなぁ」
ソーヤに調べてもらった範囲でも、全く私との接点は見つからなかったし、私も全く知らない相手だ。
何かまた仕掛けられると面倒だが、今のところとりたてて出来る対策はないようだし、しばらくは様子を見るしかなさそうだった。
「日常生活でも接点はないし、警戒はするけどあまり気にしないでおきましょう」
私はセーヤとソーヤにそう告げ、名前だけ記憶しておくことにした。
さて、おじさまにお礼をしなくてはいけない。貴重な〝天舟〟のレンタル料代わりに、少しおじさまの助けになりそうなものを提供することにしよう。
私はおじさまの昼食時を狙って《無限回廊の扉》を抜け、サイデム商会の中に隠してある扉からおじさまの部屋へ向かった。
おじさまはまた大盛りラーメンを食べている。今日は、商人ギルドの屋台に期間限定で出している新作、まだまだ貴重な試作段階のアキツ産醤油を使った醤油豚骨系。
「おじさま、毎日食べるのはダメだと言ったでしょう!本当に、屋台への出入りを禁止しますよ!!」
いきなり登場した私にびっくりしたおじさまは、いきなり怒られたのもあり、むせながら咳き込んでいる。
「い、いきなり来るなよ!神出鬼没だな、お前も!!」
まだ咳き込んでいるおじさまに、私は魔法で水を出し、グラスに入れて差し出した。
それを飲んで落ち着いたおじさまは、息をついて椅子に座りなおす。
「お前も、だいぶ魔法使いが板についてきたみたいじゃないか」
「おかげさまで。楽しいですよ、魔法学校」
私はラーメンどんぶりを横にずらし、おじさまの前に重箱を置いた。
「今日のお弁当にどうぞ。食べながら話を聞いて下さい」
私のお弁当の中身は、この間のお茶会で披露した地方名産を使った料理だ。
「なんだか、見たことのないものが多いな……うん、うまい。〝大地の恵み亭〟の新しいメニューか?」
「それもいいですが、その前にこういうのはどうですか?」
私がおじさまに勧めたのは、この料理を貴族たちへ提案する、という案だった。今回の地方食探しで分かったのだが、貴族たちは、自分の領地の庶民が口にしているものについて、よく知らない人たちが多い。
それにほとんどの貴族たちの食生活は、基本パレスの食生活に準じたお仕着せの高級食メインで皆似たような肉と野菜を食しており、自分の領地の庶民が、しかもその一部だけが旬の時だけ食しているようなものは、知りもしないし食べる機会もないのだ。
「なのに、彼らは〝発信者〟になることには、並々ならぬ執着を持っているんです」
〝塩ラーメン〟をドール侯爵家でお披露目した後、その〝塩ラーメン〟は必ずドール家で最初に発表されたという逸話付きで供されるようになり、大いにドール家の名を上げることになったと聞いている。
どの家でも同じように、文化の担い手として名を上げたい、そう切望している。ならばそれを助けてあげたら、とても感謝されるのではないか、私はそう考えた。
「今回、まぁ、偶然ですけれど、色々と地方の美味しいものを見つけて、調理法も凝ったモノを考えたので、このままにするのも惜しいかな、と思ったんですよ。どうでしょう、地方貴族に彼らの知らない自領の食材と私のレシピセットにして提案してみませんか」
これのより、多くの貴族たちに恩を売りつつ、商品も売れる。一石二鳥だ。おじさまの貴族とのコネクションは更に広がり、パレスへの商品の輸送には、おじさまの〝天舟〟が大活躍するだろう。
「マジックバッグで輸送すれば品質は保てるが、輸送時間の短縮にはならんからな。地方貴族に〝天舟〟を持つものはほとんどいないし、遠方の領地の品を余裕を持ってこの社交シーズンに合わせて大量に運ぼうとすれば、サイデム商会に頼むしかない、ということか。その上、地方にもないお前の斬新なレシピが加われば、奴らはいくらでも払うだろうな……」
おじさま、色々と商売の算段が頭の中で駆け巡っているらしく、なかなか悪い顔でお弁当を食べている。
私はおじさまに、地方の美味を探す仕事をする人たちを雇うことも提案した。今後もそうやって探していけば。きっと中にはサイデム商会で売り出せる新商品があるだろうし、貴族たちに売り込めるものも出てくるはずだ。
「分かった。早速、人選をしてみよう」
私の所にも美味しいものを見つけたら、必ず送って下さいと約束したところで、最後のお礼の品をおじさまに渡すことにした。
「今回は、急なことだったのに快く貴重な〝天舟〟を貸して下さって本当にありがとうございました。これは、感謝の印です。どうぞお役に立てて下さい」
私がマジックバッグから取り出したものを見たおじさまは、呆れた顔で私を見てこう言ったおた。
「お前、これをどうやって手に入れたんだ!?」
アーシアン・シルベスター生徒会副会長。
シルベスター公爵家の次男で、2年生の席次一位。
神童の誉れ高く、在校生最強と言われる魔法の使い手。人望も厚く、強い魔法力を持つ優等生。文武両道の美青年。
その優秀さで、2年生でありながら副会長に推薦されたという逸材。
「なんだか、完璧すぎるね。それにしても、どうしてこの副会長がクローナを焚きつけてまで私と争わせようとしたんだろう。分からないなぁ」
ソーヤに調べてもらった範囲でも、全く私との接点は見つからなかったし、私も全く知らない相手だ。
何かまた仕掛けられると面倒だが、今のところとりたてて出来る対策はないようだし、しばらくは様子を見るしかなさそうだった。
「日常生活でも接点はないし、警戒はするけどあまり気にしないでおきましょう」
私はセーヤとソーヤにそう告げ、名前だけ記憶しておくことにした。
さて、おじさまにお礼をしなくてはいけない。貴重な〝天舟〟のレンタル料代わりに、少しおじさまの助けになりそうなものを提供することにしよう。
私はおじさまの昼食時を狙って《無限回廊の扉》を抜け、サイデム商会の中に隠してある扉からおじさまの部屋へ向かった。
おじさまはまた大盛りラーメンを食べている。今日は、商人ギルドの屋台に期間限定で出している新作、まだまだ貴重な試作段階のアキツ産醤油を使った醤油豚骨系。
「おじさま、毎日食べるのはダメだと言ったでしょう!本当に、屋台への出入りを禁止しますよ!!」
いきなり登場した私にびっくりしたおじさまは、いきなり怒られたのもあり、むせながら咳き込んでいる。
「い、いきなり来るなよ!神出鬼没だな、お前も!!」
まだ咳き込んでいるおじさまに、私は魔法で水を出し、グラスに入れて差し出した。
それを飲んで落ち着いたおじさまは、息をついて椅子に座りなおす。
「お前も、だいぶ魔法使いが板についてきたみたいじゃないか」
「おかげさまで。楽しいですよ、魔法学校」
私はラーメンどんぶりを横にずらし、おじさまの前に重箱を置いた。
「今日のお弁当にどうぞ。食べながら話を聞いて下さい」
私のお弁当の中身は、この間のお茶会で披露した地方名産を使った料理だ。
「なんだか、見たことのないものが多いな……うん、うまい。〝大地の恵み亭〟の新しいメニューか?」
「それもいいですが、その前にこういうのはどうですか?」
私がおじさまに勧めたのは、この料理を貴族たちへ提案する、という案だった。今回の地方食探しで分かったのだが、貴族たちは、自分の領地の庶民が口にしているものについて、よく知らない人たちが多い。
それにほとんどの貴族たちの食生活は、基本パレスの食生活に準じたお仕着せの高級食メインで皆似たような肉と野菜を食しており、自分の領地の庶民が、しかもその一部だけが旬の時だけ食しているようなものは、知りもしないし食べる機会もないのだ。
「なのに、彼らは〝発信者〟になることには、並々ならぬ執着を持っているんです」
〝塩ラーメン〟をドール侯爵家でお披露目した後、その〝塩ラーメン〟は必ずドール家で最初に発表されたという逸話付きで供されるようになり、大いにドール家の名を上げることになったと聞いている。
どの家でも同じように、文化の担い手として名を上げたい、そう切望している。ならばそれを助けてあげたら、とても感謝されるのではないか、私はそう考えた。
「今回、まぁ、偶然ですけれど、色々と地方の美味しいものを見つけて、調理法も凝ったモノを考えたので、このままにするのも惜しいかな、と思ったんですよ。どうでしょう、地方貴族に彼らの知らない自領の食材と私のレシピセットにして提案してみませんか」
これのより、多くの貴族たちに恩を売りつつ、商品も売れる。一石二鳥だ。おじさまの貴族とのコネクションは更に広がり、パレスへの商品の輸送には、おじさまの〝天舟〟が大活躍するだろう。
「マジックバッグで輸送すれば品質は保てるが、輸送時間の短縮にはならんからな。地方貴族に〝天舟〟を持つものはほとんどいないし、遠方の領地の品を余裕を持ってこの社交シーズンに合わせて大量に運ぼうとすれば、サイデム商会に頼むしかない、ということか。その上、地方にもないお前の斬新なレシピが加われば、奴らはいくらでも払うだろうな……」
おじさま、色々と商売の算段が頭の中で駆け巡っているらしく、なかなか悪い顔でお弁当を食べている。
私はおじさまに、地方の美味を探す仕事をする人たちを雇うことも提案した。今後もそうやって探していけば。きっと中にはサイデム商会で売り出せる新商品があるだろうし、貴族たちに売り込めるものも出てくるはずだ。
「分かった。早速、人選をしてみよう」
私の所にも美味しいものを見つけたら、必ず送って下さいと約束したところで、最後のお礼の品をおじさまに渡すことにした。
「今回は、急なことだったのに快く貴重な〝天舟〟を貸して下さって本当にありがとうございました。これは、感謝の印です。どうぞお役に立てて下さい」
私がマジックバッグから取り出したものを見たおじさまは、呆れた顔で私を見てこう言ったおた。
「お前、これをどうやって手に入れたんだ!?」
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