利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

402 東屋のお茶会

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402

あまり例がないらしい庶民と貴族の混在する今回のお茶会のために、学校内の庭園にある広めの東屋を借りることにした。借りたと言っても、ここは普段から特に許可を取らなくても使える場所なのだが、大量の食器や料理を持ち込んで準備する時間もあり、その間貸し切ってしまうので、一応チェット・モートさん経由で、学校側からの承認は取ることにした。

(まぁ、モートさんは、私のすることには何でもホイホイ許可を出してくれるんだけどね)

魔法学校の広大な敷地には、自然にあふれた森や大きな池、貴族の屋敷のように整えられた庭園、色々な植物を育てている温室に運動もできる広大な芝生など、とても緑が多い。

今回の東屋のある庭園は小さめだが、貴族たちも時にお茶をする美しい建物で、今回のような小規模なお茶会にはうってつけだった。
なんでも、ここの景色を気に入ったとある貴族のご令嬢が、自分のお茶会のために私財を投じて十数年前に作らせたのだそうだ。少し古くなってきてはいるが、まだまだ味のある素敵な建物だと思う。

今の季節は、風も気持ちよく緑が美しい季節なので、とても気持ちの良い場所だ。

「いい風だね」

大きく伸びをしながらやってきたのは、トルルとオーライリ。
彼女たちは、最初、自分たちも手伝いたいと言ってくれたのだが、今回は私が遠慮した。今回のちょっとしたサプライズ演出のためにも、事前に料理を見せたくなかったためだ。

それでも若干早めにやってきてくれたふたりだが、緑が綺麗と言いながらも、机の上の可愛らしいお菓子に目が釘付けだ。

黒塗りと朱塗りの2段のボックスを使って立体的に並べられたお菓子と軽食は、全て一口サイズのフィンガーフードで統一。色合いにもかなり気を使い、ベリーや色鮮やかな野菜を取り入れて、目にも鮮やかになるよう気を使った。

今日の料理は、ワンスプーン、プティフール、ピンチョスといった、気軽に手でつまんで食べられる大きさの料理で統一してある。

これならならば、行儀やマナーを気にする必要もなく、気軽に手をつけやすいだろう。

続いてやってきたライアン、ザイク、モーラも、赤と黒で統一した食器とそこに並べられた可愛らしい大きさの美しい料理に興味津々だ。

そして、最後にクローナ嬢がやってきた。

「お招きありがとう。私の席はどこかしら?」

相変わらず、高飛車な感じの物言いだが、別に彼女は怒っているわけでも、私たちを蔑んでいるわけでもないことは、オーライリの説明で分かっているので、皆和やかに挨拶して、席に着いた。

ソーヤとセーヤはそつなく皆を席へと導き、最初のお茶をサーブする。

私は主催者なので、一応最初に挨拶をすることにした。

「本日は、仲の良いお友達と楽しく語らうことを目的としたお茶会です。
魔法学校の学生同士、楽しくおしゃべりしましょう」

そして、皆の前に横長の皿に美しく盛り付けられた、串に刺した料理とスプーンに乗った料理が幾つか、一口サイズの先付け風に運ばれた。

「ああ、これ、この香り〝モモーム茸〟じゃないか!これ、香りもいいけど味も最高なんだよ!」

ライアンが串に刺さったキノコと卵と鶏ひき肉を使った〝モモーム茸の松風焼き風〟の串を振り回さんばかりにして、喜んでいる。

びっくりする周囲に、自慢げにその美味しさを説明するライアン。

「僕の住んでいる地域は山の多いところで、色々なキノコが取れるんだけど、その中でもこの〝モモーム茸〟は一番美味しいって言われてたんだ。あまり日持ちがしないから、他の地域の人は知らないだろうけど、本当に煮ても焼いても最高さ!」

促されて口にした皆も、その美味しさを褒め称えた。

「これ、本当に美味しいし、不思議だけどいい香りがするね」
「この取り合わせもいいのね。食感も楽しいわ」
「これ、もっと食べたい!」

一口しかないことに不満さえ出る好評に、地元の食材を褒められたライアンは有頂天だ。

クローナ嬢も初めての味だったらしく、とても美味しそうに食べている。

「不思議な香りのキノコね。一口だけなのに、本当に濃厚な味」

(よしよし、最初から好感触)

私は心の中でガッツポーズをしながら、皆の様子を観察する。

続いて話し始めたのは私と同じくらい背の小さい獣人の学生モーラ。可愛らしい猫のような耳を持っているが、それ以外は人となんら変わらない可愛らしい少女だ。

「この透明なのに入っているの〝セッコ蟹〟の身ダァ。わぁ、懐かしいなぁ、おいしいなぁ」

モーラはとろけそうな顔で、大事そうに食べてから、皆に説明してくれた。

「私の住んでいたのは河沿いの町だったんだけど、その河でこの〝セッコ蟹〟が獲れるの。お祝いの時には必ず食べるし、身が詰まっていて、味があって、本当に美味しいのよ」

これも、とても美味しい食材だが、町の外まで流通させるほどの量は獲れないため、地元の人だけが楽しむご馳走だという。

「蟹って美味しいのね。初めて食べたわ」
「モーラはうまいもの食べてたんだな。これ好きだよ、いいね」
「この周りの透明なのも美味しいね。この身によく合ってる」

こちらは〝セッコ蟹のコンソメゼリー寄せ〟をスプーンで一口に食べて頂く趣向だ。

モーラの住む町は獣人が多く住む地域で、昔は迫害にあっていた獣人たちがひっそりと暮らしていたそうだ。

「でも、シド帝国は獣人を差別したりしなかった。こうして学校にも入れてくれるしね。今は、人と一緒に仲良く暮らせる町になったんだ」

モーラの言葉に、みんな誇らしげだ。シド帝国は、少数民族を束ねて成長した国家の成り立ちから、帝国と敵対しない者を迫害したりはしない。それは、ひどい扱いを受けたことのあるモーラたちのような民族には、本当に安心できる国といえた。

「モーラさんは、シド帝国はいい国だと思ってくれているのね」

クローナ嬢が嬉しそうに微笑んでいる。

「ええ、最高ですよ!」

モーラもいい笑顔だ。

「この〝セッコ蟹〟と言ったかしら。美味しい、本当に美味しいわ」

2人のやりとりに、周りのみんなもほっこりした表情だ。

(よしよし、掴みはいいね!)
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