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3 魔法学校の聖人候補
398 〝魔法薬研究会〟
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398
クラブ活動について調べていた時、実はもうひとつ特殊な〝研究会〟があることをレカ先輩から聞いていた。
それは〝魔法薬研究会〟
ここは、学校からの金銭的補助を一切受けていないにも拘らず、大きな部室棟と広大な薬草園を有し、潤沢な資金を持つ研究会として有名だった。理由は簡単で、彼らの作る《魔法薬》が売れるからだ。数年に一度は希少な《魔法薬》を作ることにも成功してきているので、その度にかなりの高額を手にしているし、普段使いの《魔法薬》も定期的に軍部へ納品しているそうだ。
《魔法薬》の価格は、需要と供給が全くバランスしていないせいもあり、信じがたいほどの高額だ。
しかも効果が高いものほど、素材のレア度も増すので、作りたくても作れないことが多く、量産が難しい。
以前、私の採取した〝ヒーリング・ドロップ〟も、億単位の高額で取引されていたし、高級薬を作るなら素材費だけでもかなりの高額になってしまう。薬の勉強のためにはかなりの資金が必要ということだ。
そう考えると、勉強の副産物として出来上がった薬を売ることで研究費を得る、というのはとても理に適っている。
私は話を聞いた時から、この研究会に興味を持っていた。もちろん大きな理由は《白魔法》のためのリサーチだ。
《魔法薬》の誕生と《白魔法》の間に密接な関連があることは、これまで資料からも伝聞からも漏れ伝わってきていた。それに、〝彼〟の備忘録を読んだ印象から、これはまだ私の想像の域を出ないが、おそらく《魔法薬》を生み出したのも〝彼〟なのではないか、とも考えている。
(だとしたら《魔法薬》について研究しているここには、何かヒントがある気がする)
私は現在の〝クラブ活動〟推奨の機運に乗ってやってきた新入生として、この〝魔法薬研究会〟を見学するため訪ねてみることにした。
訪れた〝魔法研究会〟の建物は大層立派なものだった。研究の場らしい整えられスッキリした印象の部室棟に入ると、上級生たちはとても歓迎してくれた。
どうやら、1年生たちは目新しい楽しそうな部活に流れているらしく、至極真面目で難しそうなこの研究会への入部希望者はまだ少ないらしい。それに、もうひとつの敬遠される理由として《魔法薬》作りに、魔法力を使ってしまい練習ができなくなることを、あまり魔法力の高くない生徒たちが嫌がる、ということも大きい。
《魔法薬》については、上級生になれば授業で基礎は学ぶことができるため、薬師を目指しているとか研究職志望、といった目標がないと、中々入部はしてくれないようだ。
「よくきてくれたね。マリスさんは……ああ、内弟子の。グッケンス博士の世話係兼内弟子だよね。若いのに優秀だと聞いているよ」
私は内心、彼らがどんな噂を聞いているのか気になりながらも、笑顔を絶やさずこの研究会についての説明を伺った。
〝魔法薬研究会〟部長のサマル・ラビ先輩は、聖天真教の高位にいる司祭を長年務めている家系のご次男だそうだ。
卒業後は教会の運営する治療施設で働く予定なため、魔法だけでなく薬学全般も学んでいるという。
「この研究会の部長は、聖職者の家系の人間がなることが多いんだよ。なぜなのかはっきりとは解明されていないんだが、信仰心が強い者の作る《魔法薬》の方がやや効果が高いという傾向があるので、僕もそれで推薦されて部長になったんだ」
長い銀髪を無造作に束ねた白衣のラビ先輩は、確かに聖職者っぽい落ち着いた雰囲気の先輩だった。出してくれたお茶も、鎮静効果があり躰が休まるというもので、いくつかの薬草がブレンドされていた。不味くはないが、薬効優先な所はさすが薬の研究をしている場所らしい。
(ハチの木の樹皮にシズメ草、それにロカロカの葉もブレンドしてるな。確かに鎮静効果もあるし、気持ちが落ち着くレシピだ)
私は顔に出さないように素早く《鑑定》しながらお茶を頂いた。
「お茶をありがとうございました。私はお世話係という仕事を持っていますので、余り真面目に参加できないかもしれませんが、それでも入部できますか?」
私の問いに、ラビ先輩は鷹揚に頷いてくれた。
「マリスさんの〝聴講生〟という立場は心得ているよ。志さえあれば、誰でも歓迎する。正直、部員はひとりでも多く欲しいしね。
ここで研鑽を積めば、幅広い《魔法薬》についての知識を学べるし、経験も積むことができる。先輩方の残した研究資料も閲覧出来るし、ここの倉庫には貴重な素材も豊富だよ。個人では中々材料が揃わない、滅多に作れないような貴重な薬を作る機会もある。魔法使いになるとしても、知っていて損になることは絶対にない分野だよ」
そこで、ラビ先輩が言い淀んだ。
「……ただ、我々は学校側から色々な便宜を図られていてね。その代償として、時々仕事をしなくちゃいけないんだ」
私が不思議そうな顔をしたのを、嫌がっていると感じたのか、ラビ先輩は慌てて補足説明をしてくれた。
その仕事は、特急の《高級魔法薬》作り。依頼元は軍部。
軍がらみで緊急の討伐隊などが編成された場合、保管されている《魔法薬》に不足が起こると、魔法学校にも納品依頼が来る。〝魔法薬研究会〟は魔法学校の代表としてその受け皿になっているのだ。
「こちらもいい勉強にはなるし、支払いもしっかりしてもらえるので助かってもいるんだけど、なにせいつも緊急でね。下手をすると一時的に授業に出る時間もない状態になることが、年に数回起こるんだ」
確かに、国中から引っ掻き集めるより、素材も人材も確保されている魔法学校に依頼する方が効率的だ。それに、ここでは日常的に《魔法薬》を作り続けているため、ストックも豊富。高い魔法力を持つ人材が揃っているから、多少無理をさせても大丈夫、ということなのだろう。
何よりここは隔離された国直轄の施設であるため、情報の漏洩の心配が少ない。
〝大掛かりで緊急な案件〟といった、情報を統制したいだろう作戦に関わらせるには、非常に都合のいい場所だ。
ちょっときな臭いが感じがしなくもないが、膨大な研究資料を閲覧出来るのはとても魅力的だ。
(〝魔法薬研究会〟入部……してみようかな)
クラブ活動について調べていた時、実はもうひとつ特殊な〝研究会〟があることをレカ先輩から聞いていた。
それは〝魔法薬研究会〟
ここは、学校からの金銭的補助を一切受けていないにも拘らず、大きな部室棟と広大な薬草園を有し、潤沢な資金を持つ研究会として有名だった。理由は簡単で、彼らの作る《魔法薬》が売れるからだ。数年に一度は希少な《魔法薬》を作ることにも成功してきているので、その度にかなりの高額を手にしているし、普段使いの《魔法薬》も定期的に軍部へ納品しているそうだ。
《魔法薬》の価格は、需要と供給が全くバランスしていないせいもあり、信じがたいほどの高額だ。
しかも効果が高いものほど、素材のレア度も増すので、作りたくても作れないことが多く、量産が難しい。
以前、私の採取した〝ヒーリング・ドロップ〟も、億単位の高額で取引されていたし、高級薬を作るなら素材費だけでもかなりの高額になってしまう。薬の勉強のためにはかなりの資金が必要ということだ。
そう考えると、勉強の副産物として出来上がった薬を売ることで研究費を得る、というのはとても理に適っている。
私は話を聞いた時から、この研究会に興味を持っていた。もちろん大きな理由は《白魔法》のためのリサーチだ。
《魔法薬》の誕生と《白魔法》の間に密接な関連があることは、これまで資料からも伝聞からも漏れ伝わってきていた。それに、〝彼〟の備忘録を読んだ印象から、これはまだ私の想像の域を出ないが、おそらく《魔法薬》を生み出したのも〝彼〟なのではないか、とも考えている。
(だとしたら《魔法薬》について研究しているここには、何かヒントがある気がする)
私は現在の〝クラブ活動〟推奨の機運に乗ってやってきた新入生として、この〝魔法薬研究会〟を見学するため訪ねてみることにした。
訪れた〝魔法研究会〟の建物は大層立派なものだった。研究の場らしい整えられスッキリした印象の部室棟に入ると、上級生たちはとても歓迎してくれた。
どうやら、1年生たちは目新しい楽しそうな部活に流れているらしく、至極真面目で難しそうなこの研究会への入部希望者はまだ少ないらしい。それに、もうひとつの敬遠される理由として《魔法薬》作りに、魔法力を使ってしまい練習ができなくなることを、あまり魔法力の高くない生徒たちが嫌がる、ということも大きい。
《魔法薬》については、上級生になれば授業で基礎は学ぶことができるため、薬師を目指しているとか研究職志望、といった目標がないと、中々入部はしてくれないようだ。
「よくきてくれたね。マリスさんは……ああ、内弟子の。グッケンス博士の世話係兼内弟子だよね。若いのに優秀だと聞いているよ」
私は内心、彼らがどんな噂を聞いているのか気になりながらも、笑顔を絶やさずこの研究会についての説明を伺った。
〝魔法薬研究会〟部長のサマル・ラビ先輩は、聖天真教の高位にいる司祭を長年務めている家系のご次男だそうだ。
卒業後は教会の運営する治療施設で働く予定なため、魔法だけでなく薬学全般も学んでいるという。
「この研究会の部長は、聖職者の家系の人間がなることが多いんだよ。なぜなのかはっきりとは解明されていないんだが、信仰心が強い者の作る《魔法薬》の方がやや効果が高いという傾向があるので、僕もそれで推薦されて部長になったんだ」
長い銀髪を無造作に束ねた白衣のラビ先輩は、確かに聖職者っぽい落ち着いた雰囲気の先輩だった。出してくれたお茶も、鎮静効果があり躰が休まるというもので、いくつかの薬草がブレンドされていた。不味くはないが、薬効優先な所はさすが薬の研究をしている場所らしい。
(ハチの木の樹皮にシズメ草、それにロカロカの葉もブレンドしてるな。確かに鎮静効果もあるし、気持ちが落ち着くレシピだ)
私は顔に出さないように素早く《鑑定》しながらお茶を頂いた。
「お茶をありがとうございました。私はお世話係という仕事を持っていますので、余り真面目に参加できないかもしれませんが、それでも入部できますか?」
私の問いに、ラビ先輩は鷹揚に頷いてくれた。
「マリスさんの〝聴講生〟という立場は心得ているよ。志さえあれば、誰でも歓迎する。正直、部員はひとりでも多く欲しいしね。
ここで研鑽を積めば、幅広い《魔法薬》についての知識を学べるし、経験も積むことができる。先輩方の残した研究資料も閲覧出来るし、ここの倉庫には貴重な素材も豊富だよ。個人では中々材料が揃わない、滅多に作れないような貴重な薬を作る機会もある。魔法使いになるとしても、知っていて損になることは絶対にない分野だよ」
そこで、ラビ先輩が言い淀んだ。
「……ただ、我々は学校側から色々な便宜を図られていてね。その代償として、時々仕事をしなくちゃいけないんだ」
私が不思議そうな顔をしたのを、嫌がっていると感じたのか、ラビ先輩は慌てて補足説明をしてくれた。
その仕事は、特急の《高級魔法薬》作り。依頼元は軍部。
軍がらみで緊急の討伐隊などが編成された場合、保管されている《魔法薬》に不足が起こると、魔法学校にも納品依頼が来る。〝魔法薬研究会〟は魔法学校の代表としてその受け皿になっているのだ。
「こちらもいい勉強にはなるし、支払いもしっかりしてもらえるので助かってもいるんだけど、なにせいつも緊急でね。下手をすると一時的に授業に出る時間もない状態になることが、年に数回起こるんだ」
確かに、国中から引っ掻き集めるより、素材も人材も確保されている魔法学校に依頼する方が効率的だ。それに、ここでは日常的に《魔法薬》を作り続けているため、ストックも豊富。高い魔法力を持つ人材が揃っているから、多少無理をさせても大丈夫、ということなのだろう。
何よりここは隔離された国直轄の施設であるため、情報の漏洩の心配が少ない。
〝大掛かりで緊急な案件〟といった、情報を統制したいだろう作戦に関わらせるには、非常に都合のいい場所だ。
ちょっときな臭いが感じがしなくもないが、膨大な研究資料を閲覧出来るのはとても魅力的だ。
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