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3 魔法学校の聖人候補
395 資料作るよ!
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395
「さて、準備しますか」
まず私は《無限回廊の扉》を使い、アキツ国マホロにある別荘へ移動した。
ここは最も人の目がなく落ち着ける場所なので、人に見られたくないようなことをするにはうってつけなのだ。
周囲を《索敵》で確認し、軽く《防御結界》を張った後、私はいつものように《異世界召喚の陣》を展開した。
目の前には見慣れた光る輪が現れる。
私は、あれこれ値段を調査しながら、今回の仕事のために欲しかったいくつかの品を、その価格に唸りつつも調達した。今回の大物には、全部で100万円程使うことになってしまったが、時間節約のために、どうしてもこれは必要だった。
「これも、私の平和な学生生活のため。
まぁ、これからも使う機会があるかもしれないし、ね……」
言い訳がましいことを言いながら買ったものを箱詰した私は、すぐ行動を開始した。
ーーー
まずはチェット・モートさんへの確認と交渉からだ。
「〝全ての研究施設の無制限利用権限〟には、保管されている学生たちの成績情報の閲覧も含まれますか?」
私の用意したお菓子を美味しそうにツマミながら、のんびりお茶を飲んでいたモートさんが、噴き出す。
「え、え、メイロードさま。何ですか、いきなり。まぁ、メイロードさまですから、お望みであれば、許可は致しますけれど……一体何をなさるので?」
「まだ秘密ですが、学校にとって大変有益だと思われるある提案のために必要な資料作りの参考にする、とお考え下さい。個人を特定するような情報を何かに使うという話ではありませんので、その点はご安心下さって構いませんよ」
特に〝個人情報〟などという考え方はなさそうで、案外簡単に成績に関する情報は閲覧を許された。成績は常に張り出されるので、ほぼ公開されているのも一緒だから、それほど抵抗はないのかもしれない。
ついでに、資料を閲覧できる部屋を借りることもお願いし、必要な資料と場所は確保できた。
次は人材だ。
レカさんをはじめとする文芸部員12名を、借りた部屋へ緊急召集。
一通り挨拶すると、直ぐに仕事に取り掛かってもらった。
「この部屋で見たもの、聞いたこと、すべて内密でお願い致します。
皆さんの活動に予算がつけられるようにするための重要な作業ですので、大変ですがご協力をお願い致します」
私の言葉に皆真剣に頷いてくれる。
どうやらルカ先輩、きっちり話をしてみんなをまとめ、やる気にしてくれたようだ。時間もないことだし、とても助かる。
彼らは、今までにもアンケートの集計などを、何度も行なっているため、私がしようとしていることをそう長く説明することもなく理解してくれたし、仕事も早かった。
(よしよし、これならすぐ出来る!)
私がしようとしているのは、統計処理だ。
「ここに、とある国の方からお借りした〝魔法道具〟を用意しました。使い方は簡単なのですぐ覚えられます。
貴重な品ですので、決してこの部屋から持ち出さないようにして下さいね」
私が、取り出したのは5台のソーラー電卓。元は千円もしない価格のものだが、相変わらずの無慈悲なエグい補正のせいで、随分と高価な買い物になってしまった文明の利器だ。だが、さすがにこれぐらいはないと、膨大なデータの計算は時間がかかり過ぎる。
(本当は表計算ソフトが欲しいところだけど、さすがにね。それに、数は多いけれど複雑な解析をする必要はないはずだから、これでなんとかなるはず)
私は、過去10年間の学生たちの成績表からある情報を引き出そうとしていた。
私には、その結果に確信めいたものがあったので、徐々にまとまっていくデータに、予想通りのある傾向を見出せた時にも
(やっぱりね!)
という気持ちが大きかった。
レカさんを始めとする文芸クラブの方々に、その傾向について少しだけ説明すると、彼らはものすごく驚き、そしてとても喜んでくれた。そして、資料作成にも益々力が入り、膨大なデータだったにも関わらず、僅か5日で資料は完成するに至った。
但し、文芸クラブの面々は、ほとんど不眠不休だったようだが……
(強制したわけじゃないんだけど、なんだか皆さんハイになっていて、ものすごく楽しそうに徹夜をしているので、止められなかったんだよね)
一応、夜食を用意したり、お茶に《ポーション》を混ぜたりして、躰に無理が来ないようケアはしたけれど、出来上がった後は、みんな死屍累々という雰囲気で、机に突っ伏し、幸せそうに倒れていた。
(お疲れ様でした。では、もうひと頑張りしますか)
私はセーヤとソーヤに手伝ってもらい、コンパス・定規に方眼紙を使って工作を開始。
出来上がった物をグッケンス博士に見てもらった。
「これからお見せするものは、この学園に保管されていた学生たちの過去10年間の成績を基にした客観的な資料です。この資料に価値があると思って頂けましたら、ぜひ学校当局へ働きかける機会を頂けませんでしょうか」
「また、妙なことに首を突っ込んでおるようじゃなぁ、メイロード」
いつものようにコーヒー片手に書き物をしていた博士は、苦笑しながらも、快く私の話を聞いてくれた。
「この資料には、私の平穏な学生生活がかかっていますので、真面目にいきますね。では、こちらのグラフをご覧ください」
私はプレゼンを始める。クラブ活動の今後を決める交渉の開始だ。
「さて、準備しますか」
まず私は《無限回廊の扉》を使い、アキツ国マホロにある別荘へ移動した。
ここは最も人の目がなく落ち着ける場所なので、人に見られたくないようなことをするにはうってつけなのだ。
周囲を《索敵》で確認し、軽く《防御結界》を張った後、私はいつものように《異世界召喚の陣》を展開した。
目の前には見慣れた光る輪が現れる。
私は、あれこれ値段を調査しながら、今回の仕事のために欲しかったいくつかの品を、その価格に唸りつつも調達した。今回の大物には、全部で100万円程使うことになってしまったが、時間節約のために、どうしてもこれは必要だった。
「これも、私の平和な学生生活のため。
まぁ、これからも使う機会があるかもしれないし、ね……」
言い訳がましいことを言いながら買ったものを箱詰した私は、すぐ行動を開始した。
ーーー
まずはチェット・モートさんへの確認と交渉からだ。
「〝全ての研究施設の無制限利用権限〟には、保管されている学生たちの成績情報の閲覧も含まれますか?」
私の用意したお菓子を美味しそうにツマミながら、のんびりお茶を飲んでいたモートさんが、噴き出す。
「え、え、メイロードさま。何ですか、いきなり。まぁ、メイロードさまですから、お望みであれば、許可は致しますけれど……一体何をなさるので?」
「まだ秘密ですが、学校にとって大変有益だと思われるある提案のために必要な資料作りの参考にする、とお考え下さい。個人を特定するような情報を何かに使うという話ではありませんので、その点はご安心下さって構いませんよ」
特に〝個人情報〟などという考え方はなさそうで、案外簡単に成績に関する情報は閲覧を許された。成績は常に張り出されるので、ほぼ公開されているのも一緒だから、それほど抵抗はないのかもしれない。
ついでに、資料を閲覧できる部屋を借りることもお願いし、必要な資料と場所は確保できた。
次は人材だ。
レカさんをはじめとする文芸部員12名を、借りた部屋へ緊急召集。
一通り挨拶すると、直ぐに仕事に取り掛かってもらった。
「この部屋で見たもの、聞いたこと、すべて内密でお願い致します。
皆さんの活動に予算がつけられるようにするための重要な作業ですので、大変ですがご協力をお願い致します」
私の言葉に皆真剣に頷いてくれる。
どうやらルカ先輩、きっちり話をしてみんなをまとめ、やる気にしてくれたようだ。時間もないことだし、とても助かる。
彼らは、今までにもアンケートの集計などを、何度も行なっているため、私がしようとしていることをそう長く説明することもなく理解してくれたし、仕事も早かった。
(よしよし、これならすぐ出来る!)
私がしようとしているのは、統計処理だ。
「ここに、とある国の方からお借りした〝魔法道具〟を用意しました。使い方は簡単なのですぐ覚えられます。
貴重な品ですので、決してこの部屋から持ち出さないようにして下さいね」
私が、取り出したのは5台のソーラー電卓。元は千円もしない価格のものだが、相変わらずの無慈悲なエグい補正のせいで、随分と高価な買い物になってしまった文明の利器だ。だが、さすがにこれぐらいはないと、膨大なデータの計算は時間がかかり過ぎる。
(本当は表計算ソフトが欲しいところだけど、さすがにね。それに、数は多いけれど複雑な解析をする必要はないはずだから、これでなんとかなるはず)
私は、過去10年間の学生たちの成績表からある情報を引き出そうとしていた。
私には、その結果に確信めいたものがあったので、徐々にまとまっていくデータに、予想通りのある傾向を見出せた時にも
(やっぱりね!)
という気持ちが大きかった。
レカさんを始めとする文芸クラブの方々に、その傾向について少しだけ説明すると、彼らはものすごく驚き、そしてとても喜んでくれた。そして、資料作成にも益々力が入り、膨大なデータだったにも関わらず、僅か5日で資料は完成するに至った。
但し、文芸クラブの面々は、ほとんど不眠不休だったようだが……
(強制したわけじゃないんだけど、なんだか皆さんハイになっていて、ものすごく楽しそうに徹夜をしているので、止められなかったんだよね)
一応、夜食を用意したり、お茶に《ポーション》を混ぜたりして、躰に無理が来ないようケアはしたけれど、出来上がった後は、みんな死屍累々という雰囲気で、机に突っ伏し、幸せそうに倒れていた。
(お疲れ様でした。では、もうひと頑張りしますか)
私はセーヤとソーヤに手伝ってもらい、コンパス・定規に方眼紙を使って工作を開始。
出来上がった物をグッケンス博士に見てもらった。
「これからお見せするものは、この学園に保管されていた学生たちの過去10年間の成績を基にした客観的な資料です。この資料に価値があると思って頂けましたら、ぜひ学校当局へ働きかける機会を頂けませんでしょうか」
「また、妙なことに首を突っ込んでおるようじゃなぁ、メイロード」
いつものようにコーヒー片手に書き物をしていた博士は、苦笑しながらも、快く私の話を聞いてくれた。
「この資料には、私の平穏な学生生活がかかっていますので、真面目にいきますね。では、こちらのグラフをご覧ください」
私はプレゼンを始める。クラブ活動の今後を決める交渉の開始だ。
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