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3 魔法学校の聖人候補
392 ご令嬢に糾弾されてしまった
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392
「メイロード・マリスって、アナタよね?」
教室の移動中、いきなり私の前に立ち塞がったのは、見るからに〝お貴族様〟という雰囲気を漂わせた女の子。制服を着ていても、ゴージャスでとてもひとりで手入れは出来ない手のかかった目立つ髪型に、宝石の散りばめられた繊細な細工びっしりの髪飾りとなれば一目で分かる。
なかなかの美少女で、背もすらりと高く、目力があるので、近くに立たれるだけでかなりの威圧感だ。
しかもどんどん近づいてきてぶつかりそうな間近に立たれると、どうしても背の小さい私は上から見下されている雰囲気になる。気分は良くないが、身長差は如何ともし難い。
「はい、そうですが……」
一度、姿勢を正して少しでも身長のカサ増しを……というほとんど意味のない努力をしつつ、こう言った私に、上から結構な音量でガンガン言葉が飛んできた。
「あなた、随分と成績が良いようだけど、それってあなたの手柄なの?
おかしいじゃない、貴族でもないくせに《基礎魔法講座》の全てにこれまで一度で合格しているなんて!
本当に不正はないのかしら……それともグッケンス博士に取り入ったのかしら?」
(うわぁ、ド直球の嫌味だな、お貴族様……いつか来るかな、とは思っていたけれど……オブラートに包む気も一切ナシですか。いっそ気持ちいいくらいね)
このところ《白魔法》にかまけていたせいで、他のことにはあまり気配りできず、注意を払いながら取り組む余裕もなかった。だから《基礎魔法講座》の達成度テストも、ちょっとやっつけ気味だったことは確かだ。
そのせいで当初考えていた〝目立たない程度の合格ライン〟を見極めつつ順位のバランスを取るといった微調整が出来ずに、2回ほどブッチギリの1位で合格してしまった。
(相当加減したつもりだったんだけど、やはり授業にちゃんと出ていなかったせいで、周囲との差が今ひとつ分かってなかったんだなぁ、失敗した!)
そして、今私の前に仁王立ちしているのは、恐らくそれまで上位にいた学生の誰か。私のいるクラスではない貴族出身の学生だ。
「私はクローナ・サンス。サンス伯爵家の三女。生徒会の書記も務める1年生の頂点のひとりよ!」
(自己紹介はありがたいけど、頂点とか、自分で言うか……困ったなぁ、イタイ子なのかなぁ)
側から見る構図としては、どう見てもちびっ子をイジメている高圧的なご令嬢。
彼女の好感度が下がるだけの状況なのだが、本人は全くそういうことを気にしない性格のようだ。
彼女のクレームがあまりにド直球で、しかもかなり的外れなため、私も、周囲から様子をうかがっている学生たちも、なんと言ったら良いものかと困惑のあまり沈黙してしまい、廊下でしばし膠着状態になってしまった。
(どこから突っ込んだらいいのやら……)
そんな時、トルルとオーライリが通りがかり、オーライリと同じ生徒会の書記であるクローナ嬢に声をかけてくれた。
「サンス様、小さな子を怯えさせてはダメですよ。驚いて声も出せないでいるじゃないですか!
仮にも私たちは生徒の代表たる生徒会の一員です。皆の模範であらねばならないはずです。このような態度をとるべきではないのではありませんか?」
優等生代表のようなオーライリは、これまたド直球な正論でクローナ嬢を諌めにかかる。
「オーライリ、ではあなたはおかしいとは思わないの?悔しくはないの?
こんな小さい子に《基礎魔法講座》ごときで生徒会の者が遅れを取るなんて、ありえないでしょう!」
今度はトルルが言い返す。
「あり得ないってなんですか?
試験会場は衆人環視、見ようと思えば誰でも見られる状態で行われているんですよ。
サンス様もマリスさんの《着火》をご覧になったでしょう。
見た通りですよ。あれがマリスさんの実力なんですから、疑いようもないでしょう?」
トルルの言葉に身が縮む。
2回目の〝達成度テスト〟の時はひどかった……本当に反省している。
完全に頭が古文書解読モードに入っていて、一刻も早く図書館へ戻りたかったため〝並んだ百本の蝋燭に火をつける〟を、ほぼ一瞬で終えてしまったのだ。
試験官が
「はい、次、マリスさんね。では始めて」
と言った次の瞬間には、全ての蝋燭に火が点いていた。
目一杯加減はしたつもりだった。それでも千本の蝋燭を使った複雑な演出を完璧にこなした経験のある私には、息を吐くぐらい簡単なことだったので、ほとんど無意識に言われたことをやってしまったのだ。
どう見ても取り返しはつかなかったが、その時は心ここにあらずという精神状態だったので、さっさと離れてしまいたくて、私はぺこりとお辞儀をし、出席の判子を貰うと、すぐに退場してしまった。後で聞いたところによると、私が去った後の会場は結構なざわつき加減だったようだ。
「あの時だって、見た通りだったじゃない。どうやったらあれに不正の入る余地があるのよ!」
トルルは、他の学生より私の実力を知っているので、私が不正をする必要などないことを確信しているし、実際その目で試験の様子を見てもいたので、貴族のサンス嬢にも臆さず、彼女の考え違いを指摘してくれた。
「でも、こんな小さい平民の子に、そんな力があるなんて……」
「関係ない!」
「関係ない!」
トルルとオーライリの声が揃った。
さらにオーライリが続ける。
「ここは魔法学校、実力が全て。小さかろうと平民だろうと、魔法を完璧に行使できる生徒が一番偉いの!
それがあなたじゃないからって、マリスさんに当たるのは筋違いだわ。あなたが、実力で彼女に勝てるよう努力するしかないでしょう」
「そうよ!次の〝達成度テスト〟で、あなたがマリスさんに勝てば良いだけのことだわ!」
2人の正論攻撃に、私へのこれ以上の追求は無理だと思ったらしいサンス嬢は、
「分かったわ。今度のテストでは必ずあなたに勝つから!」
と私に顔を更に近づけて言い残し、颯爽と去っていった。
その後、トルルとオーライリは私を気遣って色々と話しかけてくれたが、正直なところ、私はクローナ・サンス嬢にそれほど悪感情は持っていない。
(面と向かっての宣戦布告とか、なかなか青春だよね。影でコソコソなんていうのより、ずっと分かりやすくて潔いと思うわ)
そんな風にちょっと微笑ましくさえ思っていたのだ。
むしろ合格しさえすればよく、評価点もつかない〝達成度テスト〟の便宜上の順位づけに、そこまでこだわらなければいけない貴族出身の学生たちに、なんだか同情さえ感じてしまうのだった。
(合格点ならば十分だし、順位とかどうでもいいから、私は全然勝負する気はないんだけどなぁ……)
「メイロード・マリスって、アナタよね?」
教室の移動中、いきなり私の前に立ち塞がったのは、見るからに〝お貴族様〟という雰囲気を漂わせた女の子。制服を着ていても、ゴージャスでとてもひとりで手入れは出来ない手のかかった目立つ髪型に、宝石の散りばめられた繊細な細工びっしりの髪飾りとなれば一目で分かる。
なかなかの美少女で、背もすらりと高く、目力があるので、近くに立たれるだけでかなりの威圧感だ。
しかもどんどん近づいてきてぶつかりそうな間近に立たれると、どうしても背の小さい私は上から見下されている雰囲気になる。気分は良くないが、身長差は如何ともし難い。
「はい、そうですが……」
一度、姿勢を正して少しでも身長のカサ増しを……というほとんど意味のない努力をしつつ、こう言った私に、上から結構な音量でガンガン言葉が飛んできた。
「あなた、随分と成績が良いようだけど、それってあなたの手柄なの?
おかしいじゃない、貴族でもないくせに《基礎魔法講座》の全てにこれまで一度で合格しているなんて!
本当に不正はないのかしら……それともグッケンス博士に取り入ったのかしら?」
(うわぁ、ド直球の嫌味だな、お貴族様……いつか来るかな、とは思っていたけれど……オブラートに包む気も一切ナシですか。いっそ気持ちいいくらいね)
このところ《白魔法》にかまけていたせいで、他のことにはあまり気配りできず、注意を払いながら取り組む余裕もなかった。だから《基礎魔法講座》の達成度テストも、ちょっとやっつけ気味だったことは確かだ。
そのせいで当初考えていた〝目立たない程度の合格ライン〟を見極めつつ順位のバランスを取るといった微調整が出来ずに、2回ほどブッチギリの1位で合格してしまった。
(相当加減したつもりだったんだけど、やはり授業にちゃんと出ていなかったせいで、周囲との差が今ひとつ分かってなかったんだなぁ、失敗した!)
そして、今私の前に仁王立ちしているのは、恐らくそれまで上位にいた学生の誰か。私のいるクラスではない貴族出身の学生だ。
「私はクローナ・サンス。サンス伯爵家の三女。生徒会の書記も務める1年生の頂点のひとりよ!」
(自己紹介はありがたいけど、頂点とか、自分で言うか……困ったなぁ、イタイ子なのかなぁ)
側から見る構図としては、どう見てもちびっ子をイジメている高圧的なご令嬢。
彼女の好感度が下がるだけの状況なのだが、本人は全くそういうことを気にしない性格のようだ。
彼女のクレームがあまりにド直球で、しかもかなり的外れなため、私も、周囲から様子をうかがっている学生たちも、なんと言ったら良いものかと困惑のあまり沈黙してしまい、廊下でしばし膠着状態になってしまった。
(どこから突っ込んだらいいのやら……)
そんな時、トルルとオーライリが通りがかり、オーライリと同じ生徒会の書記であるクローナ嬢に声をかけてくれた。
「サンス様、小さな子を怯えさせてはダメですよ。驚いて声も出せないでいるじゃないですか!
仮にも私たちは生徒の代表たる生徒会の一員です。皆の模範であらねばならないはずです。このような態度をとるべきではないのではありませんか?」
優等生代表のようなオーライリは、これまたド直球な正論でクローナ嬢を諌めにかかる。
「オーライリ、ではあなたはおかしいとは思わないの?悔しくはないの?
こんな小さい子に《基礎魔法講座》ごときで生徒会の者が遅れを取るなんて、ありえないでしょう!」
今度はトルルが言い返す。
「あり得ないってなんですか?
試験会場は衆人環視、見ようと思えば誰でも見られる状態で行われているんですよ。
サンス様もマリスさんの《着火》をご覧になったでしょう。
見た通りですよ。あれがマリスさんの実力なんですから、疑いようもないでしょう?」
トルルの言葉に身が縮む。
2回目の〝達成度テスト〟の時はひどかった……本当に反省している。
完全に頭が古文書解読モードに入っていて、一刻も早く図書館へ戻りたかったため〝並んだ百本の蝋燭に火をつける〟を、ほぼ一瞬で終えてしまったのだ。
試験官が
「はい、次、マリスさんね。では始めて」
と言った次の瞬間には、全ての蝋燭に火が点いていた。
目一杯加減はしたつもりだった。それでも千本の蝋燭を使った複雑な演出を完璧にこなした経験のある私には、息を吐くぐらい簡単なことだったので、ほとんど無意識に言われたことをやってしまったのだ。
どう見ても取り返しはつかなかったが、その時は心ここにあらずという精神状態だったので、さっさと離れてしまいたくて、私はぺこりとお辞儀をし、出席の判子を貰うと、すぐに退場してしまった。後で聞いたところによると、私が去った後の会場は結構なざわつき加減だったようだ。
「あの時だって、見た通りだったじゃない。どうやったらあれに不正の入る余地があるのよ!」
トルルは、他の学生より私の実力を知っているので、私が不正をする必要などないことを確信しているし、実際その目で試験の様子を見てもいたので、貴族のサンス嬢にも臆さず、彼女の考え違いを指摘してくれた。
「でも、こんな小さい平民の子に、そんな力があるなんて……」
「関係ない!」
「関係ない!」
トルルとオーライリの声が揃った。
さらにオーライリが続ける。
「ここは魔法学校、実力が全て。小さかろうと平民だろうと、魔法を完璧に行使できる生徒が一番偉いの!
それがあなたじゃないからって、マリスさんに当たるのは筋違いだわ。あなたが、実力で彼女に勝てるよう努力するしかないでしょう」
「そうよ!次の〝達成度テスト〟で、あなたがマリスさんに勝てば良いだけのことだわ!」
2人の正論攻撃に、私へのこれ以上の追求は無理だと思ったらしいサンス嬢は、
「分かったわ。今度のテストでは必ずあなたに勝つから!」
と私に顔を更に近づけて言い残し、颯爽と去っていった。
その後、トルルとオーライリは私を気遣って色々と話しかけてくれたが、正直なところ、私はクローナ・サンス嬢にそれほど悪感情は持っていない。
(面と向かっての宣戦布告とか、なかなか青春だよね。影でコソコソなんていうのより、ずっと分かりやすくて潔いと思うわ)
そんな風にちょっと微笑ましくさえ思っていたのだ。
むしろ合格しさえすればよく、評価点もつかない〝達成度テスト〟の便宜上の順位づけに、そこまでこだわらなければいけない貴族出身の学生たちに、なんだか同情さえ感じてしまうのだった。
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