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3 魔法学校の聖人候補

387 〝彼〟について

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387

この魔界から来た災厄〝業火竜サラマンダー〟との戦いの過程で、遂に彼の《白魔法》は衆目の知るところとなる。
さすがの彼も、その力を隠したままこの難局を乗り切ることはできず、勇者とその仲間を助けるため、その力を解放せざる得なかったのだ。
あらゆる傷をたちどころに癒し、腕を引きちぎられた勇者を元の状態へ瞬時に再生させ、瀕死の状態になったパーティー・メンバーも即時に戦線復帰させるという、とんでもない力を見せつけて……

(これ《白魔法》凄すぎでしょう!彼がいなかったら、勇者ご一行様、絶対〝業火竜サラマンダー〟に勝ててないよね)

《白魔法》の助けで強敵〝業火竜サラマンダー〟を倒し、新しき王となった勇者は、彼を称え、友と呼び、すべてを与えようとした。しかし、それは彼の望むものではなかった。

〝新しい王は、大変良い人物だった。明るい気性と頑健な躰を持ちいつも前向きで、新たな国にふさわしい力と魅力を持っていた。
新しい王は何も望みを言わない私に、あらゆる便宜を図り、豊かな生活を送らせようとしてくれた。だが残念ながら、それを私が望んでいないことは、最後まで理解をしてもらえなかった〟

彼は王国の復興がひと段落すると、選び抜いた三人の弟子に出来る限り彼の持つ《白魔法》の技術を伝え、それを後世に伝えるよう言い残し、忽然と姿を消した。

〝私は願わくば《白魔法》が、多くの人に伝わり、苦しむ人々が減ることを祈りながら、弟子たちに私の知識にあったあらゆる《白魔法》を伝えた。
そして王には、こういう風にしか生きられぬ私を、どうか許してほしいとだけ書き残した〟

(でも、彼の意思とは裏腹に、この《白魔法》は、伝わらなかったんだよね……)

彼自身もそのことを終生気にしていたようだ。

〝残念だが《白魔法》を伝えることに私は失敗してしまったようだ。
私は神より、長い寿命と尽きることのない魔法力を頂いている。そうでない普通の人々にこの魔法を課すことは、思った以上に難しいことだった。せめて人の躰を健康な状態に戻す技術《癒しの光ホーリー・ヒール》だけでも正しく伝わってくれれば、多くの人が救われるだろうに、誠に残念だ〟

(えっ?!《癒しの光ホーリー・ヒール》……ヒールって妖精しか使えないスキルなんじゃないの?)

彼の書いていることからの類推だが、思ってもみないことに、どうもハルリリさんのような妖精族のごく一部が使える癒しのスキル《ヒール》は、人も魔法としで学べる技術であり、それこそが《白魔法》の源流のようだ。

癒しの光ホーリー・ヒール》と名が付いている以上、やはり人が使う《ヒール》は聖性を伴って発動することで癒しの効果を生むものと考えられる。

(それだと、この時点でかなり使える人が限定されてしまうなぁ……)

だが、彼は《白魔法》を三人の弟子へ伝えている。でもその三人共が強い聖性を持った人物だったというのも考えにくい。だとしたら、何か聖性が弱くとも《ヒール》を使える方法があるのだ。

おそらくだが、弟子たちに伝えられた《白魔法》は、彼のオリジナルには遠く及ばないものだったのではないだろうか。仮に弟子の中に《癒しの光ホーリー・ヒール》が使える者がいたとしても、神から授かった大きな魔法力と強い聖性を併せ持った彼には、到底及ぶべくもなかろう。

(それでも《ヒール》が魔法使いに使えれば、多くの人を癒せたよね。たくさんの魔法医師がこれを使えたら、どれだけの人が助かるだろう……)

彼は遠くから若き英雄の王国に伝えた《白魔法》の衰退を感じながら、村々を周り、人々を救い続けた。

そこでも伝えられる限り《白魔法》を教えようと試みたようだが、使えるようになった者はごく少数だった。

〝浄化作用のある魔法は高度なものであること、これが《白魔法》の習得を阻むひとつの壁だった。地方の魔法使いにはそこまでの研鑽を積んだ術者は少なく、教えてあげられる相手は本当に少なかったのだ。とても残念なことだった。まだまだ、私の研究が足りないのだ〟

(浄化作用のある高度な魔法……ああ、そうか!

水を浄化させる魔法や炎で場を清める魔法、そういった〝清め〟の魔法を《聖魔法》の代わりにして《ヒール》を発動させたのか!)

キーワードは《浄化》

確かにこの辺りの魔法は、基礎魔法を学んだ先、その上位にあるものだから、それなりにしっかり勉強した術者でなければ発動できないが《聖魔法》が使えなければというクビキは外れる。

これならば、《聖魔法》が使えるなどという特殊過ぎる術者でなくとも《ヒール》を学べる可能性があり、彼は弟子へと伝えることができたのだ。

(すごいこと考える人だなぁ。《聖魔法》を他の属性の魔法で一部代替させるなんて……よっぽど研究したんだろうな、伝えたいがために……)

彼の文章には、自分の辛さといったことはあまり書かれていないが、それでもなんとか《白魔法》を伝えたいと苦闘する姿は、文章の端々から伝わってきた。

医師として、治す手段を持たない辺境の地の人々を救い続けたい。《白魔法》が多くの人々の使える魔法になってほしい。彼の望みはそれだけで、毎日病気の治療と研究に明け暮れた人生だった。

私は読みながら涙が出て止まらなくなり、そこで一旦読むのを中断せざる得なくなっていた。

(こんなに一生懸命伝えようとしたのに、なんで《白魔法》は消えちゃったの。可哀想だよ。一生懸命伝えたのに、伝えようとすごく努力したのに……)

べそべそ泣き始めた私を心配げに覗き込むソーヤに、大丈夫だからと言いながらも、私の涙はちっとも止まらなかった。
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