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3 魔法学校の聖人候補
382 ミンス教授の最近
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382
ルロイ・ミンス教授は、帝国に長く仕えてきた魔術師の名門の家系出身の防御魔法の専門家。
そして、私が栄養指導をしている顧客でもある。
ミンス教授の問題点は、とにかく食が細いこと。
食べることに執着がなさすぎて、むしろ苦痛だと感じるほどの重症度だった。
だが、ミンス教授は自分の好きな味を見つけることで、これをかなり克服した。
それはスパイシーで辛い、刺激の強い食べ物。特にカレーが大好物で、今では私がずっと完成を目指して改良を続けているこの世界の食材のみで作る〝ドメスティック・カレー〟の一番の味見役でもある。
「うーむ。今回のカレーは辛味が今までより更に複雑になったな。良い刺激だ。それに、具材も変わっている。これは、魚……海のモノか!ほほう、海のモノにも合うとは、やはりカレーは万能だな。美味いぞ、メイロード!」
ちょっとだけ、以前よりは躰に肉が付いてきたものの、相変わらず細くて背が高くて枯れ木のようで、更に魔女っぽい外見のミンス教授(男性)、新作カレーを前に相好を崩しっぱなしだ。
普段の授業では、全くニコリともしない物凄く怖い教授だそうだが、私の前だとよく笑うし、よく喋るし、よく食べる。
「気に入って頂けて良かったです。でも、以前にも申し上げましたが、残念ながら、この料理はスパイスが複雑で、未だ量産の目処が立たないため、この料理のことは口外なさらないよう、くれぐれもお願いします」
大事そうにカレー皿を抱え込んでいるミンス教授は、心得ているという顔で頷く。
「分かっているとも!!これは私の魔術師としての生活を支えてくれている大事な料理。これを失う可能性があるようなことは、絶対にしないから、安心しておくれ。
それに、教室で会うことがあっても、君の顧客としての関係性は隠し、特別扱いをしない件も了承した。見上げた態度だよ、メイロード!
君に教室で会えるのは楽しみだがね。君は聴講生なのだから、気にせずいつでも教室に来るといい。歓迎するよ。グッケンスの弟子のマリス君?」
(きっとこんな風に人を茶化すようなことを言うミンス教授を知っているのは私だけなんだろうな……)
私は苦笑しながら、野菜スープもしっかり飲むよう促す。
「はいはい、これも美味いよ。もう少し胡椒を入れようかな、そうすると更に美味い!」
「適量で!」
「分かっているとも。胃に負担にならぬよう適量だな」
孫とおじいちゃんのような私たちの会話は、この栄養指導の間、ずっと続いている。
「そういえば、大食堂が美味しくなったな。あれも、君がからんでいるのだろう?」
「ミンス教授には隠しても仕方ないですね。ええ、協力しましたよ。
博士にやっているようなきめ細かい食事指導まではしていませんが、このためにイスから呼んだ料理人は私の料理をよく知っている人ですから、かなり美味しいと思いますし、栄養価も高いはずです」
ミンス教授も最近は、時々大食堂へも顔を出すそうだ。
この方が食べに来てくれるようなら、もう大食堂は大丈夫だろう。誰が来ても美味しいと言ってもらえる食事処になったと思っていいようだ。
「それを聞いて、なんだか安心しました。教授がいらっしゃるほどなら、みんな美味しく食べてくれているでしょう」
ミンス教授は、何度も満足そうにうなづいた。
「そういえばロキ教授が、今年の座学には面白い学生が聴講にきていると言っていたな。あれも、君だろう?」
「え、 なんでそう思われるんですか?」
「小さくてものすごく可愛らしいのに、それはそれは地味にして徹底的に目立たないようにしている子で、魔法使いなら大抵誇らしげに長く伸ばす〝翠の髪〟もいつも隠すようにひっつめている……と不思議がっていたのだ。あれは、どう考えても君だろう?」
確かに、それは間違いなく私だ。でも、ひっつめているとは言っても、セーヤ作の物凄く手の込んだ渾身の編み込みだから、目立たないけど手間だけはすごくかかっている。
とにかく目立たないを最優先に頼んでいるので、セーヤはやや不満げだが、最近は編み込みを極めることに決めたらしく、髪を傷めない美しい編み込みの方法を日々研究中だ。
髪を隠すため被っているちょっとメイド風の小さな帽子のようなヘアアクセサリーも、もちろんセーヤが日々新作を作ってくれている。少し指導しただけで、レース編みや刺繍も今ではお手のもののセーヤ。
私が目立たないためのアクセサリー作りを頼むため、江戸時代の〝粋〟の話をし、人から見えないところのおしゃれが〝粋〟というものなどだと話したところ、セーヤもこの〝粋〟を気に入ってくれた。
なので、今つけている髪に馴染んだ深い緑色の帽子も、実は、同じ緑色でぎっちり繊細な刺繍が入っている。それは素晴らしい手仕事で、季節の花々が美しく咲き乱れているのだ。
(相変わらず素晴らしい手仕事!これを、この有り余る才能を私の髪以外には一切向けるつもりがないところが、残念、残念だよセーヤ!)
セーヤのことを考えて、困ったような情けないような顔になっている私を見て、ミンス教授は、なんだか不思議そうな顔をしながら、また隠すように野菜スープに胡椒を振っていた。
ルロイ・ミンス教授は、帝国に長く仕えてきた魔術師の名門の家系出身の防御魔法の専門家。
そして、私が栄養指導をしている顧客でもある。
ミンス教授の問題点は、とにかく食が細いこと。
食べることに執着がなさすぎて、むしろ苦痛だと感じるほどの重症度だった。
だが、ミンス教授は自分の好きな味を見つけることで、これをかなり克服した。
それはスパイシーで辛い、刺激の強い食べ物。特にカレーが大好物で、今では私がずっと完成を目指して改良を続けているこの世界の食材のみで作る〝ドメスティック・カレー〟の一番の味見役でもある。
「うーむ。今回のカレーは辛味が今までより更に複雑になったな。良い刺激だ。それに、具材も変わっている。これは、魚……海のモノか!ほほう、海のモノにも合うとは、やはりカレーは万能だな。美味いぞ、メイロード!」
ちょっとだけ、以前よりは躰に肉が付いてきたものの、相変わらず細くて背が高くて枯れ木のようで、更に魔女っぽい外見のミンス教授(男性)、新作カレーを前に相好を崩しっぱなしだ。
普段の授業では、全くニコリともしない物凄く怖い教授だそうだが、私の前だとよく笑うし、よく喋るし、よく食べる。
「気に入って頂けて良かったです。でも、以前にも申し上げましたが、残念ながら、この料理はスパイスが複雑で、未だ量産の目処が立たないため、この料理のことは口外なさらないよう、くれぐれもお願いします」
大事そうにカレー皿を抱え込んでいるミンス教授は、心得ているという顔で頷く。
「分かっているとも!!これは私の魔術師としての生活を支えてくれている大事な料理。これを失う可能性があるようなことは、絶対にしないから、安心しておくれ。
それに、教室で会うことがあっても、君の顧客としての関係性は隠し、特別扱いをしない件も了承した。見上げた態度だよ、メイロード!
君に教室で会えるのは楽しみだがね。君は聴講生なのだから、気にせずいつでも教室に来るといい。歓迎するよ。グッケンスの弟子のマリス君?」
(きっとこんな風に人を茶化すようなことを言うミンス教授を知っているのは私だけなんだろうな……)
私は苦笑しながら、野菜スープもしっかり飲むよう促す。
「はいはい、これも美味いよ。もう少し胡椒を入れようかな、そうすると更に美味い!」
「適量で!」
「分かっているとも。胃に負担にならぬよう適量だな」
孫とおじいちゃんのような私たちの会話は、この栄養指導の間、ずっと続いている。
「そういえば、大食堂が美味しくなったな。あれも、君がからんでいるのだろう?」
「ミンス教授には隠しても仕方ないですね。ええ、協力しましたよ。
博士にやっているようなきめ細かい食事指導まではしていませんが、このためにイスから呼んだ料理人は私の料理をよく知っている人ですから、かなり美味しいと思いますし、栄養価も高いはずです」
ミンス教授も最近は、時々大食堂へも顔を出すそうだ。
この方が食べに来てくれるようなら、もう大食堂は大丈夫だろう。誰が来ても美味しいと言ってもらえる食事処になったと思っていいようだ。
「それを聞いて、なんだか安心しました。教授がいらっしゃるほどなら、みんな美味しく食べてくれているでしょう」
ミンス教授は、何度も満足そうにうなづいた。
「そういえばロキ教授が、今年の座学には面白い学生が聴講にきていると言っていたな。あれも、君だろう?」
「え、 なんでそう思われるんですか?」
「小さくてものすごく可愛らしいのに、それはそれは地味にして徹底的に目立たないようにしている子で、魔法使いなら大抵誇らしげに長く伸ばす〝翠の髪〟もいつも隠すようにひっつめている……と不思議がっていたのだ。あれは、どう考えても君だろう?」
確かに、それは間違いなく私だ。でも、ひっつめているとは言っても、セーヤ作の物凄く手の込んだ渾身の編み込みだから、目立たないけど手間だけはすごくかかっている。
とにかく目立たないを最優先に頼んでいるので、セーヤはやや不満げだが、最近は編み込みを極めることに決めたらしく、髪を傷めない美しい編み込みの方法を日々研究中だ。
髪を隠すため被っているちょっとメイド風の小さな帽子のようなヘアアクセサリーも、もちろんセーヤが日々新作を作ってくれている。少し指導しただけで、レース編みや刺繍も今ではお手のもののセーヤ。
私が目立たないためのアクセサリー作りを頼むため、江戸時代の〝粋〟の話をし、人から見えないところのおしゃれが〝粋〟というものなどだと話したところ、セーヤもこの〝粋〟を気に入ってくれた。
なので、今つけている髪に馴染んだ深い緑色の帽子も、実は、同じ緑色でぎっちり繊細な刺繍が入っている。それは素晴らしい手仕事で、季節の花々が美しく咲き乱れているのだ。
(相変わらず素晴らしい手仕事!これを、この有り余る才能を私の髪以外には一切向けるつもりがないところが、残念、残念だよセーヤ!)
セーヤのことを考えて、困ったような情けないような顔になっている私を見て、ミンス教授は、なんだか不思議そうな顔をしながら、また隠すように野菜スープに胡椒を振っていた。
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