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3 魔法学校の聖人候補
372 レッスン
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372
《無限回廊の扉》を抜け、セイリュウの住む霊峰に出ると、空気の質が明らかに違うことが分かる。
(本当に清々しい場所……)
私は美しい花と緑に囲まれた山頂の空気を胸いっぱいに吸い込み深呼吸をする。
以前は石だらけで緑の少ない場所だったこの聖地も、ミゼルそして私が定期的に癒しの音と歌声を響かせ続けてきたせいか、急激に緑は濃くなり、木々も増え、いまでは美しい花が一面に咲くようになっている。
そこにいまも響いているのは、天界に捧げられているミゼルの美しい竪琴の音色。相変わらず、本当に心に染みる深い響きを持った至高の音だ。いつものようにミゼルの周りにはたくさんの動物たちが集まり、うっとりと耳を傾けている。
私はミゼルのために持ってきたハーブティーを淹れ、ミゼルのいる台座のサイドテーブルに置いた。魂だけの存在のミゼルには、食事は必要ないのだが、なぜか香りは分かるらしく、私の淹れるハーブティーが殊の外お気に入りだ。
なので、ここに来るときには必ず一杯のハーブティーをお供え物のようにミゼルの傍に置くようにしている。
〔いつもありがとうございます、メイロードさま。今日のお茶も芳しくワタクシの心を癒してくれます。ああ、本当に良い香り……〕
演奏を終えたミゼルが、嬉しそうにそう言う。
周りにいる動物たちも、今度は私が歌うことを知っているのか、場所を離れず皆こちらを注目している。
〔では……参りましょうか〕
そこからは、私のレッスンのスタートだ。最近は、私のいた世界の音楽をミゼルが聞きたがるので、知っている曲を必ず一曲は歌うようにしている。決して前の世界で音楽に詳しかったわけではないのだが、それでも案外いろいろと覚えているものだ。ハミングで歌うクラシック曲がお好みのようで、特にバッハがお気に入りらしい。教会音楽はミゼルに馴染みやすいのかもしれない。
今日の〝主よ、人の望みの喜びよ〟も大変気に入ったようで、ずっとその曲の練習になってしまった。だが、確かにこの曲は私も好きだったせいか何度歌っても飽きることなく、いつも以上によく歌えている。
周囲の動物たちの数はますます増え、小鳥は私の歌に合わせて鳴き始めた。
〔素晴らしい歌声ですよ。きっとソフィーラさまもお喜びでしょう〕
ミゼルは楽しそうに伴奏しながらも、私の歌に細かいチェックを入れ、私は一生懸命それに応えて歌い続けた。相変わらず容赦なしのスパルタ具合だ。私の声は決して枯れることはないので大丈夫だが、普通なら途中でギブアップするに違いない。
〔はい。いまの歌唱は完璧でございました。素晴らしい!……では、今日はここまでに致しましょうか〕
やっと先生の合格が出て、レッスンが終わったので、途中から動物たちと一緒に聞いていたセイリュウの元へ向かう。今日はかなりリラックスモードだ。
セイリュウは私が縫った着物をゆったりと着ている。これは、ランテルの舞姫騒動の折に頂いた反物で仕立てた着物で、美しいだけでなく、気力を高める効果を持つ不思議な織物だった。年中さまざまなトラブルを処理するため体力も魔法力も使う機会の多いセイリュウには、素晴らしい効果を発揮してくれる着物だ。
「この衣を纏って、更にふたりの奏でる音楽を聴いていると、本当に癒されるね。あっという間に気力が戻ってくるのを感じるよ。ああ、本当にいい気持ちだ」
再び演奏を始めたミゼルの側で、今度はセイリュウとティータイム。
「実は、今日はセイリュウに聞きたいことがあって……」
私は授業で聞き、図書館で調べたことを話し、《聖魔法》そして《白魔法》の出現と消失について、セイリュウが知っていることがあれば教えて欲しいとお願いした。
「分かった。僕の知っていることで良ければなんでも話すよ。伝え聞いていることも混じるけど、概要は分かるからね。まずはどこから話そうかな……」
セイリュウはハーブティーを一口飲んでから、彼の知るふたつの魔法の始まりとひとつの魔法の消失までの経緯をゆっくりと聞かせてくれた、
《無限回廊の扉》を抜け、セイリュウの住む霊峰に出ると、空気の質が明らかに違うことが分かる。
(本当に清々しい場所……)
私は美しい花と緑に囲まれた山頂の空気を胸いっぱいに吸い込み深呼吸をする。
以前は石だらけで緑の少ない場所だったこの聖地も、ミゼルそして私が定期的に癒しの音と歌声を響かせ続けてきたせいか、急激に緑は濃くなり、木々も増え、いまでは美しい花が一面に咲くようになっている。
そこにいまも響いているのは、天界に捧げられているミゼルの美しい竪琴の音色。相変わらず、本当に心に染みる深い響きを持った至高の音だ。いつものようにミゼルの周りにはたくさんの動物たちが集まり、うっとりと耳を傾けている。
私はミゼルのために持ってきたハーブティーを淹れ、ミゼルのいる台座のサイドテーブルに置いた。魂だけの存在のミゼルには、食事は必要ないのだが、なぜか香りは分かるらしく、私の淹れるハーブティーが殊の外お気に入りだ。
なので、ここに来るときには必ず一杯のハーブティーをお供え物のようにミゼルの傍に置くようにしている。
〔いつもありがとうございます、メイロードさま。今日のお茶も芳しくワタクシの心を癒してくれます。ああ、本当に良い香り……〕
演奏を終えたミゼルが、嬉しそうにそう言う。
周りにいる動物たちも、今度は私が歌うことを知っているのか、場所を離れず皆こちらを注目している。
〔では……参りましょうか〕
そこからは、私のレッスンのスタートだ。最近は、私のいた世界の音楽をミゼルが聞きたがるので、知っている曲を必ず一曲は歌うようにしている。決して前の世界で音楽に詳しかったわけではないのだが、それでも案外いろいろと覚えているものだ。ハミングで歌うクラシック曲がお好みのようで、特にバッハがお気に入りらしい。教会音楽はミゼルに馴染みやすいのかもしれない。
今日の〝主よ、人の望みの喜びよ〟も大変気に入ったようで、ずっとその曲の練習になってしまった。だが、確かにこの曲は私も好きだったせいか何度歌っても飽きることなく、いつも以上によく歌えている。
周囲の動物たちの数はますます増え、小鳥は私の歌に合わせて鳴き始めた。
〔素晴らしい歌声ですよ。きっとソフィーラさまもお喜びでしょう〕
ミゼルは楽しそうに伴奏しながらも、私の歌に細かいチェックを入れ、私は一生懸命それに応えて歌い続けた。相変わらず容赦なしのスパルタ具合だ。私の声は決して枯れることはないので大丈夫だが、普通なら途中でギブアップするに違いない。
〔はい。いまの歌唱は完璧でございました。素晴らしい!……では、今日はここまでに致しましょうか〕
やっと先生の合格が出て、レッスンが終わったので、途中から動物たちと一緒に聞いていたセイリュウの元へ向かう。今日はかなりリラックスモードだ。
セイリュウは私が縫った着物をゆったりと着ている。これは、ランテルの舞姫騒動の折に頂いた反物で仕立てた着物で、美しいだけでなく、気力を高める効果を持つ不思議な織物だった。年中さまざまなトラブルを処理するため体力も魔法力も使う機会の多いセイリュウには、素晴らしい効果を発揮してくれる着物だ。
「この衣を纏って、更にふたりの奏でる音楽を聴いていると、本当に癒されるね。あっという間に気力が戻ってくるのを感じるよ。ああ、本当にいい気持ちだ」
再び演奏を始めたミゼルの側で、今度はセイリュウとティータイム。
「実は、今日はセイリュウに聞きたいことがあって……」
私は授業で聞き、図書館で調べたことを話し、《聖魔法》そして《白魔法》の出現と消失について、セイリュウが知っていることがあれば教えて欲しいとお願いした。
「分かった。僕の知っていることで良ければなんでも話すよ。伝え聞いていることも混じるけど、概要は分かるからね。まずはどこから話そうかな……」
セイリュウはハーブティーを一口飲んでから、彼の知るふたつの魔法の始まりとひとつの魔法の消失までの経緯をゆっくりと聞かせてくれた、
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