利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

342 ダンジョンの報酬

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342

「えっと、私、試してみたいことがあるんですけど……」

先へ進むとすれば、この大量の〝ネオ・パクー〟とどこで戦闘になるか分からない。
できるなら、この魔物への対処法を早い段階で掴みたいと考えた私は、対策のための実験をすることにした。

「まず、セイカにやってみてほしいことがあります。私たちで言う《魔法》を使って水の中に〝ネオ・パクー〟を閉じ込められますか?」

沿海州の巫女の《魔法》は《神術》と言うそうだ。

私が水の塊の中に〝ネオ・パクー〟を閉じ込めるイメージを伝えると、早速セイカは水系の神術《青の術》を使い、上空に魔物が入る大きさの2メートルほどの直径の水の塊を作り出し、1匹の〝ネオ・パクー〟の上にそれを落とした。

突然捕らえられた〝ネオ・パクー〟は、その塊から出ようともがくが、私が風魔法で補助して気流を作り、水の塊を内向きの水流で強力に回転させているため出る事叶わず、見る間に体力ゲージが減少。自爆することもなく、そのまま生き絶えた。残ったのは、土のようなものと小さな《炎の魔石》

「一丁上がり!」

上々の出来にセイカは得意げだ。

この魔物は身の内に《火の魔石》を持ち、それを使って引火させた体内の火薬成分を利用して手榴弾風の攻撃をしていたようだ。だが、今のように水に邪魔され、引火することができない状態が続くと、ただもがいて体力を急速に消耗し、やがて消滅するようだ。

遠距離からの攻撃が強力なため、接近することが難しいが、個体の体力が高いわけではないため、どんな方法でもとにかく徐々に体力を削れさえすれば、どうやらすぐ倒せそうだ。
やはり炎系のこの魔物、水を使った術への耐性が非常に弱い。

対処法その1は成功したので、もうひとつの方法も試す。

私は〝ネオ・パクー〟を囲むように《エア・バブル》をぴったり二重にして展開。囲み終わったところで内側のバブルを抜き出しつつ魔物を囲んだ外側のバブルを硬化した。
内側のバブル回収の際〝ネオ・パクー〟だけすり抜けるあたりに、ちょっと技術が必要だったが、すでに習得済みだった技術なので、思った通りにうまくできたようだ。

バブルが完全に抜けると、次の瞬間には〝ネオ・パクー〟は消滅、バブルの中には土のようなモノと赤い《炎の魔石》があった。

「ひゃー、一体何が起きたの?!」
セイカが驚いて声を出す。

私が作ったのは、いわゆる空気のない〝真空〟に近い状態。引火するために必要な酸素をはじめとする大気が存在しない密閉空間だ。

大気中の炎が燃えるために必要な成分をなくせば、炎の魔物〝ネオ・パクー〟も火が着けられないのではないか、と思ってのことだったが、私の思惑以上に強力に作用したようだ。

(おじさまの花火実験の時、事故を防ぐため練習して習得した真空バブルの作成法。こんなところで役に立つとは思わなかったなぁ。なんでも訓練はしておくものね)

〝ネオ・パクー〟の残骸として残った物質が気になったので、バブルを砦の中に引き入れ確認する。

《鑑定》してみたところ、小さな《火の魔石》の周りの土塊には、どうやら火薬の成分が含まれているようだ。

「純度は高くないようじゃが〝爆砂〟がない現状、これも貴重な収入源になるかも知れんな」

博士の言う通り、小さいながらも確実に魔石が、それに純度が低いとはいえ火薬まで手に入るならば〝ネオ・パクー〟討伐は、悪くない稼ぎになるだろう。

(でも、どちらの方法も魔法ありきなんだよねぇ。〝ネオ・パクー〟討伐は、沿海州の人にはちょっとハードルが高いかもね)

博士も、今までの経緯を見てそう考えているようだ。

「セイカの《青の術》もお前の《真空エア・バブル》も、かなり技術を要するものだ。
それにな……〝ネオ・パクー〟でなくとも、どちらの技も多くの魔物にとって必殺の魔法になりえる。危険な術だと言うことを肝に命じ、気をつけて使いなさい」

先生に諭された生徒のように、私とセイカは頷き、技の危険度を確認した。

「じゃが、それとは別に、メイロード……ひとつ試してみないか?」

博士が次の空間の入り口の方を指す、そこを抜ければ2階層へ降りる場所があるのだが、なんと博士はその空間全体に《真空エア・バブル》を展開してみろ、と言うのだ。

「うわぁ、何というエグいことを言うんですか。そんな虐殺行為、やですよ!」

そうは言ったものの《索敵》をしてみると、最後の部屋の〝ネオ・パクー〟の密集度は異常に高く、確かにこれを避けながら進むのはかなり困難に思える。
しかも万が一〝ネオ・パクー〟に見つかれば、それこそ確実にとんでもない量の爆発物の集中砲火を受けることは確実。

イヤだ……とは言ったものの、ここは身の安全のための害虫駆除と割り切って、やるしかないようだ。

私は気合いを入れ直し、覚悟を決めた。
そして部屋の入り口で《真空エア・バブル》を部屋一杯に展開し、すぐに内側のバブルを抜き取る作業に入る。そして、数分後、次の部屋に入ると、そこには大量の小さな魔石と火薬が散らばる、何も動かない荒涼とした空間が広がっていた。

「なんというか、すっごいな……」

その空間には、何ひとつ動くもののない、セイリュウも絶句の光景が広がっていた。
だがセーヤとソーヤは、全くそういう事は意に介さず、感慨もないようで、素早く火薬と魔石の回収作業に入り、持ち込んだマジックバッグへ詰め込んでいる。

(仕事が早いねぇ、君たち……)

「小粒とはいえ数百個の《火の魔石》、精製が必要で純度が低いとはいえ、1トンはありそうな火薬……これだけでも沿海州なら一生遊んで暮らせそうな獲物じゃなぁ」

博士が自分の研究用サンプルに、魔石と火薬を含んだ残骸を採取しながら苦笑する。

「どのくらいの間隔で、再び〝ネオ・パクー〟が湧いてくるのかによるが、これならばたとえ〝爆砂〟が出なくとも、冒険者は来るじゃろう。軍事的な脅威になるほどではないが、大陸の〝採取屋〟には、それなりに魅力的だと思うぞ」

確かに、基本的にダンジョン内での魔物は定期的に復活する。周期はマチマチだそうだが、定期的に湧くのは間違いないため、素材の採取場所として、この層は悪くない。私の魔法は相当特殊だけど、水系の高いスキルを持つ魔法使いが居いるパーティーであれば、やり方さえ間違わなければコツコツ採取できる。

今のところ、悪くない報告ができそうだ。攻略法も分かったし、これに近い層が続くようであれば、もう少し進んでみてもいいかもしれない。

見ればセイカはもう2層に行く気満々で、軽やかに駆けていく。

私たちは顔を見合わせ、少し考えたが

「それじゃ、行ってみる?」

というセイリュウの言葉に博士と2人苦笑いで頷き、セイカの後を追っていった。

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