利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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2 海の国の聖人候補

337 新しいダンジョンのある街

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337

西ノ森は、この領地の中ではほとんど無いも同然の扱いを受けている辺境の飛び地だった。その飛び地から領主の住む中心街は一番遠い場所に位置していたため、いざ移動となるとなかなか骨が折れる。

現在、アタタガは新男爵としてのあれこれのためイスとパレスを頻繁に往復する事になったおじさまに、かなりハードにこき使われ中なので、飛行でのショートカットは頼めない。

(ごめん!しばらくの間おじさまをお願いね、アタタガ・フライ!)

というわけで地味に馬車移動する。久しぶりにソーヤの運転でのんびり……とも言ってはいられないので《駆け馬》や《裂風》を始めとする移動系強化魔法でがっちり補強はさせてもらった。

こういう魔法に普段慣れ親しんでいない沿海州の人たちに街道ですれ違うとすごく驚かれてしまうので、《索敵》と《完全脳内地図把握パーフェクト・ナビゲーション》を使い、なるべく人の少ない道を選んで、しかも最短距離で移動している。

今回の新ダンジョン調査、味噌造りが軌道に乗ったエジン先生が、私に付き添ってくれることになった。
情報の宝庫である彼に帯同してもらえたのは、正直ありがたい。
エジン先生、最初はこの魔法ガチガチの高速移動法にびっくりしていたが、すぐに面白がり始め、その後はしばらく質問責めだった。

好奇心に目がランランランと輝いている彼の質問に答えながら、並行してこれから行く場所についての聞き取りをする。

「領主はデーデン家だね。かなり古い貴族で、ここも数百年に渡って治めてる。
〝爆砂〟が取れるダンジョンがあった時代には莫大な税収があったから、公共事業も積極的にしてくれたそうだよ。今もデーデン家の住むラキの街は、当時建築されたり整備されたもののおかげで、とてもいい街だと思う……表面はね」

つまり現在の実情は火の車ということのようだ。
基幹産業がなくなれば、それに付随する仕事も軒並み斜陽になる。〝爆砂〟の他に目ぼしい産業がないとなれば、ジリ貧なのは仕方ないだろう。

「それじゃ、今回の新ダンジョンにかける期待が高いことも無理ないですね……」

「うーん、今更〝爆砂〟頼みっていうのはかなり後ろ向きで、好きじゃないけどね。それに……〝爆砂〟は危険だよ、色々な意味でね」

さすがエジン先生〝爆砂〟がもたらすのが、富だけではないことをよく分かっている。

〝爆砂〟があれば、魔法の力に頼らない攻撃が可能となり、軍事的な圧倒的不利という現状が変わる可能性がある。それを望まない帝国を始めとする大陸諸国に与えるインパクトも大きい。
大量に確保できそうだとなれば、現在のパワーバランスを崩しかねない非常に危険な物資だ。

「それで、そのダンジョンの攻略状況なんですが、どの程度かご存知ですか?」

私の問いにエジン先生がいたずらっぽく笑う。

「君に聞かれることを想定して、できる限り情報を集めたよ。ラキから来た冒険者や商人に色々聞いてみたんだけど、まぁ、捗々しくはなさそうだね」

領主デーデンはかなり広範囲の冒険者ギルドに攻略依頼を出していた。
〝爆砂〟が出れば一攫千金のダンジョン、それなりに攻略組は集まったようで、新ダンジョン発見当初はかなり賑わい、それだけで一過性の特需が起こるほどだったという。だが、内部の様子が明らかになるに連れ状況は変わった。このダンジョン、冒険者の夢も希望も打ち砕く最悪のダンジョンだったのだ。

「〝爆砂〟の取れるダンジョン深層には、確かに危機に陥ると自爆する魔物がいることが知られていたんだけれど、自爆ってことは自分も死ぬわけだから、そう簡単には起こらないんだよ。それに攻撃法や回避法がほぼ確立しているから、大きな問題じゃなかった。
ところがこのダンジョン、一階から自爆する〝パクー〟って言うモンスターの亜種が出てる」

どうやらこの〝パクー〟の亜種は、自らの躰を引きちぎるようにしてそれを手榴弾のように投げつけてくるらしい。このような亜種は初めての上、この〝ネオ・パクー〟は数が多く、その攻撃方法もバリエーションがあり、攻略に必要な情報は全然集まっていない状況。

「普通はさ、ダンジョン1、2階の魔物は、近所の森に出る村人でも数人でかかれば駆逐できる程度のもののはずなんだけど、どうやらこのダンジョン、本来あるはずのそういう地上に近い生態の層がないんだ。そんな特殊な地形だとは想像もしていなかったから、それに気付くまで、かなりの冒険者がやられてしまって、悪評が広がっちゃったみたいでさ……」

今では〝人食いダンジョン〟と呼ばれているそうで、攻略希望者も激減してしまっているそうだ。

「報奨金の倍増とか、一階攻略するごとにさらに上乗せとか、色々冒険者の関心を買おうとしているけど、かなりの手練れの冒険者も大怪我を負って戻ったというし、正直、軍が動いても無理なんじゃないか、という話で……」

どうやら、想像以上に深刻な膠着状態のようだ。

「まずは現地の冒険者ギルドで話を聞きましょうか。マホロのアーセル幹事に紹介状も頂いてますし、今の状況を確認しないと……せめて1階ぐらいは攻略されているといいんですけどね」

どうやら、そう簡単には済みそうもない新ダンジョン調査。

(面倒な事になる予感しかしない……はぁ……)

私は少し肩を落としながら、やっと着いたラキの街で馬車を降り、冒険者ギルドへと向かった。
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